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タイヤ業界の概要
タイヤ業界は、乗用車のタイヤやホイールを生産・販売に関わり、主に自動車メーカーやディーラーが顧客になります。業界としては、自動車業界の動向に影響を受けやすいという特徴があります。
主な販売ルートは、新車用タイヤを納入する自動車メーカーと、市販用タイヤを納入・販売する量販店の2種類に分けられます。タイヤの種類は用途・機能などによって分類されます。代表的な分類は以下の通りです。
- 夏用・冬用タイヤといったシーズンタイヤ
- トラック・バス・建設車両用が履く産業車用タイヤ
- トラクタをはじめとした農耕機が履く農業機械用タイヤ
- スピードや耐久性を求められるレース用タイヤ
タイヤは一見黒いゴムのみの単純な構造に見えますが、内側は高度に科学的な設計が施されており、ゴム以外にも配合材やナイロン製タイヤコード、ワイヤーなどが使われています。
そのため主原料である石油化学製品やアルミニウムなどの市況にも、影響を受けやすい業界とされています。
タイヤ業界の市場規模
タイヤは用途によって分類され、大きく分けると以下の5種類があります。
- 自動車用タイヤ
- 産業車用タイヤ
- 農業機械用タイヤ
- 航空機用タイヤ
- 二輪自動車用タイヤ
産業車タイヤ・農業機器用タイヤは、OTR(オフザロード)タイヤと総称されています。
2021年におけるタイヤ業界の市場規模は約1,376億ドルと推定されますが、タイヤの種類別に市場規模の推移をみていきましょう。
2019年における自動車用タイヤの売上高は1,123億ドルでした(*1)。2020年になると自動車用タイヤの売上高は1,020億ドルまで下落しますが、2026年にかけて年平均3%で成長し、2026年には市場規模が1,220億ドルへと拡大すると見られています(*2)。
航空機用タイヤ業界では、2021年に市場規模約26億ドルを記録し、2028年にかけて年平均3.2%の成長が見込まれています(*3)。
二輪自動車用タイヤ業界における、2021年の市場規模は140億ドルで、2029年にかけて年平均3.9%成長するとの予測が立てられています(*4)。
OTRタイヤ業界では、2021年には市場規模が87億ドルに到達しました。2026年にかけて年平均5%で成長し、110億ドルまで拡大すると見られています(*5)。
(*1)アライドマーケットリサーチ
(*2)調査会社モルドール
(*3)調査会社グローバルマーケットインサイツ
(*4)調査会社プロフシェア
(*5)調査会社マーケッツアンドマーケッツ
2021年の世界のタイヤ生産量
国際ゴム研究会(IRSG)の調査によると、2021年における世界のタイヤ生産量は製品重量1,687万トンで、前年比9%増と推定されています。特に新興国とされるアジア・大洋州での伸びが顕著であることがうかがえました。
地域別のシェアではアジア・大洋州が世界生産量の70%を占め、中国は世界の生産量の41%にのぼります。
各国ともタイヤ生産量は増加傾向にあるものの、コロナ禍以前である2019年の生産量を超えていない国が大半を占めます。しかし上記で紹介した新興国はコロナ禍以前を上回る生産量に至っています。
販売実績
【新車用】
2018年から新車用タイヤ販売実績は減少傾向にあり、3年連続で前年を下回りました。特に2020年の下落が顕著で、販売実績3,693万本・前年比2.2%減と、新型コロナウイルス感染症拡大の影響による自動車生産台数の落ち込みが顕著に表れています。
2021年の乗用車用タイヤ販売実績は、半導体などの部品供給が世界的に不足した影響を受け、5.3%減と前年を下回りました。しかし小形トラック用タイヤは前年比6.2%増、トラック・バス用タイヤは前年比9.1%増と、輸出需要の増加により前年を上回っています。
【市販用】
2020年に大幅に落ち込んだ市販車のタイヤ販売実績は、2021年になると販売実績6,961万本・前年比7.3%増と、4年振りに前年を上回りました。要因は新型コロナウイルス感染症の反動増と円安による業績の押しあげ効果とされています。とはいえ、まだコロナ禍以前である2019年の実績には届いていません。
【輸出用】
2021年における輸出用タイヤの販売実績は、乗用車用タイヤは前年比19.8%増、小形トラック用タイヤは前年比18.8%増、トラック・バス用タイヤは前年比26.6%増と、各品目とも前年を大きく上回りました。輸出用タイヤ全体でみると、2021年の販売実績4,332万本・前年比20.6%増と大幅に上回っています。
【輸入】
財務省貿易統計による2021年の輸入実績合計は、タイヤ本数では2,755万本・前年比8.0%の増加を見せました。売上は1,287億円で前年比17.9%増、製品重量は27万トンで前年比13.1%増と増加しています。
地域別本数では、中国や東南アジアなどで自動車市場が拡大しており、全体の約9割を占めるアジア地域で本数が増加しました。
海外市場
世界市場のタイヤ販売本数は手堅い上昇推移を見せています。これは新興国と呼ばれる中国や東南アジアなどにおける自動車市場の拡大が関係しています。実際に中国の自動車販売数は増加傾向にあります。
自動車販売台数とタイヤの販売本数は直接的に関係しており、新興国市場で自動車販売台数増加に伴い、世界のタイヤ需要も上昇推移を見せています。
北米エリアではタイヤ需要の回復傾向が見られ、各社シェア拡大に向けて機能性に優れた新製品を次々と開発・販売しています。
タイヤ業界の近年の動向
日本における2020年のゴム製品出荷額は、2019年に続き2年連続で減少しました。これはゴム製品の主力であるタイヤ生産量の減少による影響と考えられます。タイヤ生産量減少の背景には、新型コロナウイルス感染症拡大の影響による自動車生産台数の落ち込みがあります。
そんな中、2021年のタイヤ生産量は増加に転じました。その要因は北米・欧州・アジア・中国での販売数の伸びと、円安による業績の押し上げ効果、新型コロナウイルス感染症の反動増などが挙げられます。
日本の自動車販売台数は頭打ちですが、世界的には増加傾向を見せているため、海外生産に主眼を置く日本の大手メーカーが増えています。しかし中国メーカーが国内生産に留まらず、東南アジア進出の動きも活発化させているため、国際競争は激しさを増す一方です。
そこで、環境性能が差別化技術として注目が高まっています。タイヤの走行による摩擦低減が叶えば、燃費向上や二酸化炭素排出量削減につながるとされています。国内の大手メーカーは環境性能を訴求したタイヤを「エコタイヤ」と名付け、看板商品の一つとして売り出しています。
タイヤ業界の将来性・今後の見通し
2005年時点で国内メーカー4社(ブリヂストン・横浜ゴム・TOYO TIRE・住友ゴム工業)の世界におけるタイヤ市場シェアは約26.5%を占めていました。
そこから2021年にかけて50%アップと著しい成長を見せていますが、2020年時点でシェアが約22.5%まで低下しました。同時期にフランスのミシュランやアメリカのグッドイヤーといった世界のタイヤ業界を牽引する欧米メーカーもシェアを落としています。
その一方、韓国のハンコックや中国の中策ゴム、台湾の正新といったアジアメーカーが台頭し、シェアを伸ばしてきました。
こうした流れから、タイヤ業界は上位メーカーによる寡占状態が崩れてきていることが分かります。また参入メーカーが増えたことで、企業間競争がより激しくなっています。
こうした状況で国内メーカー4社は2010年半ば頃を境に、収益性が低下基調に一転しており、株価の長期的トレンドもおおむね連動して推移しています。
国内市場の見通し
日本国内においては自動車の生産台数が減少傾向にあることから、タイヤ市場も縮小を余儀なくされています。この背景には少子高齢化や、若者の自動車離れが要因に挙げられます。
また終わりの見えない不況により、消費者の目線が品質から価格を重視する傾向が強まっており、その結果、メーカー間の価格競争が激化し収益につながりにくい状況に陥っています。そのため、今後の国内市場では、いかに収益性を確保するかが課題であると考えられます。
また、新型コロナウイルス感染症の影響も無視できません。2020年は自動車生産台数の落ち込みとともに、タイヤの需要も減少しました。翌年の2021年は昨年の反動増により増加したものの、コロナ発生前の2019年の台数には到達しておらず、本格的な需要回復には時間がかかると見られています。
海外市場の見通し
国内の需要が冷え込む一方、海外市場におけるタイヤの販売数は手堅く上向きに推移しています。その要因は、東南アジアをはじめとした新興国における自動車市場の拡大にあります。
アジアを中心とする新興国の著しい経済発展に伴い、自動車の普及が加速度的に進み、タイヤ需要も増加しています。
しかし、新興国では品質よりも価格が重視される傾向にあり、中国の中策ゴムや韓国のハンコックタイヤといった海外メーカーが順調にシェアを拡大している一方で、高品質を売りにしている日本国内メーカーは需要を伸ばせていない状況にあります。
需要回復の傾向は北米エリアでも見られています。北米各メーカーは次々と低燃費タイヤといった消費者のニーズを汲み取った機能性の高いタイヤを市場投入し、シェア拡大に意欲的です。
タイヤ業界の主要メーカーと売上ランキング
2021年におけるタイヤの世界シェア上位10社の中には、日本のメーカーが3社ランクインしています。ここでは、日本・世界の主要タイヤメーカーの特徴と、世界シェアについて解説します。
主要メーカー一覧
ブリヂストン
日本指折りのタイヤメーカーで1931年に誕生したブリヂストンは、自動車用タイヤにとどまらず、月面探査機のタイヤに採用されるなど、多様なジャンルでの新技術開発に尽力しています。品質と安心安全に力を入れた製品開発が魅力です。
住友ゴム(ダンロップ・ファルケン)
1909年に創業しさまざまな産業品を手がける住友ゴムは、「DUNLOP(ダンロップ)」「FALKEN(ファルケン)」と2つのタイヤブランドを展開しています。評価が厳しいヨーロッパ市場で磨きあげられた技術力は、世界各国で支持を集めています。
横浜ゴム(YOKOHAMA)
1917年創業の老舗メーカーである横浜ゴムは、タイヤ開発への強い情熱と挑戦力が魅力で、数多くのブランドを展開しています。日本で初めてラジアルタイヤと低燃費タイヤを提供した、業界のパイオニア的存在です。
ミシュラン:フランス
フランスに本拠地を構える創業1880年の老舗タイヤメーカーです。製造地は世界69ヵ国に渡り、170ヵ国以上に供給・販売されています。タイヤに要求された性能をバランスよく分散させる、トータル性能が秀逸な製造を重視しているのが特徴です。
グッドイヤー:アメリカ
創業1898年で本拠地をアメリカに置くグッドイヤーは、F-1での戦績が368勝と、モータースポーツファンにはおなじみのメーカーです。世界での販売総数は約1.5億本にもおよび、25ヵ国の自動車メーカーに純正タイヤとして採用されており、高い実績を誇ります。
ピレリ:イタリア
イタリアのミラノに本拠地を構える、創業1872年のタイヤメーカーです。F-1開催当初からタイヤを提供しているモータースポーツ界の老舗メーカーのひとつであり、2011年以降はF-1のオフィシャルタイヤサプライヤーでありつづけています。フェラーリやランボルギーニなど、高級スポーツカーの純正タイヤに採用されていることも有名です。
売上ランキングTop10
タイヤメーカーの売上ランキングトップ10を以下にまとめました。
順位 | メーカー名 | 売上シェア |
1 | ミシュラン | 15.0% |
2 | ブリヂストン | 13.6% |
3 | グッドイヤー | 7.5% |
4 | コンチネンタル | 6.5% |
5 | 住友ゴム | 4.2% |
6 | ハンコック | 3.5% |
7 | ピレリ | 3.2% |
8 | 横浜ゴム | 2.8% |
9 | 中策ゴム | 2.6% |
10 | 正新 | 2.5% |
タイヤ業界とSDGs
タイヤ業界はSDGsの取り組みの一環として、世界各国のタイヤメーカー11社による協働プロジェクト「TIP」(Tire Industry Project)を発表しました。
TIPの計画は「科学的根拠を示し、情報を開示する」ことを重視しており、各エリアのタイヤ協会と連携してタイヤ業界が抱える共通の課題に対する科学的な調査を推進中です。ここでは、TIPの主要な3プログラムを紹介します。
【タイヤ摩耗粉塵の自然環境への影響についての研究】
道路を走るとタイヤが摩耗し粉塵が飛散します。そこでTIPは粉塵が自然環境に与える影響についての研究を実施し、結果として生物が粉塵を吸入しても毒性はないことが判明しました。
【使用済タイヤの管理】
タイヤはゴムのみで出来ているように見えますが、内側は金属部分が多い複雑な構造をしているため、使用済みタイヤのリサイクルは簡単ではありません。そこで、TIPは使用済みタイヤの管理について大規模な調査を行い、収集されたタイヤのリサイクル率などをまとめて報告書を発表しました。
【持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム】
タイヤの原材料の一つである天然ゴムは、その大半が小規模農家によって採取・生産されています。そこで、公正・公正かつ環境にも配慮した天然ゴムのサプライチェーン実現のために、TIPは「持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム」を設立しました。
まとめ
世界におけるタイヤ市場では新興国が順調にシェアを拡大させています。新興国では価格重視のタイヤ需要が多い一方、現在のタイヤ業界は低燃費タイヤをはじめとしたエコ路線がトレンドとなりつつあります。
これはSDGsを推進する企業が増え、消費者も製品が与える自然環境への影響をより重視するようになったことが背景として考えられます。このようにタイヤ業界だけなく製造業界全体が変化を求められており、企業のDX化をはじめ、組織のあり方が問われています。
さらに、近年の新型コロナウイルス感染症の世界的な流行もタイヤ業界に大きな影響を及ぼしました。日本においては、2019年・2020年のゴム製品出荷額は2年連続減少を記録してます。これは、自動車生産台数の落ち込みに伴うタイヤ生産量の減少による影響と考えられます。
しかし、2021年のタイヤ生産量は増加に転じました。諸外国での販売数の伸びと円安効果、新型コロナウイルス感染症の反動増などが主な要因です。
近年、アジアを中心とした新興メーカーの台頭も目立っており、海外市場における競争はより一層激化することが予想されます。アフターコロナにおける各社の取り組みを、引き続き注視していく必要があるでしょう。