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ペロブスカイト太陽電池とは
ペロブスカイト太陽電池とは、受光した太陽の光エネルギーを電気に変換する太陽電池のことを指します。ペロブスカイトと言われる材料を用いた「ペロブスカイト半導体」を利用しているため、ペロブスカイト太陽電池と呼ばれています。
ペロブスカイト太陽電池は、塗布することで製作できるため、印刷技術によって量産でき低コスト化が可能です。ゆがみに強く、軽量化が可能のため、これまでの重いシリコン太陽電池では不可能であった耐荷重の小さい屋根やビルの側面でも設置できることが期待されています。
ペロブスカイトは、ウラル山脈(ロシア)で発見された鉱物(鉛)ですが、同様の結晶構造を持った素材を化学物質と合成して作成することが可能です。
ペロブスカイト型太陽電池の発明者は、桐蔭横浜大学の宮坂力教授です。ペロブスカイト型太陽電池は、日本の研究開発によって2009年に誕生しました。
太陽電池は、半導体の材料によって複数の種類があります。現在において、主流の太陽電池は、シリコンを材料としており、約95%のシェアを占めていると言われています。
しかし、シリコン太陽電池は重いため、設置場所に制限があるという課題があります。重量制限の小さい屋根や、ビルの側面では、重量の関係でシリコン太陽電池の設置はできません。また、製造プロセスにおいて、高温となる工程があるため、製作段階での電力消費量が大きいことも課題としてあります。
一方のペロブスカイト太陽電池は、シートに印刷するように塗布することで簡単に製作できます。また、軽量化や折り曲げられる形状にもできるため、従来型に比べて設置場所を選びません。さらに、シリコン太陽電池より安価に抑えられるとされていて、次世代太陽電池として非常に期待されています。
ペロブスカイト太陽電池の原理
太陽電池に共通する一般的な仕組みは、太陽の光エネルギーを受けると半導体材料の電子エネルギーが高まり、導電性の電極に流れ込み電流が発生します。この半導体の材料にシリコンを使用したのがシリコン太陽電池です。
一方、鉛のペロブスカイト結晶構造に太陽の光エネルギーをあてる仕組みを採用しているのが、ペロブスカイト太陽電池です
ペロブスカイト太陽電池の特徴
ペロブスカイト太陽電池は、受ける太陽の光のエネルギー吸収率が高く、薄い状態でも変換効率を高く維持できるのが特徴です。 塗布できるほど薄く形成できるため、軽く薄く柔らかいフレキシブルな形状にすることが可能です。
ペロブスカイトが注目されている理由
ペロブスカイト太陽電池が注目されている理由は、最初にペロブスカイト太陽電池を開発して発表した宮坂力(みやさかつとむ)氏が、ノーベル賞候補に挙がり続けていることです。他にも、国内外で数々の賞を受賞しており、今後ノーベル賞受賞も期待されています。
従来型の太陽電池は、製造コストが高額であること、重量が重いことなどの課題がありましたが、ペロブスカイト太陽電池はこれらの課題を解消できる新太陽電池として注目を集めています。
ペロブスカイト太陽電池のメリット|従来の太陽電池との違い
ペロブスカイト太陽電池のメリットと、以下に挙げる従来の太陽電池と違う点3つを解説します。
- コストを抑えられる
- レアメタルが必要ない
- 薄い・軽い・柔らかいので加工しやすい
それぞれ詳しく解説します。
コストを抑えられる
ペロブスカイト太陽電池の第一のメリットとして、コストを抑えられる点が挙げられます。一般的に販売されているシリコン太陽電池は、材料にシリコンを使用しているため製造コストが高くなる課題がありました。
シリコンを用いるには多くの製造工程が必要であり、プロセスの中で高温での処理も発生することもあって、製造時に大きな電力消費を要します。
一方のペロブスカイトは、溶解処理による簡素化された製造工程で高額な設備を必要とせず、低温プロセスのみで製造でき、消費電気量を抑えられます。
また、材料のペロブスカイトを薄膜として使用するため、シリコンを材料として製造するケースと比較すると、20分の1程度の材料になるとされています。
シリコン太陽電池の製作におけるコストと、ペロブスカイト太陽電池と比較すると、5分の1から3分の1程度になると見込まれています。
レアメタルが必要ない
レアメタルを必要としない点もメリットとして挙げられます。従来の太陽電池では、製造においてレアメタルやレアアースを必要としました。供給制限のある材料を必要とする場合、計画どおりに製造できないというネックがありました。
ペロブスカイト太陽電池は、一般的な化学物質から合成できる材料であるため、レアメタルを必要としません。
薄い・軽い・柔らかいので加工しやすい
ペロブスカイト太陽電池は、薄い・軽い・柔らかいという特性を活かし、さまざまな形に加工しやすいメリットがあります。
太陽の光エネルギーの吸収効率が高く、薄くしても変換効率を高く維持できるのです。また、軽量で柔らかいため、これまで設置できていなかった湾曲した壁や、車体などにも設置ができるようになります。
ペロブスカイト太陽電池のデメリット|実用化への課題
ペロブスカイト太陽電池には、主に以下のようなデメリットがあります。
- 不安定性
- 鉛の使用
それぞれ詳しく解説します。
不安定性
ペロブスカイトの課題としては、不安定性が挙げられます。ペロブスカイトは、水分や酸素などの外的影響を受けやすい性質があることが課題です。
結晶内の結合に不具合が発生すると、電子が効率よく流動できなくなり、太陽の光エネルギーから電気への変換効率が低下する可能性があります。
鉛の使用
ペロブスカイト化合物に、鉛を使用していることも懸念されています。ペロブスカイト太陽電池に用いられている鉛は、カドミニウムや鉛電池と比べれば少量となりますが、周辺環境への溶出が不安視されています。
この課題を解決するためには、鉛と同様のエネルギー変換効率の材料を発見する必要があります。または、鉛が外部に溶け出さないように加工するなどの対策が求められています。
ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けて
ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた動きについて解説します。
いつ実用化できる?
日本のある化学メーカーでは、2025年までに実用化することを計画しています。課題である「大型化」を実現するため、開発を急いでいます。大型化が難しい要因は、高い効率で安定した発電をするため、ペロブスカイトの結晶を太陽電池の面に均一に並べることが困難だからです。
面積が小さければ、均一に並べることは容易に可能ですが、面積が大きくなると結晶にばらつきがでることによって、効率が落ちてしまいます。
こちらの化学メーカーでは、ペロブスカイトの結晶を均一に並べる技術を研究したことで、30センチ角であれば結晶のばらつきを抑えた太陽電池の作成に成功しました。高い効率で十分に発電もできるため、複数組み合わせて1メートル角以上の太陽電池の実用化を進めています。
また、安定性が低いことと、劣化が早く耐久性に弱い課題については、ペロブスカイト太陽電池と耐久性の高いシリコン太陽電池を重ねる「タンデム型」の研究開発を行っています。
タンデム型は、吸収する光の波長帯がペロブスカイトとシリコンではそれぞれ異なるため、組み合わせることによって、広い範囲の波長の光を無駄なく取り込み、さらに変換効率を高められると期待されています。
市場規模
富士経済の新型・次世代太陽電池調査結果によると、2022年の市場規模は640億円(前年比1.7倍)を予測しています。その後右肩上がりに成長、2035年には8300億円(2021年比22.6倍)まで拡大すると推測しています。
ペロブスカイト太陽電池は、中国やヨーロッパのベンチャー企業を中心として、2020年から2021年にかけて商用化が始まっています。2022年以降には本格的な量産が開始される見通しで、特に既存太陽電池からの屋外用途の代替需要でポテンシャルが期待されています。
今後、建材と一体型の太陽電池や、タンデム型の量産化により、2035年には市場規模7200億円(2021年比48.0倍)と予測しています。
世界初!JR西日本が新駅一般共用施設へのペロブスカイト太陽電池設置を発表
2023年春に開業を予定している「うめきた(大阪)地下駅」に、フィルム型のペロブスカイト太陽電池を駅広場へ設置すると、西日本旅客鉄道(JR西日本)が発表しました。
一般共用施設へ設置する計画としては、世界初の事例で、環境に配慮した「ecoステーション」に向けた取り組みの一環として注目されています。フィルム型のペロブスカイト太陽電電池の柔軟で軽量という特徴を活かし、今回の取り組みが実現しました。
今回、ペロブスカイト太陽電池の制作メーカーは積水化学工業です。太陽光パネルの出力は未定で、発電した電力は全て自家消費します。稼働は、地上駅ビルが完成する2025年春ごろの予定になります。
積水化学は、「封止、成膜、材料、プロセス技術」という独自技術によって、30cm幅のロール・ツー・ロール製造プロセスによって開発を行い、屋外耐久性10年相当を確認しました。これにより、変換効率が15.0%のフィルム型ペロブスカイト太陽電池の製造に成功しました。
現在、実用化に向けて1m幅の製造プロセスの構築、効率や耐久性のさらなる向上を目指しています。
まとめ
ペロブスカイト太陽電池は、新型・次世代太陽電池として市場での活躍が期待されています。軽く・薄く・柔らかいことから、これまでの太陽電池では、重量オーバーであった箇所への設置も可能です。2022年以降、量産が期待されているため、国産の技術がグローバルで活躍する日も近いのではないでしょうか。