Contents 目次
DXとは?
DXの定義やメリット、日本でDXが注目を浴びるようになった背景について解説します。
DXの定義と具体例
DXとは、デジタルトランスフォーメーションの略で、直訳すると「デジタルによる変革」になります。
経済産業省は「DX推進ガイドライン」にて、DXを以下のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」(経済産業省, DX推進指標, 2019.7)
簡潔に言うと、「デジタル技術の活用により事業を根本的に変革すること」です。
しかし、最近では単なるデジタル技術の活用、IT化をDXと呼んでいるケースも多く見受けられ、業界や組織によっても定義は異なっています。
DXの具体例
DXの代表例として、Netflixを紹介します。
Netflixは、現在190カ国以上の国で2億人以上の会員が利用する動画ストリーミングサービスですが、もともとは会員制のDVD郵送レンタル事業でした。
そこから以下のようなトランスフォーメーションを繰り返し、現在のNetflixに成長しました。
- DVDレンタルにサブスクリプション方式を導入
- 「退会しやすいシステム」の採用
- 動画ストリーミングサービスの開始
- オリジナルコンテンツ制作による差別化
いずれもそれまでの常識を覆すサービスでしたが、その中でも特にDVDレンタル業から動画ストリーミングサービスへの転換は大きな変革で、Netflixは私たちが映画やドラマを楽しむ方法を完全に変えてしまいました。
Netflixの例からわかるように、DXは単なるデジタル化・効率化にとどまらず、「根本的な変革」と「新たな価値の創造」を含むものです。
類似用語とDXとの違い
DX(デジタルトランスフォーメーション)に似た用語として、「デジタイゼーション」や「デジタライゼーション」があります。
デジタル技術を用いる点では共通していますが、意味する内容はそれぞれ異なります。
「デジタイゼーション」とは、「物質的な情報をデジタル形式に変換すること」を意味します。例としては、紙ベースの書類を電子化することが挙げられます。
「デジタライゼーション」は、「デジタル技術により業務プロセスやワークフローを改善すること」です。例としては、セルフレジの導入やビデオチャットによる営業のオンライン化です。
DXとの違いは、デジタライゼーションはデジタル技術により既存の業務プロセスを改善はしますが、根本的に変えはしない点です。
DXのメリット
DXによって得られるメリットは多岐にわたります。
アナログからデジタルへの移行によって生産性が向上し、作業の自動化によりコストが削減できることは言うまでもありませんが、以下のようなメリットもあります。
【顧客体験の変革】
DXは新しい価値を提供するため、顧客の問題やニーズに対して、従来とはまったく異なる方向からアプローチできるようになります。
【データの利活用】
DXにより組織内に蓄積されたデータを一元管理すれば、それまで別々に管理されていたデータを有効活用でき、企業の意思決定が促進されます。また、AIなどの利用により顧客のニーズを正確に把握することで、新たなサービス提供も可能になるでしょう。
【新たな市場の開拓】
DXは今までになかった新しい製品やサービスを生み出するため、企業は新しい市場を開拓することができます。顧客の数も増えるだけでなく、他社に対しても優位性を保ちやすくなるでしょう。
DXが注目されたきっかけ
日本では、2018年に経済産業省が発表した「DXレポート~IT システム2025年の崖の克服とDXの本格的な展開~」をきっかけにDXが注目されるようになりました。
本レポートで注目されたのは、「2025年の崖」と呼ばれる問題です。
「2025年の崖」とは、複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが残存した場合に想定される日本の経済の停滞や、国際競争への遅れなどを指す言葉です。
これは、古いシステムを保守運用できる人材の引退やOS・ソフトウェアなどのサポート終了によって業務基盤の維持が難しくなることや、膨大なデータを活用できずにデジタル競争に負けることなどにより引き起こされるとさています。
経済産業省は本レポートの中で、DXの促進を実現できなかった場合「最大年間12兆円の経済損失が生じる」と警告しており、2025年の崖が迫る今DXはますます注目されています。
世界と日本のDX市場規模
世界と日本のDX市場規模について、具体的なデータを用いて解説します。
日本のDX市場規模と動向
株式会社富士キメラ総研が行った調査によると、2020年度における国内のDX市場規模は1兆3,821億円でした。
※参考元:富士キメラ総研「デジタルトランスフォーメーションの国内市場(投資金額)」
調査対象は製造、金融、交通・運輸、自治体、戦略・基盤などの全12産業です。
最も市場規模が大きいのは「交通・運輸業」(2,780億円)で、交通事故の防止や安全な輸送サービスの実現に向けた投資、交通情報のビッグデータを活用した事業最適化に向けた投資などが中心でした。
次いで「戦略・基盤」(2,500億円)、「金融」(1,887億円)、「製造」(1,620億円)という結果になっており、この3産業で全体の4割強となっています。
また、2030年度の市場規模予測は総額5兆1,957億円となっており、2020年比で約4倍と大幅に上昇しています。
産業別では「自治体」の伸び率が最も大きく、2020年比で約12倍となっています。少子高齢化が進み自治体の職員数や予算の減少が予想される中で、サービスを維持・向上するためにAIやRPAなどのデジタル技術の利用が進むとみられています。
世界のDX市場規模と動向
世界のDX市場規模は、2023年時点で約8,803億米ドル(日本円にして1,150兆円程度)と報告されています。
今後もAIやIoTなどにより市場規模は拡大し続けることが見込まれており、2030年にはおよそ5倍の約4兆6,178億米ドルに達すると予想されています。
世界のDX市場における重要なトレンドとしては、スマートシティの推進が挙げられます。たとえば米国政府は、持続可能な輸送ネットワークを確立するため、スマート輸送プログラムに多額の資金を投じています。
新型コロナウイルスによって急拡大したDX市場
新型コロナウイルスの影響で、世界のDX化が一気に加速したと言われています。
パンデミック中、多くの企業が収益を維持するためにデジタル技術を駆使しました。従業員は在宅勤務を開始し、顧客とのやり取りはオンラインに移行されました。クラウドへの移行やサプライチェーンの再構築も進み、ニューノーマル時代に合わせた多くのアプリケーションやサービスも開発されました。
マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査によると、パンデミック中に企業が行った事業継続対策への投資のうち、デジタル技術への投資の割合が最も高かったことが明らかになりました。
このような投資により、世界のデジタル化は7年分前倒しされたといいます。
デジタル化=DXではありませんが、デジタル化によりデータの利活用が進みDXが推進されたことは間違いありません。
今後も拡大し続けるDX市場
世界のDX市場規模と動向でみたとおり、今後もDX市場は飛躍的に拡大し続けることが予測されます。
要因は多岐にわたりますが、ビジネスで生き残るための戦略としてDXを進める企業が増えることが挙げられます。
目まぐるしいスピードで変化し続ける現代社会では、企業は絶えず変化することが求められます。経済産業省が警告する「2025年の崖」のように、今後生き残るためにはDXによるビジネスモデルや企業組織の変革を避けては通れないのです。
また、新型コロナウイルスをきっかけに、社会や働き方の多様化への対応策としてDXの重要性が再認識されたことや、デジタル技術が浸透し多くのデータがデジタル形式で蓄積されるようになったことなどにより、DX改革のための基盤が整ったことも大きな推進力になるでしょう。
DXの進展により、私たちは新しい顧客体験ができるようになり、より多様な働き方も可能になります。一方、既存のビジネスモデルが脅かされ、変化に適応できなかった企業や産業は衰退していくでしょう。
日本のDX市場の現状と課題
日本はDXにおいて他の国に遅れをとっていると言われています。日本の現状やその原因について解説します。
日本はDX後進国
日本はDX競争力が他の先進国と比べて低いことがわかっています。
スイスの国際経営開発研究所(IMD)は毎年「IMD世界デジタル競争力ランキング(IMD World Digital Competitiveness Ranking)」を発表しています。
このランキングは、経済変革を生み出すデジタル技術の導入や研究において、各国の能力や将来に向けた準備体制を総合的に評価したものであり、DX競争力を表していると言えます。
本ランキングによると、日本の順位は63か国中29位で、前年の28位からさらに順位を下げた結果となりました。
G7(主要先進国)の中ではワースト2、同じアジア圏のシンガポールや韓国、台湾、中国からも大きく引き離される形となっていました。
日本の課題
前述の「世界デジタル競争力ランキング2022」における項目別評価では、日本は「将来への備え」への評価が低い傾向にあり、その中でも「企業の俊敏性」や「IT統合」のスコアが特に低いという結果でした。
その原因の1つとして、他国の企業が新しいIT技術やシステムに合わせて仕事のやり方を変えてきたのに対し、日本企業は「従来の仕事のやり方」に合わせてIT技術やシステムを利用・構築してきたことが挙げられます。
業務プロセスが複雑で標準化されていないため個々のITシステムを統合することができず、その結果データの利活用が難しくなり、スピーディな経営判断もできなくなっていると考えられます。
また、他の調査では、日本のIT投資の目的が効率化や業務改善といった手元の問題に偏っており、DXの本来の目的であるビジネスモデルの変革や新しい価値の創造がなかなか進んでいないことも指摘されています。
市場拡大するDX 乗り遅れるとどうなる?
企業がDX市場に乗り遅れることにより生じるリスクについて解説します。
市場競争からの脱落
DXに乗り遅れると、どのような結果が待っているのでしょうか。
かつてNetflixの競合であったブロックバスターの例を見てみましょう。
ブロックバスターは、一時は6万人以上の従業員と9,000店舗以上を抱える米大手のDVDレンタルチェーンでした。
ブロックバスターはNetflixの成長に対抗して類似のサービスを打ち出したりもしましたが、その競争に敗れ、経営の悪化により倒産に追い込まれました。
NetflixのCEOであるリード・ヘイスティングスは、これほどの事業規模を誇っていたブロックバスターが淘汰された原因として、「対抗策の実施が遅かった」ことを指摘し、ブロックバスターがあと2年早く行動していたら結果は変わっていただろうと話しています。
この例からもわかるように、ビジネスモデルを柔軟・迅速に変更できずDXに乗り遅れると、市場競争から脱落する恐れがあります。
技術的負債によるコスト増大
DXに乗り遅れるもう1つのリスクとして、「レガシーシステム」によるコストの増加が挙げられます。
レガシーシステムとは、「古くなったシステム」を指します。
レガシーシステムは、何度も改修や機能追加を繰り返して内部構造が複雑になっていることが多いため、その維持には大きなコストがかかります。
DXの波に乗れずレガシーシステムを使い続ければ、維持費用がかさみ、新たなIT投資をする余裕がなくなるといった負のループに陥ります。
レガシーシステムは古くなるほど維持費が増大する傾向にあるため、次第に経営が圧迫されるでしょう。
DX市場拡大に乗り遅れないために企業がすべきこと
今後企業が生き残るためにDXは不可欠です。DX市場拡大に乗り遅れないためにすべきことを解説します。
レガシーシステムからの脱却
DX市場に乗り遅れないようにするには、レガシーシステムからの脱却が不可欠です。
前述のように、レガシーシステムを使い続けると維持費用が膨らみ、DXに投資する余裕がなくなってしまいます。
それだけでなく、レガシーシステムは古い技術を使っているため、新しい技術やサービスと組み合わせて使うことが難しいことや、データの一元管理が進まず経営判断に遅れが生じることなどから、DX化において企業の足かせになってしまいます。
DXの流れに乗るには、新システムへの移行に投資し、レガシーシステムから一刻も早く脱却する必要があるでしょう。
DX人材の確保・育成
DX市場の拡大に乗り遅れないようにするには、DX人材の確保・育成も重要です。
情報通信白書(2022)の日本企業へのアンケート結果では、デジタル化を進める上での課題として「人材不足(67.6%)」という回答が最も多いという結果でした。
その原因としては、日本では企業にも個人にもリスキリング(学び直し)の習慣が根付いておらず、社内でのDX人材育成ができていないことが挙げられます。
社会の高齢化とDX市場の拡大により、今後ますますDX人材が不足することが予想されるため、企業は従業員がリスキリングを行う機会を設けるなどして、DX人材を育成していく必要があるでしょう。
社内でDX人材をすぐに確保できない場合は、短期的には外部リソースのデジタル人材を活用しながら社内人材の育成を進めていくとよいでしょう。
経営戦略やビジョンの共有
DXを実施するにあたっては、経営戦略やビジョンの共有が非常に重要です。
前述の通り、DXとは企業のあり方から根本的に変えていくという、企業組織全体の変革に他なりません。
組織全体で方向性が共有されていなければ、たとえ各部門がIT技術を用いた取り組みを進めても、単なる効率化やデジタル化で終わってしまい、組織としての変革は実現できないでしょう。
DXを成功させるためには、全従業員が同じゴールを意識し、一丸となって行動することが必要なのです。
そのための道しるべこそが経営戦略やビジョンです。
自社が社会にもたらす価値は何なのか、実現するために解決すべき課題はどういったものなのか、それを考え共有することがDXへの第一歩です。
まとめ
本記事では、DX市場の規模や日本の現状と課題、DX市場に乗り遅れないために企業がすべきことを解説しました。
DX市場は今後も拡大し続けることが予想され、乗り遅れれば市場競争からの脱落や経営の悪化につながる可能性があります。経済産業省が警告するように、「2025年の崖」を乗り越えるためにはDXはもはや不可欠なのです。
DXに向け、レガシーシステムの見直しやリスキリングの導入から始めてみてはいかがでしょうか。