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自動車業界の市場動向
自動車業界の市場動向を、OICAのデータを参考に解説していきます。
2021年の自動車販売台数は、中国が最大、ついで米国、欧州と続きます。世界全体での販売台数は前年比で5%アップしました。
地域別に見ていくと、欧米が横ばいであるのに対し、東南アジアが前年比13.0%と伸びが見られます。特にインドは前年比27.7%と非常に高い成長率を見せています。同じアジアでも、最大市場であった中国は勢いに衰えが見られます。逆に、米国は5.7%増と盛り返しの兆しがあります。
日本国内の市場動向
続いて、日本国内の市場動向を同じく、2021年のOICAのデータを参考にまとめます。
日本国内では、自動車販売台数は全体で444万台と前年比3.3%減でした。内訳は、乗用車が前年比3.4%減、商用車が1.3%減です。2018年から、3年連続の減少となりました。世界的には自動車市場が回復傾向を見せる中、日本は減少のままだった背景として、国内の新車販売が頭打ちとなっていることが上げられます。
販売台数が増えない背景には、自動車部品の不足や自動車価格の上昇があります。たとえば、費用を抑えられるはずの軽自動車の価格は、ここ10年で5割も増加しています。
自動車業界は100年1度の変革期!
今、自動車業界は100年に一度の変革期だと言われています。その背景には、新しい取り組みや事業の台頭があります。
特にトレンドとして注目されているのは、以下の2つです。
【自動車業界のトレンド】
- CASE(ケース)
- MaaS(マース)
ここからは、それぞれ詳しく見ていきましょう。
自動車業界のトレンド1:CASE(ケース)
CASEとは、自動車業界のこれからを象徴するキーワードとして話題になっている、4つの英単語の頭文字を組み合わせた言葉です。それぞれの単語と意味は以下の表をご覧ください。
Connected(コネクテッド) | 車の通信機能の技術 |
Autonomous(自動運転) | 自動で車を走らせる技術 |
Shared(シェアリング) | 必要な時だけ貸し借りする共同所有の考え方 |
Electric(電気自動車) | ハイブリッドや電気自動車を増やそうという考え方 |
2016年にメルセデス・ベンツ社が提唱して以来、世界中で注目されています。これまでは移動手段としての車を提供するモノづくり企業だったのが、単純にモノづくりを行うだけでなく移動自体をサービスと捉えて事業展開していくことになり、自動車業界にとっては、競合やビジネスルールなど、これまでの枠組み自体を根本から変える変化となります。
国内でも各自動車メーカーが実装に向けて取り組んでおり、経済産業省も実装に向けた取り組みを推進しています。
Connected(コネクテッド)の動向
Cは「Connected」、通信機能を利用して、さまざまな価値を創造することを意味しています。リアルタイムでのデータのやり取りが必要な自動運転に欠かせない技術としても注目されています。
活用例としては、交通事故が発生した際に関係機関に自動で通報する機能、カーナビのための地図データの取得やリアルタイムでの位置情報の送受信、音楽などのエンターテイメントの利用などがあります。
国内外の企業がクルマをより良くつなごうと取り組んでおり、通信機器メーカーや半導体メーカーとの協業の動きも活発化しており、今後、次々と新しいサービスが登場することが予想されます。
日本での事例と傾向は以下の表をご覧ください。
自動車業界の取り組み | ・トヨタのT-Connect ・日産&マイクロソフトのNissanConnect ・マツダのG-BOOK ALPHA ・BMWやアウディなどによる5Gコネクテッドカーのサービス開発 |
その他業界の取り組み | ・ソフトバンクによる通信プラットフォームの構築 ・NTTやKDDIがトヨタと協業 ・NTTドコモ&フランスのサプライヤーと協業したサービス展開 ・GMOクラウドの「つながるクルマ」化を目指した技術展開 |
Autonomous(自動運転)の動向
Aは自動運転を意味する「Autonomous」の頭文字です。
自動運転は6つにレベル分けされています。
- 自動運転レベル0: 自動運転なし
- 自動運転レベル1: 衝突被害軽減装置やACCなどの運転支援
- 自動運転レベル2: 衝突被害軽減装置ACCなどの運転支援システムの組み合わせが可能
- 自動運転レベル3: 条件月の自動運転。ドライバーの対応が必要となる場面がある
- 自動運転レベル4: 特定条件下での完全自動運転
- 自動運転レベル5: 完全自動運転
現在、国内ではレベル3の車が発売されています。現在は世界各国でレベル4の実証実験が行われており、東京五輪の選手村でもレベル4相当の小型電気バスの運行が行われました。
国内の事例や動向については、以下の表をご覧ください。
自動車業界の取り組み | ・ホンダがレベル3の技術を搭載した市販車を発表 ・トヨタが開発したレベル4の技術を搭載した自動運転EV車「e-Palette(イーパレット)」が 東京オリンピック・パラリンピック選手村で運用 |
その他業界の取り組み | ・ソフトバンクによるスタートアップやベンチャーへの投資 |
Shared(シェアリング)の動向
Sは「Shared」の頭文字で、車の所有に関する変化を表しています。これまでの車を個人で所有する時代から、複数人やコミュニティでシェアする時代になることを示す言葉です。
日本では交通弱者救済のため過疎地で例外的に認められるに留まっているためカーシェアリングが主流ですが、海外ではライドシェアリングも広がっています。
間接的な効果としては、車を所有する世帯が減ることにより、CO2の排出量削減や排気ガスにより大気汚染などの環境問題へも良い影響を与えることが期待されています。
国内の事例や動向について、以下の表にまとめました。
自動車業界の取り組み | ・GM傘下のCruiseなどが無人タクシーサービスを展開 |
その他業界の取り組み | ・ウーバーが歯医者アプリを展開 ・DeNAがAIを活用したタクシー配車アプリを展開 |
Electric(電気自動車)の動向
Eは電気自動車を意味する「Electric」の頭文字です。環境意識の高まりにより、年々注目度を増しています。
特に欧州では、各国が続々と化石燃料車の製造・販売を禁止し、電気自動車やハイブリッド車への切り替えへと舵を切っています。高まる環境問題への懸念に比例し、CO2の削減が実現できる電気自動車への関心はその対策の要として、世界中でこれからも高まり続けるでしょう。
国内の事例や動向について、以下の表にまとめました。参考にしてください。
自動車業界の取り組み | ・トヨタは2050年にガソリン車0を目指す ・日産が軽EV車をはじめ、続々と新型EV車を発表 ・ホンダがEVバイク普及へ取り組む |
その他業界の取り組み | ・パナソニックが新電池の開発 ・ソニーがホンダと共同でEV事業のため「ソニー・ホンダモビリティ」を設立 |
自動車業界のトレンド2:MaaS(マース)
MaaSとは、会社や手段の垣根を超えて、あらゆる交通をつないで効率的かつ便利な利用を実現する交通サービスシステムです。
複数の交通を一元管理することにより、バスや車といった異なる事業者が運行するサービスの検索・予約・決済を一つのシステム上で済ませられます。最適なルート検索までは既存のサービスでも実現していますが、社の垣根を超えた予約・決済サービスが広まれば、利用者にとって画期的な革新となるでしょう。
また、交通の効率化を実現して渋滞や交通弱者の救済など社会問題の解決にも貢献することが期待されています。
海外でのMaaSの具体的な事例
フィンランドはMaaSの普及が進んでいる国として有名で、「Whim」や「Kyyti」といったサービスがあります。Whimでは、目的地までのルートが複数提案され、利用者はその中から希望のルートを選択して決済を行います。当然、ルート検索から決済まですべてWhimアプリ上で完結します。
また、ドイツではドイツ鉄道が「DB Navigator」をリリースしています。自社サービスに留まらず、他社の交通サービスの予約・決済も可能なサービスです。ユーラシア大陸全域をカバーしており、公共交通機関だけでなくカーシェアリングサービスも取り扱っています。
そのほか、スウェーデン、リトアニア、スイスなど欧州を中心にMaaSサービスが誕生しています。
国内の自動車業界のMaaS事業への取り組み
国内でも、三井不動産や住友商事などの大手企業を中心に、国や業界・会社の枠を超えた提携を行いMaaS事業へ参入しています。
移動をサービスとする考え方のため、当然自動車業界でも各社が実現に向けた取り組みを行っています。より便利な交通サービス、環境問題の改善や交通弱者の救済などに向け、業界内外での提携や新会社の設立など、その取り組み範囲・内容は多種多様です。
MaaS事業に取り組んでいる各企業とその内容を以下の表にまとめましたので、最新の動向として、それぞれの内容を確認しておいてください。
取り組んでいる企業 | 取り組み内容 |
トヨタ自動車 | ソフトバンクと共同出資で自動車運転とMaaSの融合した事業を行う |
日野自動車 | 次世代商用モビリティの実現に向けて電動モビリティの革新企業・REEと業務提携 |
ホンダ自動車 | MaaSに取り組むためにホンダモビリティソリューションズ株式会社を設立 |
みちのりHD(関東自動車) | 東電HDとともに電気バス向けEMSの開発に向けた実証実験を実施 |
日本の自動車業界への取り組み
国は自動車業界を「日本の根幹産業」と位置づけ、引き続き発展のためのサポートを行う姿勢です。
現在は構造変革のチャンスとし、「社会制度の変革・イノベーションを促す仕組みを政府が整備する案が出ています。具体的には、自動車産業からモビリティ産業への変革のサポート、脱炭素化・電動化への対応などです。
構造改革においてはCASE時代への適応に向けた支援の検討・取り組みに前向きな姿勢がうかがえます。
技術の発展はもちろん、EV車やCASEのSのように環境への配慮・SDGsへの取り組みが今後益々注目されることとなりそうです。
日本の自動車業界の今後の課題
将来が不明瞭で不安のある中、100年に一度と言われる変革期が訪れています。この時代を生き残るには、自動車業界のトレンドに対して、常に前向きな姿勢で積極的に取り組むことが大切です。
現在、日本の自動車業界が抱えている課題には次のようなものがあります。
【自動車業界の今後の課題】
- AIやIT技術を駆使した自動運転の開発
- 人手不足の解消と業務の効率化
これらの課題を乗り越えるためには、新しい技術や考え方を積極的に取り入れ、EV車種の拡充など、変化やニーズに対応し続ける必要があるでしょう。
まとめ
本記事でお伝えしたCASEやMaaSなどの新しい考え方や技術は無限の可能性を秘めています。
自動車業界は今、世界的に新たな価値創造のための変革の時代に入っています。これまでの「乗り物」を作る産業から「モビリティサービス」への変革です。
大きな変化ですが、時代にニーズに合った変化であり、国も「日本の重要な産業」として支えていく姿勢を見せています。
自動車業界が今後どのように変化・成長していくのか、日本をはじめ各国の取り組みから目を離せません。