INNOVATION

誰もが身近に感じるイノベーションの進め方|積水化学工業株式会社インタビュー【後編】

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変化する社会課題に貢献する製品を数々生み出してきた積水化学工業(以下、積水化学)。

イノベーション拠点となる「水無瀬イノベーションセンター(MIC)」設立の年、イノベーションの推進を目的とした新たなチーム「イノベーション推進グループ」が発足した。

グループの使命や発足後の変化、さらにイノベーションへの課題や葛藤、重要性について、開発戦略部イノベーション推進グループ長の青木京介さんに話を伺った。

プロフィール

積水化学工業株式会社 高機能プラスチックスカンパニー開発研究所 開発戦略部イノベーション推進グループ長 青木京介さん

積水化学グループの商社入社後、積水化学工業へ出向を経て、2014年に転籍。その後赴任したアメリカ駐在2年半を含めて営業畑で過ごす。2019年、社内公募で企画部メンバーとして開発研究所へ。2022年から現在のイノベーション推進グループ長に就任。商社時代を通じて培われた「人をつなぐ・結びつける」力を発揮し、グループミッションであるイノベーション推進のため、水無瀬イノベーションセンター(MIC)を拠点に社内外を奔走する。

融合強化を牽引する、イノベーション推進グループの発足

積水化学がサステナブルな社会実現に向けて、イノベーション加速のドライバーとして掲げる融合強化。そのための新チーム「イノベーション推進グループ」はどのような経緯で立ち上がったのか。現在の業務内容やミッションを青木さんはこう語る。

青木:社内ではまず、2014年に新事業企画を作っていく専門の部隊を立ち上げました。その部隊が活躍できる新しい場としてイノベーションセンターの構想が社内でも高まり、設立されたのがMICです。

当時の社内状況として、イノベーションを加速させたいという思いが非常に強くありました。そのためには、全社をあげてセグメント横断でのプロジェクト推進や社外機関との連携の強化が重要であり、MICをより活発にしていくための、特別なグループを結成しようとイノベーション推進グループが発足しました。

青木:業務内容は、名前のとおりイノベーションの推進というのが、まさに我々のグループのミッションです。まずは高機能プラスチックスカンパニーを中心に、4つの研究所並びにカンパニー、そして積水化学全社に向けて、イノベーションを推進していく仕事をしています。

具体的には、3つの軸で取り組みを進めています。まずは、社内でしっかり連携するための横串を通すこと。次に、社外の皆様とつながるハブになること。最後に、お客様との連携に向けたMICの活用方法を考えること。

さらに、仕組みや仕掛けを活かすには、ベースとなる組織風土や、人間関係が非常に重要となりますので、プラスアルファとして、それらを醸成していくところにも力を入れています。

現在、MICに在籍するグループのメンバーは青木さんを含めて8名。今後は人を増やして、さらに存在感のあるグループにしていきたいと語る。

イノベーションは身近なもの。誰もが実現しないといけないもの

積水化学全社のイノベーション推進という大きなミッションのもと、グループ長として青木さんがまず取り組んだ課題はどのようなことなのだろうか。

青木:イノベーションを推進すると聞くと響きはいいのですが、なかなかやりがいのある仕事で、多くの苦労があります(笑)。

まず、イノベーションという動きに社内をどのように巻き込んでいくかについては、課題が多くありました。そもそも、イノベーションという言葉の捉え方は、人それぞれ千差万別で、かなり個人差があります。そのため、最初に社内のイノベーションへの目線を合わせることに注力しました。

特に日本企業では、『イノベーション』は『インベンション』(発明)と考えられているケースがあります。イノベーションは、新しくて見たことのないようなもので、それが市場を席巻するようなイメージを持っている人が多くいます。しかし、実際は違うと思っています。

イノベーションの言葉の定義は『新結合』。あちらとこちらにあるものを新しく結合する。これは、開発だけの話ではなく、ロジスティクスや経理、人事でもありますよね。イノベーションは身近なものであって、誰もが実現すべきものという認識が大切なのです。

もうひとつ大事なのが、イノベーションはあくまでツールだということ。目的になったらいけないと思っています。同様にオープンイノベーションは目的ではなく、外部と組むことでスピードも効率も上がるなら、そちらを選択する、という話です。

こうした社内の目線合わせや文化、風土を変えていくことは、すぐにできることではありません。じっくりと時間をかける、非常に長期的な取り組みであると思っています。

グループ長着任後、1年半をかけて、「イノベーションは身近なもので、誰もが必要であれば積極的に利用できるもの」という感覚は広まっていると青木さんは語る。取り組みは現在進行形だそうだが、着実に組織風土の変化は起きているようだ。

横のラインをさらに強く太く。「社内だから」といった甘えは禁物

グループ発足後、社内の組織風土の醸成のほか、どのような変化が生まれたのだろうか。

青木:これまで、個人もしくはチーム単位で個別にやっていた情報収集とマッチングを、我々が一手にまとめてやるようになったのが、大きく変わったところです。

まず、社内にあるニーズとシーズを収集し、整理することから始めました。社内で『こういった技術が欲しい』というニーズと、『知られてないけど、このようなこともできる』『実は応用、アレンジも可能な技術』といった技術のシーズ。これらの情報をまとめたニーズ・シーズリストを作成したところ、社内連携だけではなく、社外イベントやオープンイノベーションなどでも、確度が高く幅広いマッチングができるようになりました。

また、地道なグループの活動が形になってきたことを実感すると同時に、情報を収集するにあたり、社内における信頼構築の重要性を強く感じていると青木さんは言う。

青木:これまで個人もしくはチーム単位で、個別でやっていたところを我々が一括で担うことになったので、当初は考え方の違いによって情報の展開を積極的にしたくないという声も少なからずありました。そのような情報は、センシティブに取り扱うよう気をつけ、きっちり情報管理を進めました。こうした我々の姿勢が社内に認知され、信頼のもとに情報共有が進んだのではないかと、手前味噌ですが感じています。

我々の仕事は、事業部からすると業務には直結しないプラスアルファの仕事になることも多いものです。そのため、『この協力があったからこそ、こういう結果が出せました』という情報は、確実かつ可能な限り早くフィードバックするよう意識しています。
特別でもかっこいい話でもなく、商売と同じで人と人との信頼関係がないと成り立たない。社内だから、といった甘い考えでは共感は得られないと感じています。

ウェブサイトでオープンイノベーションに関する事例、募集テーマ、パートナープログラムなどの情報を公開している大阪ガスやトヨタなどに比べて、「目指すレベルはまだ先」としながらも、社内全体でイノベーションに向かう態勢に手応えを感じているという青木さん。徐々に取り組みの成果が見えてきたとはいえ、まだ課題はあると言う。

青木:度々申し上げているとおり、我々の中ではオープンイノベーションの加速が重要課題です。昔から大学との研究委託などはよく行ってきましたが、さらに積極的に進める必要があります。他社と組んでまったく新しいものを作っていくようなオープンイノベーションにおいては、まだ道半ばであると感じています。特に、スタートアップとの協業は、経験値がまだ少ないのが実情です。こうした課題には、イノベーション推進グループが中心となって、社内とスタートアップをつなぐ役割を積極的に担っていこうと動いているところです。

「いかに失敗を許容できるか」がイノベーションに必須の心構え

新規事業や新製品開発には失敗がつきもの。減点主義の文化では、失敗を恐れてチャレンジすることができない。イノベーションを加速させ続ける積水化学では、企業文化に対してどのようなアプローチがなされているのだろうか。

青木:いかに失敗を許容できるか、腹をくくれるかというところは、イノベーションに必須の心構えです。とはいえ、実際のところ心情的に難しいものです。

投資している以上、必ず成功したいというプレッシャーはついてまわります。そこについては、我々のプレジデントである清水郁輔から、失敗しても咎めない組織風土を作る、といった積極的な発言がありました。やはりトップからのメッセージによって、我々社員は後押しされる部分が大きいと思っています。

失敗を恐れて挑戦や変革ができなければ、業容拡大はもちろん、これからの時代を生き抜くことすら難しくなる。そのような切実さを持ってイノベーションを捉えているからこそ、良い失敗は許容しようと覚悟を決めているのだろう。
サステナブルな社会実現に向け、積水化学らしい真摯なソリューションの探求と、世の中の変化やニーズに素早く対応するイノベーション創出のため、イノベーション推進グループは今日も人と人をつないでいる。

積水化学工業株式会社インタビュー【前編】はこちら

PEAKSMEDIA編集チーム

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