Contents 目次
ライフサイクルアセスメント(LCA)とは
ライフサイクルアセスメント(LCA)とは、製品やサービスの原材料調達・生産・流通・消費・廃棄までのライフサイクル全体、または過程において環境への影響を総合的に評価・分析する手法のことです。
ライフサイクルアセスメントは、「Life Cycle Assessment」の頭文字を取ってLCAと略されます(※以下LCA)。LCAは、国際標準化機構(ISO)による環境マネジメントの国際規格の中で規定されており、企業のCSR報告書の中にも取り入れられるケースが増えています。
これまでも環境に対する負荷を評価する方法はありましたが、効果的に結果を出すことは簡単ではありませんでした。LCAは環境負荷やCO2の削減量などを数値で可視化できるため、より具体的な改善策を立てやすく製品だけでなくサービスなどにも活用できる特徴があります。
SCOPE3との違い
LCAと混同されやすい概念にSCOPE3があります。
LCAは、製品・サービス・プロセスなどのライフサイクル全体での環境への影響を評価する手法ですが、SCOPE3は企業のサプライチェーンにおける事業活動にわたって環境影響の「範囲」を表しています。
企業にはまずLCAの概念が存在し、その中でSCOPE1~3の算定ルールが定められています。混同されやすい概念ですが、LCAを実施でき、その後初めてSCOPE3を行えるようになります。
国際基準
LCAは国際規格において明確なルールが定められています。国際基準を設けることで、企業がLCAに取り組むマネジメントシステムが機能するようになります。
LCAに関する国際規格として、以下の2つを紹介します。
- ISO14040:LCAの基本原則とフレームワークを提供する国際基準
- ISO14044:ISO14040の基本原則に則って、LCAの実施手法と要件を定義した国際標準
ISO14040 はでLCAを実施する際の基本的なステップとプロセスを提供し、ISO14044で製品やプロセスの環境への影響を評価する際の具体的なガイドラインを提供しています。
自動車業界への影響
自動車業界では、環境規制が自動車の燃費からLCAへ進展しており、EVも含めた車両の全体的なCO2影響を考慮する必要性を求められています。
EUでは、2024年からEV用バッテリーのLCAベースでのCO2排出申告を義務化しており、2027年に排出上限を設ける方針です。中国も2025年に自動車のLCA規制を検討しています。EV自動車は走行時にCO2を排出しませんが、製造する際にはガソリン車を上回るCO2を排出する点が大きな課題となっています。
欧州では発電時のCO2排出が少ないため、EV自動車がLCA視点で有利になります。日本は火力発電の割合が高く、現在はEVの優位性を主張しにくくなっていますが、政府は再エネ割合を引き上げる計画を立てています。
国際的に事業展開する日本の自動車メーカーにとって、LCA視点に立った多角的な戦略が求められています。日本自動車工業会は、国内競争力を保つためエネルギー計画との統合的議論が重要と考えています。
LCAの算定方法
LCAの算定方法について、以下の通り紹介します。
【LCAの算定方法】
- 国際規格ISOの4つのフェーズ
- CO2・温室効果ガス計算方法
国際規格ISOの4つのフェーズ
LCAは、環境負荷の算定をISO規格に基づき、以下4つのプロセスで実施します。
- 目的と調査範囲の設定:LCAの目的と調査範囲を明確にし、調査結果に対する対応方法を設定
- インベントリ分析:データをインプットとアウトプットに分け、ライフサイクルの各段階の環境負荷を把握し定量的な理解と改善策の提案
- LCA環境評価:環境負荷の要素が引き起こす問題を評価し、可視化された部分と非可視化部分の影響を考慮
- LCAの解釈:インベントリ分析や評価の結果から環境負荷の段階を判断し、具体的な低減策を導き出し対応策を決定
CO2・温室効果ガス計算方法
CO2排出量の計算方法は、以下の通りです。
CO2排出量=「エネルギー消費当たりのCO2排出量」×「人口1人当たりの経済水準」×「経済活動のエネルギー効率」×「人口」
CO2排出量を減らすためには、火力発電にガスを利用してエネルギー供給の低炭素化を進めたり、エネルギー効率のよい機器を導入したりして対策が取れることが分かります。
温室効果ガスの計算方法は、以下の通りです。
温室効果ガス排出量=活動量 × 排出係数
排出係数とは、活動量当たりの排出量のことを指しています。CO2換算の排出量は、以下の式で求められます。
CO2換算の排出量 =温室効果ガス排出量(tガス) × 地球温暖化係数(GWP※)
※GWPとは、CO2と比較してそれぞれの温室効果ガスが地球温暖化にもたらす影響がどれくらいかを表す数字です。
企業がライフサイクルアセスメントに取り組むメリット
企業がライフサイクルアセスメントに取り組むメリットは、以下の通りです。
【企業がLCAに取り組むメリット】
- 自社サービスや製品を改善できる
- 社会的な信用が向上する
LCAに取り組むと製品やサービスの環境負荷軽減を検討でき、社会的な信用が向上するメリットがあります。それぞれのメリットについて詳しく解説します。
自社サービスや製品を改善できる
LCAに取り組むメリットは、企業が自社製品やサービスの環境負荷を評価し改善の方針を見つけられることです。ライフサイクルを詳細に分析することで、どの工程で環境負荷が高いかがわかります。
LCAの主なメリットは、企業が自社製品やサービスの環境負荷を評価し改善の方針を見つけられることです。ライフサイクルを詳細に分析することで、どの工程で環境負荷が高いかがわかります。LCAは環境負荷を数値化できるため、ライフサイクルの改善に必要なコストとCO2排出量の関係性を計算でき、環境負荷に関する合理的な判断ができるようになります。
現代における消費者は環境への意識が高まっているため、LCAの可視化が有益に働きます。自社の製品と同コストの他社製品とを比較して、環境に配慮した自社製品の販売機会を増加させる期待を持てます。
社会的な信用が向上する
企業がLCAに取り組むと、環境負荷をデータで示し一般消費者に環境への取り組みをアピールできるようになります。
SDGsへの注目を受け、消費者はさまざまな製品やサービスに対する環境問題への関連性に敏感になっています。LCAに取り組む情報を視覚的に示し共有することは、企業の社会的な信用の向上につながります。
ライフサイクルアセスメントに取り組む時のポイント
ライフサイクルアセスメントに取り組む時のポイントについて紹介します。
【ライフサイクルアセスメントに取り組む時のポイント】
- 取り組む目的を明確にする
- 目的達成のために評価すべき対象を明確にする
- 環境負荷削減を見積もる
LCAに取り組む前に正しく準備しておくことで、LCA導入がスムーズに進み評価・検証しやすくなります。ここでは、LCAに取り組むポイントについて詳しく解説します。
取り組む目的を明確にする
LCAに取り組む目的を明確にします。目的によってLCAに取り組む難易度が変わり、準備期間にも影響するためです。
具体的には、以下のような目的があります。
- 自社製品の環境負荷を可視化し消費者へアピールする
- 持続可能で環境負荷の低い製品開発を目指し改善点を洗い出す
- サプライチェーン全体で脱炭素を進めつつ競合他社より環境負荷の観点で競争力を高める
- ESG投資の需要増加に応え非財務情報としてLCA結果を開示する
目的が明確になることで社員のモチベーションが高まりやすくなり、軌道修正もしやすくなります。
目的達成のために評価すべき対象を明確にする
LCAに取り組む目的を達成するために、評価すべき対象を明確にします。LCAでは気候変動だけでなく、酸性化・富栄養化・資源消費も評価対象になります。
目標達成のために評価すべき対象には、以下のような事例があります。
- 製品アピール: 気候変動に影響を与える温室効果ガス(GHG)の評価
- 製品開発や調達の改善: 気候変動・資源消費・土地利用変化の評価
- ESG投資: 気候変動・生物多様性の評価
評価対象は相手によっても変わるため、ステークホルダーとコミュニケーションを取っておくことが重要です。
環境負荷削減を見積もる
LCAに取り組むことでどの程度、環境負荷を減らせるか見積もりながら具体的な活動を決めます。特に重要なのが、ライフサイクル全体の活動をプロセスごとに整理し、その活動量を明らかにする「インベントリ分析」です。
インベントリ分析とは、対象製品に関する収集した様々なデータから、環境負荷の項目について入出力明細一覧を作成して分析することです。目的や評価項目に応じて異なる粒度で行われ、評価にかかるコストや時間に影響します。
ライフサイクルアセスメントに取り組んだ企業の事例
ライフサイクルアセスメントに取り組んだ企業の事例を紹介します。
富士通グループ
富士通グループは、連結子会社を含めて300社の総合ICT企業です。ICTを支える最先端、高性能、かつ高品質のプロダクト及び電子デバイス の開発、製造、販売から保守運用までを総合的に提供しています。
環境配慮設計を推進する一環として、1998年から「グリーン製品」評価制度を導入し、LCA(ライフサイクルアセスメント)を活用しています。新製品の開発時にLCAを実施し、環境負荷削減の方針を支援しています。さらに、エコリーフやEPEATなどの環境ラベルの取得にも取り組み、製品の環境性能を示す情報を提供しています。
また、IoTやクラウドサービス、シェアリングの広がりに伴い、サービス提供における環境影響を評価するためにLCAを活用しています。例えば、クラウドサービスの導入による環境負荷変化を評価し、CO2排出削減や資源効率の向上へ努めています。
環境に配慮した製品開発やサービス提供を通じて、持続可能な社会実現へ貢献しています。LCAを通じて環境負荷の削減やリソースの効率的な活用を推進し、SDGsのゴール12である「つくる責任、つかう責任」を達成するための取り組みを進めています。
参考:https://www.fujitsu.com/jp/about/environment/lca/
マツダ株式会社
独自のデザインに人気がある自動車メーカーのマツダ株式会社は、クリーンディーゼルエンジンを搭載した車種をラインナップしています。
マツダは気候変動を重要課題とし、電力走行可能なMX-30 EV車種を導入しています。しかし全世界の発電の大部分が化石燃料で供給されるため、EVのみでは不十分と考えています。そこでマツダは、2050年までに「Well-to-Wheel」によって企業平均CO2の90%削減を目指し、LCA手法の活用によって環境負荷を適切に評価することでCO2の削減を進めています。
アクアテック塗装や再生可能素材を使用し、クルマのリサイクルを通じてCO2排出削減に取り組むなど環境への貢献を追求し、持続可能な社会を目指しています。
参考:https://www.mazda.co.jp/experience/stories/2021summer/featured/02/
テスラ
テスラは、2003年に設立された電気自動車・クリーンエネルギー関連メーカーです。電気自動車の販売台数が世界1位のEVメーカーであり、ソフトウェア開発・ハードウェア開発なども手掛けています。
テスラは持続可能なエネルギーへの転換を推進する使命に従い、LCAの各指標で最高の水準を目指しています。2030年までに年間2000万台の電気自動車販売と1500GWhのエネルギー貯蔵システムを計画し、車両台数を増やすことで二酸化炭素の排出削減を考えています。
参考:https://www.tesla.com/ns_videos/2020-tesla-impact-report_jp.pdf
まとめ
ライフサイクルアセスメント(LCA)とは、製品やサービス開発のライフサイクル全体で環境への影響度合いを評価する手法です。今後の世の中の動向としてライフサイクルアセスメントは、さまざまな企業にとって必要になると思われます。
LCAは、商品を消費者に選択してもらう際の基準の一つになるため、製造業にとってとても重要な指標になります。