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メタマテリアルの特徴をわかりやすく解説!メタマテリアルの用途や今後の展望

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メタマテリアルは、これまでの物質にはない特性を持ち、光・電磁波・音波の反射方向を制御できる特徴があります。ナノテクノロジーの一種であるメタマテリアルの実用化が進むことで、これからの製造業において大きな変化をもたらす可能性が高いといえます。

当記事では、メタマテリアルの概要から最大の特徴である「負の屈折率」について解説します。実用を期待できる用途や今後の展望についても解説していますので、ぜひ参考にしてください。

メタマテリアルとは?わかりやすく解説!

メタマテリアルとは、1964年に着想され2000年に実現した「自然界の素材にはない人工的に作り出した素材」のことです。メタマテリアルは、「メタ(meta):超越」と、「マテリアル(material):材料」を組み合わせた言葉で、自然界にない物性を発現できる「人工材料」=メタマテリアルです。

メタマテリアルの登場により、光学の世界において新しい可能性が開かれました。メタマテリアルは、自然界の物質では起こらない光との相互作用をする人工材料で、「究極のレンズ」や「透明マント」の開発ができる技術として世界から注目されました。

メタマテリアルは物体内に微細な構造を持っています。電場と磁場の相互作用によって光が広がる性質をコントロールし、微小な光を増幅させたり、不可視の角度に光を屈折させたりすることができます。波長を下回る超微細な周期構造を物質に付与することで実現でき、光や電波などへの応用が期待されています。

メタマテリアルの研究開発は、材料からデバイス、システムまで幅広いレベルで行われており、今後の技術の進化と革新に期待が寄せられています。

メタマテリアルで話題になるキーワード

メタマテリアルといえば、以下のようなキーワードがメディアなどで取り上げられ、たびたび注目されています。

【メタマテリアルに関して押さえておきたいキーワード】

     
  • 完全レンズ:
    負の屈折率になるメタマテリアルを利用して、光を拡散させることなく完全な焦点に収束させたレンズのこと。密度の高い大容量の光ディスクを製造できる
  • 透明マント:
    メタマテリアルの屈折率を利用すれば、光が障害物を避けて通過できるようになり、目に見えることができないため透明マントの効果が得られる

現実の物理的な制約や損失などが影響を及ぼすため、理想的な完全レンズや透明マントの実現は簡単ではありません。メタマテリアルはまだまだ研究段階であり、素材の応用分野や技術開発は今後拡大していくことが予測されます。

メタマテリアルを構成するのはメタ原子

メタマテリアルは「メタ原子」または「メタアトム」と呼ばれ、通常の材料とは異なり、電磁波の波長よりも十分に小さいサイズを持ちます。「電磁波の波長よりも十分に小さい」ということは、異なる電磁波の波長に応じてメタ原子のサイズが変化することを意味します。例えば、テラヘルツ波の波長(約300um前後)は、可視光の波長(約400〜800nmの範囲)よりも約1000倍も長いため、メタ原子のサイズもテラヘルツ波に対応して約1000倍大きくなります。

これにより、異なる波長に対応するメタ原子のサイズを調整でき、可視光などの短波長領域から、テラヘルツ波などの長波長領域まで多くの応用が期待されています。

光(電磁波)は電場と磁場が相互作用し、波の波長に応じて電波、赤外線、可視光、紫外線、X線、ガンマ線などに分類されます。通常、波長より小さな物体はその波長の光では観察できませんが、メタマテリアルの登場により、原子スケールの物体を可視光で観察し、加工する可能性が開かれました。

メタマテリアルの最大の特徴は「負の屈折率」

メタマテリアルの最大の特徴は「負の屈折率」です。

負の屈折性は、通常物質では屈折波が入射波と反対側に屈折するのに対し、負屈折性の材料では屈折波が入射波と同じ側に「くの字状」に屈折する特性を指します。これは通常の物質とは異なる性質で、比誘電率と比透磁率を同時に負にすることで実現されます。液体状のメタマテリアルは存在していませんが、固体では実現されています。

メタマテリアルの負の屈折性は、特にレンズ技術に革命をもたらす可能性があります。

通常のレンズでは光をある程度まで絞り込むことができますが、限界が存在します。しかし、負の屈折率を持つメタマテリアルを使用することで、この限界を超えた集光が可能となり、これまで観察できなかった微細な対象物(ウイルス、分子、原子など)を観察できる超高解像度レンズの実現が期待されています。

メタマテリアルの用途

メタマテリアルは新しい分野であり、実現に向けて研究が続けられています。メタマテリアルを応用した分野はこれから拡大が見込まれています。

最近では、特定の波長帯を反射する透明フィルムが開発され、5G通信環境の改善に貢献しています。4Gと比較すると5Gは高周波のため、伝送容量が大きい反面、直進性が高いので遮断物があると電波が減衰してしまいます。

そこで、このフィルムを天井や窓などへ貼ることで、電波が届やすいようにすることができます。

また、メタマテリアルは音響に関する技術活用にも広がっています。

空調機器の防音材において、これまでの消音器では困難であった防音性と通風性の改善を可能にしました。実用化の例としては、自動車の次世代遮音材の活用が見込まれ、大幅な軽量化や静音化を図ることが期待されています

ここからは、現時点で話題になっているメタマテリアルの活用方法について、どのような展望があるのか紹介します。

【メタマテリアルの活用】

     
  • 自超高解像レンズ
  • アンテナ
  • 騒音遮断板
  • 電波吸収素材

この章では、メタマテリアルの活用方法について詳しく解説します。

超高解像レンズ

メタマテリアルを活用すると、超高解像度レンズの実現が期待できます。

通常のレンズでは、光を小さく絞っても回析する限界があるため、小さなものを観察するのに限りがありました。しかし、負の屈折率を持つメタマテリアルを用いることで、それを超えて集光でき、光学顕微鏡では観察できなかったウイルスや分子・原子などの観察が可能となります。

参照元:https://talk.yumenavi.info/archives/2577?site=d

アンテナ

メタマテリアルは、アンテナの性能を向上させることが期待されています。

メタマテリアルを使用することで、特定の周波数や方向での電磁波の放射や受信を制御できるため、無線通信システムの性能を向上させることができます。

また、メタマテリアルを使用すれば、波長よりも小さなアンテナを設計することができ、小型の電子機器に搭載できるようになります。

参考:https://www.ieice.org/~cs-edit/magazine/ieice/spsec/Bplus33_sp.pdf

騒音遮断版

メタマテリアルの発展において、光に関してはナノメートルクラスの加工が必要なため、難易度が高く現在では研究途上の段階です。波長がミリメートル以上の電波や音波については、実用化が進んでいます。

日産自動車では、騒音を効果的に遮るメタマテリアルを開発しました。従来の騒音対策に比べて軽量かつ効果的な遮音材料は、車内の静粛性を向上させられます。ゴム製の板材と比べて約4分の1の重量で同等の遮音性を実現しています。

参考:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01679/020700101/

電波吸収素材

凸版印刷も、軽量で多くの電波を吸収するメタマテリアルを開発し、電波の干渉や漏洩を低減する効果が期待されています。オフィスや建物の内部などで電波の干渉を最小限に抑え、通信品質やセキュリティを向上させられます。

参考:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01679/020700101/

今後研究が進むことで、目的に応じてメタマテリアルの構造設計や作製技術が進歩すれば、新たな応用範囲もさらに広がることが期待されます。

メタマテリアルは付加価値を生み出すことができる

現在の製造業では、設計・解析・製造が分業化され、多数の部品や材料を組み合わせて製造するケースが多くあります。製造プロセスが複雑化する中で、メタマテリアルは設計を複雑化することなく価値を生み出せる利点があります。

以下に、メタマテリアルで付加価値を生み出した事例を紹介します。

【メタマテリアルで付加価値を生み出した例】

     
  • コントローラスティック:稼働部品の組み立て削減
  • 樹脂チェア:材料代替設計
  • 筐体設計:振動制御によるハプティック設計※

このように、メタマテリアルは製造業において、設計段階でイノベーションを起こす可能性のある分野といえます。

メタマテリアルの今後の展望

メタマテリアルは研究段階から、製造業での実用化に向けて動き出すことが予想されます。

これまで、メタマテリアルのような新しい設計対象が出現すると、設計手法がソフトウェア化されて新たな産業を築いてきた歴史があります。製造技術の進展と合わせてメタマテリアルの価値が認識されると、製造業での活用が一般化していくと考えられるでしょう。

メタマテリアルが普及すると、従来のトップダウン式の製造プロセスが変化し、設計者は製品の材料や形状、解析、製造を統合的に検討するようになります。メタマテリアルを活用した新しい設計概念が生まれ、クリエイティブな製造業者が産業界に新しいイノベーションを引き起こすといえるでしょう。

まとめ

メタマテリアルを活用すると、これまでは実現できなかった機能や特性を持つ製品が開発される可能性があります。製品の性能は向上し、製造プロセスにも変革が起こると予想されます。

現在はメタマテリアルの研究段階ですが、今後は製造業で積極的に取り入れられるようになり、産業界にイノベーションを引き起こすことが期待できます。

PEAKSMEDIA編集チーム

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