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塗料業界の概要
塗料業界は、塗料やペンキの製造、販売を行う塗料メーカー、卸売業を行う塗料卸売業者などが該当します。塗料は、金属や木材、プラスチックなどの表面に塗布することで、保護・装飾・防錆・防汚などの効果を発揮します。そのため、建築・住宅、自動車、船舶、航空機、鉄道、インフラ、産業機械、家電、電子機器、化粧品、食品、医療など、さまざまな分野で利用されています。
塗料業界の3つの主要分野の主なポイントは以下のとおりです。
- 建築用塗料:住宅やビル、工場などの建築物の外壁や内装に用いられる塗料
- 工業用塗料:自動車や航空機、鉄道、船舶などの製品に使われる塗料
- 一般用塗料:家庭・事務用品などに使用される塗料
その為、各産業の景況や動向など、市場の変化が塗料業界に影響を与えます。近年では環境への配慮や耐久性の向上が進むなどさまざまな分野での活用や開発が期待されています。
塗料業界の市場規模
塗料業界の市場規模について、世界と日本それぞれにわけて解説します。
世界の市場規模
世界の塗料業界は、その市場規模の変遷を通じて安定した成長を示しており、様々な分野での需要に支えられています。以下の表は、世界の塗料業界の市場規模に関する情報を視覚的にわかりやすくまとめたものです。
■世界の塗料業界規模
2021年の市場規模 | 2026年の市場規模予測 | 成長率 |
1,840億ドル | 2,120億ドル | 2.9%予測 |
塗料及びコーティングの世界市場規模は、建築、自動車、産業、航空宇宙などさまざまな分野での需要によって支えられています。2021年の市場規模が1840億ドルであるのに対し、2026年には2,120億ドルに成長し、市場の平均年成長率の2.9%といった予測値です。
この成長の背後には、いくつかの要因があります。
アジア地域における急速な経済成長に伴い、塗料業界の成長が促進されています。特に中国やインドなどの新興国における建設ブームが、建築用塗料の需要を高めている要因です。都市化の進展やインフラの整備に伴い、建物の保護と美観の維持が求められることから、需要が増加している特徴があります。
世界的な塗料業界の成長は、新興国における経済成長や都市化、持続可能な技術の導入など、多岐にわたる要因によって牽引されています。塗料は、建築、自動車、航空宇宙などの分野において、保護と美観の両面で重要な役割を果たすため、これらの分野での需要は今後も継続的に拡大していくと考えられるでしょう。
国内の市場規模
国内の塗料業界も、世界のトレンドに連動して変化しています。以下の表は、国内の塗料業界の市場規模に関する情報を示しています。
■国内の塗料業界規模
2020年の販売金額 | 2021年の市場規模予測 | 成長率 |
6,219億円 | 6,535億円 | 5.1% |
塗料業界の市場規模は年々増加傾向にあり、2022年には販売金額が前年比6.7%増の6,973億円、販売数量は同3.4%減少の155.2万tとなっています。販売金額は2018年と比べて6,900億円を超えました。しかし、販売数量は減少していることが分かります。
この動向は、建築、自動車、鉄道、宇宙、飛行機などの多岐にわたる分野での需要変動、世界市場や環境の影響を反映しているといえます。
塗料業界の近年の動向
塗料業界は近年、さまざまな変化や動向が見られます。背景には世界や国内市場の成長や変化、技術の進化が影響しています。
海外への販路が拡大傾向
近年、塗料業界では海外への販路が拡大する傾向が高まっています。これは新たな市場への参入や需要の取り込みが求められているためです。
海外への販路が拡大する理由については、以下の3点が挙げられます。
- 新興国市場への注目
- グローバルな供給チェーンの確立
- 競争の激化
3点について簡潔に解説します。
新興国市場への注目
塗料業界にとって新興国市場は重要な成長エリアです。特にアジアやアフリカの経済成長に伴い、建築、住宅、自動車、船舶、航空など多岐にわたる塗料需要が増加しています。
これらの地域では、内装塗装の需要が急増しており、住宅着工数と内装塗装の需要がほぼ比例するため、経済の発展に連動して需要が伸びています。
グローバルな供給チェーンの確立
海外への販路拡大は、グローバルな供給チェーンの確立によって支えられています。大手企業が新興国市場で生産拠点を構築することで、製品の供給を促したり現地市場への対応力を高めたりしています。また、積極的なM&A(合併および買収)を通じて、国際的な展開を強化するよう取り組んでいます。
競争の激化
先進国市場では成熟した競争環境が広がっているため、新興国市場への進出が企業の成長戦略の一環として重視されています。海外市場での展開によって、多様な市場環境での経験を積むことができ、企業の持続的な発展に役立っています。
企業はこれらの要因を踏まえながら、国際市場での展開戦略を練り、成長と競争力の強化を図っています。環境保護や世界的な公衆衛生の観点からも、塗料業界は新たな進化を遂げることが期待されています。
内装塗装の需要が拡大傾向
塗料の用途は多岐にわたり、特に現在拡大傾向にある分野は内装塗装です。内装塗装は建築物内部の壁や天井などに行われる塗装であり、美観や耐久性を高める役割が期待されています。
海外で内装塗装の需要が拡大している要因は、壁紙ではなく内装塗装が主流であることです。日本では壁紙が主流ですが、海外では比較的に内装塗装が好まれる傾向があります。これは家の耐久性に加えて、自分でペンキを塗ったりメンテナンスしたりする文化が影響していると考えられます。
海外市場での需要増加と、海外への販路拡大が相乗効果となり、内装塗装分野が成長している一因といえます。
塗料業界の将来性や今後の予測
塗料業界は今後も成長が期待される業界であり、以下の要因から将来性が高まっています。
- 海外進出の拡大
- 環境対応の拡大
- 2050年カーボンニュートラルの対応
3点について詳しく解説します。
ますます海外進出が拡大傾向
塗料業界では海外進出がますます拡大すると予想されます。新興国市場や成長著しい地域での需要増加が期待されており、海外進出とグローバル化が重要です。企業は異なる市場や文化に適応し、競争力を維持するための海外戦略を練る必要があります。
世界的にも国内でも、リソースの効率的な活用や相乗効果を目的として企業の経営統合や業務提携が行われています。
たとえば、日本ペイントHDは、海外の塗料メーカーを積極的に買収し、国際市場での展開を強化しています。統合により地域のニーズに合わせた製品開発や供給体制を整え、グローバル市場での競争力を高めています。
また、関西ペイントは、アフリカやインド市場の重要性を認識し、地域の気候や課題に合わせた製品を提供しており、売上高の海外比率は60%以上に成長しました。世界トップ5に入る自動車塗料のほか、多様な分野での目指し、グローバルに社会の発展に貢献しています。
塗料の環境対応が拡大!
塗料業界では、環境配慮型塗料の需要が増加しています。これは、従来の溶剤型塗料に比べて環境への影響が少なく、安全性が高いとされるためです。環境への配慮が求められるなかで、環境に優しい塗料が注目を集めています。
以下で、環境配慮型塗料について解説します。
水性塗料
水を主成分とするため揮発性有機化合物(VOC)の放出が少なく、室内環境に配慮した塗料です。環境負荷が低い特徴があります。
粉体塗料
有機溶剤を使わず樹脂を粉状にした塗料であり、VOCの排出がなく、塗装プロセスの省エネルギー化も可能です。
ハイソリッド塗料
高濃度な塗料で、溶剤を少量しか含まない点が特徴です。VOC比率が低く環境負荷を軽減しつつ、塗装コストの削減にもつながります。
有害物質低減型塗料
特定化学物質を低含有量にした特化則対応塗料であり、環境に対する影響を最小限に抑えることを重視しています。
環境配慮型塗料は、企業や消費者が持続可能な選択肢を求めるトレンドに適応し、同時に環境への負荷を軽減する重要な役割を担っています。
2050年のカーボンニュートラルへの対応
カーボンニュートラルとは、2050年までに排出したCO2を削減・吸収する取り組みを指します。世界各国では気候変動への対策として、2050年までにカーボンニュートラルを達成する目標を宣言しています。塗料業界もその一環として、CO2排出の削減や持続可能な製品の開発に取り組まなければなりません。
塗料・塗装業界においてCO2排出の削減を達成するためには、現状のCO2排出量を把握したうえで削減目標を設定することが重要です。目標達成に向けた具体的な対策や取り組みを計画し、技術やプロセスの革新を進める必要があります。
2050年のカーボンニュートラルへの対応は塗料業界においても大きな課題ですが、同時に技術革新の契機でもあります。持続可能な製品開発や環境負荷の軽減に取り組む活動によって、業界が環境保全に貢献する重要な役割を果たすことが期待されます。
塗料業界の主要メーカーと売上ランキング
塗料業界は、建築や自動車、船舶、航空機など、さまざまな分野で使用されている塗料の製造・販売を行う業界です。塗料業界の主要メーカーや売上ランキング、各企業の取り組みについて紹介します。
国内主要メーカー一覧
国内主要メーカーの特徴や業績について簡潔に紹介します。
日本ペイント
塗料分野で世界4位の日本ペイントは、建築物や大型構造物向けの塗料、自動車補修塗装向け塗料の開発や製造、販売を行っています。日本国内だけでなく世界各国のネットワークを通じて、優れた塗料のデザインとコーティング技術を提供しています。
関西ペイント
関西ペイントは世界第8位の大手塗料メーカーで、特に自動車塗料において高い技術力を持っています。日本、インド、アジア、アフリカで増収増益があり、堅調な業績を維持しながら新技術の導入を通じて業界での存在感を高めています。
エスケー化研
エスケー化研は、建築仕上塗材の国内シェアNo.1企業です。建築物や大型構造物の保護や装飾のためだけでなく、防水性や耐久性、省エネなど、多様な技術革新を通じて快適な環境づくりに貢献しています。また海外展開にも積極的で、中国やアジア地域に根差した事業を行っています。
アステックペイント
アステックペイントは、低汚染塗料をはじめとする高品質な外装建築用塗料メーカーで、排気ガスや汚染物質の影響から建物の美観を長く保つ機能を提供しています。工場や倉庫向けの遮熱塗料の販売実績も伸ばしています。
ロックペイント
ロックペイントは、建築物やインフラの保護を目指した耐火塗料など、高い機能性を持つ製品を提供しています。また、自動車補修や工業分野においても、環境配慮型の塗料開発や新技術の追求に取り組み、多様なニーズに対応するための挑戦を続けています。
プレマテックス
プレマテックスは、高機能建築用塗料と特殊塗料の専門企業です。耐候性や耐薬品性に優れた製品を提供し、多くの用途に対応しています。特殊シリコン樹脂を活用した製品も展開し、環境負荷の低減を目指す建築や産業分野での需要に応えています。
塗料業界売上ランキングTop10
塗料・コーティング業界の世界市場シェア分析によれば、2021年の塗料メーカーの市場シェアランキング(売上高ベース)は以下の通りです。
順位 | メーカー名 | 売上シェア |
1 | シャーウィン・ウイリアムズ | 12.4% |
2 | PPGインダストリーズ | 10.5% |
3 | アクゾノーベル | 6.8% |
4 | 日本ペイント | 5.4% |
5 | RPM | 3.8% |
6 | アクサルタ・コーティング・システムズ | 2.7% |
7 | BASF | 2.4% |
8 | 関西ペイント | 2.3% |
9 | ジョータン | 1.4% |
10 | ヘンペル | 1.3% |
これらの企業は、世界的に高いシェアを持つとともに、市場の動向やM&Aによる戦略的な展開が見られます。塗装企業は、技術力の向上や新たな市場への進出などを通じて、競争力を維持し向上させることが求められています。
まとめ
塗料業界は、急成長する新興国市場への進出や環境対応、カーボンニュートラルへの取り組みなどを通じて将来性を高めています。グローバルな市場展開や環境対応への技術革新に加えて、内装塗装の拡大傾向や環境保全の動きも注目されています。
塗料は多様な分野で活躍されることから、市場動向や他社との連携・統合などによる新しいイノベーション創出が期待されます。