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フィランソロピーとは|フィランソロピーを実施するメリットと日本企業の取り組み事例を紹介

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近年、企業による社会貢献活動への要望が高まり、多くの企業がフィランソロピーに取り組んでいます。フィランソロピーは企業が利益を社会に還元する活動であり、寄付やボランティア活動、社会貢献活動などが具体的な形態です。フィランソロピー活動にはさまざまなメリットがあります。本記事ではフィランソロピーの意味や種類のほか、実施している企業の事例を紹介します。

フィランソロピーの意味

フィランソロピー(philanthropy)とは、ギリシャ語の「フィリア(愛)」と「アンソロポス(人類)」から派生した言葉です。「人類への愛」「社会貢献」といった意味合いだけでなく、社会におけるさまざまな課題を解決することも含まれます。

なお、フィランソロピーはフィランソロフィーとも呼ばれ、個人のフィランソロピーが原点であると考えられています。

日本では企業による社会貢献活動を指す場合が多く、企業の社会的責任を果たすことが期待されています。昨今では企業経営者の寄付や慈善活動に加えて、マーケティングを目的とした投資などの収益化を図るケースも増えています。

現在は、社会に貢献するための支援活動と、自社の持続的な成長を両立させる考え方が主流になっています。

フィランソロピーの種類

フィランソロピーには様々な種類や分野が存在します。以下に代表的なフィランソロピーの種類を紹介しますが、これらはあくまで一部であり、フィランソロピーの範囲は無限に広がっています。

たとえば、フィランソロピーにはこのような分類もあります。

     
  • 寄付
  • 地球環境保護
  • 子育て支援
  • ボランティア活動
  • CSR活動
  • NPO活動
  • ソーシャルビジネス

次から順に解説します。

寄付

寄付はフィランソロピーの一形態であり、企業や個人が医療支援や教育支援、貧困救済や環境保護などの目的に対して資金を提供する活動です。

寄付活動は比較的簡単に参加できる形態であり、忙しいなかでもお金の支援を通じて社会貢献できます。

近年では、新たなフィランソロピーの流れとして、寄付だけでなくさまざまな形態の資金提供や事業をサポートする手法を組み合わせる取り組みが注目されています。

地球環境保護

地球環境保護は、環境問題を解決するために大切な社会貢献です。里山の保護活動や山のゴミ拾い、森林の植林作業などが挙げられます。たとえば、企業がNPOと協力して、近隣で放置された雑木林を健全な森林に整備する活動です。

また、海浜に落ちているゴミを拾うクリーン活動など、環境を美しく保ち、訪れる人々にも気持ちよく利用してもらう取り組みもフィランソロピーに基づいています。

子育て支援

子育て支援は身近な地域活動であり、子ども食堂の運営や学習サポートが該当します。就業中の親に代わって病気になった子どもを預かる支援など、子育てに忙しい家庭を支える活動もフィランソロピーの一環です。

企業のなかには、顔見知りの親同士が連携して、託児や送迎を1時間500円から利用できるオンラインサービスを展開しているところもあります。支援だけでなくシェアし合えるシステムづくりもフィランソロピーの趣旨に沿うものといえるでしょう。

ボランティア活動

ボランティアはフィランソロピーの一種であり、短期的な労働や活動が特徴です。子育てや障がい者支援、被災者支援などさまざまな形態があります。

昨今では、企業の従業員に向けてさまざまなボランティア情報を提供しているWebサイトもあります。Webサイトを通じて全国各地のボランティア活動を選んで参加する仕組みです。個人と企業に限定されず、フィランソロピーを身近に感じることができます。

CSR活動

CSR活動とは、企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)であり、社会貢献を目的とした活動を指します。企業が利潤追求ではなく、従業員や顧客、環境などに配慮した活動を組織的に行うものです。

CSRは、自社の事業内容と関連する活動、あるいは前述の地球環境保護と重なる面もあります。たとえば植樹や間伐などの緑化活動、環境に優しい原材料を利用した活動などです。このほか女性地位の向上や文化支援などの取り組みも含まれます。

NPO活動

NPO(Nonprofit Organization)とは、株式会社のように株主への利益還元を目的とせず、社会に貢献する非営利活動のことを指します。NPOは寄付型と事業型の2つに分かれており、ボランティアが活動に参加する立場に対して、NPOは参加者を募集したり、活動の場を提供したりする役割を担っています。

NPOは、企業が課題解決のためにフィランソロピーを実現するうえで重要な存在です。特定非営利活動法人(NPO法人)制度は、特定非営利活動を行う団体に法人格を与え、ボランティア活動を含む市民の自由な社会貢献活動を発展させることを目指しています。

ソーシャルビジネス

ソーシャルビジネスは、ビジネスを通じて社会的な問題を解決する活動であり、社会課題への解決をより重視しています。活動にかかる資金を寄付や助成に頼ることなく、ビジネスで収益を得てまかなうのが特徴です。

たとえば、過疎地に住む高齢者の交通手段を確保するための公共交通運営や、障害をもつ人々に提供する就労支援あるいは学習支援サービスなどが挙げられます。今後も多くの企業が取り組むことが予想される分野です。

以上のようにフィランソロピーは、さまざまな人々のニーズや社会の課題に対応するため、その分野が広範かつ多様である点が特徴です。個人や企業は、自身の関心や専門知識に基づいて取り組むことができます。

メセナ・CSRとの違い

フィランソロピーと類似する概念として、メセナやCSRという言葉も存在します。以下でそれぞれの概要と違いを説明します。

     
  • メセナ:企業や個人が文化や芸術活動を支援する活動(コンサートや講演会の企画、アートワークショップの開催など)
  • CSR:企業の社会的責任を意味する(ステークホルダーとの対話や市民活動への参加、信頼を構築するための諸活動)

メセナは主に文化や芸術に特化し、一定の範囲に限定される活動です。一方、フィランソロピーとCSRは、より広範で多様な社会貢献活動を含みます。

フィランソロピーとCSRの違いは、本業とは異なる領域でも積極的に社会貢献活動を行うフィランソロピーに対して、CSRは企業が本業を通じて信頼性と透明性を確保するものです。さらに、社会的責任を果たすことにフォーカスしています。

日本国内・海外企業のフィランソロピーの8つの事例

フィランソロピーについて具体的なイメージを持つために、国内企業の事例を紹介します。

中国における砂漠化防止プロジェクト(トヨタ自動車株式会社)

トヨタ自動車は、世界的に知られている日本の自動車メーカーです。トヨタ自動車が行う「砂漠化防止プロジェクト」は、中国の河北省豊寧満族自治県で実施され、樹木の伐採や緑地の消滅などの原因を明らかにし、緑と住民の共生を目指すシステムの確立を目標としています。

プロジェクトでは、植林活動に加えて、自動車部品としての生分解性プラスチックスの開発を視野に入れています。一時的な緑化活動にとどまらず、樹木の伐採や消滅に対策を講じ、緑化による地球環境改善と地域住民の生活改善を総合的に推進しています。

Daigasグループ「小さな灯」運動(大阪ガス)

大阪ガス株式会社は、エネルギー関連サービスを提供する企業です。1981年から「小さな灯」運動を開始し、従業員一人ひとりがボランティア活動に参加することを推奨しています。

「小さな灯」運動の目的は、地域社会の課題である、災害時義援金、福祉、歴史・文化、まちづくり、スポーツ、食育などに関連した活動を支援することです。

大阪ガスでは、物品寄贈や講習会、チャリティイベントなどを通じて地域社会との関係を築いています。従業員の意識も高く、公共団体や市民団体との連携を図りながら、地域のニーズに応える活動を展開しています。

ランドセルは海を越えて(株式会社クラレ)

化学メーカー株式会社クラレは、ランドセルに使われる人工皮革を製造販売しています。2004年に始まった「ランドセルは海を越えて」は、使用済みのランドセルをアフガニスタンの子どもたちに贈る活動です。この活動は、子どもたちに教育の機会を与え、将来への希望を届けることを目的としています。

ランドセルは、株式会社クラレの従業員やボランティアによって、汚れや破損、宗教上の理由で豚革製の有無などの検品が行われます。その後NPOを協力して、2022年までに約15万個のランドセルが学用品とともに寄贈されました。

みんなでAKARI(パナソニック)

パナソニック株式会社は、多岐にわたる電子製品やサービスを提供する企業です。パナソニックは無電化地域にソーラーランタンを寄贈する活動「みんなでAKARIアクション」を行っています。目的は、無電化地域の暮らしを改善し、持続可能な開発目標の達成に貢献することです。

「みんなでAKARIアクション」では、一般の人々が参加できる仕組みとなっています。プログラム参加を通じて生まれた収益がソーラーランタンの購入につながり、電気のない地域の教育や医療に役立てられます。企業フィランソロピーが市民の理解やボランティア参加を促進する取り組みといえます。

過疎の町で、義肢装具開発を基盤にしたものづくり・ひとづくり活動(中村ブレイス株式会社)

中村ブレイス株式会社は、島根県大田市大森町に本社を構える義肢装具を作る会社です。中村ブレイスの活動は、製品技術の向上を通じて、事故や病気で身体機能を失った人々の苦しみを緩和し自己尊厳を回復させることを目的としています

同社製品の特徴は、義肢製作にアートの概念を取り入れ、機能性と美しさを兼ね備えている点です。多くの人々の命や自己尊厳を支える義肢や装具を製造し、世界中から多くの感謝の言葉が寄せられています。また、大森町の地域振興も重要な取り組みであり、家の引き取りやリノベーションを行い、従業員や家族の福祉を支えながら、町並み景観の保存にも貢献しています。

株式の99%を慈善事業に寄付(META(旧:FaceBook))

META(旧Facebook)は、世界最大のソーシャルメディアプラットフォームを提供するアメリカの企業です。マーク・ザッカーバーグを中心に設立され、人々のコミュニケーションや情報共有サービスを提供しています。

ザッカーバーグ夫妻は、社会貢献と子どもの未来に対する思いが強く、Chan Zuckerburg Initiative(チャン・ザッカーバーグ・イニシアティブ)を立ち上げ、様々なプロジェクトに資金を提供しています。

具体的な活動内容は、教育改革や医療への投資、エネルギーの持続可能性など幅広い領域にわたります。彼らの寄付には賛否両論がありますが、自身の資産の一部を寄付することで、富裕層や起業家にも社会への貢献を促すモデルとなり得るでしょう。

社内にフィランソロピーの社内新組織を設立(マイクロソフト)

マイクロソフトは、世界的な慈善活動を推進するために社内新組織Microsoft Philanthropies(マイクロソフト・フィランソロピー)を設立しました。マイクロソフトは、IT企業としての力を活かして社会的な課題の解決に取り組んでいます。

活動の目的は、ITの力を使ってより多くの人々や組織が成果を上げられるように支援することです。具体的な分野は、スキル形成と就労支援、ソフトウェアやクラウドの寄贈、被災地支援などです。

マイクロソフトはITの力を活用しながら、政府機関、地方自治体、教育機関、NPO、業界団体、他のIT企業と連携し、テクノロジーによるイノベーションを創出し、人々やビジネスの新たな可能性を拓き、ひいては日本社会全体が IT による恩恵を享受できるよう支援していきます。

企業がフィランソロピーに取り組むメリット

事例で挙げたようなフィランソロピーに企業が取り組むメリットについて解説します。

企業のブランドイメージを高めることができる

企業がフィランソロピーに取り組むことで、企業側の社会的な貢献活動に対する姿勢や価値観が広く知られるようになるでしょう。

フィランソロピー活動は、企業の社会的責任を示すものとして認識され、その結果、企業のブランドイメージを高めることにつながります。理由は、消費者や顧客は社会的に貢献する企業に対し好印象を持ち、その企業の製品やサービスを選択する傾向があるためです。

また、フィランソロピー活動を通じて、従業員のモチベーションや助け合いが向上すると予想されます。

優秀な人材の募集・育成につながる

企業がフィランソロピーに積極的に取り組む姿勢を示すことは、優秀な人材の募集・育成につながります。昨今の労働市場では、社会的な意義を持つ仕事や企業に魅力を感じる人材が増えています。

フィランソロピーに取り組む企業は、社会的な価値を重視する人材を引き寄せます。社会貢献活動を通して、使命感ややりがいを持って働くようになることで、従業員の離職率低下にもつながります。

さらに、従業員のボランティア活動や社会貢献への参加を促し、意識やスキルの向上にも寄与するでしょう。

新たなビジネスチャンスが拡大する

フィランソロピーに取り組むことは、新たなビジネスチャンスを生み出す可能性を秘めています。企業として新しい分野の開拓や新商品開発が可能になれば、飽和状態の市場に新風を吹かせ業績の向上にもつながります。

たとえば、社会的課題の解決に向けた独自の技術やサービスを提供することで、社会的インパクトを生むビジネスモデルを構築できるでしょう。その結果、ニーズの高い市場を開拓し、競争力のある地位を築くことが可能となります。

まとめ

フィランソロピーは、人類への愛や社会貢献を含む活動であり、寄付やボランティア活動、CSR活動、NPO活動、ソーシャルビジネスなどさまざまな形態があります。

企業はフィランソロピーに取り組むことで、ブランドイメージを高め、消費者や顧客からの支持を獲得できます。さらに優秀な人材を引きつけ、社員の意欲やスキルの向上を促進するでしょう。

どのような業種でもさまざまな分野で実現でき、新たなビジネスを展開するチャンスにもつながります。企業は今後、フィランソロピーの可能性を見出し、社会に対する貢献を前向きに考えていくことが必要と言えます。

PEAKSMEDIA編集チーム

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