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非鉄金属業界とは
非鉄金属業界は、鉄以外の金属を専門的に取り扱う業界です。銅やニッケル、アルミニウム、亜鉛、スズ、鉛など、鉄以外の金属が生産、加工されています。非鉄金属は、多くの工業製品や生活用品に使用されており、日常に欠かせない存在です。
身の回りの生活では、非鉄金属業界の製品は次のような形で使われています。
- 輸送機器:アルミニウムや銅、マグネシウムなど
- 建設業:銅や亜鉛、チタン、アルミニウムなど
- 電子機器:アルミニウムや銅、マグネシウム、ニッケルなど
- 医療:チタンやマグネシウム、シリコンなど
- バッテリ―:リチウムやコバルト、ニッケルなど
また、非鉄金属業界は資源を活用するため、価格変動の影響を受けやすい特徴があります。需給の変化や地政学的な要素、新技術の登場などは価格に影響を与え、市場の変遷が常に見られる状況です。
非鉄金属業界の市場規模
非鉄金属業界の市場規模は、2022年から2023年にかけて急速に拡大しました。業界規模や成長率、販売額の推移は以下のとおりです。
■非鉄金属業界の市場規模2022-2023年
業界規模 | 17.5兆円 |
成長率 | 10.9% |
■非鉄金属業界の販売額推移
2018年 | 1.9兆円 |
2019年 | 1.7兆円 |
2020年 | 1.9兆円 |
2021年 | 2.2兆円 |
2022年 | 2.8兆円 |
表から、2018年から2022年までは比較的安定した水準で推移していたことがわかります。2022年には急激な上昇が見られ、販売額は2.8兆円に達しました。
2022年の販売額の急増には、銅や金、亜鉛などの項目で大幅な増加が影響しています。これは、2021年の経済回復やインフレに伴う金属相場の急騰が、非鉄金属の価格を押し上げたことによるものと考えられます。
一方、2023年にはいくつかの要因が市場動向に影響を与えました。中国のゼロコロナ政策や半導体不足による各分野の減産、資源や資材価格の高騰などが影響して、一部製品の出荷量は減少しています。ただし、自動車生産の復調による車載用電池部材などの需要が増し、円安の効果もあって結果的に2023年も大幅な増収を達成しました。
非鉄金属業界は市場の波風に影響されながらも、需要と供給の変化に対応して成長を続けています。
非鉄金属業界の市場動向
非鉄金属業界の市場動向について2つのポイントにわけて解説します。
- 海外展開が活発化している
- リサイクル事業にも注力している
現在、非鉄金属業界における海外展開が進んでおり、スマートフォンやコンピュータなどのリサイクル事業における非鉄金属の役割も注目されています。
それぞれ詳しく説明します。
海外展開が活発化している
国内外の需要と技術の発展が背景となり、大手企業をはじめ、非鉄金属メーカーの海外進出が活発になっています。日本企業が海外展開を進める理由は以下の4点です。
- インフラの需要と老朽化対策
- 5GやIoT市場の拡大
- 再生可能エネルギーの需要増加
- 新興国市場の開発
海外でもインフラ整備に関わる新しい技術や材料への需要が高まっています。5G通信やIoTの普及に伴い、通信用光ケーブルや電力ケーブルに不可欠な非鉄金属は重要な素材です。
欧州を含む多くの国で、再生可能エネルギーの導入が進んでいます。太陽光や風力発電の設備には電力ケーブルが必要なため、新興国におけるインフラ整備の進展と併せて、電線やシリコンなどの需要が増えています。
このような背景から、特に電線業界の大手企業は海外展開に注力しています。たとえば、住友電気工業とフジクラは、アメリカや中国、アジアなどの多くの地域に進出し海外での事業提携に積極的です。
リサイクル事業にも注力している
非鉄金属のリサイクル事業は、いくつかの背景と理由に支えられています。日本において非鉄金属リサイクルが推進される背景として以下の要素が挙げられます。
- 資源が乏しい
- 環境への影響
- コスト削減
- レアメタル需要の増加
日本は非鉄金属の大部分を海外から輸入しているため、国内における有効活用が大きな課題です。鉱山採掘や製錬プロセスは地球環境に負荷が大きく、二酸化炭の排出などの問題があります。さらに、レアメタルなどの希少な非鉄金属は、精密機器の性能向上や軽量化に不可欠であり、需要が急速に増えると予想されています。
リサイクルは、非鉄金属の安定供給や環境負荷の軽減、コストカットを実現する手段として有効であり、持続可能な未来を築くための重要な一環といえます。
非鉄金属業界の将来の展望
非鉄金属業界の将来展望として、下記の2点を紹介します。
- 半導体用途の銅部品の需要が拡大
- 脱炭素関連の製品開発への期待が高まる
半導体や脱炭素は持続可能な社会の実現において重要な要素です。
それぞれについて順に解説します。
半導体用途の銅部品の需要が拡大
半導体用途の銅部品の需要が急速に拡大している理由は、半導体産業や自動車産業など、さまざまな分野での銅部品の重要性が増しているためです。銅部品は、特に半導体製造において高性能な半導体チップを製造する際に必要な素材です。
世界の半導体市場の成長は、2030年には約100兆円の規模になると予想され、車載用半導体市場では年率が9~10%成長するといわれています。
半導体用途の銅部品は、高い導電性と耐久性を備え、現代のテクノロジーにおいて重要な役割を果たしています。銅は自動車産業においても、車載用電子機器の端子やコネクター、電動機などの製造に欠かせません。
以上の理由から、銅部品の需要は半導体および自動車業界における技術革新と市場拡大によって、今後もさらに需要が増加すると予想されます。
脱炭素関連の製品開発への期待が高まる
脱炭素とは、地球温暖化の主要な原因とされる温室効果ガス、特に二酸化炭素(CO2)を排出しない、または排出と吸収のバランスをとることを指します。日本は2050年までにカーボンニュートラル宣言をし、温室効果ガスの排出をゼロにする目標を掲げています。脱炭素社会を実現するために、国内外の企業が脱炭素に関連する製品の研究開発に尽力している状況です。
住友金属鉱山は、次世代電池用の高性能で低コストの正極材料と、製造プロセスの研究開発を行っています。特に、電気自動車などに使用されるニッケル酸リチウム(NCA)は、高いニッケル含有率により電池の容量を増加させ、1回の充電で走行距離を拡大できる点が魅力です。NCAをハイブリッド車や電池材料に応用することは、課題解決と競争力強化を促進します。
ほかにも、非鉄金属業界ではリサイクル拡大や革新的な技術開発など、脱炭素に貢献する取り組みが行われています。
非鉄金属業界売上ランキングTOP10
非鉄金属業界の国内売上ランキング10社を紹介します。また、大手3社の特徴や非鉄金属の生産や加工についても解説します。
順位 | メーカー名 | 売上シェア(億円) |
1 | 住友電気工業 | 40,055 |
2 | ENEOSホールディングス | 16,378 |
3 | 三菱マテリアル | 16,259 |
4 | 住友金属鉱山 | 14,229 |
5 | レゾナック・HD | 13,926 |
6 | 古河電気工業 | 10,663 |
7 | UACJ | 9,628 |
8 | フジクラ | 8,064 |
9 | DOWAホールディングス | 7,800 |
10 | 三井金属鉱業 | 6,519 |
2022₋2023年の非鉄金属業界の売上高ランキングでは、1位が住友電気工業、2位がENEOSホールディングス、3位が三菱マテリアルとなっています。住友電気工業が非鉄金属業界では一歩リードしている状況です。
上位3社の概要と特徴、非鉄金属の生産加工状況について詳しく解説します。
住友電気工業
住友電気工業は、世界40カ国に390社を有し、海外市場で売上の55.8%を占めるグローバル企業です。その事業は電線から始まり、エネルギーや情報伝達に必要な部品の製造を通じて、自動車や情報通信、エレクトロニクス、環境エネルギーなどの幅広い分野で展開しています。
特にワイヤーハーネスは、自動車内で重要な部品であり世界シェア率が27%と非常に高いシェアを誇っています。
住友電気工業は新たな事業にも積極的に取り組む企業です。非鉄金属加工用オーロラコートドリル「マルチドリルMDA型」など効率的で高精度な製品は、自動車や航空機の部品加工に幅広く活用されています。
また、多孔質金属体のセルメットは次世代電池に応用され、材料となるニッケル合金など非鉄金属の多孔体の研究開発も進行中です。
住友電気工業は、長い歴史と豊富な経験、高度な開発能力を持つ非鉄金属業界のトップ企業といえます。
ENEOSホールディングス
ENEOSホールディングスの金属部門であるJX金属は、グローバルな事業を展開しており、高品質な非鉄金属製品を提供しています。
JX金属は100年以上にわたり、資源開発・製錬から電子材料の製造販売、リサイクルに至るまでの幅広い事業を展開する企業です。
例えば、半導体材料や高純度金属、表面処理剤などの製造を通じて、IT機器や医療機器、電気自動車など、IoTやAI社会、5Gに対応した製品を供給しています。
また、JX金属は、非鉄金属資源の確保と鉱石の安定供給に努めています。カセロネス銅鉱山を含む世界トップ10の大規模鉱山の権益を保有し、銅精鉱や生産を行っている点が特徴です。この取り組みは金属のサプライチェーンの安定性につながります。
JX金属は素材供給に万全を期し、高品質な製品を提供するグローバルな非鉄金属企業として、今後需要の拡大が見込まれるレアメタルの鉱山調査や開発にも取り組んでいます。
三菱マテリアル
三菱マテリアルは、三菱金属と三菱鉱業セメントが1990年に合併した企業です。合併後は銅精錬や家電製品のリサイクル事業などを多角的に推進しています。
三菱マテリアルの特徴は、企業理念「人と社会と地球のために」に基づいて強い環境意識を持ち、すべての事業でリサイクルを推進しています。
以下は三菱マテリアルが行うリサイクル事業の一部です。
- E-Scrapのリサイクル:廃電子基板(E-Scrap)の回収、処理
- 家電リサイクル:家電製品の多様な素材を解体、破砕、選別処理
- 加工事業:都市鉱山からのタングステンリサイクル
E-Scrapプロセスやリサイクル処理によって回収した素材の再商品化率が向上し、2019年には約275万台の家電製品をリサイクルしました。都市鉱山(希少金属の回収可能な廃棄物)からレアメタル「タングステン」の再利用にも注力しており、使用済み超硬工具のリサイクルを行っています。
以上のように、三菱マテリアルは幅広い分野でリサイクルと環境への配慮を推進しています。
まとめ
非鉄金属業界は、2022年から2023年にかけて市場規模が急速に拡大し、売上高も増加しました。この急成長には、金属相場の急騰や経済回復、新たな技術への需要増加などが影響しています。
業界の市場動向として海外展開が活発化しており、リサイクル事業における非鉄金属の重要性も高まっています。また、先端技術に使われる銅部品の需要が増加しており、脱炭素関連の製品開発にも期待が寄せられている状況です。
非鉄金属業界は今後も需要の拡大が期待され、持続可能な社会に向けた貢献が期待されているといえます。