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バランススコアカードとは
バランススコアカードとは、財務的な視点だけでなく、さまざまな視点から企業を評価し経営戦略を立てるための手法です。
厚生労働省では、以下のように定義されています。
「財務指標だけでなく非財務指標についても着目し、多面的な指標を組合せて業績を計画・評価・管理することにより、目標や戦略を効果的に推進するための経営を管理する方法である。」
引用:厚生労働省|事業統合検討の手引き-水道版バランススコアカード(事業統合)の活用「第2章 バランススコアカードの概要」
また、バランススコアカードは、以下の4つの視点から成り立っています。
- 財務業績の視点
- 顧客の視点
- 内部プロセスの視点
- 学習と成長の視点
一つずつ詳しく解説します。
顧客の視点
バランススコアカードにおける顧客の視点とは、顧客に対して「どのような行動をすべきか」に注力して見極めるための視点です。
見込み顧客を増やすためにどのような戦略を取るのか、既存顧客の顧客満足度の向上や、リピート率を向上させるために何をすべきかを考えながら戦略を立てます。
財務の視点
財務の視点とは、従業員や出資者、株主などのステークホルダー(利害関係者)に対して、どのように行動をするべきかという視点です。
地方自治体の場合は納税者が主な対象となり、民間企業の場合は株主が出資者です。出資者が期待する自己資本比率や投資収益が得られているかを評価します。
内部プロセスの視点
内部プロセスの視点とは、顧客からの評価、ステークホルダーからの評価を維持・向上するため日々の業務をどのように行うべきかを考えることです。バランススコアカードにおける業務プロセスの視点を意味します。
近年注目されているITの導入や、DX化による業務効率化などの取り組みで、生産性向上や業務コスト削減が行われているかが評価の対象です。
学習と成長の視点
バランススコアカードにおける学習と成長の視点とは、企業が掲げるビジョンや戦略を実現するために、社員一人ひとりのスキル向上やモチベーション維持をどのように行うかという視点です。
社員の離職率や資格取得回数、講演会や勉強会に参加する割合等が評価対象です。
バランススコアカードを利用する目的
バランススコアカードを利用する主な目的は、先ほど紹介した以下の4つの視点から、組織の目標や指標の設定および評価を行うことです。
- 顧客の視点
- 財務の視点
- 内部プロセスの視点
- 学習と成長の視点
組織のビジョンと戦略を明確に示すためのツールとして、バランススコアカードは広く認知されています。さらに、戦略を具体的かつ効果的に実行するための方針や手段を明示できるため、目標の達成に向けて大きく役立ちます。4つの視点については、企業・組織に合わせて柔軟に変更する場合もあります。
これにより、一方向的な評価では見落とされがちな要素も取り込めるようになり、組織全体のバランスを保ちながら戦略を効果的に進めることができます。
バランススコアカードを活用することで得られるメリット
中小企業でも、バランススコアカードを元に経営戦略が立てられており、効果的な手法として活用されています。ではなぜ、効果的な手法と言われるのでしょうか。
ここからは、バランススコアカードを活用する際のメリットを紹介します。
バランススコアカードを活用する主なメリットは、以下の3点です。
- バランスの良い業績評価の実現
- 今後のビジョンや経営戦略が明確化できる
- 従業員の意識改革や方向性の統一
それぞれ詳しく解説していきます。
バランスの良い業績評価の実現
バランススコアカードの最大の特徴は、組織の業績を単一の指標や視点に偏らせず「多角的に評価できること」です。
バランススコアカードは4つの異なる視点を通じて、戦略を整理・評価しますが、加えて以下に挙げるような視点からも総合的に業績を評価します。
- 財務的な情報、非財務的な情報
- 内部から得られる情報、外部から得られる情報
- 過去の実績、現在の状況、将来への展望
さらに、短期的な成果と長期的なビジョンの両方を考慮しながら、さまざまなステークホルダーの意見も取り入れられるため、多面的な評価によりバランスのとれた真の業績評価が行えます。
それにより、組織の方向性や戦略が適切であるかについてのより正確な把握につなげます。
今後のビジョンや経営戦略が明確化できる
バランススコアカードは、企業のビジョンや経営戦略の明確化に大きな役割を果たします。ビジョンは企業の未来像を描写し、戦略はその目標への到達手段を示します。
バランススコアカードを導入することで、これらの要素がしっかりと確立・検証されます。明確なビジョンと戦略は、組織全体での共通理解を促進し、全員が方向性を持って業務推進に取り組めるでしょう。
また、バランススコアカードを通じて明らかになった方向性は、従業員や株主などのステークホルダーにも共有されるため、企業の進むべき道筋を一貫して伝えることができます。これにより、組織内外のアライメント(調整力)が向上し、企業が社会的に成功するための道筋も明瞭になります。
従業員の意識改革や方向性の統一
バランススコアカードを使うことにより、従業員の意識改革や業務における方向性を統一できます。
ビジョンや戦略が抽象的なままでは、従業員一人ひとりが具体的なアクションを見出すことが難しくなります。
バランススコアカードを使用すれば、抽象的なビジョンや戦略を、具体的な戦略目標や施策に展開できます。さらに、各従業員のターゲットやアクションプランへ落とし込めるため、組織全員が共通の方向性を持って取り組めるようになります。
組織のエネルギーが同じ方向へ集中することで従業員の意識が改革され、チーム全体が効果的に戦略を進められるようになり、大きな成果を生むことを期待できるようになります。
バランススコアカードの作成手順
バランススコアカードの効果を最大限に発揮するためには、正しい手順で作成することが重要です。一般的に、以下の手順で作成します。
- ビジョンと経営戦略の策定
- バランススコアカードに記載する4つの視点を決定
- 4つの視点に基づいて戦略マップを作成
- 戦略目標の達成に必要な重要成功要因を決定
- KGIとKPIの設定
- アクションプランの作成
各手順について詳しく解説していきます。
ビジョンと経営戦略の策定
バランススコアカードの策定にあたり、最初に考慮すべきは経営戦略の明確化です。
まず、企業が直面する市場環境や競争環境を徹底的に分析し、その上で経営戦略を設定します。既に戦略が定められている企業においても、その戦略が適切であるかどうかを定期的に見直すことが重要です。
そして、策定または見直しを行った経営戦略をチームメンバーと共有し、全員が同じ方向を向くことで、ビジョンの実現に向けた一体感を生み出すことができます。
バランススコアカードに記載する4つの視点を決定
バランススコアカードの策定時、戦略の骨格として「4つの視点」を決めることが不可欠です。これらの視点から戦略がどのように導き出されたのかを明確に理解します。
この過程では、戦略マップのテンプレートを活用し、各視点間の因果関係を「Why」チェックとして検証します。
さらに他の視点で見たときの戦略がそれぞれへどのように影響するのかを考慮し、これらの関係性を整理・調整することで、全体の戦略が組織の目的と一致するかを確認できるようになります。
4つの視点に基づいて戦略マップを作成
戦略マップの策定は、組織の方向性や優先順位を視覚的に捉えるためのツールです。作成にあたり、各視点ごとに最も効果的な戦略目標を特定します。
具体的な戦略目標の実現手法を明確にするための「How to」チェックが行われ、それに伴い、関連する下位の視点の戦略目標との整合性も検討されます。整合性の確認は、後に戦略マップ上で因果関係を示す際の基盤として不可欠です。
次に、選定された戦略目標は、各視点に基づいて因果関係を考慮してマップ上に配置されます。各戦略の目標間の関連性は矢印を使用して因果関係を視覚的に表します。
特に、異なる視点間でも因果関係が確立される場合があるため、視覚化や表示方法には独自のテクニックや工夫が必要です。
戦略目標の達成に必要な重要成功要因を決定
戦略目標の達成には、「重要成功要因」を決定することが重要です。重要成功要因とは、戦略を成功させるための重要な「プロセス」や「要因」を意味します。
重要成功要因を明確にするためには、「SWOT分析」や「3C分析」などのフレームワークを活用し、自社の内部環境や外部環境の分析を行います。
その後、実施したフレームワークごとの結果を整理します。それにより、フレームワークごとの共通点や関係性、さらに矛盾点に気づくことができます。
さらに「なぜそれは重要成功要因と言えるのか?」という問いをくり返し、分析結果をさらに掘り下げます。
最終的に導き出された要素が、現状の自社における重要成功要因に最も近いものとなります。
KGIとKPIの設定
バランススコアカードの作成には、KGIとKPIと呼ばれる具体的な数値の設定も重要です。
- KGI(Key Goal Indicator):重要目標達成指標のことで、売上高や利益率などが当てはまる
- KPI(Key Performance Indicator):目標を達成するプロセスの状態を測定する指標
KGIとKPIは、戦略の達成状況を示す具体的な数値目標として設定されます。特に「学習と成長」の視点においては、指標設定が難しいケースも多いでしょう。その場合は、技能習得者数やOJTの回数を数値目標とするなどの例が挙げられます。
KGIとKPIを設定することで行動を数値化できるため、プロセスの進捗や成功の度合いを明確に可視化することが可能です。
アクションプランの作成
戦略目標を実現するためには、具体的なアクションプランの策定が欠かせません。各数値目標を明確に設定した後、次のステップとしては、これらの目標を実現するための具体的な行動計画を立案します。
「誰が、いつまでに、何を、どのような行動をとるのか」といった詳細を、個人のレベルまで明確にします。
適切なアクションプランの実行を通じて、KPIの進捗が順調に進むことで、最終的にはKGIの達成へとつながります。そして、計画や行動の進捗を管理・評価するために、PDCAサイクルを適切に回します。
バランススコアカードを活用する際の注意点
ここまで、バランススコアカードを活用するメリットや作成方法について解説してきました。しかし、活用するには注意点もいくつか存在します。
バランススコアカードを導入する際は、以下の点に留意して準備する必要があります。
- 導入の目的を明確にする
- 全社的な理解が必要
- 目標管理、方針管理、中期経営計画との整合性を図る
- 業績評価の革新は慎重に行う
- 管理者のコーチング能力の強化が重要
- 準備期間は余裕を持つこと
特に、導入の初期段階においては「細かくしすぎてしまう」「全部が決定しないと動き出せない」などの傾向がみられるため注意が必要です。
また、経営のトップが戦略やビジョンを明確にできているか、その戦略を実行してやり遂げる意志があるのか、といった意識が重要であることも留意すべき点です。
バランススコアカードはあくまで戦略を作成するツールであり、導入することで経営者や部門長などリーダ層の意識を変えるほどの力があるとは限りません。
したがって、バランススコアカードを導入する際は、これらのことを踏まえた上で経営トップや部門長は別途説得する必要があることに留意すべきといえます。
関西電力のバランススコアカードの活用事例
マネジメントスタイルの変革を目指し、バランススコアカードを導入した関西電力の事例を紹介します。
2000年の電力自由化が始まったことを契機に、関西電力はバランススコアカード(BSC)を導入しました。従来の画一的な統制から、企業価値を向上させる共通のミッションとして、変化先取り型のミッション共有型経営管理への変革を目指したものでした。
その解決策として採用したのが、バランススコアカードの考え方を基盤として重点戦略を一枚に凝縮した「戦略マップ」の導入です。各支店・支社は自らの戦略マップを作成し、重点戦略目標について上層部と成果に関する契約を締結。
バランススコアカードを基盤とした戦略マップの本格運用を2002年に開始し、組織形態をより明確化することに成功しています。今後は、組織長と経営陣のコミュニケーションを活性化させることで、組織風土改革までを視野にいれて活用されています。
まとめ
バランススコアカードは、企業の経営戦略を立てる効果的な手法です。財務の視点だけでなく多方面から評価することで、中長期的な戦略を立てられます。また、導入する企業は大企業だけでなく、中小企業でも多く利用されています。
この記事が、企業戦略の作成や見直しが必要と感じている経営者の参考になれば幸甚です。