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水性塗料とは
水性塗料とは、希釈剤として水が使われている塗料を指します。従来の溶剤系塗料と比較して有機溶剤の含有量が少なく、環境に優しく健康にも配慮された塗料として知られています。
近年の研究により、油性塗料にも負けない丈夫な水性塗料が増えました。環境問題や強度の両面で考えると、水性塗料は理想的な塗料といえるでしょう。
一方の油性塗料では、塗装に使用した道具の洗浄にはシンナーを使用しますが、水性塗料は水で洗浄できるので、臭気の発生をおさえられます。
水性塗料は水に近いため、なめらかな塗装作業が可能で、壁や天井、外装用の木材や金属、コンクリートなどにも使用できます。
油性塗料とは
油性塗料とは、希釈に有機溶剤を使う塗料を指します。水性塗料が希釈剤として水を使用するのに対して、油性塗料は溶解力が強いアルカリやシンナーを溶剤に使用します。
人体や環境に悪影響を与えるシンナーを使用するため、現代において油性塗料を控える企業や自治体が増えてきました。
油性塗料には「1液型」と「2液型」が存在します。特別な制限の無い1型に対し、2型は硬化剤と溶剤を混ぜて使用し、6時間~8時間のうちに使用しなければならない規則があります。
水性塗料・油性塗料の比較
水性塗料・油性塗料それぞれの基本的なメリット・デメリットを表で比較します。
メリット | デメリット | |
水性塗料 | ・VOCの大幅な削減が可能 ・臭いや人体への悪影響の心配がない ・非危険物のため保管が安全 | ・降雨や結露などの影響を受けやすい ・施工対象物の油分の除去が必要 ・低温では塗膜の成膜性が低下する |
油性塗料 | ・耐久性に富んでいる ・雨水に強い ・ツヤを発揮しやすい | ・シンナーが含まれている ・室内には使用できない ・塗装作業の後始末が手間 |
水性塗料のメリット・デメリット
水性塗料のメリットとしては、VOC(※1)の大幅な削減が可能である点です。
※1:VOCとは、揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds)の略称です。揮発性が高く、大気中で気体となる有機化合物の総称で、環境汚染物質の一種です。代表的なVOCには、トルエン、キシレン、スチレン、ベンゼン、アセトンなどが挙げられます。
塗料に含まれているVOCの大部分は、シンナーなどの有機溶剤です。溶剤形の塗料から人体や環境に優しい水性塗料の使用が拡大することで、VOC排出量の削減を期待できます。
また、溶剤形塗料と比べて有害性が低く、臭気の発生に伴った人体や環境への悪影響の心配がありません。さらに非危険物のため、安全に保管できる点もメリットです。
一方、水性であることが要因で、施工時における降雨や結露に弱い特徴があります。施工時には養生をするなど、雨に濡れない対策が必要です。
また、施工対象物に油分が付着している際は除去が必要であることや、温度が低い環境では乾きにくくなることもあるため注意が必要です。
油性塗料のメリット・デメリット
油性塗料の最大のメリットは、耐久性に優れている点です。シンナーなどの有機溶剤が含まれていることで、強い塗膜を作れます。それにより、雨水にも強く、劣化しにくい特長があります。
また、きれいな光沢を出しやすい塗料のため、水溶性と比べると長時間においてツヤのあるきれいな塗装面を保てる利点があります。
一方、シンナーが含まれているため、環境や人体へ悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、室内での使用ができなく、使用が外部に限られます。
また、油分を含む塗料のため、刷毛やローラーの洗浄にはシンナーを使用する必要があるなど、片付ける際の手間がかかる点もデメリットと言えるでしょう。
水性塗料の健康・環境に対する影響
こちらでは、水性塗料が健康・環境面で優れている点を解説します。
乾燥時間
乾燥時間においては、油性塗料よりも水性塗料の方が乾きやすく、VOCの排出量を抑えられます。
水性塗料が乾燥するのには、一般的に23℃の環境下では塗ってから内部の乾燥までに3〜4時間程度かかると言われています。
一方、油性塗料の乾燥時間は、6時間程度と長時間のため、VOCの排出量が高くなりやすい塗料といえるでしょう。
使用場所
水性塗料は、屋内外どちらでも使用できるのに対し、油性塗料は気化した有機溶剤が充満するため、屋内での使用は大きなリスクを伴います。したがって、油性塗料は外壁に使用し、内装では使用できません。
また、妊婦などがいる環境では水性塗料でも使用しないほうが良いでしょう。水性塗料は人体や環境に優しい塗料ですが、微量なVOCが含まれています。
一般の健康体には問題ない量ですが、妊婦の場合には気を配る必要があります。
保管方法
水性塗料は、主成分が「水」なので、基本的には非危険物扱いとなり保管も容易です。
一方で、油性塗料は危険物(引火する可能性がある)であるため、特別に管理しなければなりません。油性塗料を拭き取った布などを放置すると、自然発火のおそれがあります。そのため、説明書などに記載された内容に従って安全取り扱う必要があります。
水性塗料を用いたVOC削減事例
健康・環境への配慮のため、VOC削減に向けた企業や自治体の動きが活発になっています。
こちらでは、水性塗料を用いたVOC削減の事例について紹介します。
乾燥時間の削減(トヨタ)
トヨタ自動車は、環境負荷を低減できる水性塗料を使う「自動車塗装技術」を開発しました。塗装ロボットに、カートリッジタイプの塗料タンクを取付けた新型塗装機を開発し、環境負荷の少ない水性塗料で、塗布効率に優れ生産性の高い静電塗装を可能としました。
メタリック塗装は一般的に、下塗り、中塗り、ベースコート、クリアコートという四層で構成されています。下塗り以外の塗料の溶媒には、粘度制御の自由度や、静電気を帯電しやすいことから有機溶剤が長年使用されてきました。
しかし有機溶剤は、廃液残存成分や気化成分が環境に害を与えることから、水を主溶媒とする環境負荷の少ない水性塗料の塗装技術開発を進めていました。
水性塗料は粘度制御が難しいため、温度や湿度など作業環境の変化による塗装品質のばらつきが発生しやすいため作業性が劣り、また静電塗装がしづらいデメリットがありました。
今回、水性メタリックベース塗料の開発と、塗布効率を飛躍的に向上させる新型塗装機の開発により、量産ラインでの水性塗料の採用が可能となりました。これにより、国際的にもトップレベルの環境対応型のラインとなったのです。
印刷用インキの変更
大阪府では、化学物質の排出削減に向けたさまざまな取り組みの中で、印刷インキを水性タイプへ転換するという取り組みを行っています。
取扱量をおさえる対策として、印刷用インキの一部を、溶剤タイプから水性タイプへ転換しました。
さらに、インキの使用量を減らすため、自前で調色できるものは調色機を使用することでインキ量を必要最小限に抑えました。
また、印刷色の見本からインキを選ぶ際に、濃度調整の設定を行いインキの希釈を可能な限り少なくする取り組みを行っています。
水性塗料によるVOC削減対策のポイント
こちらでは、水性塗料によるVOC削減対策のポイントを紹介します。
水性塗料への変更
高VOC塗料を使用している場合は、低VOC塗料である水性塗料に変更することでVOCを削減できます。VOCの排出量は、「溶剤系」>「ノンソル系・ハイソリッド系」>「粉体系・水系」の順で少なくなります。
ビジネス上、発注元が指定した塗料を使用しなければならないケースもあるでしょう。
しかし、国や自治体では環境保全対策の一環として、製品や塗装について塗料中におけるVOC含有率の基準を設けるなどで、低VOC塗料の使用を求めいています。
状況に応じて、使用する塗料を選定することで、VOCを削減するための対策を実施しましょう。
塗装条件の最適化
塗装作業において、塗り方を見直すことで大幅にVOCを削減できます。
たとえば、以下のように塗装条件の最適化を図ることによって塗着効率を向上させられます。
- スプレー角度を塗装面に対して垂直にする
- スプレーを一定距離に近づけて保ち続ける
上記の方法は、設備投資を必要としないためコストもかからず、すぐに実施できるVOC削減対策でしょう。
塗装機の変更
塗装機を変更することでも、塗着効率を向上できます。
たとえば、スプレーガンと静電塗装機を比較した場合、塗装効率は静電塗装機の方が塗装アップすると言われています。さらに塗料を削減できるため、VOCを大きく削減できる手法と言えるでしょう。
また、スプレーガンの種類によっても塗着効率が異なります。たとえば、エアスプレーガンからエアレススプレーガンへ変更することもVOC削減には効果的な方法です。
ロボットの導入
ロボット導入においても、塗装の無駄やムラをなくす効果があります。
品質の安定化や省人化、作業環境の安全というメリットの他に、塗装効率の向上効果があります。
ロボット塗装は、複雑な形状の作業に対しても塗装の厚みを均一に保てるため、ムラのない塗装が可能です。塗装の仕上がりの品質を向上させ、塗り直しなどの塗料の使用量を削減できます。
まとめ
水性塗料とは、主成分が水のため人体や環境に優しい塗料です。一方、シンナーなどの有機溶剤を使用した油性塗料は、VOCの排出量が高いため、低VOCである水性塗料へ置き換える動きが高まっています。
VOCの排出量を軽減させる他の手段として、塗り方や塗装機を変更することでも塗着効率を向上させることが可能です。
塗装作業において、人体や環境に配慮した塗装の方法によって、VOCを排出しない対策を日々行ようにしましょう。