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製品ライフサイクルとは
製品ライフサイクルとは、ある製品を市場に導入してから撤退させるまでに至る期間のことです。マーケティング戦略を練るうえでは非常に重要な概念です。
製品ライフサイクルの基本的な考え方は、市場に導入された製品が多くの人々に受け入れられることで成長を遂げ、成熟期間が続いたのち徐々に衰退していくというものです。
この概念は、1950年にコロンビア大学のジョエル・ディーン教授が発表した論文の中で明らかにされました。その後、現在に至るまでマーケティング戦略を立案する基礎として広く浸透しています。
製品ライフサイクルが短縮している背景
製品ライフサイクルは近年短縮傾向にあります。
大きな理由は以下の2点です。
- 技術革新の早さ
- 顧客・市場ニーズの多様化と複雑化
たとえば、2000年代の初頭は二つ折りの携帯電話が主流でしたが、その後約10年でスマートフォンが普及しています。2024年現在では、スマートフォンのさらなる高機能化が求められるようになっています。
こうした技術の進歩はライフスタイルそのものを変え、ニーズの多様化や複雑化につながっています。
このような要因により、製品ライフサイクルはますます短くなり、市場分析や製品企画、マーケット戦略が特に重視されています。
製品ライフサイクルの4つの段階
製品ライフサイクルは以下の4段階の時期に分かれます。
- 導入期:製品企画・開発ならびに市場への投入
- 成長期:市場での認知度向上による製品購入の拡大
- 成熟期:製品購入が落ち着き横ばい・緩やかな下降
- 衰退期:売り上げ低下・販売縮小・事業撤退・販売終了
また、それぞれの時期の「売上」と「時間」との関係は、以下のグラフのように表せます。
ここでは、製品ライフサイクルの4段階についてそれぞれ詳しく解説します。
導入期
導入期は、企画・製造を経て市場に製品を投入する第1段階の時期です。
導入期の戦略と施策は以下のとおりです。
戦略 | 方針 |
マーケティング戦略 | 製品の認知・ブランドイメージの確立 |
マーケティング費用 | 多額の費用が必要 |
ターゲット | イノベーター |
価格戦略 | 販売数量・利益率にもとづき適正価格を設定 |
広告戦略 | チラシ・フリーペーパー・SNS・イベント開催 |
※イノベーター:イノベーター理論で定義されている購買層
製品コンセプトを決め、マーケティング戦略を練るうえで重要な時期です。製品企画や開発に多額の予算を必要とするほか、マーケティング・広告宣伝に費用がかかります。
先行投資の段階では利益は出ませんが、この段階でどれだけ緻密な戦略を立てられるのかがその後の製品の命運を握っているといえます。
導入期におけるマーケティング戦略
導入期におけるマーケティング戦略は、ブランドイメージの確立と認知の獲得です。
製品のブランドイメージと製品の認知を目的としてマーケティング戦略を立てます。
利用される宣伝広告は以下のとおりです。
- フリーペーパーの広告
- チラシ・折込広告
- 雑誌広告
- SNSを通じた宣伝活動
- イベント開催
- 展示会への参加
- サンプルの提供
- モニターによる評価
近年ではSNSが普及していることから、認知度を高めるメディアとして特に重視されています。そのほかにも、モニターを募って製品の使い勝手の良さを認識してもらうことも有効な施策のひとつです。
導入期の製品例
現段階で考えられる導入期の製品として、自動運転タクシーがあげられます。
Google系企業のWaymoが、2018年12月5日に世界初となる自動運転車による商用タクシーサービス「Waymo One」を開始しました。
こうした試みは日本を始め世界各国でみられますが、法的な問題や最適なルートを提供可能なAIが登場していないなどの課題があります。
実用化まであとわずかである技術・製品・サービスは、製品ライフサイクルの導入期にあたると考えられます。
成長期
成長期とは、製品が広く認知されて販売数が伸びる時期です。
また、成長期の戦略とそれに対する施策は以下のとおりです。
戦略 | 方針 |
マーケティング戦略 | ブランドイメージの浸透・認知度の向上 |
マーケティング費用 | 多額の費用が必要 |
ターゲット | アーリーアダプター・アーリーマジョリティー※ |
価格戦略 | 価格引き下げ・利益率を考慮した価格設定 |
広告戦略 | SNS・TV・ラジオ・交通機関各所への広告掲示 |
※アーリーアダプター・アーリーマジョリティ―:イノベーター理論で定義されている購買層
成長期はブランドイメージや製品の認知度が高まり、製品によっては急激に成長を遂げるものもあります。
製品の売り上げは急拡大するものの、競合他社の参入を踏まえてさらなる市場拡大に向けた戦略を練らなければなりません。ブランドイメージや認知度を活かして、安定した利益を確保するための施策を打ち出すことが重要です。
成長期におけるマーケティング戦略
成長期におけるマーケティング戦略は、「ブランドイメージの浸透」と「認知度の向上」です。
ブランドイメージや認知度を向上させるためには、さらに多額の広告宣伝費をかける必要があります。
成長期に行われる広告宣伝とは、例えば以下のようなものがあります。
- テレビ・ラジオのCM
- 公共交通機関の中吊り広告
- 駅構内・大型施設の広告
- SNSを利用した情報発信
- ダイレクトメール
- メールマガジン
成長期はアーリーアダプターがインフルエンサーとして製品を取り上げる可能性が高く、SNSを通じたブランドイメージの浸透を期待できます。
そのほかにも、競合他社の参入により製品の違いが見えにくくなるため、製品に付加価値をつけて差別化を図ることも重要です。
成長期の製品例
現段階で考えられる成長期の製品のひとつは、VR(バーチャルリアリティ(以下VRと略))です。VRは仮想空間の総称で、これまでも注目され続けてきました。
株式会社グローバルインフォメーションが2023年3月1日に発表したレポートによると、VRの市場規模は2030年には1,118億ドルにまで成長することが予想されています。
しかし、VRはまだ発展途上の段階です。多くの費用がかかるだけでなく、健康上の問題や安全基準の不明確さなど、さまざまな課題があります。
これらの課題が解決されることで、VRは急成長を見込めます。すでに市場へ浸透しつつあり、VR市場は成長期にあるといえます。
成熟期
成熟期は、成長がほぼ横ばいになる時期です。
また、成熟期の戦略とそれに対する施策は以下のとおりです。
戦略 | 方針 |
マーケティング戦略 | ブランドイメージの維持・差別化 |
マーケティング費用 | 成長期より費用は減少 |
ターゲット | レイトマジョリティ・ラガード※ |
価格戦略 | 需要を考慮した価格設定 |
広告戦略 | 定期的なクーポン発行・割引キャンペーン |
※レイトマジョリティ・ラガード:イノベーター理論で定義されている購買層層
成熟期は製品が市場に出回り、数多くの購買層に行き届いている状態で、安定的な収益が見込める時期です。
この時期になると、競合他社も追いついてくる状況ではあるものの、すぐれた製品であれば市場での優位性は揺るぎません。
ただ成熟期では「市場が飽和状態に陥っている」「競合他社と価格競争が起こりやすい」という課題があります。この課題を解決すべく、新たなマーケティング戦略を立てる必要があります。
成熟期におけるマーケティング戦略
成熟期におけるマーケティング戦略は、ブランドイメージの維持と差別化です。
市場での優位性を保つためにはブランドイメージの維持が必要で、対策は差別化戦略です。具体的には機能の追加、デザイン性の向上、価格設定の見直しを行います。
また、成熟期に実施される広告宣伝の例として以下の2つが挙げられます。
- 割引キャンペーン
- 特別クーポンの発行
この時期は成長の伸びしろがなく、購買層が離れやすい時期でもあります。そのため、継続して市場分析を行い改善することが重要です。
成熟期の製品例
製品ライフサイクルの成熟期にあたる代表的な製品は、スマートフォンです。
JEITA電子情報技術産業協会の発表では、日本本国内では2010年に急成長を遂げ、それ以降、出荷台数は緩やかに推移しています。
スマートフォン市場は、2021年と2022年を比較すると、出荷台数が前年比マイナス10.2%であるのに対し、売上高は4.2%増加しています。
このように成熟期に入ると、必ずしも売り上げが減少するとは限りません。適切なマーケティング戦略をとることで利益を増加させることも可能です。
衰退期
衰退期は製品の販売が減少し、市場から姿を消す時期です。
衰退期の戦略とそれに対する施策は以下のとおりです。
戦略 | 方針 |
マーケティング戦略 | 縮小・撤退・パッケージ化・次期製品に向けた取り組み |
マーケティング費用 | 縮小 |
ターゲット | 新たなターゲットなし(固定層) |
価格戦略 | 値引き・セット価格の提示・原価を考慮した価格設定/td> |
広告戦略 | 縮小 |
この時期は需要や売り上げが減少し、事業からの撤退、もしくは次期製品に向けた取り組みを始める時期です。
新事業に取り組むあまり、既存顧客の対応をおろそかにするとブランドイメージを低下させることにつながりかねません。
そのため、既存顧客への継続したサポートが不可欠です。
基本的には製造ラインや広告宣伝は縮小しますが、衰退期にシリーズ化した製品や派生製品の製造に活用するケースもあります。
衰退期におけるマーケティング戦略
衰退期におけるマーケティング戦略は、パッケージ化や価格の値下げです。製品の新規購入者はそれほど期待できません。
そのため、製品を購入している層に対して、ブランドイメージを損なわないように注意しなければなりません。
例えば、製品の値下げやパッケージ化によって、ほかの製品との組み合わせ販売や、リニューアルモデルの販売などによってブランドイメージを維持し続けることが重要です。
製品を利用するユーザーは減るものの、サポート体制を維持しつつ段階的に縮小・廃止を行うこともブランドイメージを傷つけない施策のひとつです。
衰退期の製品例
過去に衰退期を迎え、市場から姿を消した製品はさまざまです。例えば、電話やDVDプレーヤーが挙げられます。
両製品とも、かつては各家庭に必ずといっていいほど存在していました。しかし、スマートフォンの普及やオンライン動画配信の利用者が増えたことで、その役割を終えつつあります。
これは技術革新によるところが大きく、マーケティング戦略の失敗によるものではありません。こうしたケースでは、製品ライフサイクル上で衰退期に差し掛かっていることをいち早く察知し、事業からの撤退や業態変化といった施策を講じる必要があります。
イノベーター理論とは
イノベーター理論とは、製品ライフサイクルを考える際に重要な考え方であり、製品の購買層を以下の5種類に分類しています。
【イノベーター理論における購買層の分類】
- イノベーター(革新者)
- アーリーアダプター(初期採用者)
- アーリーマジョリティ―(前期追随者)
- レイトマジョリティ―(後期追随者)
- ラガード(遅滞者)
この中で、製品ライフサイクル上もっとも重要なのは「アーリーアダプター」です。さらにイノベーターからアーリーアダプターにつなげる施策も考慮しなければなりません。
なぜなら、製品ライフサイクルではアーリーアダプターがインフルエンサーとしてもっとも重要な役割を担うためです。
ここでは、イノベーター理論に登場する各購買層について解説します。
イノベーター
イノベーターとは、導入期の早い段階に製品を購入する層です。
この層は、先進的な機能が備わった製品をいち早く使ってみたいという好奇心が旺盛で、製品の価格や不具合の有無は気にしません。
製品ライフサイクルの導入期における顧客層で、いち早く製品と触れ合う特徴があります。顧客全体に占める割合は約2.5%といわれています。
またイノベーターは、市場で製品を認知してもらうきっかけとなる存在で、次に登場するアーリーアダプターとのつながりが大変重要です。アーリーアダプターとのつながりがなければ、製品ライフサイクルの成長期が止まってしまいます。
アーリーアダプター
アーリーアダプターとは、製品に興味を持ち、成長期の比較的早い段階で製品を購入する顧客層です。
イノベーターに比べると革新的ではないものの、流行に敏感で最新技術の製品をいち早く取り入れたい欲求が強い特徴があります。
製品ライフサイクルでは、全体の約13.5%の顧客がアーリーアダプターといわれています。この層は、インフルエンサーやオピニオンリーダーになりやすいため、アーリーアダプターを増やすことが製品ライフサイクルでもっとも重要です。
イノベーターからアーリーアダプターへ、うまく展開できるかどうかがさらなる成長の鍵となります。
アーリーマジョリティ
アーリーマジョリティとは、製品の認知度がある程度上がった段階で購入する顧客層です。
製品に対して少々疑いを持つものの、インフルエンサーの情報をもとに製品を購入してみようという意欲が高い特徴があります。この層は全体の34%を占めており、アーリーマジョリティが多ければ多いほど急速な成長が期待できます。
この層を増やすためには、製品の機能やメリットについて正確に情報を伝え、製品を購入する必要性を理解してもらわなければなりません。
例えば、インフルエンサーの発信した情報を紹介して、製品のすぐれている点や購入するメリットを意識させて購買につなげます。
レイトマジョリティ
レイトマジョリティとは、製品が広く浸透したあとで購入に踏み切る顧客層です。
製品に対して懐疑的なため、買い控えをしているものの多数の人々が手にしていることを確信すれば、購入の意思が高まる傾向にあります。
なお、レイトマジョリティは製品ライフサイクルにおける購買層全体の34%で、アーリーマジョリティとほぼ同数です。そのため、レイトマジョリティも市場のシェアに大きな影響を与えます。
レイトマジョリティを増やすためには、製品の普及率を伝えることが有効です。さらに「過半数の人々が製品を購入している」「利用していない人は少数である」「製品を購入してもデメリットがない」などを伝えるとより効果的です。
ラガード
ラガードとは保守的な顧客層で、基本的に新しい製品を購入することはありません。
市場に流通している製品については、極めて懐疑的で伝統や文化を重んじる傾向があります。そのため、本当に必要であっても新しい製品を購入しないことがあります。
この層は全体の16%です。マーケティング戦略には工夫が必要で「自発的な購入」を促すような施策が必要です。
たとえば「製品が多くの人に利用されていて定番化している」「既存の製品と比べて安全である」「次期製品よりも安心して使える」など、具体的に製品の特徴を示さなければなりません。
製品ライフサイクルを活用するメリット
製品ライフサイクルを導入するメリットは、以下の4点です。
【製品ライフサイクルを活用するメリット】
- 自社商品に対する投資のタイミングを見極めることにつながる
- その時代にマッチした事業戦略の立案につながる
- 戦略的撤退の時期を間違えずに済む
- 市場内で無謀な競争に挑まずに済む
自社商品に対する投資のタイミングを見極めることにつながる
製品ライフサイクルは、自社製品に対する投資のタイミングを見極められるメリットがあります。開発期・成長期の予測を立てやすいことが大きな理由です。
開発期・成長期には多額の費用がかかるため、この時期を予測できれば適切なタイミングで予算を投入できます。
予算をコントロールしやすい点が、製品ライフサイクルを活用する大きなメリットです。
その時代にマッチした事業戦略の立案につながる
その時代に合った事業戦略が立てやすいメリットもあります。
製品ライフサイクルをみれば、どのような製品が受け入れられているのか把握できるからです。
たとえば、スマートフォンの場合、付加価値の高い高単価機種が売れている状況を分析すれば、どのような機能を顧客が求めているのかを把握できます。
こうした市場ニーズ・顧客ニーズの分析から得られる情報を、次の事業戦略に活かせることが製品ライフサイクルのメリットです。
戦略的撤退の時期を間違えずに済む
製品の撤退時期を間違えずに済むという利点もあります。
製品ライフサイクルを利用すれば、製品が衰退期に入りつつあるのかの兆候がつかめるため、戦略的な撤退が可能です。
市場からの戦略的撤退は、企業活動の継続性という観点からも非常に重要なため、製品ライフサイクルで撤退時期を見定められることは大きなメリットといえます。
市場内で無謀な競争に挑まずに済む
製品ライフサイクルは、市場内で価格競争に挑まずに済むというメリットもあります。
価格調査で適正価格を出していていも「シェアを拡大したい」「シェアを奪われたくない」などの理由から、価格優位性を訴求すれば事業の継続が困難になります。
しかし、製品ライフサイクルにもとづくマーケティング戦略が確立されていれば、価格競争以外の施策を実行できます。
ポジショニングを確認して正しいマーケティング戦略をとれる点も、製品ライフサイクルのメリットです。
まとめ
製品ライフサイクルとは、製品の企画・開発から始まり市場で成長を遂げ、成熟したのちに衰退し市場から姿を消す一連のサイクルのことを表した概念です。
フェーズごとに、最適なマーケティング戦略を考えることが重要です。特に、導入期から成長期にかけて、多額のマーケティング費用をかけることが製品ライフサイクルで成功する鍵です。
今回紹介した、製品ライフサイクルとイノベーター理論を駆使すれば、市場で優位に立てるヒントとなるかもしれません。