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バイオテクノロジーとは
バイオテクノロジーとは、「バイオロジー(生物学)」と、「テクノロジー(技術)」をあわせた用語です。
自然界において、動植物の持つ性質や能力をうまく利用することで、人類の生活において古くからさまざまな分野で活用されています。
例えば、日本の伝統食である、味噌や醤油などは、発酵というバイオテクノロジーを利用した食品です。発酵とは、人間にとって有効な微生物が働くことで物質を分解させることです。それにより、酵母菌や乳酸菌など腸内環境を整えるために良いとされる物質を作り出します。
ニューバイオテクロノジーは、農業や医療の分野でも私たちの身近に活用されています。バイオテクノロジー応用医薬品(バイオ医薬品)は、細胞培養技術や遺伝子組換え技術のバイオテクノロジーを応用して製造される医薬品です。人工的にタンパク質を生成可能で,ガンや糖尿病、自己免疫疾患などのさまざまな疾病治療に不可欠な存在となっています。
近年では医薬品のみならず、素材や繊維、エネルギーに関してあらゆる分野での製品がバイオ技術によって生み出されています。さらに、気候変動、少子高齢化や食料品ロス、天然資源枯渇など、地球規模のあらゆる問題解決、および経済の両立を実現する技術として世界的に期待されています。
バイオテクノロジーの将来性
ここからは、バイオテクノロジーの将来性や可能性について解説します。
世界的に注目の集まる産業
遺伝子操作やクローン技術に代表される「バイオテクノロジー」は、今後の先進医療の中核をなす存在として、世界中で注目されています。
拡大が続く新型コロナウィルスの感染の予防を目的として、アメリカの製薬会社ファイザーと、ドイツのバイオ製薬会社ビオンテック開発のワクチンにも、バイオテクノロジーが活用されています。
30年間における研究の末、ウイルスの遺伝情報(ゲノム)を伝えるメッセンジャーRNA(mRNA)という最先端のバイオ技術が使用されました。
遺伝情報の解読により改変可能な技術も進んでおり、これまで治療が難しかった遺伝病の予防や治療へ応用する期待が高まっています。
医療・健康分野で市場拡大
世界のバイオテクノロジー産業の市場規模は、2019年時点で4,364億ドルと算出され、来る2026年には約7,000億ドルへ達すると予測されています。
特に、医療・健康分野では大幅な拡大が予想されており、世界中の少子高齢化や人口増加の進行を背景に、主要国の研究開発費は年々増加しています。
新型コロナウィルスの感染拡大によって、人々の生活における安全管理や健康意識の向上から、こうした研究への関心が高まっています。
積極的な投資活動
一部のアメリカ企業で、バイオテクノロジーは「ITの次に世界を変える分野」として、将来を見据えたバイオテクノロジー分野の投資が積極的に行われています。
研究の開始から技術を利用するまでの期間は長期に渡るため、医療・バイオロジーセクターは期待が先行して上昇傾向にあります。
ITセクターと比べても高い利益の成長を期待されており、次の株式投資をリードする分野としても見込まれています。
バイオテクノロジーの事例
バイオテクノロジーがどのような分野に貢献しているのか、具体例を交えて解説します。
食品
培養肉
食品開発の分野において、植物由来の「培養肉(代替肉)」は、アメリカを始めとして国内のスーパーでもよく見られるようになりました。
コロナ禍の影響により、食品の工場が閉鎖されたことで世界的に肉不足となり、バイオ由来のさまざまな種類の食品が市場に並びました。
国内においては、日本初のゲノム編集によるトマトが2021年に開発されました。
血圧が上昇することを抑える働きが高いといわれている「GABA」が、多く含まれるようにゲノム編集をして品種改良されています。
同年9月に、筋肉の成長をおさえる遺伝子が機能しないようゲノム編集し、肉厚を1.5倍に改良した鯛が製品化されました。魚での流通は、当時国内で初めてのことです。
Btコーン(トウモロコシ)
Btコーンとは、殺虫作用のあるタンパク質を生成する遺伝子を導入したトウモロコシです。
殺虫効果のあるトウモロコシは人体へ悪影響があるのではと、心配する消費者もいます。
しかし、害虫と人間の消化管には明確な違いがあり、人がBtコーンを食べても問題ないとされています。
Btタンパク質が活性化すると、害虫の消化管の受容体と結合し作用を発揮します。
害虫の消化管はアルカリ性ですが、人間の胃は酸性のため消化管にBtタンパク質の受容体がなく、人が食べても影響がありません。
また、Btコーンはイギリスやアメリカなど、多くの国で安全性が確認され、認可されています。一方、日本でも厚生労働省、および農林水産省にて安全性が確認されています。
エネルギー
バイオ燃料
バイオマスとは、生物から再利用できる資源(石油など化学資源以外)を指します。バイオマス燃料は、燃焼させたときに大気中の二酸化炭素量を増加させない点が優れています。
植物は、太陽エネルギーから光合成をする際、二酸化炭素と水から有機物(でんぷん)と酸素を生み出します。
この有機物を燃焼させ、エネルギー源として利用したとしても、放出された二酸化炭素はもともと植物が光合成の際に吸収したものです。よって、大気中の二酸化炭素の量は増えていないという考えです。
バイオエタノール
トウモロコシやサトウキビ、木材などのバイオマスを原料とした発酵を行えば、エタノールを製造することも可能です。これを「バイオエタノール」といいます。ガソリンと混合させて燃料として利用すれば、二酸化炭素排出量の削減を期待できます。
バイオガス
生ゴミやなどの有機性廃棄物や、家畜の糞尿などを嫌気性発酵させ可燃性のメタンを主成分とするガスです。発酵処理後に残る消化液は、液肥という有機肥料として農業へ還元できます。
水素酸化細菌
化石燃料由来の物質生産と比較して、化石燃料よりも遥かにライフサイクルの短い植物を原料にして代替し製造が可能な技術です。
新素材
プロセス変更による脱炭素
バイオにおけるモノづくりは、化学プロセスと比べると多くの反応を重ねるプロセス必要がない特徴があります。さらに化学プロセスでは、800℃以上の高温かつ高圧な条件下でモノづくりが行われます。一方バイオプロセスでは、自然条件下(常温常圧下)によって製造されるため、CO2排出量の大幅な削減を期待できると言われています。
今後の実用化を目指し、以下のような脱炭素が期待されています。(萩生田経済産業大臣発言による)
- 微生物を利用し、CO2等から化学品原料やタンパク質等の物質生産
- CO2の吸収源として有望される細菌
バイオ素材
素材においては、キノコの菌糸から生成してゲノム編集したバイオレザーや、、スパイバー社による人工的に開発した蜘蛛の糸、携帯端末向けのフィルムを微生物から生成するなど高機能素材が開発されています。
生分解性バイオプラスチック
生分解性バイオプラスチックは、海洋汚染防止として脱石油の実現に向けた素材です。再生可能な植物などの有機資源を原料とするバイオマスプラスチックと、微生物などの働きによって、最終的に水と二酸化炭素まで分解できる物質です。
医療
バイオ医薬品
バイオ医薬品とは、培養細胞の中で必要なタンパク質を作りだして製造された医薬品です。大きく複雑な構造をしたタンパク質は、人工的な合成ができません。
また、タンパク質は生体内で重要な働きをしていることから、合成量の低下によって発症する疾患に活用されています。
糖尿病治療薬のインスリンや、腎性貧血の治療薬であるエリスロポエチンなど、多くの治療に使われています。
オーダーメイド医療
副作用や薬の効き方、病気となる率は個人によって差がでてきます。この要因は、DNAの塩基配列が人によってわずかに異なることが関連していると、研究により判明しました。
それにより、DNAの塩基配列の調査によって、個人それぞれに合わせた治療薬を使う方法が考えられました。
現在、一部のがん患者の治療薬を選択する際に役立てられ、副作用や無駄な治療期間を削減した効果的な治療ができるようになりました。
その他の技術
青いバラ
青いバラは当初「不可能」という花言葉でした。バラは青の色素がないため、交配しても青いバラは作れなかったのです。
1990年、サントリーはさまざまな花から青の色素を合成する「青色遺伝子」を抽出し、青いバラを製作する研究を開始しました。
12年後の2002年、サントリーは青いバラを咲かせることに成功しました。100%近く青い色素が蓄積した青いバラは、その後世間でも販売されるようになり、花言葉は「夢かなう」に変更されたのです。
バイオテクノロジーの課題
ここからは、バイオテクノロジーの課題についてそれぞれ解説します。
法規制
先進的な取組も多く、法規制が追いついていないという課題があります。
例えばアメリカのフロリダ州では、デング熱などの感染症抑制を目的として、遺伝子を組み換えた「蚊」が、大量放出されました。地元当局から承認を受けて進められたのですが、人工的に生態系を壊してしまうという理由で世間から批判を受けたのです。
また中国では、HIV感染の遺伝子を人工的に破壊させた「双子」を誕生させたことが、世界から大批判を浴び、研究者は実刑判決を受けました。
技術的にこのようなことが現実に可となっている一方で、倫理や道徳に基づいた法やルールの整備が、今後必要となってきます。
市場競争力
バイオテクノロジーは、現段階において開発に多大なコストが生じることから、一般の市場ではビジネスとして成り立たない可能性がある点も、課題として挙げられます。
世界規模で見ても、我が日本国の科学技術に投じる研究費は伸び悩んでいます。
研究開発を行い、製品化して市場へ提供するためには、多額なコストと期間を要します。したがって、企業が単体でバイオテクノロジーを活用したビジネスで利益を得るのは難しいでしょう。
バイオテクノロジーを導入して普及するためには、技術開発や投資、制度設計や流通において、産官学(企業・政府や地方自治体・大学)の連携が急務となっています。
また、バイオテクノロジーを用いた商品は、一般的な商品に比べてコストが高いため、市場競争力が低い傾向にあります。
課題解決のためには、開発から製品化までのプロセスを実現するための仕組みや、環境の構築が必要なのです。
バイオテクノロジーの日本の取り組み
バイオテクノロジーが発展することにより、バイオエコノミー社会が誕生すると予想されています。
バイオエコノミー社会とは、バイオマスやバイオテクノロジーを活用することで、持続的かつ再生可能な「循環型の経済社会」を意味します。
国内においては、内閣府はバイオ戦略を掲げています。バイオ戦略とは、「2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現すること」を目標として、持続可能性、循環型社会、健康をキーワードに、産業界や大学、自治体が連携して推進しているイノベーション戦略です。
また、内閣府ではバイオ戦略は、単にバイオエコノミーを志向するだけでなく「世界最先端」の水準になることを求めています。
さらに、バイオエコノミーを「バイオファースト発想」「バイオコミュニティ形成」「バイオデータ駆動」の要素に分け、それぞれがどのように実現しているかを把握することが重要としています。
まとめ
バイオテクノロジーは、新しい医療や環境、 エネルギー産業の発展に大きく貢献する技術として、世界中で注目されています。
一方、国内におけるバイオテクノロジー産業は、世界から遅れをとっています。研究開発において多大なコストや期間を要するため、ビジネス化が難しいからです。
しかし、日本国政府において、産官学の連携により、バイオテクノロジーを活用した技術の発展を促進する活動が行われています。
今後の我が国における、バイオ産業の発展が期待されます。