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CCSとは
CCS(読み方:シー・シー・エス)とは「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、CO₂を回収して貯蔵する技術の総称です。製油所や発電所・化学プラントといったCO₂の発生源からCO₂を分離して回収、地中深くに貯蔵します。
CO₂を回収するためには、排ガスからCO₂だけを分離しなければなりません。CO₂を吸収する液体を使用し、化学的に分離する方法や、特殊な膜を使ってCO₂だけを分離させる方法などがあります。
一方、CO₂を貯蔵する地中はどこでも良いわけではありません。CO₂を通さない泥岩の地層の下に、砂や火山灰といった砂の粒が荒い地層がある場所を選びます。砂粒の隙間にCO₂を染み込ませ、泥岩の地層が蓋の役割を果たします。
CCUSとの違い
CCUS(シー・シー・ユー・エス)は、Carbon dioxide Capture, Utilization and Storageを略した用語で、分離・貯留したCO₂を利用するための技術です。
CCSとCCUSの違いについて以下の表にまとめました。
CCS | CCUS | |
目的 | CO₂を分離回収・貯蔵すること | 分離回収・貯蔵したCO₂を利用すること |
特徴 | CO₂を分離回収・貯蔵するまでの考え方 | CO₂の再利用までを含めた考え方 |
CCS・CCUSが注目を集める理由
CCS・SSUSが注目を集めたのは、世界的にカーボンニュートラルが重要視されるようになったことが理由です。
気候変動の大きな原因の一つが、大気中のCO₂濃度の上昇です。CO₂の大気中への排出の削減だけでなく、CO₂を化学製品や燃料などに利用する循環利用のニーズ(出先)の高まりがあることも理由とされています。
CCS・CCUSのメリット
CCS・CCUSのメリットについて解説します。
CO₂の効果的な削減
CCSによって、CO₂を削減するための仕組みを既存の設備に導入することで、効果的にCO₂を削減できます。
CCSは、火力発電所や製鉄工場、セメント生産・ごみ焼却など、CO₂を大量に排出するあらゆる分野に導入可能です。
例えば、約27万世帯に電力を供給するため、80万kWの出力が必要な石炭火力発電所の場合では、年間に約340万トンのCO₂の排出を防げます。
再生エネルギー普及の加速
CCUSの技術を用いれば、再生エネルギーの普及の加速が期待できます。
風力発電や太陽光発電は、気象条件に左右されるため出力が変動しやすい特徴があります。あまってしまった電気は、燃料へ変換し貯蔵できるようなシステムの開発も、同時に検討すべき課題です。
検討の案として、例えば燃料として「水素」を貯蔵しておく案がありますが、現状では水素を貯めておくインフラ整備が整っていません。しかしメタンであれば、都市ガス用の既存インフラを活用できます。
回収したCO₂からメタンを製造できれば、水素用のインフラ整備を待つことなく、あまった電力の貯蔵や有効利用ができるため、再生可能エネルギーの普及につながります。
循環型社会(サーキュラーエコノミー)の実現
循環型社会とは、産業で排出された廃棄物を再利用することによって、資源を循環的に利用できる社会のことです。発生したCO₂を回収して再利用することで、循環型社会の実現につながります。
増加している世界的な廃棄物を再利用してエネルギーに変えることは、循環型社会の基本ともいえます。
CCS・CCUSの仕組み
ここでは、以下に挙げるCCS・CCUSの仕組みについて解説します。
- 分離・回収
- 輸送
- 貯蔵
- 利用
分離・回収
CO₂を回収する代表的な、以下4つの方法を紹介します。
1.化学吸収法
化学吸収法とは、CO₂だけを溶解可能な「アミン」というアルカリ性溶液を活用し、CO₂を分離させる方法です。
化学吸収法で利用する装置は、シンプルな構造のため、現在多く採用されている方式です。
CO₂を吸収したアルカリ性溶液は、加熱再生処理をすることでCO₂を分離させて再利用できます。
2.物理吸収法
物理吸収法とは、CO₂を含んだ排ガスに圧力をかけて、メタノールなどの液体に溶解させてCO₂を吸収する方法です。溶解した液体に対して減圧することで、CO₂を取り出します。
物理吸収法は、石炭に由来するガスが持っている圧力を利用できるため、高温・高圧のガスに最も効果的な方法です。今後、物理吸収法をより高圧で利用できるようになれば、CO₂を分離・回収する量が増え、コスト削減を期待できます。
3.膜分離法
膜分離法とは、分離膜にガスを通してCO₂を分離させる方法です。ふるい効果や拡散速度の違いを活用してCO₂を抽出する方法で、汚水の浄化にも活用されています。
膜分離法は特定の膜を利用するため、分子レベルから粒子レベルまで幅広く活用できます。天然ガスなどのメタンは、CO₂よりも分子が大きいため、膜分離法が適しています。
4.物理吸着法
物理吸着法とは、対象となるガスに活性炭やゼオライトといった吸着剤と接触させ、CO₂を分離させる方法です。圧力差や温度差を利用し、吸着剤の微細孔へCO₂を吸着させます。分離する装置やプロセスがシンプルであるため、省エネルギーで分離できるメリットがあります。
効率よくCO₂を分離させるために、吸着剤の技術開発に取り組まれており、今後の技術革新が期待されています。
輸送
CO₂の輸送に世界中で使われている方法が「パイプライン」です。パイプラインはCO₂の輸送量が多く、歴史が長いため成熟した技術といえるでしょう。
ほかにも、船舶や鉄道・タンクローリーを活用した輸送手段があります。パイプラインよりもCO₂の輸送量は劣りますが、小回りが利き活用範囲が広い輸送方法といえます。
貯蔵
輸送されたCO₂を貯蔵する場所は、地中および海底です。
地中にCO₂を貯蔵する場合は、隙間の多い砂岩の地層でなければなりません。地下800メートルより深い場所に、CO₂の漏洩を防ぐ蓋の役割をする泥岩の遮へい層が必要になります。
海底に井戸を掘ってCO₂を貯蔵する方法は、日本で研究や実験が行われています。日本は沿岸部にCO₂を多く輩出する火力発電所が多いため、効率的な手法であると考えられています。
利用
分離・回収されたCO₂を再利用することを「カーボンリサイクル」といいます。化学品としての再利用領域では、CO₂を炭素資源として捉え、ウレタンやポリカーボネートなどに利用します。
燃料としての再利用領域では、光合成を行う微細藻類を使ったバイオ燃料や、水素と反応させて生産するメタンなどの利用が考えられています。
ほかにも、コンクリート製品の中に吸収させる構想もあります。
CCS・CCUSの具体的な取り組み・実証実験
CCS・CCUSは、実用化に向けて様々な取り組みや実証実験が行われています。代表的な取り組みについて紹介します。
世界のプロジェクト例
CCS・CCUSは世界中で取り組みが開始されています。
■ノルウェー
ノルウェーのスライプナープロジェクトでは、CCSを世界で初めて実現しました。
スライプナーガス田では、天然ガスを採掘する際、同時にCO₂を分離します。1996年に、地中に貯留を開始以来、圧入されたCO₂合計量は2013年時点で約2,000万トンと、世界においてもトップクラスの実績です。
■ブラジル
ブラジルでは、カンポス盆地やサントス盆地、エスピリトサント盆地にまたがる広大な油田において「サントス海盆プレソルト油田プロジェクト」というCCUSを実施しています。
リオデジャネイロ海岸から約300kmにおける深層を利用したCO₂圧入で、2015年の12月時点において300万トンを達成しました。
北海道苫小牧
北海道の苫小牧では、国家プロジェクトとしてCSSの大規模実験が実施されています。全国115か所の中から苫小牧市が選ばれたのは、CO₂を貯蔵するのに適した土壌があることと、近隣にCO₂の排出源があるためです。
2012年から2015年までは実験の準備期間とし、2016年から地中へのCO₂貯蔵を開始しました。2019年11月には、累計で30万トンの貯蔵を達成し、現在は経過のモニタリングをしています。
佐賀市
佐賀市では、CO₂を貯蔵するCCSではなく、再利用するためのCCUSに取り組んでいます。
佐賀市にある清掃業者から排出されるCO₂を分離・回収し、藻類培養や植物工場に有効活用することで、産業の復興にもつなげています。
3企業連合(伊藤忠商事・ENEOS・出光興産)
伊藤忠商事や出光興産、ENEOSなど3つの企業連合は、2030年度の実用化に向けて、CO₂を回収して地下に貯蔵する技術の調査、及び検討を開始しました。
経済産業省は、2030年度に石炭火力発電所3基分のCO₂排出量に相当する、最大で年1,200万トンの貯蓄を目指しており、法整備や補助金で支援するとしています。
CSS・CCUSの課題・問題点
CSS・CCUSの推進を進めるうえで、次の課題・問題点があります。
- コスト負担
- 法整備
- 貯留場所の確保
- 長距離輸送
それぞれについて解説します。
コスト負担
CO₂の分離や輸送・貯留には、多大なコストがかかります。分離・回収のための設備投資や運用コスト、輸送コストや貯留するための調査コストなどが挙げられます。
現在は、CO₂の回収に1トン当たり4,000円のコストがかかっています。これを2030年までに1,000円~2,000円台にし、2040年には1,000円未満になるよう技術開発が進められています。
法整備
CCS・CCUSを、社会で広く推進するためには、今後法整備を進めていく必要があります。
CCS・CCUS事業の性質を踏まえた事業規制、貯留事業財団・鉱業権などの調整や、特定地質構造の弾性探査に関する規制などです。また、事業責任者を明確にした責任の範囲についても、整備していかなければなりません。
貯留場所の確保
CCS・CCUSの技術が進んでいっても、貯留する場所がなければ活用できません。今後、貯留場所の確保は、重要な課題となってくるでしょう。
CO₂を貯留するためには、さまざまな条件のクリアが求められます。貯留場所として適しているのか事前調査をし、場合によっては住民との協議も必要になります。
長距離輸送
CO₂を分離・回収する装置と貯留する場所が離れている場合は、長距離輸送におけるコストを考慮する必要があります。
回収されたCO₂を輸送するためには、コストやエネルギーを要します。現在は、短距離であればパイプライン、長距離であれば船舶が効率的だと考えられています。
まとめ
カーボンニュートラルへの取り組みは、各国で積極的に進められています。地球規模でCO₂の排出や再利用に取り組むべきであり、今後は各国の実験情報を共有し、議論を重ねていくことが大切です。
普段から私たちも、CO₂がどのように再利用されるかに注目し、持続可能な社会の実現に高い意識をもって取り組むことが、これからは必要といえるでしょう。