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サービス・プロフィット・チェーン(SPC)とは?メリットや取り組み事例をわかりやすく解説

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サービス・プロフィット・チェーン(SPC)とは、「従業員満足度」「顧客満足度」「業績」の相互効果を期待して施策を練る考え方です。誰にとってもメリットのある施策として注目されており、ポジティブな作用を与え合うため、コストパフォーマンスも高いとして導入する企業が増えています。

本記事では、サービス・プロフィット・チェーン(SPC)の概要やメリット・デメリット、取り組み事例を紹介します。

サービス・プロフィット・チェーン(SPC)とは

サービス・プロフィット・チェーン(SPC)とは、「従業員満足度」「顧客満足度」「業績」の因果関係を示すモデルのことです。

例えば、顧客満足度の向上は業績向上に直結します。自社の商品・サービスや購買体験に満足する顧客がいた場合、リピーターとなって次回も商品を購入してくれ、ファンとなって良い口コミを伝播してくれることもあるので将来的な業績向上につながります。

また業績が上がれば、収益を従業員の給与や福利厚生へ回す余裕が生まれ、労働環境が改善できることから従業員満足度の向上も期待できます。

「従業員満足度」「顧客満足度」「業績」の3要素には全て因果関係があり、どれかが向上すると他の項目も向上する良いサイクルを構築できます。反対に、うまくいかないと3要素全てにおいて不満足な結果になりやすく、負のスパイラルができてしまうため注意が必要です。

サービス・プロフィット・チェーンの重要性

サービス・プロフィット・チェーンの重要性は、企業運営に際して良いサイクルを作り上げることの重要性とリンクしています。「従業員満足度」「顧客満足度」「業績」の3要素が全て密接に関係することを理解していれば、どれかの項目を極端におざなりにすることがありません。いずれに対してもバランスよく投資し、会社・従業員・顧客の三者ともにメリットのある企業運営ができます。

反対に、サービス・プロフィット・チェーンについて理解しておらず、業績だけを追求するのは危険です。コスト削減を意識しすぎて商品サービスの質まで下がってしまうと顧客満足度が上がらず、結果として顧客離れが発生します。クレームやトラブルも多くなるため販売に関わる従業員のモチベーションが下がり、生産性の低下や人材の流出も招くでしょう。

なお、良好なサービス・プロフィット・チェーンを構築することは、コスト削減にもつながります。人材流出に歯止めをかけるため、多額の採用コストをかけて人を雇ったり、顧客減を防ぐため多額の広告宣伝費をかけたりする必要がなく、最小限のコストで運営できるようになります。

そのため、サービス・プロフィット・チェーンの考え方が重要だと言われており、業種・企業規模問わず多くの企業でこの考え方が導入されるようになりました。

サービス・プロフィット・チェーン実現のための7つのステップ

サービス・プロフィット・チェーンは、下記の7ステップで実現していきます。

     
  • 企業から従業員へのサービス提供で従業員満足度を高める
  • 従業員ロイヤリティが向上し生産性が高まる
  • 生産性が向上しサービスの品質が高まる
  • サービス品質の向上によって顧客満足度が高まる
  • 顧客満足度が向上し顧客ロイヤリティが高まる
  • 顧客ロイヤリティが収益性や成長を促進する
  • 利益をもとに成長サイクルを生み出す

以降でひとつずつ解説します。

企業から従業員へのサービス提供で従業員満足度を高める

まずは企業側から積極的に従業員サービスを提供し、従業員満足度を高めます。

内容は、福利厚生の充実・休日の付与・社内コミュニケーションの促進・業務に役立つSaaSやツールの導入などです。全社的なビジョンを共有して会社が目指す未来についてイメージできるよう対策するなど、モチベーションを上げる取り組みをしている企業も多くあります。

ここで重要なのは、どうすれば自社の従業員満足度を上げられるかを分析することです。ニーズの高い施策ができるよう従業員が何に悩んでいるのかをヒアリングしたり、働きやすさに関する今の課題を整理したりと、さまざまな対策を講じましょう。

従業員ロイヤリティが向上し生産性が高まる

従業員満足度の向上施策が功を奏し、ロイヤリティが上がることで組織全体の生産性が高まります。「この会社のために貢献したい」「目の前の仕事をクリアして自己成長を実感したい」など、ポジティブな考え方が浸透し、仕事に対して前向きになれます。

結果、短い労働時間でも効率よく成果が出せたり、新たなアイディアや企画を発信する人が増えたり、どんどん活性化していくでしょう。

また、従業員ロイヤリティの高い人材が増えると、周りの従業員にも良い影響を与えます。業務に躓いている同僚を積極的に助けるなど相互扶助な雰囲気が出来上がり、風通しがよく働きやすい組織になるでしょう。

生産性が向上しサービスの品質が高まる

従業員ロイヤリティが上がったことで生産性が高まると、同時にサービスの品質も高まります。従業員が仕事に対してポジティブになれることで、店舗における接客クオリティが上がったり、カスタマーサポートがスピーディーになったりと、実際の行動として反映されていきます。

「顧客のため」「会社のため」を思って働く人が増えるので、ニーズに応えようというポジティブな動機づくりにもつながるでしょう。

その他、研修への参加率が上がるなど副次的なメリットにもなります。サービス品質向上を目指す研修・教育と合わされば更に高い効果を発揮することになるため、積極的に取り入れてみましょう。

サービス品質の向上によって顧客満足度が高まる

サービス品質の向上は、顧客満足度の向上にもつながります。「親切で丁寧な心遣いのある接客を受けられた」「必要なものをすぐに理解して素早く対応してくれた」など、本来提供している商品サービス以上の価値を提供できるため、顧客満足度も上がっていくのです。良好な購買体験や付加価値を提供することにもつながるので、リピーターやファンの獲得にも役立ちます。

顧客満足度の向上には、価値を提供する側である従業員の満足度が高い状態であることが欠かせません。先に顧客満足度を上げる方法もありますが、従業員のモチベーションが高くないと期待していたような効果が現れないこともあるので注意しましょう。

そのため、サービス・プロフィット・チェーンの実現には、先に従業員満足度の向上を目指すのが理想です。

顧客満足度が向上し顧客ロイヤリティが高まる

顧客満足度が上がると、顧客ロイヤリティも高まります。顧客ロイヤリティが高まることで、自然なリピート購入や購買単価アップが期待でき、多額の広告宣伝費をかけずとも自然と顧客が集まるようになるのがメリットです。解約率が低下した、キャンペーンやイベントへの反応が良くなった、など多くの効果が実感できます。

また、顧客ロイヤリティの高い人は積極的に口コミを拡散してくれることが多く、自社を知らない顧客の呼び込みにつながります。SNS上に口コミを投稿してくれたり、友人・知人に商品を紹介してくれたりするので、顧客が顧客を呼ぶという良いサイクルを作れます。

顧客ロイヤリティが収益性や成長を促進する

顧客ロイヤリティが上がると収益も拡大します。リピーターやファンが定着すれば安定して商品が売れるようになり、収益の見通しを立てやすくなります。良い口コミが出回ったことで新たな顧客も生まれ、客単価が上がり接客や製造の効率も良くなるでしょう。

収益が上がることで、新たな投資や販売戦略も考案しやすくなり、会社全体の成長が促進します。これまで資金力不足で実現していなかったことにもチャレンジできるなど、副次的な効果も発生するでしょう。

利益をもとに成長サイクルを生み出す

これまで以上の収益を確保できるようになれば、その分の資金を従業員の給与・賞与や福利厚生として還元できます。仕事に対する努力を正当に数字で還元するシステムができあがるので、更にモチベーションを喚起しやすく、従業員満足度やエンゲージメントを向上できます。エンゲージメントの高い従業員は更に仕事に身が入るようになるため、顧客ロイヤリティ向上や収益向上に大きく貢献してくれるでしょう。

結果、サービス・プロフィット・チェーンの実現により、社内に良いサイクルができていることがわかります。「従業員満足度」「顧客満足度」「業績」のどれかひとつでも欠けていると理想的な効果が発揮されないため注意しましょう。

サービス・プロフィット・チェーンのメリット

サービス・プロフィット・チェーンを実現するメリットは、下記の通りです。

     
  • 成功すれば最小限のコストで高い利益を獲得できる
  • 自社だけでなく従業員や顧客にも良い影響を与える

サービス・プロフィット・チェーンは「従業員満足度」「顧客満足度」「業績」全てを向上させて良いサイクルを作る考え方であり、誰にとってもメリットがあります。結果的に収益向上を目指す手法でありながら、従業員や顧客にとっても良い取り組みができるのです。

また、サービス・プロフィット・チェーンをうまく実現できれば、最小限のコストで高い利益を獲得できるようになります。

例えば、従業員満足度が低い場合、離職予防と採用強化にかけるコストが高くなりますが、サービス・プロフィット・チェーンを実現できていれば人材にかけるコストを削減できます。同様に、多額の広告宣伝費をかけずとも顧客が集まってきてくれるので、コストを他にかける余裕が生まれます。

サービス・プロフィット・チェーンのデメリット

サービス・プロフィット・チェーンの実現には、以下のようなデメリットもあるので注意しましょう。

     
  • 初期コストが高い
  • 継続しないと意味がない

サービス・プロフィット・チェーン実現にはまず従業員満足度を上げる必要があり、休暇の付与・福利厚生の充実・教育研修制度の拡充などにコストがかかります。一朝一夕で従業員満足度が上がるとは限らないため、一見すると結果が出ていないように感じられる施策でも長く続ける必要があり、コスト面での不安が大きくなります。

従業員満足度向上施策にかけたコストが、どの程度売上増や顧客獲得につながっているのか、効果測定しづらいのもデメリットです。継続しないと意味がないにもかかわらず効果測定ができず、正しい施策であるか見えにくくなるので失敗する可能性もあるのです。

サービス・プロフィット・チェーンの取り組み事例

最後に、サービス・プロフィット・チェーン実現に成功した事例を紹介します。どのような切り口から施策を始めたのかを把握し、自社でも役立つ要素がないかチェックしてみましょう。

事例①:星野リゾート

旅館・ホテルやスキー場などを運営する星野リゾートでは、社内ビジネススクールの設立や立候補制度の確立などによる従業員の満足度向上を実現しています。

従業員の自己実現やキャリアアップを応援する仕組みであり、自律的な働き方を歓迎するようになりました。やる気に応じて性別・年齢・勤続年数に関係なく、昇進できるよう評価制度も見直し、キャリアの形成を支援しています。

結果、星野リゾートで働くメリットを実感できるようになった従業員の離職率が下がり、良い人材も積極的に採用できるようになるなど良いサイクルができ上がっています。従業員ロイヤリティの向上は顧客への接客品質向上にもつながり、サービス・プロフィット・チェーン(SPC)の実現につながっています。

事例②:ザ・リッツ・カールトン

ザ・リッツ・カールトンでは、チームワークを高めるために社内で使える「サンクスカード」を導入しています。

サンクスカードとは、従業員同士がお互いに感謝の気持ちを伝えるためのカードで、仕事を手伝ってもらったときやミスをカバーしてもらえたときに気軽に贈り合える名刺サイズのメッセージカードです。良いアイディアを発信した従業員に送られることも多く、同僚の良い面に注目するポジティブなシステムとして確立しました。

社内に褒めあいの精神が根付いたことにより組織全体の風通しが良くなり、社内コミュニケーションの促進にもつながった事例です。「訪れるお客様に対しても自然にお礼の一言が出るようになった」など、接客品質の向上にもつながっています。

事例③:スターバックス

コーヒーチェーンのスターバックスでは、接客マニュアルを作らず現場に裁量をもたせる教育体制を実施しています。

正社員であってもパート・アルバイトであっても、その瞬間の顧客の様子を見ながら自分がベストだと思える接客ができるようになり、仕事に対する自律性が表れるようになりました。結果として「もう一歩踏み込んだ接客ができる」「マニュアルに捉われないフレキシブルなコミュニケーションができる」など、多くの効果を呼んでいます。

スターバックスで思わずほっとするような、丁寧かつ明るい接客がおこなわれているのは、経営層が現場を信じてある程度の裁量を与えているからだとわかります。ホスピタリティとは何か考えるきっかけにもなり、サービス・プロフィット・チェーンを実現できるような雰囲気づくりが確立されています。

まとめ

サービス・プロフィット・チェーンは「従業員満足度」「顧客満足度」「業績」全てを向上させる考え方であり、誰にとってもメリットのある取り組みとして確立しています。その分、初期コストが高いことや、継続することで初めて効果が現れることが難点ですが、実現すれば大きなメリットを実感できるでしょう。

本記事で紹介した事例や実現ステップを参考に、自社で導入した場合の施策を考案してみてはいかがでしょうか。

PEAKSMEDIA編集チーム

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