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イノベーションのジレンマとは
イノベーションのジレンマとは、アメリカの経営学者であるクレイトン・クリステンセン(Clayton Christensen)によって提唱された概念です。企業が既存の製品やサービスに焦点を当てることで、新しい技術やアプローチから遅れをとり、競争力を喪失するという現象を指します。
企業が既存の製品やサービスで市場のリーダーシップを確立し、一定の利益を安定して上げている場合、往々にしてその製品やサービスを改善し、顧客の満足度を向上させ、安定した収益を確保しようとするでしょう。
しかしながら、既存の製品やサービスへの過度な焦点は、全く新しいアプローチで顧客のニーズを満たす可能性がある場合に、それに対応する能力を低下させる結果となります。視野が狭くなると、潜在的なニーズや市場の変化に敏感に対応することが難しくなり、結果的に企業はイノベーションのジレンマに陥る可能性が高まるでしょう。
イノベーションは一般的に「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」に分類されます。これらの異なるタイプについて、それぞれの特徴や影響について考察していきます。
持続的イノベーション
持続的イノベーションとは、既に存在する市場で、企業や消費者のニーズのある従来の商品やサービスの性能、また「価値を向上させるイノベーション」のことです。企業の競争優位性や収益を維持・向上させることを目的としています。
持続的イノベーションの事例には、以下のようなものがあります。
- 自動車の燃費を向上させる
- 掃除機の吸引力を向上させる
- 家電製品の消費電力を減少させる
- パソコンやスマートフォンの性能を向上させる
既存商品やサービスの性能を向上させるため、リスクが低く、安定した収益を得られるビジネスモデルを構築するのが持続的イノベーションです。安定した収益を得る一方で、将来のニーズに対応した技術革新が行われず、市場の動向に対応できなくなる可能性があります。
破壊的イノベーション
破壊的イノベーションとは、既に存在する市場で企業や消費者のニーズのある従来商品やサービスにはない、「新しい価値を与えるイノベーション」のことです。破壊的イノベーションが成功すると、新たな市場や顧客を開拓でき、大手企業が対応できない領域でシェアを伸ばすことが期待できるでしょう。
破壊的イノベーションの事例には、以下のようなものがあります。
- 自動的に掃除をしてくれるロボット
- 新しい感覚の楽しみ方ができるゲーム機器
- 低価格の移動を実現する格安航空会社
- 音楽や映画のサブスクリプションサービス
破壊的イノベーションは、大手企業では対応できない価格帯や細かいところに手が届くサービスによって、市場のシェアを拡大できる可能性があります。潜在的な顧客を対象にしたり、これまでとは違う価値を提供したりすることによって、市場に商品やサービスを展開することが重要です。
イノベーションのジレンマが起こる原因
イノベーションのジレンマが起こる原因は、以下のとおりです。
- 既存事業に依存している
- 破壊的イノベーションに対する関心不足
- ニーズに合わない技術向上
- 新規市場への参入機会を見逃している
それぞれの原因について、詳しく解説します。
既存事業に依存している
自社の商品やサービスを既存顧客のニーズにあった改良を続け、安定した収益を継続することは既存事業に依存していることになります。
過度に既存事業に依存していると、市場の変化に適応することができません。既存の事業が収益を上げているからといって、時代の変化に対応できなければ、将来の成長は期待できないでしょう。
ただし、時代の変化に企業全体の事業をシフトすることが得策ではありません。既存事業の持続と合わせて、市場の変化や他社との競争に対して柔軟に対応することが求められます。
破壊的イノベーションに対する関心不足
破壊的イノベーションに対する関心不足は、持続的イノベーションのみに注力していると起こりやすいでしょう。持続的イノベーションで主力事業を展開し、安定した収益を得ているビジネスモデルの企業は、破壊的イノベーションに対して関心が不足しやすくなります。
破壊的イノベーションによって生み出される製品やサービスが市場に新たな価値をもたらし、高く評価されるようになると、従来の価値が低下し、市場でのシェアを維持するのが難しくなる点には注意が必要です。
ニーズに合わない技術向上
市場が求めていない技術の向上に力を入れすぎると、イノベーションのジレンマが起こりやすくなります。新しい技術を研究して成長させることは、他社との差別化になるため企業として重要ですが、顧客がついてこない可能性があります。
市場や顧客の現在の要望を理解し、それに応じて適切なスピードと力の入れ方で変革を進めることが重要です。
新規市場への参入機会を見逃している
急速に変動する現代のビジネス環境では、新たな市場が常に作られています。企業は事業展開を検討する際に、新しい市場の規模や予想される収益などを考慮した結果、参入機会を見逃すことがあるでしょう。
市場が変化するタイミングで積極的に参入の検討をしなければ、シェアの拡大や顧客の獲得で競合他社に遅れてしまう可能性があります。変化に対する迅速な適応力と行動力が重要視される社会において、新市場の動向は見逃せない要素です。
イノベーションのジレンマを防ぐための対応策
イノベーションのジレンマを防ぐための対応策は、以下のとおりです。
- トライアンドエラーを繰り返す
- フラットな視野を持つ
- 新たなイノベーションを予測する
それぞれの対応策について、詳しく解説します。
トライアンドエラーを繰り返す
市場が求めるイノベーションは、時代と共に変化を続けています。長い年月をかけて改良を続けてきた商品やサービスも、市場に出回るタイミングではニーズを満たせない可能性があります。顧客が求める価値の変化に自社の商品やサービスがマッチしないと、イノベーションのジレンマを起こしてしまうでしょう。
イノベーションのジレンマを防ぐためには、できるだけ短期間に失敗体験をし、気づきから改善をするトライアンドエラーを繰り返します。
フラットな視野を持つ
市場の変化や新しい技術の登場に対応するためには、フラットな視野を持つことが非常に重要です。顧客のニーズの変化をキャッチアップし、新たな技術の導入を実現しなければ市場競争において生き残りが難しくなります。
今後市場で展開される商品やサービスがどのような成長を続けるのか、市場から求められる機能がどのようなものかを研究する必要があります。
過去の経験に偏った視点や自社独自の視点ではなく、市場や顧客の視点に立って改革を進めることがイノベーションのジレンマを防ぐことにつながるでしょう。
新たなイノベーションを予測する
イノベーションのジレンマを防ぐためには、社会全体の動きを観察しながら市場の変化に対応する新しいイノベーションを予測することも重要です。
破壊的イノベーションに伴う経営リスクや市場競争の優位性についても、正確な市場予測を行うことで予防できます。イノベーションを予測するためには、目先の利益に捉われず、常に市場の変化にアンテナを張っておく必要があります。
イノベーションのジレンマの事例
イノベーションのジレンマの事例を2つ紹介します。
事例①:携帯電話
スマートフォンの登場により、携帯電話市場は大きく変化しました。
日本の電機メーカーは、かつて高いシェアを持っていましたが、海外メーカーのスマートフォンが普及する中で従来の高性能携帯電話戦略が通用しなくなります。結果、複数の国内電機メーカーが携帯電話市場から撤退することとなりました。
このイノベーションのジレンマは、日本独自の多機能な携帯電話からスマートフォンへの急激な市場変化によって引き起こされたものであり、多くの国内電機メーカーが新たな技術に適応できない状況になりました。
事例②:デジタルカメラ
カメラ業界も、スマートフォンの台頭によって破壊的イノベーションが生じ、さらに大企業はイノベーションのジレンマに陥っています。
スマートフォンが誕生した当初は、綺麗な写真を簡単に撮影できる高性能で高価格な一眼レフデジタルカメラは人気を持続していました。しかし、画質やサイズともに優れた写真を、スマートフォンで撮影できるようになってくると、カメラ市場は一気に変化していきました。
その上、撮影したデジタル画像をそのままSNSなどで共有できる手軽さから、デジタルカメラの市場はスマートフォンに取って代わったのです。
「携帯電話」という、カメラとはそもそも全く異なった製品が破滅的イノベーションをもたらすことは予想できず、まさにイノベーションのジレンマに陥ってしまった事例と言えるでしょう。
まとめ
イノベーションのジレンマは、企業が既存商品に焦点を当てることで、新しい技術やアプローチに遅れをとり、競争力を失う現象です。
ジレンマの原因は、既存事業への依存や破壊的イノベーションへの関心不足などがあります。イノベーションのジレンマを防ぐために、トライアンドエラーを繰り返し、顧客の変化をフラットな視野で見ることが重要です。