GREEN

宇宙太陽光発電システムとは?仕組みやメリット・課題を解説

SHAREこの記事をシェアする

皆さんは「夢の発電」と言われるSSPSをご存知でしょうか?

SSPS=宇宙太陽光発電(Space Solar Power System, SSPS)
宇宙から地球に電力を送るという、まるでSFのような技術のことです。

この記事では、宇宙太陽光発電の基礎知識から最新の研究動向まで、分かりやすく解説します。宇宙やエネルギーに興味がある方は、ぜひ読み進めてください。宇宙太陽光発電の仕組みやメリット・課題を知ることで、あなたの視野が広がるかもしれません。

宇宙太陽光発電とは?

宇宙太陽光発電は、地上のエネルギー問題を解決するための革新的な技術です。宇宙空間に設置された太陽光パネルで発電した電力を、マイクロ波やレーザーなどの電磁波に変換して地球に送り、地上の受信施設で再び電力に戻すという技術です。

宇宙太陽光発電の最大の特徴は、地球の昼夜や季節、天候に関係なく、安定的に大量の電力を供給できることです。また、宇宙から送られる電磁波は、大気や雲による減衰が少なく、高い効率で地上に届けることができます。

さらに、宇宙太陽光発電は、太陽の光を直接利用するため、二酸化炭素や排熱などの環境負荷がほとんどなく、再生可能エネルギーとして期待されています。

宇宙太陽光発電のおおまかな仕組み

太陽からの日射エネルギーを地上に送り、電気エネルギーとして消費者に届くまでの仕組みは、以下のようになります。

     
  • 宇宙空間に設置された太陽光パネルで、太陽の光を受けて熱エネルギーに変換します。
  • 熱エネルギーを電気エネルギーに変換します。
  • 電気エネルギーを電磁波に変換します。このとき、マイクロ波やレーザーなどの送電装置を利用します。
  • 電磁波をパラボラアンテナやフェーズドアレイアンテナなどの送信装置を利用し、地球に向けて送ります。
  • 地上の受信施設で、電磁波を再び電気エネルギーに変換します。
  • 電気エネルギーを送電網に接続して、消費者に供給します。

宇宙太陽光発電の歩みと現状

宇宙太陽光を利用して発電するという革新的なアイデアは、1968年アメリカのPeter Glaser博士によって初めて提案されたのが始まりです。以来、宇宙太陽光発電の実現に向けた研究開発が続けられています。

Glaser博士の提唱後、アメリカや中国を含む各国はこの分野に関心を示し、研究開発に乗り出しました。しかし、巨額の建設コストや技術的な障壁から、現在では、日本が唯一この革新的な技術開発に取り組み研究をすすめています。

現在のところ、宇宙太陽光発電は依然として実験段階にあり、商用レベルでの運用には至っていません。技術的な課題、高額な開発コスト、そして安全性の確保など、克服すべき多くのハードルがいくつも存在します。しかし、地球上でのエネルギー問題を解決するための持続可能な解決策として、その可能性は計り知れないものがあります。

宇宙太陽光発電のメリット

宇宙太陽光発電のメリットとして、以下の5つが挙げられます。

     
  • 天候・時間帯・自然災害の影響を受けない
  • 利用できる太陽光の強度が地上より高い
  • 送電先の切り替えが簡単
  • 発電時に温室効果ガスなどが発生しない
  • 発電時に燃料を利用しない

それでは、それぞれのメリットについて説明します。

天候・時間帯・自然災害の影響を受けない

宇宙太陽光発電は、地上の気象条件の影響を受けず、昼夜を問わず安定した電力供給が可能です。また、地上の太陽光発電システムと異なり、自然災害による被害リスクが低いため、電力供給の安定性が高まります。

ただし、地上に設置される受電設備は自然災害の影響を受ける可能性があるため、その点は注意が必要です。

利用できる太陽光の強度が高い

強度が高い太陽光を利用できるのも宇宙太陽光発電のメリットの一つです。宇宙太陽光発電では、大気や雲によって太陽光の強度が減少しないため、地上に比べ約1.4倍高い太陽光を利用することができます。

この高い太陽光の強度により、同じ面積の太陽光パネルからより多くの電力を生成することが可能となります。これにより、地上の太陽光発電に比べて効率的に電力を供給できるため、宇宙太陽光発電は将来のエネルギー供給源として非常に有望視されています。

送電先の切り替えが簡単

宇宙太陽光発電は、電波やレーザーなどの無線送電技術を用いて、地球に電力を送ります。このとき、地球上の受信施設(レクテナ)への指向性を調整することで、発電された電力を必要とする地域に迅速に転送することが可能になります。つまり、送電先の切り替えが簡単にできるということです。

この柔軟性は、エネルギー需要が時間帯や季節、または突発的な事象によって変動する際に大きな利点となります。例えば、夏の昼間にはエアコンの使用量が増えるため、電力需要が高まります。このとき、宇宙太陽光発電はその地域に電力を送ることで、電力不足を補うことができます。また、自然災害によって通常のエネルギー供給インフラが損傷した場合でも、迅速に電力供給を再開することができます。

このように、送電先の切り替えが簡単なことで、さまざまなメリットがあります。

発電時に温室効果ガスなどが発生しない

宇宙太陽光発電は、太陽光を直接電力に変換するため、発電プロセス中に温室効果ガスやその他の有害な排出物を発生させません。これは、地球の気候変動や環境問題に対する大きなメリットです。

従来の発電方法では、石油や石炭などの化石燃料を燃やして電力を生産するため、大量の二酸化炭素や窒素酸化物などの温室効果ガスを排出していました。これらのガスは、地球の温度を上昇させるといった深刻な影響をもたらしています。宇宙太陽光発電は、このような発電方法と比べて、地球に優しいエネルギーと言えます。

発電時に燃料を利用しない

宇宙太陽光発電が燃料を必要としないのは、太陽の光を直接電気に変換するためです。このため、限られた資源の消費や、燃料供給のためのコストがかからないというメリットがあります。

また、資源の枯渇や市場価格の変動に左右されることなく、安定したエネルギー供給が可能となります。これは、エネルギーの供給セキュリティを高める上で、非常に重要な意味を持ちます。

宇宙太陽光発電の課題

宇宙太陽光発電の開発と実用化には、技術的、経済的、安全性に関する以下の課題が存在します。

     
  • 宇宙における大規模建造物の技術的ハードル
  • 電力の安定供給の実現
  • コストとのバランス検討
  • マイクロ波・レーザー光の安全性確認
  • 維持管理上のトラブル対策

以降では、それぞれの課題について説明します。

宇宙における大規模建造物の技術的ハードル

宇宙太陽光発電は、宇宙空間に太陽光発電パネルを設置する必要があります。しかし、現在の技術では、宇宙に大規模な建造物を建設することは困難です。特に、建造に利用する物資を運ぶ手段が一番のネックとなっています。

宇宙太陽光発電パネルは、地上で組み立ててからロケットで打ち上げる方法や、宇宙で組み立てる方法が考えられますが、どちらもコストや技術的な問題があります。
目標達成のためには、輸送コストの削減や建設技術の革新が求められます。

電力の安定供給の実現

宇宙太陽光発電は、電波やレーザーなどの無線送電技術を用いて地球に電力を送ります。しかし、無線送電による電力の安定供給には、送電効率の向上と送電中のエネルギー損失の最小化が課題となっています。また、地球のどこへでも柔軟に電力を供給できる技術の確立が必要です。

コストとのバランス検討

宇宙太陽光発電には、地上の太陽光発電よりも高い電力を生産できるというメリットがありますが、それには高いコストがかかります。宇宙太陽光発電のコストとして、以下のような要素があります。

     
  • 建造物の設計・製造・打ち上げ・組み立て・運用・維持・廃棄などのライフサイクル全体にかかるコスト
  • 送電効率や送電先の選択肢などの送電性能に関するコスト
  • 送電の安全性や環境への影響などの社会的なコスト

宇宙への輸送費や建設費は特に高額であり、これらを如何にして効率良く、経済的に実現できるかが成功への鍵となります。

マイクロ波・レーザー光の安全性確認

マイクロ波やレーザー光の安全性は、宇宙太陽光発電システムを地上で利用する上で重要な課題です。特に、レーザー光は直視すると網膜に回復不能なダメージを与える可能性があるため、人の立ち入る場所での実験ができないなどの制限があります。

また、マイクロ波やレーザー光の影響による環境への影響や電子機器への影響なども検討する必要があります。

維持管理上のトラブル対策

宇宙太陽光発電システムの維持管理上のトラブル対策は、システムの安定稼働に欠かせません。宇宙空間での大量輸送技術や大規模宇宙構造物の構築技術、長期間にわたる運用・維持(補修)技術など、多くの技術的課題が存在します。

また、宇宙環境における材料の劣化対策やメンテナンスの困難さも大きな課題です。これらの問題に対処するためには、研究開発を継続していく必要があります。

よくある質問

宇宙太陽光発電は、革新的なエネルギー技術として注目を集めていますが、一般にはまだ馴染みが薄く、疑問や不明な点が多いのも事実です。

ここでは、宇宙太陽光発電に関するよくある質問をいくつか取り上げ、説明していきます。

実現はいつ?

現在、21世紀後半以降の実現を目指して研究開発が進められています。ただし、これは現時点での想定であり、技術の進捗や宇宙輸送コストの低下によって変更される可能性があります。

安全性の心配はない?

マイクロ波やレーザー光の安全性に関しては、強度を適切なレベルに抑えることや受電設備内への人の立ち入りを防止するなどの対策によって地上の安全を確保することができます。ただし、引き続き安全性に関する研究が必要です。

地球環境に対してどのような影響がある?

地球温暖化や気候変動に対する影響は小さいと考えられています。宇宙太陽光発電によって地球に追加で持ち込まれるエネルギーは、太陽から地球に降り注ぐエネルギーの総照射量の数十万分の1以下であるため、影響は限定的でしょう。

まとめ

宇宙太陽光発電は、宇宙空間の太陽光を利用して地上に電力を供給する革新的な技術です。昼夜や天候に左右されず、安定したエネルギー供給が可能であり、環境負荷も低いため、再生可能エネルギーとして期待されています。しかし、実現には技術的、経済的、安全性に関する課題があり、21世紀後半以降の実用化を目指して研究開発が進められています。今後さらなる技術開発の進展と社会的な合意形成が重要とるでしょう。

PEAKSMEDIA編集チーム

PEAKS MEDIAは製造業の変革やオープンイノベーションを後押しする取材記事やお役立ち情報を発信するウェブサイトです。

際立った技術、素材、人、企業など多様な「 PEAKS 」を各企画で紹介し、改革を進める企業内イノベーターを1歩後押しする情報をお届けします​。

SHAREこの記事をシェアする