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これからの経営にはTNFDが必要?概要やフレームワークの内容を解説

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自然資本の価値を経営に反映させることは、持続可能な社会の実現に向けて重要な取り組みです。しかし、自然資本の価値をどのように評価し、どのように開示するかはまだ明確な基準がありません。そこで、自然資本の価値を経営に組み込むための国際的な枠組みとして、TNFD(Task Force on Nature-related Financial Disclosures)が注目されています。
この記事では、TNFDとは何か、どのような目的と内容を持つのか、どのような影響を与えるのかを解説します。自然資本の価値を経営に活かしたい企業や投資家、また、自然資本の保全に関心のある方はぜひご参考ください。

TNFDとは?

TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)とは、日本語で「自然関連財務情報開示タスクフォース」と訳されています。企業や投資家が自然資本に関連するリスクと機会を評価、管理、報告するための枠組みです。気候変動に関する財務情報開示タスクフォース(TCFD)に触発され、自然と生物多様性の保全を経済活動と直接結びつけることを目的としています。タスクフォースとは緊急性のある課題の解決のため、一時的に作られる組織のことです。

TNFDの主な目的は、自然環境への影響を踏まえたリスク管理と機会の特定を通じて、企業や投資家がより持続可能な意思決定を行えるようにすることです。このフレームワークは、自然資本に基づいた財務情報の開示を促進し、企業が直面する物理的リスク(気候変動による影響など)や移行リスク(低炭素経済への移行に伴う経済的影響など)、さらにはそれらに対する対策や戦略を明らかにします。

TNFDは一つの概念として捉えられがちですが、実際には二つの側面を持っています。一つは組織自体であり、もう一つは組織が推進するフレームワークです。

組織としてのTNFDは、国際的な専門家やビジネスリーダー、金融機関などから構成され、自然資本に関する財務情報の開示基準を策定し、推進しています。フレームワークとしてのTNFDは、その基準やガイドラインを具体的に示し、企業や投資家が実践に移すための道筋を提供します。

TNFDの発足と歴史

自然環境の急速な悪化は、企業活動に直接的な影響を及ぼすようになりました。企業は、自然資本から生じるリスクと機会を管理する必要性に迫られています。これに対応するため、TNFDが設立されました。

     
  • 2019年:世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)にて着想を得て、フランスで開催されたG7環境大臣会合においてタスクフォース立ち上げを呼びかけ
  • 2020年:グローバル・キャノピー、国連開発計画(UNDP)、国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)、WWFの4機関によりTNFD 非公式作業部会(IWG)の結成を公表
  • 2021年:共同議長としてロンドン証券取引所グループ(LSEG)のDavid Craig氏とCBD事務局のElizabeth Maruma Mrema氏の就任を表明し、TNFDのローンチを宣言。また、TNFDのフレームワークを推進するタスクフォースとそれを支援する協議フォーラムを立ち上げ
  • 2022年:フレームワークのベータ版0.1を公表。20の新興国及び先進国市場の金融規制当局、データ作成者、データ利用者との協議を実施
  • 2023年:主要・特定のイベントやコミュニケーションを通じてフレームワークをローンチ。フレームワークの導入を支援する継続的なガイダンスを展開

TNFDの発足と歴史を見ると、自然資本の価値を経営に反映させることの重要性が高まっていることがわかります。TNFDはまだ発展途上の枠組みですが、今後、自然資本に関連する財務情報の開示に関する国際的な基準となることが期待されます。

TNFDの詳細

TNFDとは、自然に関連する財務情報開示に関するタスクフォースのことです。このタスクフォースは、自然の多様性や生態系の損失による金融リスクや機会を評価し、企業や投資家に情報開示を促すことを目的としています。

以降では、TNFDの「目標」「受益者」「メリット」について解説します

目標

TNFDの最終的な目標は、自然の多様性や生態系の保全や回復に寄与することです。自然は私たちの生活や経済に欠かせないものですが、人間の活動によって、自然は大きなダメージを受けています。

このような状況を改善するために、TNFDは自然に関連する金融リスクや機会を可視化し、企業や投資家に情報開示を促すことを目標としています。情報開示することで、企業や投資家は、自然に対する自分たちの影響や依存度を認識し、自然に優しい経営や投資を行うことができます。

情報開示の対象となるのは、主に企業や金融機関です。企業は、自然に関連するリスクや機会を自社の財務報告や持続可能性報告に盛り込むことが求められます。金融機関は、自然に関連するリスクや機会を自社のポートフォリオや資産運用に反映させることが求められます。

情報開示の受け手となるのは、主に投資家や政策決定者です。投資家は、情報開示されたデータをもとに、自然に配慮した投資判断やエンゲージメントを行うことができます。政策決定者は、情報開示されたデータをもとに、自然に関する規制やインセンティブを設定することができます。

受益者

TNFDにより便益を受けるのは、企業はもちろんですが、そのほかにもアナリスト、規制当局、株式取引所、会計事務所など多方面に及びます。また、透明性の高い情報開示によって、投資家はその情報に基づいた意思決定が可能になり、結果として社会全体の持続可能性が向上します。

さらに、自然環境へのポジティブな影響は地球上のあらゆる生物に恩恵をもたらします。このように、TNFDは多方面にわたる受益者を持ち、その重要性は日増しに高まっています。

メリット

TNFDに基づく情報開示は、企業にとって複数のメリットをもたらします。まず、自然環境との関係性を明確にすることで、リスク管理が強化されます。

また、持続可能な経営への移行は、投資家や顧客からの信頼を高め、長期的な企業価値の向上に寄与します。さらに、規制への対応力も強化され、将来的なビジネスチャンスを捉えやすくなります。

TNFDのフレームワーク(最終提言v1.0)

TNFDフレームワークは、「開示提言」と「LEAPアプローチ」の2つで構成されています。 

フレームワークとは、ビジネスにおいて経営戦略に役立つ枠組みのことです。課題の洗い出しや解決方法など、決められた枠へ要素を当てはめることでスピーディーに問題を解決できます。

TNFDは、2021年6月に組織が設立されて以降、2022年3月からフレームワークが順次公開されてきました。2023年9月18日に最終提言v1.0が発表され、これが現状最新のフレームワークとなっています。この最終提言によって、生物多様性に関わる自然関連情報の何を特定・分析し、何を公表すべきなのかが示されました。

開示推奨項目

TNFDには、次の4つの開示推奨項目があります。

     
  • ガバナンス
  • 戦略
  • リスク管理
  • 指標と目標

それぞれの項目について解説していきます。

ガバナンス

自然に関連する企業のガバナンス、管理体制を開示します。
TNFDで推奨されている開示内容は以下の通りです。

     
  • 自然関連の依存、影響、リスク、機会に関する取締役会の監視についての説明
  • 自然関連の依存、影響、リスク、機会を評価して管理するための経営者の役割についての説明
  • 先住民族や地域社会など、影響を受けるステークホルダーとの関係についての説明

戦略

企業のビジネスモデルや戦略、財務計画の影響を開示します。
TNFDで推奨されている開示内容は以下の通りです。

     
  • 短期、中期、長期にわたり識別した、自然に関する依存、影響、リスク、機会についての説明
  • 自然関連リスクや機会が、組織の事業、戦略、バリューチェーンに与える影響についての説明
  • 自然関連リスクと機会に対する組織の戦略に関して、さまざまなシナリオを想定した説明
  • 企業活動や資産の所在地について

リスク管理

自然との依存関係、影響、リスク、機会を評価したうえで優先順位を決め、企業の管理方法について説明する項目です。
NFDで推奨されている開示内容は以下の通りです。

     
  • 直接事業での自然関連リスクと機会について特定、評価するプロセスの説明
  • 上流および下流のバリューチェーンでの自然関連の依存、影響、リスク、機会について特定、評価するプロセスの説明
  • 自然関連リスクおよび機会を管理するプロセスについての説明
  • 自然関連リスクを特定、評価、管理するプロセスがどのようなかたちで統合されているかの説明

指標と目標

自然との依存関係、影響、リスク、機会の評価や管理の際に使用する指標と目標を開示します。
TNFDで推奨されている開示内容は以下の通りです。

     
  • 自然関連リスクと機会を評価、管理するために使用する指標
  • 自然への依存と影響を評価、管理するために使用する指標
  • 自然関連の依存、影響、リスク、機会を管理するために使用する目標、ゴール、ならびに目標に対するパフォーマンスについての説明

LEAPアプローチ

LEAPアプローチとは、TNFDが提唱した開示する際に必要な情報を抽出するためのガイダンスです。

開示内容の骨子、「機会」「リスク」を評価するための4つのステップ「Locate」「Evaluate」「Assess」「Prepare」の頭文字をとった略語です。

自社にとって重要な自然を評価するためには、これらのステップを踏むことでリスクを最小限におさえる取り組みが必要となります。

ステップ1:Locate(場所や接点の発見)

Locateでは、セクター、バリューチェーン、地理的位置の3つのフィルターによって、自然に関係する潜在的な課題を絞り込んで優先順位をつけます。

事業活動において、自然への依存関係や影響、リスクや機会は場所特有のものであり、これらを特定し、評価しつつ管理していくためには、立地が重要であるとされています。

ガイダンスにおいては、以下の成果が期待されています。

     
  • 事業活動を行う上で、生態学的に影響を受けやすい場所のリストや地図、LEAP評価を行う場所
  • 自然との接点を評価したビジネスモデル、バリューチェーン、資本ポートフォリオの割合の理解

ステップ2:Evaluate(診断)

企業や組織にとって、潜在的に関係する自然への依存関係や、どんな影響を与えるかを診断します。上流・下流のバリューチェーンも含まれ、最も優先すべき課題、例えばパーム油の産地などから着手します。

このフェーズでは、以下の成果が求められています。

     
  • 自組織と関連性のある環境資産・生態系サービスのリスト
  • 自組織が自然へ依存する関係、および与えるインパクトのリスト
  • 潜在的する重要な依存関係と自然へ与えるインパクトを分析したリスト

ステップ3:Assess(評価)

ここまでのステップで把握できた、自然に対する依存関係およびインパクトの要因として、企業活動にとって何がリスクで、どんなことが機会になるかを評価します。

このステップでは、以下の成果が期待されています。

     
  • 自然に関するリスクや機会における既存リスクマトリクスへプロットできるロングリスト
  • 重要な自然に関するリスクや機会のショートリストや優先順位の高い場所のリスト
  • 自然に関するリスクや機会を、既存のリスクと統合させるプロセスの概要

ステップ4:Prepare(準備)

これまでの分析結果から特定された課題へどのように対応すべきか、達成すべき指標と目標を設定して開示に向けて準備します。

Prepareのステップでは、目標設定や戦略、パフォーマンス・リソース管理、報告や公表を行うフェーズで、以下の成果が期待されています。

     
  • 効果的な目標や、ターゲットの設定、また特定された自然に関わる課題へどのように対応するか
  • 評価に照らしたガバナンス、リスク管理プロセスに関する組織内の議論
  • LEAPアプローチによって評価された自然関連の設定した目標やターゲット
  • TNFDに沿った開示の作成および公表

TNFDの今後

TNFDに先行するTCFDは、東京証券取引所プライム市場上場企業が開示を義務付けられるなど定着化が進んでいるといえます。一方、TNFDについては、さまざまな指標の測定・分析方法が未成熟といえるため、短期間での義務化は難しいと見られています。

【参考】TNFDと深く関わる概念

持続可能な経営と環境への配慮は、今日のビジネスシーンにおいて避けて通れないテーマとなっています。上記ではTNFDについて解説してきましたが、このフレームワークを理解するためには、TNFDと密接に関連するいくつかの概念を把握することが重要です。

特に、以下の2つはTNFDの理解を深める上で欠かせない用語です。

     
  • TCFD
  • ネイチャーポジティブ

TCFD

TCFDは、企業が気候変動に関連するリスクと機会をどのように理解し、開示しているかに焦点を当てたイニシアチブです。TCFDとTNFDはしばしば混同されがちですが、重要な違いがあります。

TCFDは気候変動に特化しているのに対し、TNFDはより広範な自然環境全般に焦点を置いています。両者は相補的であり、企業が環境リスクを総合的に管理するためには、双方の枠組みを理解し、適用することが重要です。

ネイチャーポジティブ

「ネイチャーポジティブ」とは、生物多様性を含む自然環境に対して正の影響を与える行動や戦略を意味します。TNFDとの関係では、ネイチャーポジティブなアプローチは企業が自然環境に与える負の影響を最小限に抑え、できればプラスの影響を与えるように努めることを示唆しています。

この概念は、持続可能なビジネスモデルの構築と自然環境との調和を目指す企業にとって重要な指針です。

地域ごとの生態系を可視化する「ANEMONE」を主催する東北大学大学院生命科学研究科 教授の近藤倫生(みちお)氏への取材記事はこちら

まとめ

TNFDは、自然環境と経済活動の相互依存性を理解し、持続可能な未来への転換を促すための重要なステップです。企業にとっては、自然資本に対する理解を深め、リスクを管理することが、長期的な成功に不可欠です。これからの経営において、TNFDのフレームワークを活用し、自然と調和したビジネスモデルの構築を目指すことが、ますます重要になってくるでしょう。

PEAKSMEDIA編集チーム

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