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半導体業界とは?基本知識
半導体は現代社会に欠かせない重要な電子部品であり、その開発・製造・販売に携わるのが半導体業界です。
ここでは、半導体と半導体業界について基本的な知識を解説します。
半導体とは
半導体とは、電気を通す「導体」と電気を通さない「絶縁体」の中間の性質を持つ、シリコンなどの物質や材料のことを指します。ある条件下では電気を通し、別の条件では電気を通さないという「2つの顔」を持つことが特徴です。この性質を利用して、半導体は電子機器の動作を制御しています。
私たちの日常生活でも、電化製品をはじめ交通信号機や通信機器など、さまざまな場面で半導体が用いられています。目にする機会は多くないものの、身近な存在となっているのです。
半導体は、目的によってさまざまな種類に分類されています。代表的な種類は、ロジック半導体やメモリー半導体、アナログ半導体、パワー半導体です。なかでも、省エネ効果を期待できるパワー半導体と、デジタル機器に利用されているロジック半導体に特に注目が集まっています。
なお、以下の記事でパワー半導体・ロジック半導体の市場シェアや今後の展望について解説しています。興味がある方はぜひ併せてご覧ください。
ロジック半導体とは?|半導体の用途・国内外のシェアを紹介します!
半導体業界とは
半導体業界とは、上記のような半導体を開発・製造・販売する企業群から成り立つ業界のことです。パソコンやスマートフォン、家電、自動車など、現代のあらゆる製品の動作に半導体は不可欠です。そのため半導体業界は、これらの製品を作るために必要な半導体の設計から販売までを担っています。
半導体業界には、半導体そのものを製造する半導体メーカーや、製造に必要な装置を作る半導体製造装置メーカー、半導体を販売する半導体商社などさまざまな企業が存在し、互いに密接に関わり合いながら半導体の供給を支えています。
半導体業界の仕事内容
半導体業界には、半導体の設計・開発から製造、販売に至るまで、さまざまな仕事があります。
ここでは、半導体業界の主な仕事内容である以下について解説していきます。
- 設計・研究開発
- 資材・ツール調達
- 検証・評価
- 営業
設計・研究開発
半導体業界の設計・研究開発では、半導体そのものや半導体製造装置の設計と開発を行います。半導体技術は日々進化しているため、後工程まで見越した材質選択や最新のトレンドを取り入れた設計が求められます。また、顧客のニーズに合わせたカスタマイズも重要な役割です。
この分野には、半導体メーカーや半導体製造装置メーカーが携わっています。
資材・ツール調達
半導体の製造には、シリコンウエハーなどの材料だけでなく、製造装置も必要不可欠です。資材・ツール調達の仕事では、これらの材料や装置を適切に調達・管理します。高品質な材料の安定的な確保と、コストダウンのための交渉が主な業務となります。
検証・評価
半導体や半導体製造装置の性能や品質を確認するのが、検証・評価の仕事です。ハードウェアの評価、製造工程の評価、不具合の有無などを徹底的にチェックします。検証・評価によって、製品の信頼性を担保し、品質の維持・向上を図ります。
検証・評価の際は、評価の手順(フロー)を明確にして、改善点を洗い出すことも重要な業務の一つです。
営業
半導体業界の営業は、製品を顧客に届ける重要な役割を担います。半導体メーカーの営業は、半導体商社に対して自社製品を販売します。一方、半導体商社の営業は、電子機器メーカーや産業機械メーカーなどのエンドユーザーに半導体を販売します。
営業には、技術的な知識とコミュニケーション能力が求められます。顧客のニーズを的確に捉え、最適な製品を提案する能力が重要です。
半導体業界4つの企業群
半導体業界は、主に以下の4つの企業群で成り立っています。それぞれの企業群が密接に関わり合うことで、半導体の安定的な供給が実現されているのです。
- 半導体材料メーカー
- 半導体製造メーカー
- 半導体製造装置メーカー
- 半導体商社
半導体材料メーカー
半導体材料メーカーは、半導体の製造工程で必要となる各種材料を提供している企業群です。具体的には、半導体の基板となるシリコンウエハーや、光によるエッチングに耐えるフォトレジスト、シリコンウエハーの表面を研磨するCMPスラリーなどを提供しています。半導体の高性能化に伴い、材料へのニーズも高度化しており、半導体材料メーカーの技術力が問われています。
なお、代表的な企業には、シリコンウエハーの世界シェア1位の信越化学工業と2位のSUMCO。シリコンウエハーの原料である多結晶シリコンを製造する中国のGCLや韓国のOCI、国内ではトクヤマも高いシェアを誇ります。
半導体製造メーカー
半導体製造メーカーは、半導体そのものを製造する企業群です。半導体材料メーカーから調達したシリコンウエハーなどの材料を用いて、半導体チップを生産します。
半導体製造メーカーは、以下の4種類に分類されます。
【半導体製造メーカーの種類】
1.IDM | 垂直統合型と呼ばれ、設計から製造、販売まで全てを自社で手がける |
2.ファブレス | 設計のみを行い、製造は外部の専門企業に委託する |
3.ファウンドリ | 設計は行わず、受託製造に特化した企業 |
4.OSAT | 組立てとテストに特化した企業 |
なお、代表的な企業には、クアルコムやサムスン電子、インテルなどが挙げられます。国内メーカーではルネサス エレクトロニクスやソニーも世界で高いシェアを誇ります。
半導体製造装置メーカー
半導体製造装置メーカーは、半導体の製造に必要な装置を開発・製造している企業群です。半導体の製造工程は、設計・前工程・後工程の3つに分かれています。各段階で高度な技術と製造装置が求められており、製造装置には極めて高いクリーン度と繊細な制御技術が欠かせません。
代表的な企業にはオランダのASML、アメリカApplied Materials Inc、国内メーカーでは東京エレクトロン、キャノンやアドバンテスト、ディスコなどが挙げられます。日本の半導体製造装置メーカーは、世界的でもトップクラスの技術力を誇っています。
半導体商社
半導体商社は、半導体製造メーカーと、半導体を必要とする電子機器メーカーや産業機械メーカーとをつなぐ役割を担う企業群です。エレクトロニクス専門商社とも呼ばれ、半導体業界に特化した専門性の高い商社として機能しています。
半導体商社の業務は多岐にわたり、半導体の仕入れ、販売、納品、開発サポート、独自の企画・製品開発など、企業によって担う範囲はさまざまです。
なお、代表的な企業には、アメリカのアローエレクトロニクス、台湾WPG、国内ではマクニカ・富士エレホールディングスやレスターホールディングス、加賀電子株式会社などが挙げられます。
半導体業界のニーズがある分野
半導体は、現代社会のさまざまな分野で活用されており、技術の進歩とともにその需要は拡大し続けています。ここでは、半導体のニーズが特に高い以下の分野について解説します。
- 5G
- AI
- 車載半導体
- 産業用ロボット
- 遠隔医療
5G
5Gは、「5th Generation(第5世代移動通信システム)」の略称で、4Gに代わる最新の通信技術です。5Gの主な特徴として、高速大容量通信、超低遅延通信、多数同時接続の3つが挙げられます。
5Gを利用した通信では、信号の変換を行うモデム、各種プログラムの実行を担うプロセッサ、データを記憶するメモリーなど、あらゆる部分で半導体が使用されています。このように、5G技術の実現には高性能な半導体が不可欠です。半導体技術の進歩は、5Gのさらなる普及と発展に大きく貢献するでしょう。
AI
AIの分野では、特定の領域に特化した深層学習(ディープラーニング)の研究が盛んに行われています。ディープラーニングの進歩により、AIはより複雑な思考や判断が可能になりつつあります。
AIは、医学や製造、産業など幅広い分野で活用されていますが、その性能を支えているのが高度な半導体技術です。AIの処理では膨大な量のデータを高速処理する必要があり、高性能な半導体の存在が不可欠なのです。
車載半導体
車載半導体は、自動車の様々な動作を制御するために用いられています。車載半導体には、マイコンやパワー半導体、プロセッサ、センサーなど、多様な種類が存在します。
特に、自動運転機能を搭載した自動車では、パワー半導体が中核的な役割を果たしています。パワー半導体は、電力の制御や変換を行うことで、自動車の動きを正確にコントロールします。半導体技術の発展は、将来的に完全な自動運転の実現につながると期待されています。
産業用ロボット
産業用ロボットは、主に工場での搬送や加工、組立、洗浄などの作業を行うロボットです。生産性の向上を目的として、自動車製造や半導体製造、化学・プラスチック製品の製造など、幅広い分野で活用されています。
産業用ロボットに半導体を搭載することで、より高性能で正確な動作が可能になります。また、人件費の削減や作業者の安全確保にもつながります。今後、産業用ロボットへの半導体の活用はさらに拡大していくでしょう。
遠隔医療
半導体は医療分野でも活用されており、なかでも遠隔医療の実現に大きく貢献しています。例えば、高機能な半導体技術を活用したMEMS(メムス)を医療機器に採用することで、遠隔にいながら心拍の確認や診察を行うことが可能です。
遠隔医療は、地域間の医療サービスの格差を解消し、予防医療の推進にも寄与するとみられています。その遠隔医療の発展には、半導体技術の進歩が大きな役割を果たすでしょう。
半導体業界の売上高ランキング
半導体業界は、デジタル社会を支える重要な基盤産業として知られています。スマートフォンやPC、自動車、IoT機器など、あらゆる電子機器に欠かせない半導体チップの需要は年々増加の一途をたどっており、それに伴って半導体メーカーの売上高もますます拡大しています。
ここでは、世界の半導体業界を牽引するトップメーカーの売上高ランキングを見ていきましょう。
世界半導体メーカー売上高トップ10
市場調査会社のOmdiaが発表した2023年の世界の半導体企業売上高ランキングによると、以下のようになっています。
順位 | 企業名 | 国 | 売上高2023年 (百万ドル) |
1 | Intel | アメリカ | 51,197 |
2 | NVIDIA | アメリカ | 49,161 |
3 | Samsung Electronics | 韓国 | 44,374 |
4 | Qualcomm | アメリカ | 30,913 |
5 | Broadcom Limited | アメリカ | 28,427 |
6 | SK Hynix | 韓国 | 23,680 |
7 | Advanced Micro Devices (AMD) | アメリカ | 22,408 |
8 | Apple | アメリカ | 18,635 |
9 | Infineon Technologies | ドイツ | 17,294 |
10 | STMicroelectronics | スイス | 17,286 |
2023年の半導体企業売上高ランキングトップ20 (出所:Omdia)
このランキングを見ると、アメリカと韓国のメーカーが特に強いことがわかります。
1位のIntelは、1968年の設立以来その卓越した半導体技術により、世界中のコンピューティングテクノロジーを牽引し続けている半導体業界の雄です。
2位のNVIDIAは、主にGPU(グラフィックボード)を開発・販売している大手半導体メーカーです。AIとディープラーニングの分野で高い注目を集めています。
3位のサムスン電子は、エレクトロニクス事業での成功により国際的に認められたテクノロジー業界のリーダーです。DRAMとNAND型フラッシュメモリーというメモリー半導体分野において、圧倒的なシェアを誇っています。
ランキングには入っていませんが、ファウンドリー(半導体の前工程受託)の分野では、台湾のTSMCが世界首位の座を占めています。TSMCは数多くのファブレス半導体メーカーから製造を受託しており、高い技術力と大規模な生産能力を武器に半導体業界に君臨しています。
国内半導体メーカー売上高トップ10
一方、国内の半導体メーカーの売上高ランキングはどうなっているのでしょうか。業界動向リサーチの調査によれば、2022~2023年の国内半導体メーカー売上高トップ10は以下の通りです。
順位 | 企業名 | 売上高2022~2023年 (億円) |
1 | ルネサスエレクトロニクス | 15,008 |
2 | ソニーグループ | 13,014 |
3 | キクオシアHD | 12,821 |
4 | 東芝 | 7,918 |
5 | ローム | 5,078 |
6 | 三菱電機 | 2,815 |
7 | サンケン電気 | 2,253 |
8 | 富士電機 | 2,015 |
9 | ソシオネクスト | 1,927 |
10 | メガチップス | 707 |
(※ソニーグループはイメージング&センシング・ソリューション事業、東芝はデバイス&ストレージソリューション事業、三菱電機は電子デバイス事業、富士電機は半導体事業の売上高です) 出所:業界動向サーチ
国内ランキング1位のルネサスエレクトロニクスは、日立製作所、三菱電機、NECの3社の半導体事業が統合して2010年に発足した会社です。特に「車載マイコン」の分野で世界的に高いシェアを誇っています。
2位のソニーグループは、レンズから入った光を電気信号に変換する半導体である「イメージセンサー」を製造している会社です。イメージセンサーはデジタルカメラやスマートフォンなどのカメラに内蔵されており、高いシェアを持っています。
3位のキオクシアは、もともと東芝の半導体メモリー事業が2018年に分社化して設立した「東芝メモリー」を前身とする会社です。「NAND型フラッシュメモリー」の製造を主力としており、この分野で世界2位のシェアを誇っています。NANDメモリーは、スマートフォンやUSBメモリーなどの記憶装置に広く使われています。
このように、日本の半導体メーカーも独自の強みを生かしながらグローバル市場で存在感を示しており、車載用途やメモリー、イメージセンサーなどの分野で重要な役割を担っています。
半導体業界の現状と課題
半導体業界は、デジタル社会の発展とともに急速な成長を遂げてきましたが、近年ではいくつかの課題に直面しています。
ここでは、世界的な半導体不足と日本のシェア率低下という2つの主要な問題について解説します。
世界中で半導体が不足
2020年以降、半導体の需要と供給のバランスが崩れ、世界的な半導体不足が発生しています。特に2021年には、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴うテレワークの浸透により、ノート型パソコンの需要が大幅に高まりました。その結果、半導体の供給が需要に追いつかない状況が続いています。
実際、2019年と比べて2021年の半導体需要は20%増加しているのに対し、供給能力は8%の増加にとどまっています。半導体の製造には約半年のリードタイムを要するため、需要の急増に対して供給が追いつかないのが現状です。この不足は自動車産業をはじめとする様々な業界に影響を及ぼしており、喫緊の課題となっています。
日本の世界シェア率が減少
かつて日本は半導体業界で世界をリードしていましたが、近年はそのシェアが大きく低下しています。1988年時点では日本のシェア率は50.3%を占めていましたが、アメリカの日本市場拡大や台湾・韓国の市場参入などにより、2019年には10%まで減少してしまいました。
ただし、半導体製造装置においては日本が米国に次ぐ31%のシェアを持ち、主要半導体部素材では世界トップの48%というシェアを誇っています。日本は半導体の製造工程に関する高い技術力を保持しているのです。
日本の半導体産業を再び世界トップクラスに引き上げるためには、国家戦略として半導体工場の新設や既存工場の拡張に取り組む必要があります。政府主導の大規模投資と産業支援により、日本の半導体業界の競争力強化が望まれます。
出典:半導体・デジタル産業戦略_令和5年 6月┃経済産業省 商務情報政策局
半導体業界における日本の将来性
半導体の開発で新たな技術革新が起これば、ニーズの高い分野の発展がさらに加速すると予測されます。具体的には、AI・5G、自動運転、遠隔医療などの分野で半導体の重要性が増していくでしょう。日本企業も、これらの分野に特化した半導体の開発に注力することで、大きな成長機会を獲得できる可能性があります。
世界経済の不確実性や地政学的リスクなどによって、世界の半導体売上高は減少するとの声もあります。しかし、長期的に見れば、デジタル化の加速や新たな技術の登場により、半導体業界は着実に成長を続けていくでしょう。日本企業も、独自の強みを活かしながら、この成長の波に乗っていくことが期待されます。
まとめ
本記事では、半導体業界の全体像を網羅的に解説しました。半導体は現代社会を支える重要な基盤技術であり、5G、AI、自動車、ロボット、医療など幅広い分野で需要が高まっています。一方で、世界的な半導体不足や日本のシェア率低下といった課題にも直面しています。今後、日本の半導体業界が競争力を維持・強化していくためには、グローバルな視点での事業戦略、研究開発の強化、政府の支援などが不可欠です。半導体業界の動向を理解し、その将来性を見据えることで、企業はビジネスチャンスを掴み、イノベーションを促進することができるでしょう。