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ケミカルリサイクルとは
化学的な再生方法であるケミカルリサイクルは、不要な物質を化学的な処理によって変換し、再利用するプロセスを指します。
国内の廃プラスチックの総排出量は、2020年時点で822万トンにのぼり、そのうち全体の3%である27万トンもの廃プラスチックがケミカルリサイクルによって処理されています。
そのリサイクル方法とは、廃プラスチックを油化やガス化して化学的な工業で利用する原材料に変える手法や、畜産糞尿を微生物の働きで分解してガスに化えるバイオガス化などがあります。ケミカルリサイクルによって得られる製品原料は、元の製品と同一である必要はなく、元々の資源とは異なる原料でも可能である点が特徴です。
近年、プラスチックを廃棄する処理に関する深刻な問題が世界的に顕在化する中で、地球の環境を脅かさないリサイクルの手法としてケミカルリサイクルが注目されています。
出典:一般社団法人プラスチック循環利用協会|2022年プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況
その他プラスチックのリサイクル方法
プラスチックを新たにリサイクルする方法はいろいろあります。その他のリサイクル手法を紹介します。
マテリアルリサイクル
マテリアルリサイクルとは、プラスチックを再度利用する方法の一つです。品質基準を満たすためには、高温でプラスチックを溶かして異物や汚れを取り除き、同一分類のプラスチックにします。
一方、ケミカルリサイクルでは、高温で熱分解したり、化学的に分解して合成ガスや分解油などの原材料に変換することで、他の化学物質として再利用されます。
サーマルリサイクル
エネルギー回収プロセスとして知られるサーマルリサイクルは、回収された廃棄物を焼却炉で処理し、その際に発生する熱を回収して再利用する方法です。日本では、この方法で廃プラスチックのおよそ60%が処理され、得られたエネルギーは主に火力発電などに利用されています。
サーマルリサイクルには、石油資源を節約する利点がありますが、一方で焼却によって発生するダイオキシンが懸念されています。このため、欧米ではサーマルリサイクルを認めていないケースもあります。
メカニカルリサイクル
メカニカルリサイクルは、マテリアルリサイクルの一種で、回収された使用済みPETボトルを選別・粉砕・洗浄して表面の汚れや異物を取り除いた後、高温下で除染を行う手法です。
メカニカルリサイクルの代表的な方法として、高度に洗浄されたPETフレークやペレットが除染装置に投入され、加熱されることで汚染物質が除去されます。ケミカルリサイクルと比べて、メカニカルリサイクルは大規模な分解や重合設備を必要としないため、製造コストや環境負荷が低くなります。
ケミカルリサイクルが注目を集める理由
様々なメリットがあるケミカルリサイクルに関して、世界的にも注目を集めている理由について解説します。
マテリアルリサイクルの課題解決
マテリアルリサイクルは、廃プラスチックを新しい製品へ作り変える貴重な手段であるため資源を循環することに貢献しています。しかしながら、異物混入などにより再生製品の品質が損なわれると、再利用が困難になる可能性があります。
一方のケミカルリサイクルは、化学的なプロセスを通じて廃棄物を分解して再利用する方法です。このため、マテリアルリサイクルが難しい資源でも、循環させることが可能です。これにより、これまで焼却や埋め立てられていたゴミも、再利用可能な資源として有効活用されることが期待されます。
エネルギー資源不足
国際研究計画(IHDP)によると、中国、南アフリカ、ブラジル、アメリカ各国において、水産資源や化石燃料、森林などの自然資源が急速に減少しており、このまま消費が進むと数十年後にはエネルギー資源が尽きてしまうと言われています。化学の力を活用して廃プラスチックを再利用することで、化石資源の使用量を大幅に削減できると期待されています。
プラスチック循環利用協会の報告によると、2000年と2010年の間にケミカルリサイクルの量が約4倍に増加しており、積極的な取り組みが行われていること分かります。
プラスチックゴミ問題
プラスチックの主な処理方法は埋め立てですが、プラスチックはその後も微生物による分解が進まず、土の中で永遠に残り続けてしまうといった問題があります。
日本国内では不要プラスチックの処理量が増加しており、このままのペースで廃棄物が増え続けると、日本の最終処分場における残存年数は2044年までであると環境省が予測しています。
従来の埋め立てや焼却といった処理方法ではなく、不要プラスチック問題を解決するために熱分解法やガス化法といったケミカルリサイクルが注目されています。
ケミカルリサイクルのメリット
ケミカルリサイクルのメリットについて解説します。
異物混合・汚染に関わらずリサイクル可能
ケミカルリサイクルは、異物混合・汚染に関わらずにリサイクルが可能な特徴があります。プラスチックを回収した後、再生するプロセスに選別・粉砕・洗浄が含まれているため、異物を取り除いた状態でリサイクルが可能です。
CO2排出量を削減できる
ケミカルリサイクルは、マテリアルリサイクルと比較して工場からのCO2排出量を削減できるケースが多いと報告されています。CO2排出量が削減されれば、環境汚染のリスクを低減できるでしょう。
天然資源の使用料を減らせる
ケミカルリサイクルでは、製鉄所で活用できる還元剤・可燃ガス・油などにリサイクルが可能です。限られた天然資源の使用量を減らせるため、資源の節約になります。
ケミカルリサイクルのデメリット・問題点
ケミカルリサイクルには、デメリットや問題点も存在します。今後のアプローチに向けて課題の把握が重要になるでしょう。ここでは、ケミカルリサイクルのデメリットや問題点を解説します。
高度な処理技術が求められる
プラスチックには、紫外線の影響を受けないための紫外線吸収剤や、ポリ袋の強度や柔軟性を保つための可塑剤などが含まれています。再利用を目的にしていないため、機能性を保ちながら処理をする技術が確立されていません。
ケミカルリサイクルを実現するためには、高度な処理技術が求められます。
大きなコストがかかる
ケミカルリサイクルは、廃プラスチックを分解するプロセスが複雑で大規模な設備投資が必要です。とくに「油化」の工程においては、処理規模に比べて高額な設備投資が必要であり、価格競争力が低下する傾向にあります。
リサイクルに必要な大規模な設備は都市部に建設できません。離れた鉄鋼工場の近くに建設されるため、リサイクルされる素材を運ぶ際の輸送コストも課題の1つです。
再生品の価格が高くなると市場での需要が抑制されてしまい、新品と再生品の間の費用差を埋めるための技術研究が求められます。
プラスチックゴミの確保が難しい
ケミカルリサイクルには、プラスチックゴミの確保が難しいといった課題もあります。
廃プラスチックの十分な量を継続的に確保できなければ、再生品を安定的に供給できません。廃プラスチックを回収するためには、排出点に近い自治体や企業と協働することが必要です。
企業のケミカルリサイクルの取り組み事例
ここでは、代表的な企業の取り組み事例を紹介します。
ガス化「日揮ホールディングス株式会社」
プラスチックは炭素と水素からできており、通常の焼却処理では二酸化炭素と水に変わります。「ガス化」技術を活用すると、酸素の量を制限して加熱でき、炭素水素、一酸化炭素、水素、メタノール、アンモニアなど、化学工業の原料へ分解できます。
この技術を2020年に導入したのが「日揮ホールディングス株式会社」です。
荏原環境プラント株式会社、宇部興産株式会社、昭和電工株式会社と協業し、EUP(Ebara Ube Process)と呼ばれる方法を用いています。これは、廃プラスチックを酸素と蒸気による部分酸化によってガス化し、化学品合成に利用可能な合成ガスを生産しています。
原料・モノマー化「帝人ファイバー社」
原料・モノマー化とは、廃棄された製品を化学的に分解し、元の原料やモノマーに戻し、同一の製品を再生産する技術です。代表例として、ペットボトルを分解したあとにPET樹脂を作り、再び飲料用ペットボトルを生産する「ペットTOペット」が挙げられます。
この技術は、2003年に帝人ファイバー社の研究によって、年間約5万トンのPET樹脂製造が開始されました。しかし、その後、廃ペットボトルの輸出が急増し、原料の調達が困難になったため、帝人ファイバーはボトルtoボトル事業から撤退しています。
しかし、最近では世界各国で廃ペットボトルの輸入が禁止される動きが見られるようになり、再びこの技術が注目されています。
コークス炉化学原料化「日本コークス工業」
製鉄や非鉄金属の精錬に不可欠な燃料であるコークスの生産・供給を行う日本コークス工業では、ケミカルリサイクルの取り組みとしてコークス炉化学原料化法を取り入れています。
これは、既存の製鉄プロセスであるコークス炉を利用したリサイクル方法で、廃プラスチックを高温で熱分解し、コークス、ガス、タールなどの原料に化学変換する技術です。これにより、廃プラスチックを石炭の代替品として有効利用することが可能です。
【環境省】再生プラスチック・バイオプラスチック事業に関する補助事業等とは
環境省では、再生プラスチック・バイオプラスチック等に関する技術実証や設備導入に対する支援措置として、「実操業にあたって解決すべき技術的課題を解消するための支援」「実操業にあたっての設備導入の支援」を行っています。
「実操業にあたって解決すべき技術的課題を解消するための支援」では、脱炭素社会を支えるプラスチックなど、資源循環システムを構築した実証事業などが対象です。
また、「実操業にあたっての設備導入の支援」では、脱炭素社会を構築するための資源循環を高度化させる設備導入の促進事業が対象です。
プラスチック資源循環の加速化に取り組みたい企業は、条件を満たすことで支援措置を受けることができます。
まとめ
ケミカルリサイクルは廃棄物を化学的に処理して再利用する手法で、近年プラスチックの処理問題に注目されています。メリットとしては、回収した再生可能な資源の異物混入や、汚染されていても処理が可能な点は大きな特長です。
CO2削減や天然資源節約にも効果的ですが、高度な技術や設備が必要でコストもかかる点が課題といえるでしょう。
このような取り組みから、ケミカルリサイクルの今後の展望が期待されています。