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【イベントレポート-VOL.6】生成AI活用の最前線 ISE Technical Conference 2024 「君たちはAIとどう活きるか」

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本記事では東京・虎ノ門にて開催された技術カンファレンス「ISE Technical Conference 2024」の様子を、PEAKS MEDIA編集チームがレポートします。

ISE Technical Conference 2024概要

2024年6月6日と7日の2日間にわたり、ISE Technical Conference 2024が開催されました。会場は虎ノ門ヒルズ·ステーションタワーにある日本アイ·ビー·エム株式会社(以下、日本IBM)のIBM Innovation Studioです。

ISE Technical Conferenceは、日本IBMグループの技術者集団である日本アイ·ビー·エム システムズ·エンジニアリング株式会社(以下、ISE)による歴史ある技術カンファレンスで、名称を変えながら1993年から年1回開催されています。

ISE Technical Conference 2024のテーマは「君たちはAIとどう活きるか」。生成AIはインターネット技術の確立以来の大きな流れだとISE代表取締役社長·内藤拓也氏は語ります。

「ISEはお客様と日本IBMグループの『最後の砦』であり『技術の先駆者』として、グループのどの組織にも属さず横断的に技術支援を行っています。このカンファレンスは、かつては日本IBMグループのSEのナレッジシェアを目的とした、年1回の製品やソリューションの発表と意見交換の場でしたが、徐々により開かれた場になってきました。今年は技術革新の大きな流れであるところの生成AIをテーマにしています。これまでもクラウドやブロックチェーン、IoTといった技術に注目は集まりましたが、生成AIはそれ以上。お客様からのカンファレンスに対するご期待も高いです」。(内藤氏)

ISE Technical Conferenceは、テーマの決定権を持つ実行委員長を若手リーダーが担い、さらに着任は一度きりという伝統があるそうです。内藤氏自身も2009年に実行委員長を務め、以降もカンファレンスをバックアップし、見守ってきた立場から、今年は特にカンファレンス全体に統一感があると語ってくれました。

「ISEはデジタル·トランスフォーメーション、AI、ハイブリッドクラウド、インフラストラクチャーなど幅広いIT領域に跨ったチームで構成されています。その上に生成AIという共通のテーマをかけ合わせることで、統一感を持ちながらも多様なユースケースの紹介ができたと感じています」(内藤氏)

内藤氏の言葉を裏付けるように多くのデモやセッションにおいて、生成AIが活用されていたことが印象的だったISE Technical Conference 2024。ここからはDay2で取材したスペシャルセッションとShowroomデモの見どころを中心に当日の様子をお伝えします。

スペシャルセッション「君たちはAIとどう活きるか~AIの最前線と今後の展望~」

スペシャルセッションは、日本IBM技術理事の柿本達彦氏、石井旬氏、日本IBMシニアマネージングコンサルタントの松金俊介氏が登壇し、「君たちはAIとどう活きるか ~AIの最前線と今後の展望~」と題し、AI最前線、今後のAIの展望、企業·技術者が成すべきことという3部構成でディスカッションが行われました。

左から柿本氏、石井氏、松金氏

カンファレンスの直近(2024年5月14日)に発表されたOpenAI社の「ChatGPT-4o」について松金氏が口火を切りました。

「GPT4-4oのランニングコストは、日本人の最低賃金を下回ります。例えば、デモのとおり手順書がある業務は時給800円程度で稼働させることができるため、今後は人間の仕事をAIが代替するのではないでしょうか。あくまで技術者としての個人的な意見ですが、いよいよ人間を代替する日がきてしまうのではないかと感じています」。(松金氏)

松金氏はAIが人間を代替するのではとの考えに至っている理由について、人事BPOシステムのデモをもとに説明します。デモは、役員の新しい報酬を決めるという煩雑なプロセスをAIのシステムが解決するという内容です。驚いたことに、デモのAIは手順書に載っていないイレギュラーな状況にも柔軟に対応しながら、各部署の担当者にチャットを送信し、Pythonでコードを組むなどして自律的に複数の正しい書類を回収し、最終的に役員報酬を算出しました。

生成AIが人間を代替する。AIを活用する技術者が最も関心を寄せ、懸念している点のひとつかもしれません。しかし、この意見には柿本氏、石井氏ともに懐疑的でした。

「私は人間と機械はパートナーシップ的な関係性を持つようになると思っています。そのとき大切になる考え方がユーザーインターフェースです。音声や視線、ジェスチャーでコマンドを投げられるような状況になっていますし、人間がまったく意識せずにコマンドを投げられるようになっていくのだろうなと思います。人間がどんどん楽になっていく世界があるのではないでしょうか」。(柿本氏)

石井氏は過去15年間のテクノロジーの支出と人件費のデータをもとに発言します。

「過去15年間のテクノロジーの支出は変わっていないけれども、人件費はどんどん上がっているという事実があります。私たちは不確実な世界でビジネスをしており、人の創意工夫による価値の創出と、人の対応の重要性が増しているように思います。これからは人の生産性を向上させるために、テクノロジーを活用した人材育成が重要だと考えます」。(石井氏)

石井氏は、企業経営においては従業員1人あたりの生産性を高めるように支出をリバランスし、人材価値を高めていくことを考えなければならないと強調しました。

経営層や従業員といったポジションを問わず、AIを活用して新しい価値を生み出すことをすべての人材が考えなければならないフェーズにあると筆者は感じました。まさにカンファレンスのテーマである「君たちはAIとどう活きるか」を考えさせられるスペシャルセッションだったといえます。

AIをテーマに50ものデモを展示するShowroom

ISE Technical Conference 2024はAI、 Hybrid CloudをはじめEdge/IoT、 Automation、Sustainabilityなど12のカテゴリーに分けられた約50のShowroomが展示されていました。その中から編集部がピックアップしたものを紹介します。

生成AIユースケースブース

生成AIユースケースブースでは、スペシャルセッションでも紹介されたAgentを用いた業務処理の自動化に加え、コールセンターオペレーションにおける生成AIの活用も紹介されていました。現在、コールセンターでオペレーターとお客様の会話をリアルタイムで解析し、適切な回答をサジェストする生成AIを開発中です。これにより、オペレーターの業務効率と対応品質を大幅に向上できます。

本デモは、業務手順書から実行計画を策定するPlannerと、実行計画に沿いコーディングを行うCode Interpreterの2つの役割をAI(Agent)が担っています。それにより、人間らしく仕事を進めてくれるだけでなく、昨今のLLMでは対応しきれない業務内容にも対応できるところが魅力的だと感じました。

現在のオペレーター業務では応対品質のばらつきやリアルタイム対応の遅延、膨大な文書の参照などが課題とされていますが、ソリューション適用前後では品質だけでなく、業務効率化も実現可能となります。

データマネジメント業務の人手不足問題を生成AIで解決~AI xカタログファーストアプローチ~

AI×カタログファーストアプローチでは、SQLの知識がなくてもデータの利活用ができるシステムが紹介されていました。

テーブル定義書や業務マニュアルなどの情報をもとに生成AIを使ってビジネスメタデータを効率的に生成することができ、データカタログ内にビジネスメタデータとテクニカルメタデータの両方が関連付けられて管理されます。カタログの整備は非常に手間のかかる作業であり、人手不足の問題から進められていないのが現状です。

このデモでは、カタログファーストアプローチを実現するために生成AIを積極的に活用し、自然言語での問い合わせによるデータの活用が可能となります。ユーザーが欲しいデータを自然言語で問い合わせると、まずテーブルや項目のリストが説明文と共に提示され、それをもとに、より具体的なデータを指定して入手することができます。これまでと異なり、カタログの利用は業務システムやSQLの知識が不要で、データ活用のハードルが下がるでしょう。

お客様の業務改革を促進するDSP生成AI基盤ソリューション(Azure編)

DSP生成AI基盤ソリューションでは、金融サービス向けデジタルサービス·プラットフォーム·DSP(IBM Digital Services Platform for Financial Services)の拡張機能である生成AIのスターターソリューションが紹介されていました。これまで数ヵ月以上かかることもあった閉域構成のAI基盤構築を自動化することで、最短で1営業日まで短縮が可能となります。

標準構成は企業向けシステムの中でも高いセキュリティを求められる金融グレードの要件(FISC基準)を満たしつつ、柔軟なカスタマイズが可能であり、業界を問わず展開ができるソリューションです。すでに地方銀行を中心に提供が開始されています。

生成AI×店舗画像データによる業務効率化&売り場改善ソリューション

流通に関するブースでは、小売店の店舗従業員や本社スタッフが行っている業務の課題を解決する生成AIのユースケースが紹介されていました。欠品検知、チラシの解析、棚割り改善支援の3つのサブソリューションを通じて、業務の効率化だけでなく、従業員の負担軽減や店舗の売上向上が期待できます。

欠品情報、チラシ解析情報、棚割り情報を既存の流通DSPに集約し、それぞれのデータを横断的に活用することで、今まででは不可能であった倉庫まで含めた欠品検知やフォーマットの異なるチラシ解析、売上データに基づいた棚割りの改善が可能となります。

開発に際しては、実際に店舗の従業員へインタビューを行うなど、ユーザー視点に立ったアプローチが印象的でした。小売店単位の活用に加えて、将来的には流通DSPと組み合わせることでデータを横断的に分析、活用することが可能になると提案されています。

「動くデモ」を通じて最新技術を体験

ISE Technical Conference 2024では、ユースケースを題材にしたソリューションデモだけでなく最新のIBMテクノロジーを体験できるテクノロジーデモも展示されていました。AR技術を利用した工場点検や最先端のロボティクスとAIを組み合わせたソリューション、持続可能で先進的なものづくりを実現するための展示など、製造業のイノベーターのヒントとなるデモを選出してご紹介します。

四足歩行ロボットSpot x AIによる設備点検や警備業務ソリューション

本ブースでは、Spot社の四足歩行ロボットが巡視点検を行う様子が特に注目を集めました。Maximo Application Suiteの設備保全管理、画像AI開発ツールとロボットを組み合わせることで、24時間365日、巡回業務をロボットに代替すれば、警備員の負担軽減、人手不足の解消に貢献します。

四足歩行ロボットは、悪路や階段を問わず自律的に巡回でき、異常を検知するとアラートを遠隔地に送信します。必要に応じて警備員が駆けつければよいですし、遠隔操作で詳細を確認することも可能です。

監視業務の効率化だけでなく、異常検知のデータ分析によって警備計画を最適化することにも活用できるとのことです。人材不足や施設の老朽化、複雑化が課題となっているプラントでの巡視点検業務への活用も期待されます。

AR工場点検ソリューション

本ブースでは、ARを利用して現実空間にデジタルメモを貼り付ける技術を紹介していました。点検作業をユースケースとして想定しており、メモの貼り付けだけでなく、レポートの自動生成も可能とのことです。作業に慣れていない新人へのポイントやノウハウの共有、人材育成への活用が期待されています。

システムは、点検用アプリ、IBM Cloud上にあるappサーバー、管理ユーザー用Webアプリで構成されています。点検終了から管理ユーザーへの連携がシームレスに行えるため、大幅な業務改革へのポテンシャルを感じました。

設備保全における監視データ活用と故障予測

本ブースでは、振動の波形をAIに学習させ、異常を検知した際にアラートを発するデモが行われていました。センサーが設置されているレールの接続箇所のネジをあえて緩め、列車が通過すると振動の波形が大きくなり、異常を検知するという内容でした。

今回のデモは、振動の波形を監視対象としていましたが、熱や音などセンサーによって波形にできるものであれば転用が可能とのことです。製造現場での不具合によるライン停止を未然に防ぐほか、工場やプラントなど、多様な現場での活用が期待できます。

実行委員長が語る技術を楽しむISEのバリュー

ISE Technical Conference 2024では、デモやセッションに加え、「プロジェクトNo Limit」というビジネス度外視で技術を盛り込みAIソリューションを開発する企画も実施されていました。カンファレンスでは入社1~2年目の若手社員も登壇し、遊び心や挑戦を大切にしながら技術を楽しむ姿勢が印象的でした。その理由について、2024度の実行委員を務めた猪鼻優美氏が語ってくれました。

「ISEは社員が技術者集団としてのプロ意識を持っていて、年齢やキャリアに関係なく挑戦ができる会社です。意欲的で積極的なメンバーに恵まれているため、ISE Technical Conferenceも若い社員が率先して運営し、キャリアを積んだ社員がバックアップしてくれる体制が整っています。私に実行委員長の打診があったときは、育休明け間もないタイミングでためらう気持ちもありましたが、歴代の実行委員長や先輩たちのバックアップがあることも心強く、何より挑戦したい想いが強く手を挙げました。やるからには徹底的にやりたくて、今回が初となる取り組みに挑戦しました」

実行委員長の猪鼻氏は、来場者、日本IBM、ISEの三方向で共創する場としての技術カンファレンスであることをより強調するために、懇親会や来場者との双方向ブースの設置などコミュニケーションを重視した取り組みを企画。これらが功を奏しISE Technical Conference 2024の来場者数は700名以上と過去最大規模の来場者を誇るカンファレンスとなったということです。

代表の内藤氏が語っていた、実行委員長はあえて経験がない若手に任せることで、自由な発想が生まれ、経験者がバックアップする仕組みがあるからこそ個々が挑戦でき、革新と成長を続けるカンファレンスを開催し続けられるのだということを、同社メンバーへの取材を通して感じることになりました。

本カンファレンスはほぼすべてのプログラムで生成AIが活用されており、まさに現在の生成AIを中心とする技術革新への時代の流れが、虎ノ門のIBM Innovation Studioに集約された日でした。

ISE Technical Conferenceは、かつてはグループ企業向けのセミナーでしたが、よりオープンな技術カンファレンスへと進化し続けています。来年度のテーマがどのようなものになるのか、そしてどのように時代の流れを反映するのか、期待が高まります。歴史あるISE Technical Conferenceのさらなる進化に注目です。

PEAKSMEDIA編集チーム

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