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加飾とは?種類や制作工法、プラスチックを加飾するメリット・デメリットを解説

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加飾とは、プラスチック製品などの表面に装飾を施す技術のことです。この技術は製品の美観を高め、機能性を付加するために広く利用されています。

この記事では、加飾の基本的な概念から始め、塗装や金属膜(メッキ)、金属箔やインクの印刷、全体の着色、模様の加工といった具体的な加飾方法の種類を解説。さらに、プラスチックに加飾を施すことによるメリットとデメリットについても触れ、加飾技術の可能性についても解説します。加飾技術の基礎知識を理解し、製品の付加価値を高めるための参考にしてください。

加飾とは

加飾(かしょく)とは、製品に意匠性や機能性などの価値を付加する技術のことを指します。広義では金箔や漆などの伝統的な装飾技法も含まれますが、最近では特に樹脂(プラスチック)製品の表面を加工し、見た目や触感を向上させる技術を指すことが多くなっています。

具体的には、プラスチック製品に塗装、めっき、印刷、着色などの処理を施すことで、製品の外観や質感を改善し、付加価値を高める手法です。加飾技術は、プラスチック製品の機能的な利点を活かしつつ、外観の印象を大きく変える効果があります。

加飾の種類

加飾技術は大きく1次加飾と2次加飾の2種類に分類されます。1次加飾は樹脂成形サイクル内で加飾を行う方法で、射出成形と同時に意匠を付与します。一方、2次加飾は成形品を金型から取り出した後に加飾を施す技術です。

1次加飾 2次加飾
造膜 金型内スパッタ メッキ、蒸着、スパッタ、銀鏡
塗装 金型内塗装 塗装
シートやフィルムの貼付 フィルム・シートインサート フィルム貼合、真空貼合
インキの貼付 金型内転写 ホットスタンプ、水圧転写
練り込み・着色 着色 染色
表面形状付与 高転写成形、シボ、鏡面 研磨

近年、2次加飾の割合が増加しています。これは、2次加飾が成形品端部の巻き込みや表面に凹凸形状をつけることが可能など、1次加飾では困難だった加飾を実現できるためです。
これらの技術を組み合わせることで、多様な意匠性と機能性を持つプラスチック製品を生み出すことができます。

■プラスチック加飾方法2次加飾の主な方法には、以下などがあります。

     
  • 塗装
  • 金属膜(メッキ)
  • 金属箔やインクの印刷
  • 全体の着色
  • 模様の加工

塗装

塗装は、プラスチック製品の表面に塗料を塗布し、製品の外観や質感を変える加飾方法です。液体状の塗料をプラスチック表面に塗布した後、加熱や紫外線照射により塗料を固めて膜を形成します。

塗装の目的は、製品に色彩や光沢を与えるだけでなく、耐候性や耐摩耗性などの機能性を付与することもあります。例えば、自動車の内装部品や電子機器の筐体など、見た目の美しさと耐久性が求められる製品に広く用いられています。

金属膜(メッキ)

金属膜(メッキ)は、プラスチック製品の表面に金属や金属酸化物の薄い膜を形成する加飾方法です。主な目的は、製品に金属光沢を与え、高級感を演出することです。代表的な方法としては、めっきがあります。

その他、真空蒸着やスパッタリングなどの技術も用いられます。この加飾方法は、自動車の外装部品やインテリア製品など、金属的な外観が求められる製品に適しています。また、電気伝導性や電磁波シールド性を付与する目的でも使用されます。

金属箔やインクの印刷

金属箔やインクの印刷は、金属箔の凹凸やフィルム上のインクをプラスチック表面に転写する加飾方法です。代表的な技術として、熱と圧力を用いて金属箔やフィルムをプラスチック表面に押し付ける「ホットスタンプ」法があります。

また、水圧を利用して模様を転写する「水圧転写」という方法もあります。この加飾法は、細かい文字や複雑なパターンを製品表面に再現する際に適しており、化粧品容器や電子機器の操作パネルなどに使用されます。

全体の着色

全体の着色は、プラスチック製品を製造する過程で着色剤を混ぜ込み、製品全体を均一に着色する加飾方法です。粉末状の着色剤をそのまま使用する方法や、着色剤をプラスチックに練り込んだ「マスターバッチ」と呼ばれる着色剤を使用する方法があります。この技術は、製品全体に均一な色を付与したい場合や、表面だけでなく内部まで同じ色にしたい場合に適しています。日用品や工業部品など、幅広い製品に使用されています。

模様の加工

模様の加工は、プラスチックの表面に細かい凹凸の模様をつけて、製品の見た目や触感を変化させる加飾方法です。この細かい模様を「シボ」と呼び、加工自体を「シボ加工」と呼びます。射出成形の場合、成形に使用する金型にあらかじめシボをつけておき、それを製品に転写します。

シボ加工の目的は、触り心地の向上、汚れや傷の目立ちにくさの改善、光の反射の制御などです。自動車の内装部品や電子機器の筐体など、高級感や機能性が求められる製品に広く使用されています。

加飾の具体的な製作工法

加飾技術の発展に伴い、さまざまな製作工法が開発されてきました。主な工法としては、以下があります。

     
  • インモールド成形
  • フィルムインサート成形
  • TOM成形
  • 2色成形

これらの工法は、それぞれ特徴的な利点を持ち、製品の用途や要求される性能に応じて選択されます。

インモールド成形

インモールド成形は、あらかじめデザインが印刷されたフィルムを金型に挟み込んで樹脂を流し込む技術です。射出成形の熱と圧力を利用して、成形と同時にデザインを転写します。この方法の最大の利点は、成形と加飾を同時に行えることによる生産効率の向上です。また、フィルムと成形樹脂が一体化するため、耐久性に優れた加飾を実現できます。

インモールド成形は、自動車の内装部品や家電製品の外装など、高い意匠性と耐久性が求められる製品に広く使用されています。特に、複雑な曲面を持つ部品や大型の成形品に対して効果的です。

フィルムインサート成形

フィルムインサート成形は、あらかじめ意匠印刷を行った熱可塑性樹脂フィルムやシートを金型に挿入し、溶かした樹脂材料を圧力をかけて流し込む技術です。この工法は、スクリーン印刷、フォーミング、インジェクションの3つの工程から構成されています。

フィルムインサート成形の大きな特徴は、複雑形状の部品にも着色が可能なことと、塗装とは異なり、デザインに制限なく自由な意匠表現ができることです。そのため、自動車部品の製造に頻繁に用いられ、特に曲面を持つ内装部品や外装部品の加飾に適しています。

TOM成形

TOM(Three dimension Overlay Method)成形は、基材の表面に特殊なフィルムを貼り合わせることで、成形品の意匠性および機能性を向上させる技術です。この工法の主な利点は、基材の材質選択の自由度が高いこと、フィルムの質感や触感をそのまま反映できること、そして様々な機能を持つフィルムを使用することで基材に多様な機能を付加できることです。

さらに、TOM成形は製造工程における環境負荷が少ないという特徴も持っています。そのため、高い意匠性と機能性が求められる自動車の車載部品などに広く採用されています。例えば、高級感のある内装パネルや耐候性の高い外装部品の製造に適しています。

2色成形

2色成形は、異なる樹脂を組み合わせて一体化させる成形技術です。1回の工程で2種類の樹脂を組み合わせることから、ダブルモールドとも呼ばれます。この技術では、2本のノズル・シリンダーを持つ成形機を使用し、それぞれから金型内部に素材を射出充填します。

2色成形の利点は、異なる色や材質の樹脂を一体成形できることです。これにより、複雑な形状や多色の製品を効率的に生産できます。また、異なる特性を持つ樹脂を組み合わせることで、機能性と意匠性を両立した製品を作ることができます。

この技術は、自動車の車載部品や家電製品、スマートフォンなどの電子機器部品の製造に広く使用されています。例えば、ボタンの表面と内部で異なる材質を使用したり、製品の一部に柔らかい素材を使用したりする際に2色成形が活用されています。

プラスチックの加飾方法

工法名 内容 長所 短所 設備 絞り・アール
インモールド転写成形(IMR) 印刷された転写箔を位置合わせして射出成形金型へ挿入する。射出成形樹脂の固化により絵柄が転写する。
     
  • 位置合わせ可能
  • 大量生産にコストメリットがある
     
  • 深絞りが難しい
  • 形状の制約が多い
  • 専用設備が必要
     
  • フィルム送り装置
  • 特殊金型
     
  • 5mm、R10程度まで可能
  • 絞り・アールの組み合わせにより変化
インモールド成形(IML) 射出成形の金型内で印刷されたフィルム を予備成形し、射出成形してラミ溶着する。
     
  • 深絞りが比較的しやすい
  • 形状の制約も少ない
     
  • トリミングが必要
  • 専用設備が必要
     
  • フィルム送り装置
  • 特殊金型
     
  • 40mm、R10程度まで可能
  • 絞り・アールの組み合わせにより変化
インサート成形(IMF) 真空成形金型で予備成形を行った後トリミング加工し、射出成形金型に挿入し、射出と同時にラミ溶着する。
     
  • 複雑な形状に適し自由度が高い
  • 装置が簡便
     
  • 工程が多い
  • トリミングが必要
     
  • 真空成形機
  • トリミング金型
     
  • 40mm-R10~25mm-R0.5mmまで対応可能
  • 絞り・アールの組み合わせにより変化
TOM成形 接着剤のついた成形用シートを真空チャ ンバーを2分割し、真空吸引・圧縮によりシートを基材に密着させる。
     
  • 表面テクチャーの付与が可能
  • 形状の自由度が高い
  • 大型の製品に対応が可能
     
  • 専用成形機が必要
  • 生産効率が低い
     
  • 専用真空圧空機
水圧転写 水溶性の印刷転写フィルムを水に浮か べ、水面に浮かんだ絵柄の上面より基材 を押し入れる。転写後フィルムを溶解除去し、表面塗装をする。
     
  • 形状の自由度が大きい
     
  • 塗装が必ず必要
  • 環境負荷が大きい
     
  • 専用転写ライン設備
  • 転写用治具
     
  • 300mmまで可能
  • Rは無制限
ホットスタンプ 転写箔を基材に熱圧着して転写印刷を行う。
     
  • 簡易で低コスト
     
  • 三次元形状への適用が困難
     
  • ロール転写機 or アップダウン転写機
     
  • 二次局面の成形品に対応可能
メッキ 成形基材にメッキ処理し金属鏡面の意匠 を施す。
     
  • 高級質感が得られる
     
  • 高コスト
  • 環境負荷が大きい
     
  • メッキライン設備
塗装 成形基材に塗料を吹き付け意匠面に着色を施す。
     
  • 低コストで意匠着色が可能
     
  • ソリッドカラー系限定
  • 環境負荷が大きい
     
  • 塗装ライン設備
     
  • 基本的に制限なし
原着 塗装を施さず、アルミや顔料の色で意色を表す。表面シボを付加する。
     
  • 低コストで意匠表現が可能
     
  • ソリッドカラー系限定
     
  • 射出成形機のみ
     
  • 基本的に制限なし

プラスチックに加飾するメリット

プラスチックに加飾を施すことには、多くのメリットがあります。まず、プラスチック本来の優れた特性を活かしつつ、外観や触感を大幅に改善できる点が挙げられます。プラスチックは軽量で丈夫、形状の自由度が高く、錆びず、電気絶縁性や断熱性にも優れています。しかし、加工を施さないと安っぽく見えたり、冷たい印象を与えたりすることがあります。加飾技術を用いることで、これらの欠点を克服し、高級感や温かみのある製品に仕上げることができます。

また、加飾技術によっては、プラスチック製品に金属や木材のような質感を与えることも可能です。これにより、より高価な素材を使用したような外観を実現しつつ、プラスチックの軽量性や加工のしやすさといった利点を保持できます。さらに、加飾技術の中には製品の耐久性や耐候性を向上させるものもあり、製品の寿命を延ばすことにも貢献します。

加飾技術は、製品の差別化や付加価値の創出にも大きく寄与します。同じ機能を持つ製品でも、魅力的な外観や触感を持つものの方が消費者に選ばれやすくなります。これは、自動車の内装部品や家電製品、スマートフォンなどの分野で特に重要視されています。

プラスチックに加飾するデメリット

一方で、プラスチックに加飾を施すことにはいくつかのデメリットも存在します。最も大きな課題は、コストの増加です。加飾処理を行うことで、製造工程が増え、使用する材料も増加するため、製品の製造コストが上昇します。これは、最終的に製品価格の上昇につながる可能性があります。

また、加飾技術によっては、プラスチック本来の特性を損なう場合があります。例えば、某些加飾技術を用いることで、プラスチックの軽量性や柔軟性が失われたり、リサイクル性が低下したりすることがあります。これは、環境配慮が重視される現代において、重要な検討事項となっています。

さらに、加飾技術によってはデザインの自由度が制限される場合があります。プラスチックは本来、複雑な形状や多様な色彩表現が可能ですが、特定の加飾技術を用いることで、これらの利点が失われる可能性があります。

加飾処理を施した製品は、使用環境や条件によっては、加飾層が剥離したり、色あせたりするリスクもあります。これは製品の見た目を損なうだけでなく、機能性にも影響を与える可能性があります。

加飾技術の可能性

加飾技術は常に進化を続けており、新しい技術や応用方法が次々と生み出されています。最近では、単に見た目や触感を改善するだけでなく、プラスチックに新たな機能を付加する加飾技術が注目を集めています。

例えば、抗菌性を持つ加飾技術が開発されています。これは、公共施設や医療機関で使用される製品に特に有用です。また、帯電防止性を持つ加飾技術も登場しており、電子機器の筐体などに応用されています。

電波透過性を持つ加飾技術も開発されており、これは5G通信などの高周波を使用する機器のカバーなどに適しています。さらに、温度による色調変化を示す加飾技術も登場しており、これは製品の温度を視覚的に表現することができます。

環境問題への関心が高まる中、従来の塗装やめっき技術に代わるクリーンな加飾方法の開発も進んでいます。これらの技術は、環境負荷を低減しつつ、高品質な加飾を実現することを目指しています。

今後も、社会のニーズや技術の進歩に合わせて、さまざまな新しい加飾技術が登場することが期待されます。これらの技術は、製品の機能性と意匠性を高め、私たちの生活をより豊かにする可能性を秘めています。

まとめ

加飾技術は、プラスチック製品の価値を大きく高める可能性を秘めています。さまざまな加飾方法を適切に選択し活用することで、製品の外観や機能性を向上させ、市場での競争力を高めることができます。
一方で、コスト増加や環境への影響など、課題も存在します。これらのメリットとデメリットを十分に理解し、製品の用途や要求に応じて最適な加飾技術を選択することが重要です。加飾技術の進化は今後も続き、新たな可能性を切り開いていくでしょう。製品開発において加飾技術を効果的に活用することで、より魅力的で機能的な製品を生み出すことができるのです。

PEAKSMEDIA編集チーム

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