Contents 目次
ファクトフルネスとは?意味を要約
ファクトフルネス(FACTFULNESS)とは、「事実やデータに基づき、正しく世界を読み解く」ことです。人間は最新の情報にアクセスできる環境にいながら、本能や思い込みに影響を受け、ありのままの世界を正しく理解していないケースが多々あります。
ファクトフルネスを提唱したのは、スウェーデンの医師・公益衛生学者のハンス・ロスリング氏とその息子夫婦で、その著書の中で解説しています(※詳細は後述)。
ハンス・ロスリング氏は人気プレゼン番組「TED」にも登壇しました。YouTube上に公開されている「How not to be ignorant about the world(世界について無知にならない方法)」は、2,800万回も再生されるほどの人気ぶりです(※2022年12月時点)。
ハンス・ロスリング氏は息子夫婦と共同で著書を執筆中に、すい臓がんで亡くなっています。その思いを息子夫婦が引き継いで出版したところ、日本国内で累計100万部を突破し、2020年に最も売れたビジネス書の一つとなりました。
13問のクイズ
本書では、読者に13問のクイズを投げかけています。例えば、「世界の平均寿命は現在およそ何歳でしょう?」、「自然災害で毎年亡くなる人の数は、過去100年間でどう変化したでしょう?」といった基本的なクイズです。回答は3つの中から選びます。
3つからチンパンジーが適当に答えを選んだとしても、正答率は1/3を超えるでしょう。しかし、オンラインで1万2,000人に回答してもらったところ、正答率は約16.6%という結果に。高学歴者や専門家であっても、間違えることが多々ありました。(※13問のクイズは後ほど紹介する著書で確認できます)
実は、私たちが「これが常識だ」と考えているものの中には、さまざまなバイアス(先入観や偏見)がかかっているのです。
本書では、人間の脳が無意識に「ドラマチックすぎる世界の見方」をしていることに警鐘を鳴らしています。たとえ最新の情報を得ていたとしても、ありのままの世界を見ることは難しいでしょう。
人間は10の思い込みを本能的に抱えており、これらの思い込みに対する処方箋として体系化された考え方が「ファクトフルネス」です。
世界を正しく見るために排除すべき10の思い込み
以下では、「10の思い込み」の概要と対処法を簡単に解説します。
1.分断本能
分断本能とは、「世界は分断されている」という思い込みです。世界の物事やグループは2つのグループに分かれ、両者の間には決して埋まらない溝があると考えるものです。
例えば、世界の先進国と途上国の間で、格差はますます広がっていると思うかもしれません。しかし実際には、その格差は年々縮まっていることが明らかになっています。
分断本能を防ぐためには、データや統計の「平均」ではなく「分布」に注目することです。分布を見ると、2つのグループに溝や分断がないことに気づくかもしれません。
2.ネガティブ本能
ネガティブ本能とは、「世界はより悪くなっている」という思い込みです。
例えば、日本国内における交通事故の発生件数は、どう推移しているかご存知でしょうか。「高齢者の誤操作による事故」が度々メディアで報じられ、悪化しているイメージをもっているかもしれません。
ただ、警視庁のデータによれば、事故の発生件数は2004年から2021年まで減少し続けています。死者数も減少し、2020年には3,000件を下回って過去最小となりました。
貧困や災害、事件事故といったネガティブなニュースに目を奪われがちですが、「良いことと悪くなっていることは表裏一体」と理解することが大切です。
3.直線本能
直線本能とは、「グラフはすべて真っ直ぐである」という思い込みです。
世界の人口推移をグラフで見て「このままのスピードで人口は増え続ける」と勘違いする原因にもなっています。実際のところ、人口の増加率は2020年に1%を下回りました。ここ数十年の生涯出生率の低下も背景にあるためです。
グラフには「S字カーブ」「すべり台の形」「コブの形」などさまざまな形があります。グラフの直線部分だけを切り取った可能性もあり、示されたグラフだけではこの先の変化を正確に予測できません。グラフに示されていない部分を、憶測で考えないことが重要です。
4.恐怖本能
恐怖本能とは、「恐ろしいものが、現実より恐ろしく見えてしまう」という思い込みです。恐怖に囚われると、事実を確かめる余裕もなくなってしまいます。
例えば、新型コロナウイルスを今も過度に恐れてはいないでしょうか。
マスクの使用に関して厚生労働省は、屋外で「会話をしない」「距離を確保できる」場合にマスクを着用する必要はない、と推奨しています。また横浜市立大学附属病院は、2020年冬から2022年夏にかけて、コロナウイルスの致死率は日本で98.4%低下したと発表しました。
恐怖と危険は似て非なるものです。恐ろしさと関係なく事実を確かめることが大切でしょう。
5.過大視本能
過大視本能とは、「目の前にある数字にとらわれる」という思い込みです。他の数字と比べることなく、その数字だけで物事を判断してしまいます。
ユニセフの調査では、「5歳未満児死亡数」は2019年時点で約520万人という結果でした。この数字をどう思うでしょうか? たくさんの子どもたちが亡くなっているのは、ショッキングな事実です。
一方で過去にさかのぼると2010年時点では約700万人、2000年時点では約970万人、1990年では1,250万人という数値になっています。つまり、「2019年に520万人」という一つの数字だけ見ると強いインパクトを残しますが、他の数字と比べると状況は改善していることが分かるでしょう。
目の前にある数字だけで良し悪しを判断することはできません。過大視本能を防ぐためには、他と比較するなどして判断することが大切です。
6.パターン化本能
パターン化本能とは、「一つの例がすべてに当てはまる」という思い込みです。個別の事象で全体を分類すると、他の可能性を考えない思考停止状態となるでしょう。
例えば、Z世代はタイパ(タイムパフォーマンス)を重視し、映画や音楽を倍速再生する、というニュースを見たときに、「すべてのZ世代はタイパを重視する」と思い込むもの。つまり、一部の例をグループ全体に当てはめることです。
「この分類は本当に正しいのか」、「少数の例にとらわれ過ぎていないか」という疑いの目を常にもつことが大切です。
7.宿命本能
宿命本能とは、「すべて運命が決まっている」という思い込みです。生まれた国や文化、宗教で人生が決まると考えています。しかし実際には、ゆっくりとした変化に気づいていない可能性があるでしょう。
例えばアフリカです。紛争や貧困、エイズといった問題からいまだに「途上国」のイメージをもっているかもしれません。
しかしサブサハラ・アフリカ(サハラ砂漠より南)地域は、2000年以降、GDP成長率で5〜7%を維持。2010年以降はやや鈍化し、2020年にはコロナ禍でマイナスに転じたものの、2024年の成長予測は3.9%となっています。
近年では0~2%を推移する日本に比べても高い数値となっており、「アフリカに生まれたから貧困」といえる時代はいずれ終焉を迎えるかもしれません。
宿命本能は、勝手に限界を決めつけてしまいます。宿命本能を防ぐためには、たとえ小さな進歩であっても目を向け、知識をアップデートし続けることが大切です。
8.単純化本能
単純化本能とは、ある問題に関して「一つの原因に一つの回答を当てはめる」という思い込みです。
以下の例をあげられます。
- 少子高齢化の原因は晩婚化なので、お見合いを復活させる
- 地球温暖化の原因は森林伐採なので、植林を広める
世界で起こる事象は、さまざまな要因に影響を受けています。しかし、「自分の主張を正当化する情報ばかりを集める」、「問題の一部だけを解決する知識を振りかざす」ことでは、その本質に気づけません。
専門や立場の異なる人の意見に耳を傾け、さまざまな可能性を探るといいでしょう。
9.犯人捜し本能
犯人探し本能とは、「誰かを責めたら問題が解決する」という思い込みです。
例えば、あるスポーツの代表チームが大敗を期したとき、その責任を試合でエラーをした選手に押し付けるようなケースです。しかし実際には、「代表選手・監督を選んだスポーツ協会」や、「国全体の競技人口の少なさ」が原因となっているかもしれません。
問題が起きたときに犯人探しをするのではなく、問題が起こった複数の原因を探ったり、システム自体を見直すことが大切でしょう。
10.焦り本能
焦り本能とは、「すぐに対策しなければ手遅れになる」という思い込みです。
例えば、以下の例をあげられます。
- 本日限定タイムセールのため、すぐに商品を買う
- 息子のような人から「事故を起こして今すぐ示談金が必要」と電話があったため、現金を振り込んだ
- コロナウイルスの影響でトイレットペーパーがなくなるとSNSで聞き、スーパーへ買いに行った
焦り本能は冷静な判断力を失わせ、時には犯罪に利用されることもあります。3つ目の例は、2020年4月に起こった事件で、Twitter上で拡散されたデマツイートをきっかけに、トイレットペーパーの買い占め騒動に発展したものです。
焦り本能を防ぐためには、まず深呼吸して落ち着きましょう。危険は本当に起こるのかをデータで確かめ、冷静に判断することが大切です。
ファクトフルネスを実践するためには
ファクトフルネスは、実践してこそ真価を発揮します。生活や仕事の中で、自分が「10の思い込み」をしていることに気づくことが第一歩です。思い込みに気づければ、対策を講じられます。また、自身だけでなく部下や子どもに、ファクトフルネスな考え方を教育できるでしょう。
以下では、この記事で紹介した10の思い込みと対策をまとめました。
本能 | 思い込み | 対策 |
分断本能 | 世界は分断されている | 平均ではなく分布に注目する |
ネガティブ本能 | 世界はより悪くなっている | 良いと悪いは表裏一体と考える |
直線本能 | グラフはすべて真っ直ぐである | 見えない部分を憶測しない |
恐怖本能 | 現実より恐れてしまう | 事実に基づきリスクを確かめる |
過大視本能 | 目の前の数字にとらわれる | 他の数字と比較する |
パターン化本能 | 一つの例がすべてに当てはまる | 分類が正しいか確かめる |
宿命本能 | すべて運命が決まっている | 小さな進歩に目を向ける |
単純化本能 | 一つの原因に一つの回答を当てはめる | 専門や立場の異なる人の意見に耳を傾ける |
犯人探し本能 | 誰かを責めたら問題が解決する | 複数の原因を考える |
焦り本能 | すぐに対策しなければ手遅れになる | データに基づき冷静に判断する |
ファクトフルネスをもっと詳しく知りたい方におすすめの本
「10の思い込み」を防ぐファクトフルネスな考え方は、本書でより詳しく解説されています。
『FACTFULNESS(ファクトフルネス)——10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』
ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド著
上杉周作、関美和 訳
日経BP 発行
2019年01月15日 発行
<ハンス・ロスリング氏 プロフィール>
医師、グローバルヘルスの教授、そして教育者としても著名である。世界保健機構やユニセフのアドバイザーを務め、スウェーデンで国境なき医師団を立ち上げたほか、ギャップマインダー財団を設立した。ハンスのTEDトークは延べ3500万回以上も再生されており、タイム誌が選ぶ世界で最も影響力の大きな100人に選ばれた。2017年に他界したが、人生最後の年は本書の執筆に捧げた。
詳細にファクトフルネスを学びたい方は、本書を一度読んでみてはいかがでしょうか。
まとめ
ビジネスの現場においてもファクトフルネスな考え方は重要です。特に製造業界は「レガシーシステムの老朽化」や「属人化で硬直する業務」、などさまざまな課題を抱えています。厳しい競争環境において、DX化や組織のあり方を変化させるためには、個人の経験・勘に頼らず、データで問題を分析することが欠かせません。
今回紹介した10の思い込みと対策を普段の業務に活かし、データで物事を見る習慣をつけてはいかがでしょうか。これまで個人の主観やイメージで判断していた課題を冷静に分析でき、本質的な解決につなげられるでしょう。