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水平分業とは
水平分業とは、部品生産や技術開発、組み立てや販売、カスタマーサービスなどのタスクを別の企業へアウトソースするビジネスモデルです。自社の弱い部分を、得意な企業へ協力を依頼することで、事業リスクや設備投資の負担を軽減できます。
元々、パソコンのほか、薄型テレビなどのデジタル家電の分野を中心に広がり、巨額の設備投資がかかる半導体業界でも水平分業を採用する企業が拡大しました。
工場を持たないアメリカの半導体メーカー「エヌビディア社」や「クアルコム社」は、半導体の製造は受託会社(ファウンドリー)へ委託し、その分設計開発業務に注力しています。
台湾調査会社のトレンドフォースによれば、ファウンドリーの2020年の市場規模は846億ドル(約8兆7600億円)と前年比の24%増を予測しています。
水平分業により、半導体メーカーではなかった企業が半導体産業へ進出できています。
例えば、アップル社は、水平分業を活用することで、iPhoneやMacの半導体の設計を自社で手掛けています。また、2022年第2四半期の世界のクラウドシェア1位のAWS(Amazon)も、データセンター向けの半導体を自社での開発を始めました。
垂直統合とは
垂直統合とは、技術開発や商品の生産・販売、サービス提供など、一連の業務を単一の企業、またはグループですべて行うビジネスモデルです。
原料に近い製造工程と最終製品に近いプロセスの統合や、同一業種において、異なるソフトやハードウェア(部品)を作成する企業が合併することも垂直統合にあたります。
水平分業・垂直統合の比較
ここでは、水平分業と垂直統合のメリット・デメリットについて解説します。
メリット | デメリット | |
水平分業 | 設備投資などのリスク軽減 | 市場の変化への追随が遅い |
垂直統合 | ノウハウの蓄積が可能 | 専門性の確立が困難 |
水平分業のメリット・デメリット
水平分業は得意分野に専念できるため、余計な設備投資を削減できます。もし、事業が失敗したとしても、垂直統合と比較してリスクを軽減できる点もメリットです。
得意分野以外の業務に対する労力を減らすことで、本業の業務効率が上がります。それにより、他社と差別化することでコア・コンピタンス(中核となる強み)を確立でき、新技術や新商品開発への投資を増やせるようになります。
一方のデメリットは、市場変化への追随が遅くなる点です。得意分野へ集中して投資を行うので、自社製品の市場ニーズがなくなると、挽回することが困難になります。
複数の企業が関わることからサプライチェーン全体のハンドリングが困難になるケースも多いのです。そのため、市場・経済の変化に対して、フレキシブルな対応が難しいというデメリットもあります。
垂直統合のメリット・デメリット
垂直統合は製品販売までの一連のプロセスにおける全工程をハンドリングできることから、ビジネス全体にかかるスケジューリングや、コストの見積もりをしやすいメリットがあります。成功事例としてユニクロの経営モデルが挙げられます。 もともとは衣料品小売企業であったユニクロは、企画から製造、物流、販売まですべて自社で一貫して行う垂直統合モデルを取り入れることによって急成長した会社です。
外注費がかからない垂直統合は、安さを追求する飲食やアパレル業界において「差別化を図る手段」として採用する企業が多い傾向にあります。一方で、広い範囲における役割や事業を担うため、コアコンピタンスの確立が難しいというデメリットがあります。日本のソフトウェア開発が遅れをとっている原因と言われています。
その他にも、自動車産業ではメーカーを頂点としたケイレツによる垂直統合化を進め、自動車メーカーの要請や将来ニーズを予測しながらケイレツ会社間で役割分担を行うことで、部品や車両の競争力を高める事ができました。反面、自動車メーカーのシェア構造が分残している中では、市場集約力が弱く、その利点が発揮しにくいというデメリットがありました。
垂直統合では組織が大きくなることが多く、組織体制の改変やシステムの導入などの大きな決定を下すのが難しくなります。組織体制の改変時やシステムの導入時には、現場までなかなか浸透しないといった問題も生じるでしょう。
水平分業の具体例
ここでは、水平分業が適しているビジネスモデル(一部の部品を外部に任せたほうが効率的など)について解説します。
アップル
iPhoneやMacなどを手掛けるアップル社は、その時に最も優れている半導体や液晶などの部品を世界中から集め、組み立てを行って販売しています。
アップルが担当するプロセスは、商品を企画して販売するのみです。部品を生産する工場を持たず、複数のサプライヤーに外注して組み立てを行い、工場を持たないファブレス化を徹底しています。
利益をもたらすのは、モノづくりの現場ではなく「商品企画と販売である」という合理的なビジネススタイルを貫くことで成功した事例です。
自社製作にこだわらず、世界中からあらゆる実力者を収集することで、最強のチームを作り上げました。
ソニー
ソニーグループは、ホンダとモビリティ分野において戦略的な提携をし、合弁会社を設立しました。EVの開発で世界に遅れをとっている国内において、ソニーがホンダと提携し、2025年を目途に両社の新合弁会社からEVを発売する予定となりました。
EVで先行しているアメリカのテスラは、株式の時価総額でトヨタを大きく上回っており、同じくアメリカのアップル社もモビリティ業界への参入を決定しています。今後、さらなる世界規模のEV市場の拡大が予測されます。
このように盛り上がりをみせる次世代モビリティの世界ですが、国内自動車メーカーのEVへのシフトは世界から後れを取ってきました。
しかし、ソニーとホンダの提携によって、国内自動車産業の構造が水平分業に移る大転換期になる可能性があります。
新会社では、ソフトウェアはソニーが、モノづくりはホンダが分業して担当する予定で、これまで自社内で生産を完結していたホンダは、水平分業体制へ大きくシフトする方向です。
いずれ新会社はソフトウェア領域に集中し、製造についてはコストが安い会社へアウトソースする可能性もあります。すると、国内の自動車メーカーにもファブレスを採用する企業が増えてくることが予想されます。
垂直統合の具体例
ここでは、垂直統合が適しているビジネスモデルについて解説します。
トヨタ
約550社から成るグループ企業トヨタは、研究開発から販売までを垂直統合することで、世界でもトップクラスの競争力を持っています。
本社で開発を行い、部品の製造や車体の組み立ては専門分野を担う子会社が行います。車種ごとに系列の販売店がユーザーへ製品を届けるモデルで、物流と生産のコストを削減し、低価格で高品質な製造を可能としています。
「トヨタ生産方式」と呼ばれる垂直統合の製造フローは、世界の製造業が手本とするビジネスモデルです。
各プロセスを連携させて「ムダ」を無くし、必要な数の部品のみ生産する方式は、過剰在庫問題を解消しました。
2010年代には、ビジネスモデルを「モビリティサービス」と定義し、ユーザーの好みの車種に乗り換えられるサービスを立ち上げ、サービス部分の統合を図ろうとしています。
Netflix
定額制の動画配信で、サブスクリプションサービスを展開しているNetflixの事例です。
Netflixは創業当初、物理的なDVDの配送を行っていましたが、現在ではストリーミングによりさまざまなコンテンツを配信しています。
ITを活用し、ユーザーが視聴した過去のビッグデータから、定額制で得た収益でオリジナルの映像コンテンツに多くのコストを投じています。
AIの解析をもとに、ユーザー好みのコンテンツを提供することで、継続せずにいられないサービスにまで成長させることに成功しました。
Netflixは、映像の流通業から映像の製作会社へとシフトチェンジし、コンテンツ業界のSPA(製造小売)へ進化させたのです。今や、映像作品を製作する巨大スタジオとなり、ハリウッドスタジオがライバルとなるほどにまで成長しました。
水平分業と垂直統合どちらを選ぶべき?
水平分業と垂直統合、どちらのビジネスモデルを選定するべきか、一概には結論を出せません。しかし、どちらが時代にマッチしているかとなれば、やはり水平分業型のビジネスモデルが適していると言えるかも知れません。業務プロセスの一部をアウトソーシングすることで、高い効率性や生産性が生まれていることから、水平分業を採用している企業が多いからです。
それにより、自社の業務プロセスの一部をアウトソーシングすることに、抵抗感が少なくなっている企業が増えています。
もちろん、すべての企業にとって水平分業が適しているとは限りません。
高いコアコンピタンスを維持できている企業は、垂直統合のビジネスモデルを継続して採用すれば強みを継続できるでしょう。
水平分業を採用する際は、自社におけるコアコンピタンスを整理し、失うことにならないかを十分検討の上で推進すべきです。
まとめ
企業の業務プロセスの一部を外部委託するビジネスモデルを、水平分業といいます。自社のコアコンピタンスに注力し、弱い部分をアウトソースすることで設備投資の負担や事業リスクを軽減できます。
一方の垂直統合型は、材料の調達から企画、製造・販売、カスタマーサポートまでを自社やグループ全体で一貫してプロセスを担います。
それぞれ、メリットや特徴が異なるため、自社においてどちらのスタイルがマッチするのか、採用の際は十分に検討した上で導入しましょう。