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半導体後工程企業(OSAT)ランキング|アジア企業のシェア率が高い理由も

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半導体の需要が急速に拡大する中、製造プロセスの中核を担うOSAT(半導体後工程受託企業)が注目を集めています。特に、世界トップクラスのOSAT企業ランキングではアジア企業の圧倒的なシェア率が目立ち、その背景には独自の技術力やコスト優位性があるとされています。

本記事では、OSATの基本的な役割や注目される理由、最新の企業ランキングを解説しながら、アジア企業が高いシェア率を誇る理由や日本企業の現状についても詳しく探ります。OSAT市場の動向を把握することで、半導体産業の未来像を考える一助となれば幸いです。

OSATとは

OSATとはOutsourced Semiconductor Assembly and Test(半導体後工程受託企業)の略称で、ファウンドリーから受け取った回路形成済みのウエハーを個々のチップに切り分け、動作確認テストを実施した後、合格品をパッケージに実装して製品として完成させる重要な役割を担っています。

ここでいうファウンドリーとは半導体の前工程(ウエハー製造)を専門に請け負う企業のことで、代表的な企業としてTSMC(台湾)が挙げられます。

半導体産業は、製造工程の違いによって4つの主要な業態に分類されます。それぞれの特徴は以下の通りです。

業態 概要
OSAT 半導体製造の後工程(パッケージングとテスト)に特化した企業。
不特定多数の顧客から受託し、高度な製造技術と高効率な生産体制により、競争力の高いサービスを提供する。チップの組立やテストを主な業務とする。
IDM 設計から製造までを一貫して自社で行う垂直統合型企業。
製造工程全体を自社でコントロールできる利点を持つが、莫大な設備投資が必要。外部サプライチェーンの影響を受けにくい特徴を持つ。
ファブレス 設計に特化し、製造は外部委託する企業。
製造設備を持たないため設備投資負担が少なく、製品企画や設計に経営資源を集中できる。市場のニーズに柔軟に対応可能。
ファウンドリー 半導体の前工程(ウエハー製造)に特化した受託製造企業。
顧客の設計データに基づいて生産を行い、大規模な設備投資により最先端の製造技術を維持。複数顧客からの受注で効率的な生産を実現する。

このように半導体産業では、各企業が得意分野に特化することで効率的な生産体制を構築し、競争力を高めています。

OSATが注目されている理由

これまでの半導体産業では、性能向上の手段として前工程での微細化が重視されてきました。しかし、近年ではムーアの法則に沿った微細化による性能向上が限界を迎えつつあり、新たな手法が求められています。

そこで脚光を浴びているのが、チップレットと呼ばれる集積技術です。この技術は、本来1つのチップにまとめたい回路を意図的に細かく分割し、後から大型チップへと組み立てる手法です。また、チップの3次元積層技術と組み合わせることで、より高度な半導体製品を生み出すことが可能になります。

チップレット技術には、従来の前工程と後工程の両方の要素が含まれています。例えば、シリコン素材のインタポーザ上に微細配線を形成する技術や、ウエハーの表裏を貫通させて電極を取り出す技術など、前工程での技術やノウハウが必要とされます。一方で、樹脂基板の多層積層や微細なバンプを使用した接続・組立、さらには熱膨張や振動による機械的負荷への対応など、後工程での経験も重要な役割を果たします。

このような技術革新により、OSATの役割は単なる組立やテストを行う「後工程」から、高付加価値を生み出す「中工程」へと進化しつつあります。チップレット技術を用いたシステムレベルでの高性能な集積は、半導体産業における新たな競争領域となっており、OSATの重要性は今後さらに高まると予想されています。

OSATの市場規模

OSATの市場は、2024年に約431億米ドルと評価され、2032年までに791億米ドルに達すると予想されています。また、予測期間中の年平均成長率(CAGR)は7.9%となっています。この成長の主な要因は、パトロンエレクトロニクス、自動車、通信などの業界で使用される高性能半導体デバイスへの需要増加によるものです。

また、5G、IoT、電気自動車などの最新技術の台頭で、より洗練されたチップの必要性が促され、OSATサービスの需要はさらに高まっています。

OSAT市場について地域別に見てみると、最も急速に成長しているのが北米で、デジタル化や5Gに重点を置くヨーロッパでも市場が徐々に拡大しています。アジア地域は、中国、台湾、韓国、日本などが半導体製造の主要なグローバルハブとしての役割を担っている状況です。

半導体後工程企業(OSAT)ランキング

半導体後工程の世界市場では、アジア企業が強い存在感を示しています。IDCの調査によると、2022年におけるOSAT業界のトップ5のうち、4社がアジア企業で占められています。さらに上位5社で世界市場の約7割のシェアを占めており、寡占化が進んでいることがわかります。

【半導体後工程企業(OSAT)ランキング トップ5】

順位 企業 本社所在地 割合
1 ASE Technology Holding Co.,Ltd. 台湾 27.6%
2 Amkor Technology, Inc. 米国 15.9%
3 JCET Group Co., Ltd. 中国 11.3%
4 Tongfu Microelectronics Co., Ltd. 中国 7.1%
5 Powertech Technology Inc. 台湾 6.4%

参考:世界の半導体後工程受託企業 トップ10社の市場シェア(2022年)|IDC
(引用日2025-1月)

1位:ASE(台湾)

ASE Technology Holding Co.,Ltd.は、台湾に本社を置く半導体後工程の大手企業です。2018年にSiliconware Precision Industries Co.,Ltd.(SPIL)と経営統合を行い、規模の拡大による競争力強化を実現しました。市場シェア率は27.6%と、2位以下を大きく引き離して業界をリードしています。

2位:Amkor(米国)

Amkor Technology, Inc.は、1968年に設立された歴史あるOSAT企業です。米国を拠点としながら、アジア地域にも製造拠点を持ち、世界市場の15.9%のシェアを獲得しています。設立当初からIDMを中心とした後工程の受託を手がけ、現在も事業の基本形態は変わっていません。

3位:JCET(中国)

JCET Group Co., Ltd.は、中国を代表するOSAT企業の一つです。市場シェア11.3%を持ち、中国政府の半導体産業育成政策を背景に成長を続けています。主にパッケージングとテストサービスを提供しています。

4位:TFME(中国)

Tongfu Microelectronics Co., Ltd.(TFME)は、中国のOSAT企業として高い技術力を持つ企業です。世界市場の7.1%のシェアを占め、中国国内の半導体産業の発展に貢献しています。後工程における高度な技術サービスを提供しています。

5位:PTI(台湾)

Powertech Technology Inc.(PTI)は、台湾に本社を置くOSAT企業で、市場シェア6.4%を占めています。パッケージング技術とテストサービスを提供し、特に高度な技術を要する製品分野で強みを発揮しています。

半導体後工程企業(OSAT)ランキングからわかること

OSATの世界市場においては、上位5社による寡占状態が進んでいます。これら5社で世界市場シェアの約7割を占めており、特にアジア企業の存在感が際立っています。

本社所在地別にシェアを分析すると、台湾企業2社(ASE Technology Holding Co.,Ltd.とPowertech Technology Inc.)が合計で約34%と最も高く、中国企業2社(JCET Group Co., Ltd.とTongfu Microelectronics Co., Ltd.)が合計で約18.4%でこれに続きます。5社のうち唯一、アジア以外の企業である米国のAmkor Technology, Inc.は15.9%のシェアを持っています。

このようなアジア企業の高いシェア率の背景には、TSMCの台頭とともに発展した半導体産業の水平分業化が挙げられます。1987年にTSMCが世界初のファウンドリーとして設立された際、すでに後工程を担うサブコンが台湾に存在していたことが、その後のOSAT発展の土台となりました。

また、労働集約型である後工程は、人件費の安いアジア地域で事業を展開しやすかったことも、アジア企業が強みを持つ要因となっています。

参考:世界の半導体後工程受託企業 トップ10社の市場シェア(2022年)|IDC
(引用日2025-1月)

半導体後工程でアジア企業のシェア率が高い理由

アジア企業がOSAT市場で高いシェアを持つ背景には、半導体製造における前工程と後工程の特性の違いが大きく関係しています。

半導体の前工程は、ウエハーやバッチ単位での一括処理が中心で、製造プロセスが標準化されているため自動化が容易です。その反面、最先端の製造技術を維持するには、膨大な設備投資が必要となります。このため前工程は、高度な製造装置を数多く導入する「資本集約型」の特徴を持っています。

一方、後工程では個々の半導体の特性や用途に応じて異なる組立方法が必要となります。そのため製造プロセスの標準化が難しく、作業の多くを人の手に頼らざるを得ません。この「労働集約型」という特徴から、人件費の安いアジア地域での事業展開に適していました。

こうした背景から、1984年に台湾でASEが設立されるなど、アジア地域で早くからOSATビジネスが発展し始めました。その後、1987年にTSMCが世界初のファウンドリーとして設立された際にも、すでに後工程を担う企業が存在していたことで、水平分業型の半導体産業が円滑に発展することができました。このような歴史的経緯が、現在のアジア企業の高いシェアにつながっています。

日本のOSATの現状

かつて日本の半導体メーカーの多くは、後工程が前工程に比べて付加価値が低く、投資効率の面でも課題があると考え、この部門を手放してきました。その結果、多くの後工程部門は人件費の安いアジア地域のOSAT企業に移管されることとなりました。

そのような中、アオイ電子は半導体後工程の受託生産を継続し、「日本最後のOSAT」と呼ばれています。また、大分デバイステクノロジーのように、パワーデバイス領域に特化したOSATサービスを展開する企業も存在します。その他、最先端半導体の量産を目指すラピダスは、北海道千歳市に建設中の自社工場に隣接しているセイコーエプソンの千歳事業所内に、後工程の開発拠点を設置しました。このように、後工程も国内回帰の動きが見られる一方で、これらの企業の世界市場でのシェアはまだ限定的であり、日本企業の存在感は決して高いとは言えない状況です。

しかし近年、半導体後工程の重要性は大きく変化しています。2.5次元・3次元実装やチップレット技術の台頭により、後工程は単なる組立工程から、高度な技術と付加価値を生み出す工程へと進化しています。さらに、生産プロセスの自動化も進展し、かつての労働集約型という特徴は薄れつつあります。

加えて、自動車産業など日本の基幹産業において、半導体サプライチェーンの分断リスクへの懸念が高まっています。こうした経済安全保障の観点からも、国内でのOSAT育成は喫緊の課題となっています。

このように、OSAT市場における日本の存在感が薄れつつあるなか、復権の動きも垣間見えてきました。国内の代表的なOSAT企業を3社紹介します。

アオイ電子

日本のOSAT企業の中心的存在が、香川県高松市に本社を置くアオイ電子です。先述のとおり「日本最後のOSAT」とも呼ばれる同社は、半導体後工程の受託生産を国内で堅持してきました。

近年はチップレット技術に注力し、350億円の投資計画のうち200億円をこの「中工程」の分野に充当。パネルレベルでの多層化技術や製造ライン自動化を進め、微細化の限界に直面する半導体産業で後工程技術の重要性を示しています。

大分デバイステクノロジー

パワー半導体に特化したOSAT企業として注目されているのが、大分デバイステクノロジーです。パワーデバイス領域に特化したOSATビジネスを展開し、設計から量産まで手掛けています。特に、顧客ニーズに合わせた柔軟な対応が強みで、高品質かつ信頼性の高い製品開発を実現しています。

近年では、電気自動車や再生可能エネルギー向けの需要増加を受け、新材料や新製造方法の研究開発も積極的に進め、業界の最新トレンドへの対応を加速させています。

ラピダス

先に少し触れましたが、ラピダスは日本の半導体産業の復活の鍵を握る企業で、北海道に建設中の自社工場に隣接するセイコーエプソン事業所内に半導体の後工程開発拠点を設置し、国内回帰を具現化しています。

設計と製造を一体化させた「RAMSモデル」を採用し、専門企業と連携しながら効率的に各工程を進めています。政府も、ラピダス支援を念頭に、半導体・AI分野で2030年度に向け10兆円以上の大規模公的支援を決定しました。

まとめ

半導体製造における後工程専門企業(OSAT)の世界市場は、アジア企業が高いシェアを持つ特徴があります。これは、かつての後工程が労働集約型であり、人件費の安いアジア地域に適していたことが背景にあります。しかし、チップレット技術の進展により、OSATの役割は大きく変化しつつあります。単なる組立工程から、高度な技術を要する中工程へと進化し、その重要性は一層高まっています。日本企業は多くの後工程部門を手放してきましたが、近年は経済安全保障の観点から、国内でのサプライチェーン強化が課題となっています。今後は、自動化の進展と高付加価値化により、OSATビジネスの競争構造も変化していくことが予想されます。

PEAKSMEDIA編集チーム

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