Contents 目次
自動車部品業界の市場規模
日本の自動車部品業界は、国内製造業において重要な位置を占めています。
ここでは、自動車部品業界の市場規模について、自動車産業全体における自動車部品の位置づけや出荷額の推移、さらには輸出入の動向を詳しく見ていきます。
自動車部品の位置づけ
一般社団法人日本自動車部品工業会が発表した資料「日本の自動車部品産業」を参考に、自動車部品産業の位置づけを見ていきます。
自動車部品産業は、日本の製造業における主要産業の一つとして確固たる地位を築いています。経済産業省の2022年経済構造実態調査によると、自動車関係の出荷額は56.3兆円で、そのうち自動車は20.8兆円、自動車部品は34.7兆円となっています。
これは、全製造業の出荷額に対して、自動車部品だけでも10.5%を占める規模です。なお、この数字には、ばね、ガラス、タイヤ、ねじ、ボルトなど、他の統計分類に計上されている自動車関連部品は含まれていないため、実質的な市場規模はさらに大きいと考えられます。
事業所数で見ても、自動車部品製造業は全国に7,051事業所を有し、約66万人の雇用を創出しており、日本の製造業における重要な基盤産業となっています。
参考:一般社団法人日本自動車部品工業会|日本の自動車部品産業
自動車部品業界の出荷推移
引き続き、一般社団法人日本自動車部品工業会の資料「日本の自動車部品産業」をもとに、自動車部品業界の出荷推移について見ていきます。
自動車部品の出荷額は2013年度以降、着実な成長を遂げ、2017年度には約20.4兆円という過去最高水準を記録しました。この成長は、第二次安倍政権による経済政策「アベノミクス」の効果や、グローバル市場での日本車の需要拡大が追い風となりました。
しかし、2019年度に発生した世界的な新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年度には約16.9兆円まで大きく落ち込みました。その後、サプライチェーンの立て直しや世界経済の回復に伴い、出荷額は回復基調に転じ、2022年度には約19.5兆円まで回復しています。この回復傾向は、世界的な自動車需要の回復と、各自動車メーカーの生産正常化への取り組みを反映したものといえます。
参考:一般社団法人日本自動車部品工業会|日本の自動車部品産業
自動車部品の輸出・輸入推移
日本の自動車部品の貿易動向は、地域によって特徴的なパターンを示しています。一般社団法人日本自動車部品工業会の「日本の自動車部品産業」を見ると、2023年の輸出状況は、北米向けが2.2兆円と最大のシェアを占め、次いでASEANが1.2兆円、EU(27か国)が0.8兆円、中国が0.6兆円と続いています。
一方、輸入ではASEANからが1.3兆円と最も多く、中国からが1.0兆円で続き、北米とEUからはそれぞれ0.3兆円となっています。これらの数字から、日本の自動車部品貿易の特徴が見えてきます。
北米との取引では大きな輸出超過となっており、日本の技術力の高さを反映しています。一方、中国との取引では輸入超過となっており、コスト競争力を活かした部品調達が進んでいることがわかります。
また、ASEANとは輸出入ともに大きな取引額を示しており、生産拠点としても市場としても重要な地域になっていることが明らかです。
このような貿易構造は、グローバルなサプライチェーンの中での日本の自動車部品産業の位置づけを示しています。
参考:一般社団法人日本自動車部品工業会|日本の自動車部品産業
自動車部品業界の企業シェアランキング
日本の自動車部品業界における主要企業の売上高ランキングについて、2021-2022年の業績をもとに紹介します。上位5社は以下のとおりです。
順位 | 企業 | 主要事業領域・製品 | 売上高(億円) |
1 | デンソー | パワートレイン、電装品、ADAS(先進運転支援システム)、半導体 | 55,155 |
2 | アイシン | ドライブトレイン(トランスミッション)、ブレーキシステム、EV用駆動モジュール | 39,174 |
3 | 豊田自動織機 | フォークリフト、エンジン、カーエアコン用コンプレッサー、車載用エレクトロニクス製品 | 27,051 |
4 | 住友電気工業 | ワイヤーハーネス、電池バスバーモジュール、高圧JB、セントラルゲートウェイ、防振ゴム | 17,523 |
5 | 日立製作所 | 電動パワートレイン、ADASソフト開発用技術、xEV関連製品(モーター、インバーター) | 15,910 |
出典:業界動向リサーチ|自動車部品業界 売上高ランキング(引用日2025年2月)
業界トップのデンソーに、アイシン、豊田自動織機など、自動車部品業界を代表する企業が続いています。これらの企業は、自動車の電動化や自動運転技術の進展にしっかり対応しながら、グローバル市場での競争力を維持・強化しています。
自動車部品業界の特徴
自動車部品業界は、自動車メーカーを頂点とするピラミッド型のサプライチェーン構造が特徴です。このピラミッドは、OEM、Tier1、Tier2と階層化されており、各層で異なる役割を担っています。この階層構造により、約3万点にも及ぶ自動車部品の効率的な製造と供給を実現しています。
ここでは、各階層の特徴と役割について詳しく見ていきましょう。
OEM
自動車業界におけるOEM(Original Equipment Manufacturer)は、自社ブランドで完成車を製造・販売する自動車メーカーを指します。一般的なOEMの定義である「他社ブランドの製品を製造すること」とは異なり、自動車業界では独自の意味を持っています。
OEMは、Tier1サプライヤーから供給されるさまざまな部品を組み立てて完成車を製造し、ディーラーを通じて市場に提供します。各サプライヤーとの緊密な協力関係を築き、高品質な自動車の安定供給を実現しています。また、部品の調達や品質管理においても重要な役割を果たし、業界全体の品質基準や技術革新を牽引している存在と言えるでしょう。
Tier1
Tier1サプライヤーは、OEMと直接取引を行う自動車部品メーカーです。エンジン、トランスミッション、電装品など、自動車の核となる重要部品の開発・製造を担当します。
多くのTier1サプライヤーは、総合部品メーカーとして複数のOEMと取引関係を持ち、高度な技術力とノウハウを蓄積しています。そのため、単なる部品供給者としてだけでなく、OEMに対して新技術や改良案を提案できる戦略的パートナーとしての役割も果たしています。
近年では、自動車の電動化や自動運転技術の進展に対応し、革新的な部品開発にも取り組んでいます。
Tier2
Tier2サプライヤーは、Tier1サプライヤーに部品を供給する企業群です。主に半導体、鋳造部品、プレス部品など、より専門的な製造工程を担当し、素材メーカーから材料を調達して高度な加工技術を用いて部品を製造します。
Tier2サプライヤーの技術力は、最終製品の品質や性能に直接影響を与えるため、高い精度と信頼性が求められます。特に近年は、自動車の電装化に伴い、電子部品や精密部品の製造において、その重要性が増しています。
品質管理体制の構築や技術革新への対応も、Tier2サプライヤーの重要な課題となっています。
自動車部品業界が抱える課題
自動車部品業界は、社会情勢や市場環境の変化に伴い、さまざまな課題に直面しています。特に深刻な問題として、生産現場における労働人口の減少や、部品の共通化に伴うリコール規模の拡大などが挙げられます。
これらの課題は業界の持続的な成長を脅かす要因となっており、その解決に向けた取り組みが急務となっています。
労働人口の減少
日本の自動車部品業界において、生産現場での人手不足は深刻な問題となっています。少子高齢化の進展により、製造業全体で働き手となる生産労働人口が減少しており、自動車部品の製造現場でも人材確保が困難になっています。
この課題に対する解決策として、ロボットやソフトウェアを活用した製造ラインの自動化が挙げられます。AI(人工知能)やIoT技術を活用したスマートファクトリー化や、作業の効率化を図るデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進など、技術革新を通じた人手不足の解消に向けた取り組みが進められています。さらに、高齢者や外国人材の採用など、多様な人材の活用も進められています。
リコール規模の拡大
自動車部品業界では、コスト削減を目的とした部品の共通化が進んでおり、異なるメーカーや車種でも同じ部品が使用されるケースが増えています。この結果、部品に不具合が発生した場合、リコールの規模が大きくなり、部品メーカーの業績に深刻な影響を及ぼすリスクが高まっています。
この問題に対しては、製造過程全体における厳密な品質管理体制の整備や、AIを活用した不良品検知システムの導入など、予防的な取り組みが強化されています。また、リコール発生時の迅速な対応体制の構築や、リコール保険の活用など、リスクマネジメントの観点からの対策も重要視されています。
自動車部品業界の展望
自動車業界のサプライチェーンは、自動車の電動化により大きな変革を遂げています。例えば、モーターやバッテリー関連部品の需要が著しく増加する一方で、エンジン関連部品は徐々に縮小されていくことが予想されます。また、電動化と並行して「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」と呼ばれる潮流も生まれており、業界構造の変化とともに新たな技術分野の発展が期待されています。
具体的には、従来のガソリン車では約3万点必要だった部品が、EVでは約2万点まで減少すると予測されています。特に、エンジン関連部品はこれまでの約1万点から2,000〜3,000点程度まで大幅に減少し、エンジン部品メーカーは事業転換を迫られています。
その一方で、モーターやバッテリー、電装品、制御システムなど、EVに必要な新たな部品の需要は拡大の一途を辿っています。国が掲げる「2035年までに乗用車の新車販売で電動車100%を目指す」という目標に向けて、部品メーカーには高度な製造技術の確立と、次世代自動車分野への進出が求められているのです。
電動化による技術革新と事業転換は、特に中小のサプライヤーにとって大きな課題となっていますが、経済産業省による支援事業なども整備され、業界全体での取り組みが進められています。
自動車部品の技術領域別の開発動向
EVの普及に向け、自動車メーカーや部品サプライヤーは技術革新を加速させており、車両の軽量化技術やe-Axleの小型・高効率化など、航続距離の延長とコスト削減を両立させる取り組みが進んでいます。
特に、電費向上と走行性能の改善を実現するための技術開発が注目されており、市場競争力を高めるための重要な要素となっています。
軽量化技術の進展
電動車の航続距離を延ばすには、車両の軽量化が極めて重要です。高張力鋼板の採用は、その強度と軽量性で注目を集めており、薄板化しながらも剛性を確保することで、車体重量の大幅な削減を実現しています。JFEスチールは熱間連続圧延技術により、より効率的な高張力鋼板の生産を可能にしました。
また、ホンダやBMWをはじめとする自動車メーカーは、アルミニウムやカーボンファイバーなどの軽量素材を積極的に活用しています。特にBMWでは、早期からカーボンファイバー強化プラスチック(CFRP)を車体骨格に採用し、バッテリー重量の増加を相殺しながら安全性を確保しています。
さらに、軽量化を支える技術として、接着・溶接技術の高度化も進んでいます。異素材接合技術の向上により、アルミ合金や高張力鋼など異なる材料の最適組み合わせが可能となり、構造強度を保ちながら車体重量の削減を実現しています。
e-Axleの進化
e-Axleとは、モーター、インバーター、ギアを一体化した電動駆動ユニットのことで、EVの設計効率化と性能向上に大きく貢献しています。現在、e-Axle開発における最大の課題は小型・軽量化と高効率化であり、これらを実現するための技術革新が進んでいます。
小型・高出力モーターの開発においては、磁性材料とコイル配置の最適化が注目されています。富士通と富士通研究所は、AIを活用してエネルギー損失を最小限に抑える磁性体形状を自動設計する技術を開発し、モーターの高効率化に貢献しています。また、希少元素に依存しない次世代磁石材料の探索も進められており、持続可能な材料開発が目指されています。
インバーターの高効率化においては、SiC(シリコンカーバイド)半導体の採用が進んでいます。デンソーが開発したSiC半導体を用いたインバーターは、特定の走行条件において電力損失を半減以下に抑制することに成功し、航続距離の延伸に寄与しています。また、ロームはマツダおよび今仙電機とともにSiCパワーモジュールの共同開発契約を締結し、競争力の高いモジュールの開発を推進しています。
バッテリー技術の革新
EVの競争力を左右する最も重要な要素の一つがバッテリー技術です。現在、主流となっているリチウムイオン電池は、高エネルギー密度化に向けた技術革新が加速しています。特に、リチウム過剰系材料の使用により、エネルギー密度の向上と原材料コストの削減が同時に進められています。
全固体電池の研究開発では、トヨタ・パナソニック・日産が先行しており、液体電解質の代わりに固体電解質を使用することで、さらなる高エネルギー密度化と安全性向上を目指しています。トヨタは2026年までの量産化を目指し、日産は2025年度に全固体電池のパイロットラインを稼働させる計画です。また、パナソニックもトヨタと協力して2025年以降の車載用途での試験運用開始を予定しています。
そして、急速充電技術も大きく進展しており、特に800Vアーキテクチャの採用が注目されています。この高電圧プラットフォームは、従来の400Vシステムに比べて充電速度を大幅に向上させ、充電時間の短縮とバッテリーサイズや重量の軽減を可能にします。
熱マネジメント技術の重要性
従来のエンジン車では、エンジンからの排熱を暖房などに利用できましたが、EVではその排熱がないため、新たな熱マネジメント技術が必要です。特に冬季の寒冷地では、暖房用のエネルギー消費が航続距離を大幅に低下させる要因となるため、効率的な熱マネジメント技術の開発が急務となっています。
外部の熱を取り込んで車内を暖めるヒートポンプシステムが注目されており、従来の電気ヒーターと比較して少ないエネルギーで多くの熱を供給できるため、冬季の航続距離を延長することが可能です。
また、バッテリー冷却技術も大きく進展しており、液冷システムと空冷システムの最適化が図られています。液冷システムは、バッテリー全体を冷却液で直接冷却することで均一な温度分布を維持し、特に急速充電時の熱管理に適しています。一方、空冷システムはコスト面で優位性があり、両者のハイブリッドシステムによる最適化も進んでいます。
静粛性・騒音対策技術
EVは、エンジン音が消えることで、従来はエンジン音にマスキングされていたロードノイズや風切り音が相対的に目立つようになりました。そのため、従来以上に高度な静粛性・騒音対策が求められています。
例えば、シリカエアロゲルやセルロースナノファイバーを利用した新しい遮音材は、軽量でありながら高い遮音性能を持ち、車両の軽量化と静粛性を両立させるとして注目されています。
また、アクティブノイズキャンセリング(ANC)技術も広く導入されています。この技術は車内に設置されたマイクロフォンが周囲の音を拾い、その音の逆位相の音をスピーカーから発生させることで騒音を打ち消します。
特に道路からの振動音などの低周波数のノイズに効果的で、多くの高級車では標準装備として採用されています。ANCは、他の静音技術と組み合わせることで、さらに快適な車内環境を実現する技術です。
まとめ
自動車部品業界は、EVシフトという大きな転換期を迎えています。業界の特徴である自動車メーカーを頂点としたピラミッド型のサプライチェーン構造は、労働人口の減少やリコール規模の拡大といった課題に直面しています。さらに、EVへの移行に伴う部品点数の減少により、特にエンジン関連部品メーカーは事業転換を迫られています。
このような環境変化の中、電動化に対応した技術革新と新たな事業展開が、今後の業界発展のカギとなるでしょう。