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若手起業家から見たスタートアップの現在地と製造業のリアル|株式会社フツパー インタビュー【前編】

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大西さん率いる株式会社フツパーは、製造業向けにエッジコンピューティング×ディープラーニングで生産性向上に取り組み、2020年の創業以来、累計で5.4億円を調達するなど、投資家から熱い視線が送られるスタートアップである。

イスラエルでの起業経験も持つなどエッジの効いた経歴を持つ大西さんは、製造業、スタートアップの今をどう見るのか。そして、フツパー自身が製造業をどう変えていこうとしているのか伺った。

プロフィール

株式会社フツパー 代表取締役CEO 大西洋さん

広島大学工学部を卒業後、日東電工に入社しICT部門の営業として1年間勤務。その後、イスラエルで起業を試みるも失敗し、工場向けAI/IoTベンチャーの事業開発グループリーダーとして、サービスの立ち上げに従事。2020年にフツパーを設立し、「はやい・やすい・巧い AIを。」をモットーに、製造業向け画像認識エッジAIサービスを展開中。MENSA会員。

盛り上がりを見せる日本のスタートアップ市場

日本は諸外国と比べて起業しにくい国だと思われてきた。

もちろん、著名な起業家もいるが、例えばシリコンバレーと比較してどうかといわれると、圧倒的に市場規模は小さいといわざるをえない。世界からすると資金量もユニコーン数についても大きな遅れをとっているのが現状だ。

しかし、そんな日本のスタートアップ市場も、2021年度の資金調達額は8,000億円程度まで拡大。世界展開を本格化させるスタートアップ企業も複数出てくるなど、近年盛り上がりを見せている。

岸田政権は2022年を「スタートアップ創出元年」に位置付け、イノベーションのカギとなるスタートアップを5年で10倍に増やすと宣言しました。大西さんは、まさにスタートアップのCEOとして製造業DXの支援に取り組まれているわけですが、世の中のスタートアップへの関心の高まりは実感されているでしょうか?

国内スタートアップの資金調達額が、前年比で約50%近く増えるなど、資金面でもそうですが、スタートアップに転職してくる人のタイプの変化から見ても、盛り上がりを感じています。

大企業でしっかり働いていて、40歳くらいになってから転職するような人って、以前だったらスタートアップは選ばなかったと思うんです。ところが、今はそういった人もスタートアップに転職するケースが増えています。

スタートアップが注目され始めたことで、人材の裾野が広がっている印象がありますね。僕が新卒で入社した会社の同期に関しても、転職した人のうち半数くらいはスタートアップに入っている印象です。

とはいえ、グローバルで見ると日本はまだまだスタートアップ市場の規模が小さいというデータもあります。

そうですね。スタートアップの調達額やユニコーン企業(評価額10億ドル以上、創業10年以内の非上場スタートアップ企業)数など、いずれの指標においてもほかの先進国よりも著しく低い水準になっています。

例えば、ユニコーン企業はグローバル全体の55%をアメリカが占めており、中国が38%くらい。この2ヵ国だけで世界の9割なんです。

一方、日本のユニコーン企業は僕が知る限り10数社。当然、グローバルでの存在感は皆無といえます。

世界のベンチャーキャピタル投資

東京への一極集中が続く中、フツパーが大阪を選んだ理由

そもそも、日本は世界の先進国に比べて起業家の数が少ないといわれています。大西さんは、なぜ起業を選択されたのでしょうか?

スタートアップが盛り上がっているとかいないとかは、僕自身はあまり気にしていなかったです。

盛り上がってからも、それが自分に還元されるとは思っていませんでした。それに、盛り上がっているといっても、結局のところ中心は東京なんですよ。

スタートアップ市場の調達額にしても、年間7、8,000億円くらいあるのですが、そのうち5,000億円くらいは東京に集中しています。大阪と京都と神戸を合わせても年間調達額は200億円程度。東京とはやはり規模が違います。

フツパーは2020年4月に大阪で創業しましたが、時期や地方ということもあり、盛り上がりはまったく感じていませんでした。

そんな中で、あえて大阪を起業の地に選ばれたのはなぜですか?

大阪は製造業の地です。原料や製品の輸送に便利な大阪湾が広がり、機械製造や化学工業、鉄鋼業などが盛んです。そのため、関係する中小企業が集まっています。

大阪府にある製造業の事業所は1万5,600ヵ所を超え、全国で最も多い数です。フツパーが提供する、インターネットを経由せずに直接AIと接続して検品・検査を行う「画像認識エッジAI」は、製造業が主要な顧客層となるため、大阪で起業するメリットが十分にあったんです。

それに、スタートアップが東京に集中しているのであれば、あえて地方で立ち上げたほうが目立てますからね(笑)。

模索する中で見つけた、製造業×ITという起業アイディア

スタートアップというと、資金調達をして一気に成長を加速させていくような事業戦略を想像しますが、大西さんの場合、持続的な成長を実現するために、状況をしっかり見極めた適切な戦略をとって進められているように感じます。

それは、僕の経歴が影響しているかもしれませんね。フツパーを創業する前に、結構失敗しているので!

簡単にお伝えすると、新卒の会社を1年で辞めて、そのままイスラエルへ起業に向かって失敗。

帰国してもう一度起業挑戦してみたんですが、ここでも実力不足を痛感して…結局、再就職しました。しかし、そのときの製造業の現場での経験がフツパーのビジネスアイディアにつながっているんです。

大学卒業から創業まで、いろいろな動きをされたんですね。あらためて、大西さんのご経歴を教えていただけますか?

僕は広島大学を卒業後、新卒で日東電工に入社しました。働いている中で、ITに取り組んでみたいと思うようになり、1年程で退職。

その後、岡山にある「ギークハウス」というエンジニアの集まるシェアハウスで朝から晩まで勉強に明け暮れて、「とりあえず何かを作るぞ」とウェブサービスを開発しました。

そのサービスで企業するぞと、イスラエルへ退職から2ヵ月後には飛んでいました(笑)。

すごいスピードと行動力ですね。なぜイスラエルだったのですか?

そこはやはり疑問に思いますよね!

IT系で起業しようと思ったら、海外ならシリコンバレーに行くのが普通。ただ、当時は日本からシリコンバレーに行く若者って、すごくたくさんいたんです。

で、大阪でフツパーを起業した理由と同じく、それじゃあおもしろくないし目立てないだろうと。調べてみたら、イスラエルは第2のシリコンバレーと呼ばれているほど起業が盛んな地だったにもかかわらず、日本人はほとんどいない。「これだ!」と思いました。

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イスラエルはどうでしたか?

イスラエルではVC(ベンチャーキャピタル)などいろいろ回ったのですが、まったくダメでした(笑)。

しかも、物価が高くて、正直お金が底をついて、すぐに帰るなんてかっこ悪すぎると思ったのですが、逆にそんな理由でとどまるのもかっこ悪いので起業はあきらめて帰国しました。

その後、東京のVCもたくさん回ったのですが、うまくいきませんでした。今思うと、当時僕が開発したウェブサービスがマネタイズの面で難しく、投資家から見て魅力的に映らなかったんです。面談に行っても、先方のほうが僕のやろうとしている事業に詳しいくらいでしたから。

圧倒的に力不足を感じ、「もう一度修行するぞ」という気持ちで、当時ご縁があった設備工事会社の子会社入社し、工場向けAI/IoTサービスを展開する社内ベンチャーの事業開発グループリーダーとして働きました。

それまでやってこられたITと製造業が結びついたわけですね。

その会社で提供していたのは、大手の製造業向けにデータをクラウドに集めて分析するようなサービスです。

例えば、プラントにつけるような流量計や圧力計、電流計などのデータをセンサーで収集するようなイメージです。学生時代に研究してきた分野の事業を行っている会社が、ITのサービスを展開するという、これまでの経験で得た知識を活かせる環境だったのです。

また、僕が入社したとき、会社がまだ設立から1年も経っていない状況で、事業も売上もゼロから作っていく必要がありました。その意味では、スタートアップのような環境で挑戦できるという点も魅力的でした。

中小企業も導入しやすいAIで、中小の製造業が抱える課題を解決

そこから独立されたのはなぜですか?

その会社が提供するシステムは、センサーを活用した大掛かりなものだったので、導入できるのは初期投資がかけられる規模の大きな企業だけだったんです。

だんだんと、エッジAIを活用したサービスで「中小企業でも導入できるプロダクトを提供したい」という思いが大きくなり、退職してフツパーを起業しました。

どうしてエッジAIだったのでしょう?

2019年の後半くらいから、画像の処理をリアルタイムでできる産業用の機械が10万円以下で出始めるなど、エッジAIが盛り上がりを見せていました。

ネット環境がなかったり、検品の精度や速度といった要求水準が厳しかったりする製造業の現場では、エッジAIが絶対にハマると思いました。

また、少子高齢化もあり、中小製造業は慢性的な人手不足に悩んでいます。製造業が避けて通れない検査・検品業務でのエッジAIの活用は、中小の製造業が抱える課題の解決につながると考えました。

コスト面・人手不足といったリアルな課題の中で開発されたのが、画像認識AIを活用した「メキキバイト」だったのですね。

メキキバイトは、製造業の抱える課題を解消するための外観検査自動化AIサービスです。従来のAIと比べて導入コストが圧倒的に低く、それでいて人の目に代わり、検査精度も高く検査速度も高速。

中小企業はITの専門部署がないところも多いですし、いきなり大掛かりなシステムを導入しても取り組みにくい現状があります。まずは、メキキバイトのように始めやすく、それでいてしっかりと効果が出ることから取り組むべきだと思います。

当初3名で始めたフツパーも、今やインターンを合わせると45名くらいに拡大しました。

製造業に携わってきた人や関西のスタートアップで新しい取り組みをやってみたいという人など、同じ共通目標を持つ人がメンバーとして加わっています。今後、品質向上のための管理やデータ分析といったサービス開発で、工場全体の最適化を図っていきたいと考えています。

2020年4月に創業時のお写真

 

株式会社フツパー 大西洋さんインタビュー【後編】はこちら

PEAKSMEDIA編集チーム

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