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BCP(事業継続計画)対策とは
BCPとは、緊急事態における企業や団体の事業継続計画(Business Continuity Plan)です。
BCP対策では、大規模な自然災害やテロ攻撃、システム障害や情報漏えい事故などの非常事態に遭遇した際の損害を最小限に抑え、事業の継続や早期復旧を図ることを目的としています。
欧米では古くから取り組まれていたBCPですが、日本では特に2011年の東日本大震災をきっかけに注目され、新型コロナウイルス感染症の拡大でますますその重要性が高まっています。
BCP対策と防災対策の違い
BCPとは、緊急事態における企業や団体の事業継続計画(Business Continuity Plan)です。
BCP対策では、大規模な自然災害やテロ攻撃、システム障害や情報漏えい事故などの非常事態に遭遇した際の損害を最小限に抑え、事業の継続や早期復旧を図ることを目的としています。
欧米では古くから取り組まれていたBCPですが、日本では特に2011年の東日本大震災をきっかけに注目され、新型コロナウイルス感染症の拡大でますますその重要性が高まっています。
BCP対策と防災対策の違い
BCP対策と類似した取り組みに「防災対策」がありますが、具体的にはどのような違いがあるのでしょうか。
両者の違いは以下のようにまとめられます。
BCP対策 | 防災対策 | |
目的 | 事業を継続させること | 人命や資産を守ること |
対象 | 自然災害やテロ攻撃、サイバー攻撃から停電、 バイトテロといった不祥事まであらゆる緊急事態 | 地震や台風など従業員の安全に関わる自然災害 |
特徴 | ・早期復旧や事業継続が目的のため、 「事後対応」を重視 ・サプライチェーン先や他社と共同で対策を練ることも | ・被害を未然に防ぐことが目的のため、「事前対応」を重視 ・自然災害が起き得る拠点ごとに対策を考えるケースが多い |
BCP対策に防災対策が含まれているようにも見えますが、そもそも両者の目的が異なるため、どちらかではなく両方の対策を講じておくことが望ましいでしょう。
BCP対策が必要な理由
BCP対策が重視されるのは、以下の理由からです。
- 緊急時に事業を早期に復旧し・継続できれば、売上や雇用を維持できる
- 株主や市場から高評価を得られれば、企業価値の向上にもつながる
- 「事業継続ガイドライン」を公表するなど、国もBCP策定を強く推奨している
BCP対策により、緊急時にも安定して事業を経営できるという企業のイメージアップにもつながります。社会的な信頼性が高まり、取引先としても選ばれやすい傾向にもあるため、そうした効果を狙ってBCPを策定するケースもあるでしょう。
BCP対策のメリット
BCP対策のメリットは、主に以下3点です。
1.緊急事態にスムーズに対応できる
不測の事態が起きた時、事前に対策を立てておけば的確な対応が可能となります。自社の課題を明確にした上で集中的に対策を講じるため、自社や顧客の被害を最小限に抑えられます。
2.企業価値が向上し、競争力強化につながる
BCP対策に取り組んでいる企業は、事業が中断するリスクが低いとみなされるため、何も対策を行っていない企業と比べて対外的な信用が高まります。取引先としても選ばれやすくなるため、競争力も高まるでしょう。
3.自社の強みや課題が明確になり、経営戦略の策定にも役立つ
BCPを策定する過程では、自社の強みや弱みを把握するステップが欠かせません。自社が優先するべき事業や課題を洗い出す中で、おのずと今後の方針や経営戦略も見えてくるものです。自社の課題が明確になれば、BCP対策にとどまらず、企業として成長するための業務改善にもつなげられるでしょう。
BCP対策の3つのマニュアル
あらゆる非常事態に備えるBCPには、非常事態の分野別に3つのマニュアルがあります。
自然災害マニュアル | 自然災害の発生時に事業を継続するためのマニュアル |
外部要因マニュアル | 社外の要因による緊急事態へ対処するためのマニュアル |
内部要因マニュアル | 社内の要因による緊急事態へ対処するためのマニュアル |
自然災害マニュアル
自然災害マニュアルは、地震や津波、台風、豪雪、火山噴火などの自然災害が発生した場合に対処するためのマニュアルです。
自然災害マニュアルでは、以下の対策を検討し、具体的にまとめておくことが大切です。
- 避難方法や人命救助の方法
- 従業員の安否確認方法
- 被害状況の確認方法
- 緊急時の連絡リストと優先順位
- 停止した業務を復旧させるための代替案
災害時は停電のリスクもあるため、紙媒体でも保存しておくことが望ましいでしょう。
外部要因マニュアル
外部要因マニュアルは、予期せぬ取引先の倒産をはじめ、サイバー攻撃や通信障害、感染症など外部の要因で起こった問題に対処するためのマニュアルです。
特に取引先の倒産は、事業中断の要因となるケースも多く、こうした事態に備えるための外部要因マニュアルでは以下の対策を検討しておくといいでしょう。
- 仕入れ先が倒産した場合の代替企業リスト
- 通信トラブルにおけるデータ復旧方法
- 情報漏えい時の顧客への通知方法
- 取引先への連絡リストと優先順位
内部要因マニュアル
内部要因マニュアルは、設備トラブルやヒューマンエラー、社内の不祥事といった内部の要因で起こった問題に対処するためのマニュアルです。近年見かけるバイトテロでのSNS炎上もこの内部要因に属します。オフィス移転やシステム改修などで一時的に業務を中断する場合も内部要因に分類できます。
内部要因マニュアルでは、以下の対策を中心に幅広く想定しておきましょう。
- 取引先や関係各所への報告プロセス
- 謝罪文のテンプレート
- 記者会見開催の手順
- 関係先の連絡リストと優先順位
BCP策定・運用の5ステップ
BCPを策定し、運用する具体的な手順について解説します。BCPの策定・運用は5つのステップでまとめられます。
- BCP対策の目的を決める
- プロジェクトチームを作る
- 優先する中核事業を選ぶ
- 損失の大きさを想定する
- 復旧に向けた動き方を決める
1. BCP対策の目的を決める
まずは、自社の経営理念や基本方針などを参考に、原点に立ち返ってBCP対策の目的を定めます。
例えば「従業員を守るため」、「取引先からの信用を守るため」など、BCP対策によって実現したい目標や方針を明確にすることが大切です。
緊急時に従業員一人ひとりがスムーズに行動するためには、誰でも理解しやすい目標を共有することもポイントです。マニュアル通りに策定するのではなく、自社の特性に合わせて目的を定めるようにしましょう。
2. プロジェクトチームを作る
BCPを策定する際には、社内でプロジェクトチームを編成することが一般的です。
BCP対策は社内全体に関わるプロジェクトであるため、総務部などを事務局に設定し、各部門から横断的にメンバーを招集するといいでしょう。
BCP対策については、チーム内だけでなく全従業員が具体的な内容を把握しておくことが重要です。社内全体にBCP対策の意識が浸透するよう、しっかり社内体制を整備しましょう。
3. 優先する中核事業を選ぶ
いくつも事業を展開する企業では、緊急時の損害を最小限に抑え、事業継続の可能性を高めるために、自社にとって最も重要な業務を選定しましょう。
BCPでは、会社の存続に関わる最も重要な事業を「中核事業」と呼びます。中核事業の選定基準は、「売上が最も多い」、「遅延すると損害が大きくなる」、「市場の評価や信頼を維持するために重要」といった要素があげられます。
中核事業を選定する際には、こうした客観的な判断材料をもとに広い視野で検討することが大切です。
4. 損失の大きさを想定する
中核事業を選定したら、「どのような非常事態でどれだけの影響が発生するのか」を想定し、損失の大きさを分析します。
まずは自然災害、外部要因、内部要因それぞれの緊急事態において、中核事業にどの程度の影響が出るのか、また復旧に向けてどのくらいのリソースが必要かなど、以下を具体的に検討しましょう。
- 被害を受けた場合の損失額
- 復旧にかかる費用
- そのうち自社でまかなえる額
- 緊急時に利用可能な補助金や補償の制度
次に、復旧までにかかる時間を想定し、目標時間を定めます。「どの程度の遅延で取引先に迷惑がかかるか」、「信頼を失うことになってしまうか」というタイムリミットから逆算してみるといいでしょう。
5. 復旧に向けた動き方を決める
BCPを策定する上では「BCPの発動基準」と「発動時の体制」を明確にしておくことも重要です。
具体的にBCP対策を定めていても、発動のタイミングを逃してしまうと大きな損失につながるかもしれません。明確な基準と体制を定め、有事の際に迷わずBCPを発動しすぐに行動できるようにしておくことが望ましいでしょう。
策定・運用のポイント
BCP策定・運用のポイントを以下にまとめます。
- 策定範囲を見極め中核事業に絞る
BCPの策定範囲は、自社の存続に関わる収益の大きな中核業務に絞ることが重要です。中核事業の早期復旧こそが収益の安定、事業継続につながるため、策定範囲を正しく選択し、集中的に検討しましょう。
- 動き方を具体的に決めておく
冷静さを失いがちな緊急時にしっかり行動するためには、それぞれの動き方を具体的に示しておくことがポイントです。「〇〇が発生したら、誰が何をする」など、簡潔かつ具体的に決めておきましょう。
- 実践的な訓練をする
BCPを策定するだけでは意味がなく、全従業員が緊急時でも的確に動けるような状態にしておく必要があります。そのためには、定期的な訓練や講習を実施し、従業員の意識向上を図ることが大切です。消防署や自治体と共同で、実践的な防災訓練を行うことも有効でしょう。
- 目標を定めておく
緊急時に中核事業を平常時と同じレベルまですぐに復旧させることは難しいため、「どの程度の時間で、通常の何割程度まで復旧させるか」という目標を明確にしておくことがポイントです。取引先との関係や社会に与える影響などを考慮しながら、実現可能な目標を定めるようにしましょう。
BCP対策を成功させるポイント
BCP対策を成功させるためには、次のような視点をもつことも大切です。
- BCMとBCMSをセットで考える
BCPが計画倒れにならないよう、運用や改善の仕組みを取り入れましょう。
BCM(Business Continuity Management) 事業継続管理 | 従業員の教育・訓練など、策定したBCPを継続的に運用・管理するための仕組み |
BCMS(Business Continuity Management System) 事業継続マネジメントシステム | 策定したBCPに不備や不整合がないか継続的に検証し、改善していくための仕組み |
- 完璧を目指さない
非常時、すべてのリスクに対応する完璧な計画を立てることは不可能に近いでしょう。最初から完璧を目指しすぎず、優先順位を決めながらできる範囲で策定を進めていくことも大切なポイントです。
- 5つの視点で考える
以下の視点で整理してBCP対策を検討しましょう。
- 人的リソース:少人数でのオペレーション、出社できない従業員への対応
- 施設・設備:生産や調達ができなくなった場合における代替手段の用意
- 資金:損害額に相当するキャッシュ・フローの確保
- 体制:的確に指示を出せる指揮者の設定、不在時に代行できる仕組みの構築
- 情報:広域災害に備えた遠隔地でのデータバックアップ
BCP対策の課題
BCP対策には次のような課題も存在します。
コストがかかる
BCPを策定するためには、各部署から人員を割き、下調べや分析をする必要があります。また、顧客との協議や策定後の従業員教育も行わなければならず、場合によってはコンサルティングの導入が必要になるかもしれません。
こうした過程には、どうしても人件費をはじめとする一定のコストが発生します。そのため、いつ起こるかもわからない緊急事態に備えてコストをかけてBCP対策を行うのは財政的に難しいケースもあるでしょう。
機能しない可能性がある
BCPを策定していたとしても、想定を超える非常事態が起きてしまったり、現実に即した対策になっていなかったりした場合には、BCPが機能しない可能性もあります。
完璧を目指しすぎる必要はないものの、検討の段階でできるだけ多くの事態を想定しておくことも重要です。また、訓練時などに不備が発見された場合は、すみやかに現場にマッチした対策へ改善するようにしましょう。
【製造業】BCP対策の事例
最後に、実例として3社のBCP対策を簡単に紹介します。
大草薬品株式会社
漢方薬や生薬を製造・販売する大草薬品株式会社は、工場・店舗での被害を避けるために次のようなBCP対策を行っています。本社が神奈川県三浦半島に位置するため、地震や津波の被害を考えられました。
- 非常時に指示を出せる「事業継続検討委員会(災害対策本部)」の設置
- 備品や薬品、設備機器等が転倒・落下するリスクを避けるため、保管方法を改善
- 従業員の生命・安全を守るため、従業員協力のもと避難通路の確保、初期消化の訓練を実施
- 津波発生時に備え、避難計画の周知徹底
- 工場が被災した場合も「GMP基準(医薬品の製造管理及び品質管理の基準)」を満たして製造を再開できるよう、破損対策を実施
物品や設備機器を多く管理する製造業ならではのBCP対策となっていることが分かります。
株式会社生出
情報通信機器、測定機器、分析器などのハイテク精密製品緩衝包装を専門とする株式会社生出は、2009年に取引先の製薬会社からの要請を受けて、BCP対策を本格化させました。
- 首都直下型地震に備えて、従業員の安全、事業継続性の確保を重視
- 全従業員にBCPポケットマニュアルおよび大地震初期対応カードを配布
- 災害時の机上訓練、手動管理切り替え訓練、バックアップ復旧訓練を何度も実施
- 定期的なBCP対策の活動報告会議を開催
こうした BCP対策を講じたことで、取引先からの信頼性も高まり、競合他社との差別化にも成功しました。事業継続に関する国際規格「ISO22301」も取得。取り組みの一部をガイドラインとして公開したことでメディアにも多数取り上げられています。
株式会社丸十
鳥取県倉吉市にある同社は、割り箸や食品容器、厨房機器、調理道具、食器などを扱い、外食や給食産業を支援してきました。コンサルティング会社の指導をもとに以下のBCP対策を実施しています。
- 自社の強み・弱みから重要業務を明確化
- 地震、水害、火災を想定しBCP冊子を全従業員に配布
- 非常時には協力企業に発注を依頼する体制を構築
- 低圧LP式ガス発電システムを導入
- 年2回防災訓練の実施
BCP策定後、2016年に起きた鳥取中部地震で震度6弱の地震に見舞われるも、全従業員が適切な行動をとることに成功しました。
まとめ
BCP対策は企業を取り巻くあらゆる脅威に備えるために欠かせません。一般的な防災対策とは「いかに事業を継続させるか」という点で異なります。従業員の生命・安全はもちろんのこと、被災後の雇用を守るためにも全社一丸となって取り組むべきでしょう。
BCPはただガイドラインに沿って策定するだけでなく、自社の実態に即した内容にすることが大切です。刻々と変化していく社会情勢も踏まえ、日常的に改善していく必要もあります。今回紹介した製造業の事例も参考に、ポイントを踏まえて策定してはいかがでしょうか。