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ゴム業界の概要
ゴムのもっとも多い使用用途がタイヤです。日本自動車タイヤ協会のデータによると、2021年におけるゴム製品出荷金額はタイヤが52.4%と半数を超えています。そのほか、ゴムベルト、ゴムホース、ゴムシート、Oリング、パッキンなどの製品が主な使用用途です。
天然ゴムの市場は拡大を続けており、1983年に500万トンを突破すると2000年代には700万トンに、2018年には30年前の3倍以上である1,388万トンを記録しています。ゴム消費量やシェア率を国別に見てみると、1位中国2位インド3位米国と人口が多い、もしくは増加のいちじるしいエリアが上位であるとわかります。
ゴム業界の需要の推移は、自動車販売台数と比例していることが多く、新型コロナウイルスのまん延などによって、一時的に落ち込みが発生したものの、基本的には堅調な経済成長を進めているのです。
この要因として、シェア1位の中国を筆頭に新興国のインフラ整備やモータリゼーションなどの影響が大きいとされています。
ゴムの種類
ゴム製品は、原料やテクスチャの違いによってさまざまな種類に分けられます。ここからは、ゴム製品に利用されることの多い、代表的なゴムの種類について解説します。
合成ゴムと天然ゴム
ゴムの原料は以下の2種類に大別されます。
- 天然ゴム
- 合成ゴム
天然ゴムの定義は「パラゴムノキ」などをはじめとした、樹木の樹液から採取されるラテックスを固めたものです。ゴムノキは、高温多湿な環境での生育に優れており、産出地は東南アジアやアフリカの一部、中南米が主な生産国です。日本への輸出は、インドネシア、タイ、ベトナムなどの東南アジアの国々がほとんどを占めます。
天然ゴムは、非常に強度や摩耗耐性があり、タイヤ製品のなかでもトラックや、産業車両などに用いられる大型タイヤに採用されることも多くあります。
合成ゴムは、石油や化合物を合成させて人口的に精製されるゴムです。合成する化合物の種類によってメリットやデメリットが大きく異なるため、種類によって用いられる製品が異なります。合成ゴムの使用用途の総数は数百とおり存在するといわれています。
例えば、代表的な合成ゴムである「SBR(スチレン・ブタジエンゴム)」は、元来天然ゴムの代替品として開発された合成ゴムの一つです。使用用途は、タイヤや靴底、ベルトなどさまざまな製品に用いられるほか、加工が容易なため需要が拡大しつつあります。
固形ゴム、液体ゴム、粉末ゴム
天然ゴムはラテックスを固めることで弾性や強度が増す性質のため、基本的には固形ゴムとして生産されています。ところが、合成ゴムのなかには、天然ゴムでは発揮できない特性を生かし、液状や粉末状でのゴム製品が販売されているケースもあります。
例えば液体ゴムは、液状イソプレンゴムや液状ブタジエンゴムを原料とし、常温では液状やペースト状であるものが空気や熱に触れることで硬化するゴムです。非常に耐久性と柔軟性に優れ、複雑な構造の成形物や狭い箇所でのシーリング材、接着剤などに多く用いられます。
粉末ゴムは、かつては再生燃料として利用されてきた廃タイヤを原料としているゴムです。粉末ゴムは、粉砕の方法によって「ロール粉砕」や「カット粉砕」などに細分化されます。
また、用途によって粉砕するサイズがミリ単位で異なり、1mm以下の粉末ゴムは充てん剤などに、1~3mm程度の少し大きいサイズでは、アスファルトへの混合物や舗装道路の充てん剤などに使用されています。
汎用ゴムと特殊ゴム
汎用ゴムとは、主にタイヤの原料とされることが多い、天然ゴムやイソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴムといった合成ゴムのことです。
これ以外の用途に対する合成ゴムは、特殊ゴムと呼ばれ、耐熱性や対候性に優れていることから、工業用や自動車用などの部品に使用されます。
ゴムメーカーの種類
ゴム製品のシェアは前述のとおり「タイヤ製品」の製造がもっとも多く、全体の半分以上を占めます。次いで、「工業用ゴム製品」「ゴムベルト・ホース」「その他」が使用用途です。
ゴムメーカーの販売先は、自動車業界のみならず、鉄道・建設・機械・ITなど多岐にわたります。
【ゴムメーカーの主要営業種目内訳】
- タイヤ・チューブ製造業
- ゴムベルト・ゴムホース・工業用ゴム製品製造業
- ゴム製・プラスチック製履物・同付属品製造業
- その他ゴム製品製造業
このように、ゴム製品の種目は幅広いものの、自動車製品がシェアの中心であることから、大手企業などは特に自動車事業を幅広く展開するケースが一般的です。
【2022年最新】ゴム業界の現状
2020年に広まった新型コロナウイルスの影響を受け、ゴム業界においても、特にタイヤメーカーは大きな減収が見られました。国内製造が多い工業ゴム製品に対して、タイヤ製造は多くの企業が海外への拠点進出を進めており、工場の稼働停止や雇用調整を迫られました。
2021年には、売上が回復傾向にありましたが、自動車製造における半導体の不足や、原材料の高騰などの問題により、ふたたび売上が抑制される傾向が見られます。
また、天然ゴムの生産に関して、日本国内では気候の影響で生産が難しいことから、100%輸入に頼っている状況です。このことから、日本のゴム製品業界は、世界的な景気動向に大きく影響を受ける業界といえるでしょう。
実際にゴム製品業界は、現在リアルタイムで課題となっている原材料高騰・輸送運賃の上昇などの影響を非常に大きく受けており、大手企業においても価格転嫁が難しい状況に陥っています。
今後は販売価格見直しのほか、できうる限りの原料費・運賃抑制のプロセスを一刻も早く構築することが重要になりそうです。
ゴム業界の動向
ゴム製品の需要は、シェア率が高いタイヤ(自動車メーカー)の動向に左右される傾向です。その一方で、各工業用ゴムメーカーは、特定の業界へのシェアに依存するリスクを回避するため、医療用現場への進出など、多角的な製品開発を進める動きが活発化しています。
さまざまな業界への進出により、非タイヤ製品をはじめとした新ゴムの2022年における消費量は、前年を超える見込みです。また食品業界では、衛生面に優れたベルトコンベアの需要が高まるなど、需要が安定傾向にあります。
ゴム業界の主要メーカーランキングとシェア
【国内メーカー】
- ブリヂストン
国内のみならず世界でもトップシェアを誇る、タイヤをはじめとしたゴム製品メーカーです。「ブリザック」「ポテンザ」などの商品は主にアジア圏で人気を博しています。
- 住友ゴム工業
「ダンロップ」や「ファルケン」などを製造する国内シェア2位の企業です。特に「ダンロップ」はスポーツブランドで大きなシェアを占めています。
- 横浜ゴム
タイヤの国内シェア3位のメーカーです。2016年にオランダのタイヤメーカーを買収したことで、売上推移が上昇傾向にあります。
【海外メーカー】
- ミシュラン
フランスに拠点をもつ大手タイヤメーカーのミシュランは、世界初のラジアルタイヤの製造をしたことで有名です。売上高は常にブリヂストンとしのぎを削っており、この2社が頭一つ抜けている状況です。
- グッドイヤー
アメリカの大手タイヤメーカーのグッドイヤーは、主にスポーツブランドやレースカーに供給を行います。2022年にクーパーを買収するとの発表があり、売上高に大きく影響することが予想されます。
【国内売上ランキング】
順位 | 企業名 | 売上(億円) |
1 | ブリヂストン | 32,460 |
2 | 住友ゴム工業 | 9,360 |
3 | 横浜ゴム | 6,708 |
4 | 住友理工 | 4,459 |
5 | TOYO TIRE | 3,936 |
6 | バンドー化学 | 937 |
7 | オカモト | 895 |
8 | 西川ゴム工業 | 845 |
9 | ニッタ | 837 |
10 | 三つ星ベルト | 748 |
ゴム業界の今後の見通し
かつてのゴム業界の特徴は、天然ゴム製品は価格変動が大きい一方で、合成ゴム製品は価格変動の影響が少なく、安定した品質を誇っているという点が見られていました。
しかし現在では、合成ゴムの生産にあたって、主原料となるナフサ(石油由来)が、昨今の情勢悪化や原材料高騰のあおりを受け、ゴム業界の市場形成において大きなさまたげとなっています。
この課題を解決するためには、環境に配慮したゴム製品の製造や、より広い分野でのゴム製品の開発・および製品の高機能化などが求められています。
現在、ゴム業界は「大量生産から品質の高さで勝負」の時代へと転換する渦中です。品質の高さという意味では、電気自動車をはじめとした、地球環境に配慮するSDGsの取り組みが、ゴム製品の業界においても強く推奨されるようになりました。
ゴム業界とSDGs
SDGsとは、2015年の国連サミットによって定められた「持続可能な開発目標」の取り組みです。SDGsの取り組みは非常に幅広く、自然環境への配慮や労働環境の改善、人権問題、質の高い教育の維持などを目標としています。
ゴム業界においては、生産時の二酸化炭素排出の抑制、製品のリサイクル、環境破壊の影響が少ない原材料の確保など、さまざまなテーマにおいて課題が浮き彫りとなっているのが現状です。
そのなかでも、天然ゴムの生産過程においては、今後改善が求められる分野といえます。その理由としては、天然ゴムの生産農場は東南アジアやアフリカなどの地域からなる、小規模の農家が中心です。このような農家が生産した天然ゴムは、多数のサプライチェーンや中間業者を介して製品化されます。
しかし、そのほとんどが生産者へのトレーサービリティ(生産者の追跡を実施する仕組み)が整備されておらず、どの国や農園から仕入れたのかが製造業者においても把握できない仕様になっています。
そのため、ゴムの生産が環境破壊や人権侵害の要因になっていないかなど、製造業者が把握するのは非常に困難であり、SDGsの取り組みには限界がありました。
こうした状況から、サステナブルな天然ゴムの生産基準を定めたイニシアティブの提唱や、持続可能な天然ゴムのサプライチェーンプラットフォームの設立といった取り組みが目立つようになってきています。
まとめ
ゴム製品は長らく日本の企業がトップのシェアを誇り、世界のなかでも高い技術力を保持していました。ところが近年は、中国をはじめとした新興国の台頭や、国内におけるタイヤ産業が減少傾向にあります。そのため今後は、高機能な製品や環境に配慮した製品の開発など、付加価値をもった製品の開発が求められるでしょう。
また、近年では新型コロナウイルス感染症の影響も強く受けています。自動車生産台数の減少に伴いタイヤの需要が落ち込み、2019年・2020年のゴム製品出荷額は減少を記録しました。2021年には再び増加傾向に転じたものの、半導体の不足、原材料費の高騰、世界情勢の悪化などが要因となり不安定な状況が続いています。
一方、環境問題への対応も喫緊の課題となっています。大量消費の時代から持続可能な社会への転換が求められており、ゴム業界においてもSDGsへの取り組みが大きなトピックとなっています。
現在、ゴム業界は大量生産・大量消費から環境負荷低減・高品質に舵を切っています。外的要因によって不安定な状況が続くなか、メーカー各社の今後の動向を注視していく必要があるでしょう。