Contents 目次
コアコンピタンスとは
コアコンピタンスとは、C・K・プラハラードとG・ハメル「コアコンピタンス経営」という著書によって広まった概念です。
以下にあげる3つの能力を兼ね備えることが、コアコンピタンスの条件とされています。
- 競合他社にはマネできない核となる能力
- 顧客に特定の利益を与えるスキルや技術
- 複数の市場や製品・サービスにアプローチ可能な能力
コアコンピタンスとケイパビリティの違い
コアコンピタンスとケイパビリティは非常に似た概念ですが、企業の強みを表す視点に違いがあります。
ケイパビリティとは、フィリップ・エバンスや、ローレンス E.シュルマン、ジョージ・ストークスによって提唱された考え方です。
コアコンピタンスは、バリューチェーン上におけるコアな技術を指し、ケイパビリティはバリューチェーン全体に及ぶ組織的能力のことを指します。
※バリューチェーンとは、企業が各事業活動について価値を創造するための一連の流れとしてとらえる考え方です。
市場で生き残るためには、自社のケイパビリティを強化し、コアコンピタンスを明らかにすることによって競合他社と差別化することが重要です。
コアコンピタンス経営とは
3つの条件を満たしたコアコンピタンスを持ち、市場におけるシェアを獲得するための経営手法をコアコンピタンス経営といいます。
ひとつの事業にかけるリソースが小さい中小企業こそ、コアコンピタンスを明確に打ち出し、ニッチな業界で地位を築くことで市場で生き残れるようになります。
顧客に利益をもたらす能力
自社を分析することで他社と比較し圧倒的な強みを持っていたとしても、それが直接顧客に利益をもたらさないのであれば意味がありません。自社が提供するサービスや商材が顧客の利益につながらないようであれば、自社の利益にも繋がらないからです。
他社から模倣されにくい能力
他が真似できない技術を持った企業を目指すことが、市場で生き残るための手段です。競合他社は、応用可能な製品やサービスがないか常に情報を収集しています。自社にしか提供できない技術を持っていれば、競合が多数存在する分野で負けない企業へと成長できるのです。
複数の商品や分野に応用できる能力
他社がマネできない強みを持っていても、それが一つの分野だけでしか発揮できない強みでは持続性に欠けてしまいます。その商品の需要がなくなってしまえば、経営自体が危うくなってしまうからです。
企業としての持続力を強化するためには、複数の商品や分野に応用できる技術を持つ必要があります。
コアコンピタンスを見極める5つのポイント
ここでは、コアコンピタンスを特定する際の、5つの視点についてくわしく解説します。
【コアコンピタンスを見極める5つのポイント】
- 模倣可能性
- 移動可能性
- 代替可能性
- 希少性
- 耐久性
模倣可能性
模倣可能性とは、特定の製品やサービスにおいて他社がマネしやすいかどうかを示します。
模倣可能性が高いのであればコアコンピタンスとなりにくく、一方で模倣可能性が低く、顧客の利益につながるものはコアコンピタンスとなりやすいことになります。
市場を独占できるようなサービスや、高いノウハウが企業のコアコンピタンスとなるのです。
移動可能性
移動可能性とは、ひとつのサービスや技術に限らず、幅広いサービスにも使える技術であるかを意味します。また、「汎用性」とも言い換えられます。
新商品や新サービスへ継続して応用がきき、広く市場へ供給できるノウハウは優秀なコアコンピタンスとなります。
代替可能性
代替可能性とは、自社の技術が別のモノに置きかえられないかを示します。代替可能性が低いユニークな技術力ほど、優秀なコアコンピタンスとなります。
逆に、簡単にマネされてしまうような技術やサービス、商品は当てはまりません。
他には置き換えられないような、オリジナリティのある強みを持つ企業は、独占的にその分野のシェアを獲得できる可能性があります。
希少性
希少性が高い状態とは、その技術を持っている会社が限られている、もしくは1社しかないような状況を指します。
代替可能性が低く、模倣可能性も低い場合は、希少性も満たしている可能性が高いのです。
代替可能性、模倣可能性、希少性の3つの視点で高評価を得ていれば、市場に対して強力なアドバンテージを持つことになります。
耐久性
耐久性が高い状態とは、長期間にわたってコアコンピタンスが通用するか、他の追随を許さない競争的優位性を持っている状態を意味します。
短期間でしか通用しないコアコンピタンスでは、市場を生き延びていけません。時代がめまぐるしく変化しても通用するような、耐久性のある自社の強みを見つける必要があるのです。
自社のコアコンピタンスを見極める手順
ここでは、コアコンピタンスを見つけるための手順について紹介します。
【自社のコアコンピタンスを見極める手順】
- 自社の強みを洗い出す
- 強みの評価
- 絞り込み
自社の強みを洗い出す
自社の強みについて、他社と比べて優れている技術やサービス、ノウハウを洗い出します。
ブレーンストーミング※によって、たくさんの強みを抽出しましょう。もしくは、SWOT分析※やPPM分析※を使用する手法もあります。
※ブレーンストーミングとは、複数人で深く考えずに思い浮かんだアイデアを出し合って発想を整理する手法です。
※SWOT分析とは、自社の置かれた環境を、Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の4つの要素から、事業の改善点や伸ばすべきところを分析する手法です。
※PPM分析とは、「Product Portfolio Management」の略称で、市場成長率と市場占有率の2軸から事業や製品を分類し、経営資源の投資配分を判断するための手法です。
強みの評価
洗い出したコアコンピタンスを、以下3つの要件を評価しましょう。
- 顧客に利益をもたれせるか
- 他社にマネされにくいか
- 後に応用できるか
上記、3つの視点で点数をつけて、点数の高い強みが強力なコアコンピタンスになり得るものとなるのです。
絞り込み
最後に、高評価をとった項目からコアコンピタンスを絞り込んでいきます。
一度決定すると簡単には変更できなく、経営方針にも関わる重大な選択となるため経営陣は慎重に判断する必要があります。
- 将来にわたって強みとして進化させるべきか
- 本当の意味で顧客へ満足を与えられるのか
- 他の市場や業界でも活かせられる汎用性のあるものか
- 将来を考え、マネされるリスクはないか
これらと照らし合わせ、自社における事業の中核を担える強みを絞り込むのです。
企業のコアコンピタンス経営事例
コアコンピタンスを探そうと思っても、イメージがつきにくいケースがあります。
ここでは、身近にある企業がどのようなコアコンピタンスを持っているのかを紹介します。
住友理工株式会社
鉄道や自動車用品などの産業用品を製造する住友理工は、「高分子材料技術」と「総合評価技術」の2つのコアコンピタンスがあります 。
「高分子材料技術」は、振動特性や耐油性、音響特性やバリア性など、さまざまな機能をもつ素材を作る際に役立ちます。
「総合評価技術」は、材料開発時の分子レベルまでの分析・解析やナノスケール、製品開発時における製品に実際に組み込んだ性能評価までを一貫して自社で行います。
これらの技術によって顧客ニーズを先読みし、一歩先ゆくサービス提供を実現します。
ソニー株式会社
オーディオ、半導体、情報通信機器などの製造を手掛けているソニー。グループ子会社を含めれば、ゲームやアニメーション製作、不動産や保険業など、多様な業態を統括する複合企業です。
ソニーは、1979年に生み出したウォークマンをきっかけに、オーディオの小型化というコアコンピタンスを武器に大きく成長しました。
ウォークマンは、手のひらサイズのステレオカセットプレイヤーで重量が390g、価格は3万3,000円。大きなテレビCMをうたない中、急速に若者を中心に人気を集めました。
その後ソニーは、ウォークマンの特性である「小型化」をコアコンピタンスとして、ポータブルCDラジカセ、ポータブルMDプレーヤー、ポータブルテレビなど、他の製品や市場に横展開していきました。
「軽量化」や「最小化」というコンセプトが、コアコンピタンスとして社内で確立されたことが、ソニーの多大なる発展を支えました。
富士フイルム株式会社
富士フイルムは、精密な技術力とコラーゲンという2つのコアコンピタンスを活かして、カメラ産業からヘルスケア事業や化粧品事業へ参入し成功しています。
携帯電話カメラやデジタルカメラの台頭によって、写真フイルムの需要減少を要因としてイーストマン・コダックが経営破綻をしました。そんな中、富士フイルムは「精密な技術力」と「コラーゲン」という2つのコアコンピタンスを活かせる事業を、2年がかりで検討したことで現在の新事業を確立したのです。
コアコンピタンス経営の注意点
ここでは、以下2点に関するコアコンピタンス経営の注意点について解説します。
【コアコンピタンス経営の注意点】
- 企業イメージが固まってしまう
- 時代に取り残されてしまう可能性もある
企業イメージが固まってしまう
コアコンピタンス全面に押し出すことで、顧客の企業イメージが固まってしまうことには注意が必要です。事業内容を変更しようと思っても、ユーザーに以前のイメージが残っていることで、新たな事業展開をしにくい可能性もあるからです。
たとえば、かつてのマクドナルドは屋内遊園地で知られていました。当時、子供連れのファミリー向けのブランド戦略で屋内遊園地がマクドナルドの集客力アップに貢献していました。しかし、少子化などを要因として需要が低下したことをきっかけに、コアビジネスへの集中を選択しました。
現在は、このようなイメージから脱却していますが、当時のユーザーがイメージを変更するまでには期間がかかったことでしょう。
時代に取り残されてしまう可能性もある
現在もっている企業のコアコンピタンスは、必ずしも将来継続して通用するとは限りません。
コアコンピタンスを生かしつつ、時代に合わせて変化していかなければ時代に取り残される可能性もあるのです。
まとめ
コアコンピタンスは、競合他社にマネできない自社の核(コア)となる能力を指します。さらに顧客に利益を与えられる商品やサービスであり、複数の市場へアプローチできる必要があります。
自社のコアコンピタンスを整理し、時代の変化にも耐えうる強みを育成することで、市場で生き残れる強い企業へと成長するのです。