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アグリテックとは?注目される背景や企業事例も紹介!

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アグリテックとは、農業(Agriculture)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、IoTやビッグデータ、ドローンを用いるなど、農業領域でICT技術を活用することです。

日本の農業は、従事者の高齢化や異常気象による農作物への被害、食料自給率の低下など課題が山積していますが、アグリテックは農作業を効率化して生産性を上げることでそのような課題を解決する一助になります。

この記事ではアグリテックの基本情報や実例を紹介します。アグリテックは農業をサポートするだけでなく、IT企業にはビジネスチャンスにもなります。

アグリテックとは

アグリテックにより、それまで手作業で行っていたものをドローンやIoTを使う等、農業を効率化できます。最新のAIを採り入れたものもあり、アグリテックの条件は、IT化やデジタル化を前提としています。

アグリテックとスマート農業の違い

アグリテックと似た言葉にスマート農業がありますが、両者ほぼ同じ意味の言葉と理解してよいと言えます。農林水産省はスマート農業を「ロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用して、省力化・精密化や高品質生産の実現等を推進している新たな農業のこと」と定義しているためです。

国(農林水産省)は「スマート農業の社会実装を加速するため、必要な技術開発・実証やスマート農業普及のための環境整備等について総合的に取り組む」と宣言し、2025年までに農業の担い手のほぼすべてがデータを活用した農業を実践していることを目指します。

農家やIT企業がつくりだしているアグリテックの目標も、基本的には国が目指している内容に沿ったものになります。

アグリテックで特に活用されている技術

テクノロジーにはさまざまな種類がありますが、アグリテックで特に使われているのはそのうちドローン、IoT、ロボット、AIです。

ドローンは物を運ぶことや、監視・管理する農作業を格段に効率化しました。例えば、ドローンは農薬の散布や種まき作業を効率化し、監視機能によって広大な農場でも短時間かつ確実にチェックできるようになりました。

IoTとはさまざまな物をインターネットにつなげる技術のことで、農場や農作物のデータを集めるセンサーによってデータを取得し分析できるようになりました。農業は刻一刻と変わる天候などの自然環境にさらされているので、素早いデータ分析は作物を確実に育成させることに役立ちます。

ロボットは、種まきや収穫、乳牛の乳しぼりなどの重労働を人に代わって担ってくれます。AIでは、ドローンで田畑を撮影しAIで解析させると、収穫時期や収穫量の予測、害虫被害が起きている場所の特定が可能となります。

アグリテックの市場規模

アグリテックの世界市場は、2022年の243億ドルから2030年には774億ドル(約11兆円)まで成長すると見込まれています。

日本国内の2022年度のアグリテック(スマート農業)の市場規模は303億円で、前年度比22%増と飛躍しています。2028年度の推計は624億円で、これは2022年度実績(303億円)の2倍以上です。

アグリテックはドローンやロボットなどの機械系や、AIなどのソフト系だけでなく、データ系の領域でも進化しています。農業データ連携基盤は、農業従事者がデータを使って生産性を向上させたり、データを使って経営を改善したりする取り組みです。

農機APIは機械提供事業者が、自社システムへの接続仕様(Application Programming Interface)を外部に公開し、一定の条件の下、連携のためのアクセスを可能とする仕組みのことを示します。

ビッグデータがビジネスを変容させたように、アグリテックは今後ますます農作業を一変させるといえます。

アグリテックが注目されている背景

アグリテックが注目されている背景は、現在かかえている農業の課題解決につながるところにあります。

この動きには以下のようなものがあります。

     
  • 農業従事者の高齢化や後継者不足
  • 異常気象の増加
  • 食料自給率の低下

農業従事者の高齢化や後継者不足

農業は高齢化や後継者不足の課題をかかえています。

日本における2021年度の新規就農者は52,290人で、前年度と比べると2.7%減っています。2015年の65,030人と比較すると、2021年度の52,290人は2割減という状況で、問題が年々深刻化しています。

また、主に自営農業を行っている農業従事者は2000年の240万人から2020年の136万人へと4割以上減っています。さらに農業従事者の7割が65歳以上の高齢者で、後継者がいない農業従事者も多数存在します。

人手の確保は日本の農業の喫緊の課題であり、それが難しければ人手に変わるもの(=アグリテック)の導入が欠かせません。

異常気象の増加

地球の温暖化によって異常気象が頻発していることは、気象に左右される農業にとっては多大なダメージを与えています。

ITは気象の予測精度を高め、現代農業では欠くことのできない情報となっており、気象予測技術もアグリテックの1つとみなしてもよいと言えます。

アグリテックの進化によって、それまで難しかった農作物の工場栽培が可能になりました。植物工場の野菜は、頑丈な建物に守られているため異常気象の影響を受けにくく、安定生産、安定供給が可能になります。
また、植物工場の建設費や管理費を削減できるので、アグリテックは導入しやすい取り組みと言えます。

食料自給率の低下

日本の食料自給率は2019年度で38%のため、約6割を輸入に頼っている状況です。2018年のアメリカの132%、フランスの125%と比べると、日本は食料を自国でつくられていません。

日本政府は、2030年までに食料自給率を45%(カロリーベース)にまで引き上げる目標を掲げています。しかし、農業従事者の減少傾向が顕著な我が国でこの目標を達成することは容易ではなく、アグリテックへの期待は高まる一方です。

アグリテックがもたらす効果

日本の農業が抱える諸問題に対して、アグリテックは次のような効果をもたらします。

     
  • 農作業の効率化
  • 匠の技術の継承
  • 都市型農業の実現

それぞれ解説します。

農作業の効率化

農作業は、あらゆる仕事のなかで効率化しにくい業界の1つでした。なぜなら作業場所は屋外にあり、悪天候や害虫のリスクを抱え、広大な土地の監視が必要で重労働であるからです。

パソコン1台で業務を効率化できる事務作業とは大きく異なります。

そのような農業でもようやくアグリテックが実用化されることで効率化が図られるようになりました。機械化、ロボット化、コンピュータ化、データ化、IoT化、AI化によって、人の負担を減らしながら生産性を向上させることができます。

農作業の効率化によって農業従事者は、品質改善や経営革新に乗り出すことができます。これは農業の質向上に寄与すると言えます。

匠の技術の継承

ベテラン農業従事者は長年の経験と勘で質の高い農作物を育てることができます。しかし高齢化し、後継者がいなければそのノウハウは消滅してしまいます。

ITやAIはベテラン農業従事者のノウハウやスキルをコピーしたり学習したりすることができます。匠の農業技術を容易に継承できるようになれば、新たに農業を始める人でも短期間で成果をあげられるようになります。

また、農業技術の技術をIT化することで、データに裏づけられた農業が可能になり、収穫量を増やすことに寄与します。

都市型農業の実現

都市型農業のメリットは、究極の地産地消を実現できることです。都市には農作物の消費者が多数集まっているので、その都市で農業をすれば輸送時間も輸送コストも大幅に減り、新鮮な野菜を早く安く購入できます。

しかし、都市部は土地の価格が高いため、都市型農業の実現は簡単ではありませんでした。それを可能にしたのがアグリテックで、使われていないビルの屋上や空き倉庫でも比較的容易に農業ができるようになりました。

アグリテックによる都市型農業は、消費者にも生産者にもメリットがあります。

アグリテックの企業事例

アグリテックを推進する以下の6社の事例を紹介します。

     
  • クボタ:自動運転機能を搭載したアグリロボトラクター
  • Plenty:土を使わず水の使用量も20分の1に抑える
  • Sundrop Farm:太陽光発電を生かして砂漠の中で栽培
  • ヤンマー:誰でも簡単に運転できる田植えロボット
  • ファームノート:牛群情報を一元化管理
  • オプティム:ドローンによる正確な画像解析や管理

クボタ|自動運転機能を搭載したアグリロボトラクター

農機メーカーのクボタのトラクター「アグリロボ」は、人が乗らずにさまざまな農作業ができるロボットです。

使用方法は、まずアグリロボに対象農場の外周を走行させ耕す農場を把握させます。それが終わると作業開始位置に移動し作業を始めます。アグリロボは、自身が耕すルートも自分で作成できます。管理者はタブレットを使って遠隔地で操作するのみです。

Plenty|土を使わず水の使用量も20分の1に抑える

アメリカの農業ベンチャーPlentyは、孫正義氏やアマゾンのジェフ・ベゾス氏などが投資を決めたことでも知られています。

Plentyが開発したのはAIで制御する植物工場で、最適で無駄のない農業を実現します。農業で使用する水の量を大幅に削減でき、従来型農法より99%も削減できるとしています。著名な投資家が注目したのもこの節水技術にあり、水が少ない途上国でもみずみずしい野菜を大量につくることができるので世界的な食糧問題の解決につながるのです。

またPlentyは野菜の風味を調整する技術も開発し、苦みがある野菜から苦みを取り除くこともできます。

Sundrop Farm|太陽光発電を生かして砂漠の中で栽培

オーストラリアのSundropは自ら農場経営を行っている企業で、砂漠のなかでトマトを栽培する技術を確立しました。トマトは元々、栽培に大量の水を必要としない野菜ですが、それでも砂漠のなかで栽培することはできませんでした。Sundropは砂漠に降り注ぐ太陽光によって発電し、そのエネルギーで海水を真水に換えたり、真水を砂漠で栽培するトマト畑に運んだりしました。

Sundropはこの技術を応用し、大量に水を必要とするほかの野菜や果物などの栽培にも挑戦しています。アグリテックが世界に普及すれば、砂漠地帯や干ばつに見舞われた場所でも植物を育成、収穫することができます。

ヤンマーホールディングス|誰でも簡単に運転できる田植えロボット

農機メーカーのヤンマーもアグリテックに注力しています。同社はこのプロジェクトを「ヤンマースマート農業」と名づけ、次のような技術を開発しています。

■ヤンマースマート農業の概要

     
  • ロボット・オートトラクター
  • 直進アシストつきトラクター
  • 可変施肥ブロードキャスタ
  • GNSSガイダンスシステムつき自動操舵システム
  • 直進アシストつき田植え機+密苗+スマート施肥
  • 水田管理省力化システム
  • オートコンバイン、情報支援機能つきコンバイン
  • 農薬散布用無人ヘリ、ドローン
  • リモートサポートセンター

ヤンマースマート農業により、農作業の様子や植物の生育状況をデータ化できるようになり、そのデータをさらに有効活用するという構図によって、農業の発展を加速度的に進めます。

ファームノート|牛群情報を一元化管理

株式会社ファームノートは農業王国・北海道帯広市に本社がある、2013年設立の農業IoTベンチャーです。クラウド型の牛群管理システムは、酪農家がスマホ1台で飼育しているすべての牛の状態を把握できます。
例えば以下のような状態を把握できます。

     
  • 繁殖対象の牛を表示
  • 牛の発情予定日を表示
  • ワクチン接種が必要な牛の表示
  • 牛の処置履歴のデータ化
  • タイムラインで出来事の記録
  • 乳質巡回や授精証明書などの書類作成
  • 検定データの取り込み

このシステムは乳牛や肉牛の別なく活用でき、累計380,000頭を管理しています。

オプティム|ドローンによる正確な画像解析や管理

株式会社オプティムは、東京都港区に本社を置く2000年設立のIT企業で、東証プライム市場上場企業でもあります。同社は農業部門だけでなく、セキュリティや医療DX、建設・土木DXも手がけています。

そのオプティムのアグリテックのコンセプトは「楽しく・かっこよく・稼げる農業」です。新たな農業技術を開発し、農作業に実装させ農業生産力の向上を目指します。

すでに事業化しているアグリテックには、ドローンを使った農薬散布や施肥、AIの画像解析技術を使った減農薬栽培、スマホを使ったライブ映像による遠隔作業指示などがあります。

まとめ

アグリテックによって農業は新時代を迎えました。

パソコンとインターネットで激変したビジネスが、スマホの到来でさらに進化したように、ドローン、IoT、ロボット、AIは農業を劇的に進化させています。

アグリテックによって、無人トラクターが広大な畑を耕し、ドローンが農薬や肥料を散布し、牛の健康状態を酪農家に知らせています。

また農業だけでなく、IT業界にも事業拡大の機会を提供しています。IT企業やインターネット企業のビジネス向けのノウハウは農業の領域に活かすことができるため、ベンチャー企業やスタートアップにもビジネスチャンスがあります。

さらに、世界のすべての国と地域が農業を必要としているためグローバル展開が可能です。

アグリテックは「日本の農業」という1つの領域で進める事業ではなく「世界経済」という大きな枠組みのなかで考えていくべき取り組みといえます。

PEAKSMEDIA編集チーム

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