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バックキャスティング(バックキャスト)とは
バックキャスティング(バックキャスト)とは、「今何をすべきか」を可視化する手法のひとつです。
具体的には、理想的な姿から逆算して今やるべきことを可視化し、特に不確実性の高い課題を解決したいときによく用いられます。
不確実性の高い課題は、必ずしも正解の解決法が存在するとは限りません。そのため、手探りで解決法を探る試行錯誤状態に陥りやすく、「手間とコストがかかった割に効果が感じられない」というギャップが生じてしまうこともあります。
バックキャスティングであれば、未来のゴールを描き、理想的な姿を実現するため何が必要かを考えることで思考も整理しやすく、やるべきことが明確になります。
バックキャスティングは、あるべき未来像から逆算して、そこに到達するための手段やプロセスを検討する手法として注目されています。
バックキャスティングとフォアキャスティングの違い
バックキャスティングとは対になる言葉として、「フォアキャスティング」が存在します。フォアキャスティングとは、過去のデータや事例を参考にしながら今やるべきことを可視化する手法です。データドリブンな判断がしやすい特徴があります。
データドリブンとは、データや数字に基づいて経営判断することを指す用語であり、過去の事例が重視されるという点でフォアキャスティングと関連性が深いのが特徴です。
経営判断を後押しするのに十分な大量のデータがあり、かつ成功事例も失敗事例も揃っている課題を解決したいときは、フォアキャスティングを採用するのが近道です。
ただし、不確実性の高い課題を解決したいときは、過去のデータや事例が参考にならない場合があります。その際は、理想的な姿から逆算してやるべきことを可視化する「バックキャスティング」の考えを取り入れる方が良いと言えるでしょう。
バックキャスティングに取り組むメリット
バックキャスティングに取り組むメリットは、下記の通りです。
- 不確実性の高い未来への対応がしやすい
- 組織の共通認識を醸成しやすい
- 目標達成に向けた行動を促しやすい
- 新しいアイデアが生まれやすい
- 選択肢が広がる
下記でひとつずつ解説します。
不確実性の高い未来への対応がしやすい
バックキャスティングは、不確実性の高い課題の解決や未来への対応がしやすい手法です。誰も答えを持っておらず正解もない問いに対しては、過去のデータや事例を参考にするフォアキャスティングだけで対応できないことも多いです。
一方、バックキャスティングであれば理想的な未来を描くことから始められるため、データが不十分であっても誰でも簡単に導入できます。
また、「データとは違う結果が出た」「想定していた未来と違った」などの現象による軌道修正が発生しないため、手間がかからないのもメリットです。不確実性の高い分野だからこそ、バックキャスティングを活用する利点があるといえます。
組織の共通認識を醸成しやすい
バックキャスティングでは自由な発想に基づいて思索を考えられるため、組織における共通認識を醸成できるメリットもあります。
フォアキャスティングと比べて高い目標が設定されるため、行動が伴うと非常に高い成果が出やすい特長があります。
また、チームメンバーにバックキャストの思考が身につくことで、自ら課題や目的を考えられる「主体的行動」がおこせる人材を育成できるようになります。
自律的なチームづくりが求められる現代において、不確実性に対応しつつ、高い成果を継続して出せるような「自律型組織」への構築につながります。
目標達成に向けた行動を促しやすい
目標達成に向けた行動を促しやすいメリットもあります。
先に目標が設定されていることで、仕事のプロセスが明確になり「だれが」「何を」「いつまでに」というステップをイメージできるようになります。また、プロセスごとにどんなアクションを取るべきかを設定しやすくなり、メンバーが行動を促しやすくなるのです。
課題や問題の改善に注力していては、目標達成の妨げとなってしまいます。作業のステップや期限を明確にすることで、未来に向かって努力しようというモチベーションにつながるのです。それにより、積極的なマインドを持って作業に従事する相乗効果を生み出せるでしょう。
これは、仕事を進める上でのメンバーのストレス軽減に役立ち、結果社員の士気を向上させて離職率の低下につながります。
新しいアイデアが生まれやすい
バックキャスティングでは、新しいアイデアが生まれやすい特長もあります。
創造的な発想によって現状にとらわれず、あるべき未来の姿をゴールとします。それにより、現在の状況を気にせず自由な発想で未来を描けるようになるため、新しいアイディアが生まれやすくなります。
新しいアイデアを生み出したい場合、会議において否定をしない前提で、自由な発想や意見を述べる場をセッティングしましょう。
選択肢が広がる
未来を予測した上で実現したい目標を設定するため、バックキャストの思考法はあらゆる選択肢が広がる特長もあります。
段階的に手法を考えられるため、ひとつの方法に絞られずにさまざまな手段や方法を検討できるようになります。
万一、目標を達成できなかったとしても、バックキャスティングによって派生した選択肢は、その後も役に立つことを期待できます。
バックキャスティングのデメリット
バックキャスティングにはメリットが多い一方、下記のようなデメリットもあるので注意しましょう。
- 近い未来に対する問題には不向き
- 失敗のリスクがある
- モチベーションを長期間維持するのが難しい
それぞれ詳しく解説します。
近い未来に対する問題には不向き
バックキャスティングは、理想的な未来からやるべきことを可視化する手法ですが、近い未来に対する問題には不向きです。
理想的な未来との乖離が大きければ大きいほど改善には期間を要するため、時間的な余裕が足りずに目標未達となってしまうこともあります。現状を考慮せず目標を組み立てるからこそ、長期的な取り組みにすることが欠かせません。
近い未来は不確実性がなく、むしろ過去のデータや事例を参考にしながら方向性を決めていくことも多いです。無理にバックキャスティングだけにしようとせず、フォアキャスティングも取り入れながら目標を定めていくことがポイントです。
失敗のリスクがある
バックキャスティングは現状を考慮せず目標を組み立てるため、明らかに現実と乖離している目標になってしまうことがあります。
今日設立したばかりの企業が「1年後に47都道府県で展開するのを目指す」「5年で上場する」など難しい目標を設定できてしまうため、理想と現実のギャップに苦しめられるかもしれません。
結果、成功率が低下して従業員のモチベーションが下がったり、目標が形骸化して誰も真剣に考えなかったりと、さまざまなギャップが生まれます。
まずは、思い描く理想がある程度現実に即しているか、冷静に判断することが欠かせません。そのうえで、理想を現場で働く従業員まで含めて広く周知・浸透させ、行動理由に落とし込んでいくことが大切です。
モチベーションを長期間維持するのが難しい
バックキャスティングは長期的な課題に対する手法だからこそ、モチベーション維持が難しくなります。当初は理想的な行動指針を描けていても、モチベーション低下とともにおざなりになったり目標を見失ったりしてしまうことがあります。
定期的に目標を見直しながらビジョンを共有していくこともできますが、目に見える成果が現れていないと行動指針が正しかったのか自信がなくなり、懐疑的になってしまうことも考えられるでしょう。
最終的なゴールだけでなく、達成に必要な細分化されたプロセスや定期的な振り返りもしながら、モチベーションを維持していくことが大切です。
バックキャスティングのフレームワーク
バックキャスティングを実行するときは、下記のフレームワークを参考にしましょう。
- 未来の市場や社会の動向を確認
- 理想の未来像を描く
- 理想の未来像への課題を洗い出す
- 理想の未来像にたどり着くためのステップを考える
- 理想の未来像にむけて行動する
ひとつずつ手順を追っていくことで、失敗のリスクを減らせます。下記ではステップごとにやるべきことを解説します。
未来の市場や社会の動向を確認
未来像をリアルに描く前段階として、未来の市場や社会動向を探るリサーチを始めます。将来的に業界が期待されている事柄や今後予想されている消費者ニーズなどを想定し、自社に影響が出そうなポイントをピックアップしてみましょう。
不確定要素の高い未来に関するリサーチなので難しく感じるかもしれませんが、公官庁・研究機関・リサーチ会社等のデータを参考にしながらなるべく信憑性の高い情報に基づくのが理想です。
「将来的にこの市場でどうなっていたか」の目線を持つきっかけになり、リアルな未来像を描きやすくなります。
理想の未来像を描く
次に、将来どうなっていたいか理想の未来像について言語化していきます。一見高すぎると感じる目標であっても、まずは書き出してみましょう。
できる限り具体的にイメージするため、「いつのどの段階にありたいか」など時期を考えたり、「どの程度どうなっていたいか」など数字で考えたりするのも効果的です。
その後、あまりにも現実離れしている未来像だった場合、未達のまま終わる可能性があるため修正していきます。未達を気にして問題なくクリアできそうな目標になってしまうのもよくないので、少し高めの目標程度に調整しておきましょう。
理想の未来像への課題を洗い出す
理想的な状態になるには何が足りないか、実現するうえでの課題を洗い出します。
なぜ実現できていないのか、何を強化すれば実現に近づくのかを考えてみましょう。理想と現実のギャップとして何があるか可視化することで、自ずとやるべきことも見えてきます。
なお、課題を洗い出すときは可能な限り多角的な視点になるよう工夫します。コストの問題、従業員の問題、オフィス環境の問題、社会的背景の問題、同業他社の問題など、複数の視点でチェックしていけば、思わぬ課題に気づくきっかけになります。
理想の未来像にたどり着くためのステップを考える
課題をクリアして目標に近づくため、具体的にどのようなアクションが必要か考え、ステップに落とし込んでいきます。同じ課題であってもさまざまな取り組み内容が考えられるため、この段階でも多角的な視点で見ることが大切です。
例えば「人手不足解消」が課題だった場合、「新規採用を増やす」「離職率を下げる」「業務効率化ツールを導入する」など対処法は複数存在します。
その他、「パート・アルバイトの雇用を始める」「アウトソーシングする」なども選択でき、自社の背景に合わせた手法にすることが欠かせません。
導入した後のやりやすさや利便性なども検討しながら、取り組み内容を決めていきましょう。
理想の未来像にむけて行動する
取り組み内容が決まったら、理想の未来像に向けて実際の行動を始めます。
この際、「いつまでに理想の姿になっていたいか」という時間軸を意識しながらスケジューリングしていきましょう。取り組み内容がどんなに優れていても、スピード感を持って実行できない限り、目標達成はずるずると遅れてしまいます。その間に社会情勢も変わるなど思わぬ障壁が出ることもあるので注意しましょう。
なお、取り組み内容は可能な限り細分化し、「1年単位」ではなく「月単位・週単位・日単位」の行動にして可視化していくことが大切です。目先やるべきことが決まっているとモチベーションも維持しやすくなり、頓挫するリスクを減らせます。
バックキャスティングに取り組む際のポイント
バックキャスティングに取り組む際のポイントは、下記の通りです。
- 計画を継続的に改善する
- 現状とのギャップを明確にする
- 未来像は常に明確にイメージできるようにしておく
下記で詳しく解説します。
計画を継続的に改善する
バックキャスティングのフレームワークで組み立てた取り組み内容や課題点は、継続的に改善していくことが大切です。まずは定期的にPDCAサイクルを回し、当初立てた課題に対して取り組み内容がマッチしているか、どの程度目標を達成できているかチェックしましょう。
万が一想定通りに進んでいない場合、課題や取り組み内容にミスマッチがないか確認しましょう。もう一度「どんな姿になりたいか」という理想像のイメージから始め、現状とのズレがないか再確認する必要があります。
なお、もし課題や取り組み内容を改善する場合、関係者全員に共有・浸透していくこともポイントです。一部のメンバーだけで方針転換してしまうと、現場で働く従業員とビジョンを共有できなくなり、バックキャスティングのメリットが活かされません。なぜ、どのような目的で取り組み内容を変えるのかなど、理由も添えて理解を得ておきましょう。
現状とのギャップを明確にする
バックキャスティングで立てた計画を正確に実行するには、現状とのギャップを明確にすることが大切です。目標に対して今の状態がどの位置にあるのか、当初と比べてどの程度進んでいるのかなど、可視化していくことで今の立ち位置を明確にできます。
結果、目標やスケジューリングと大きな乖離があったとき、早期に気づいて軌道修正できます。反対に、現状とのギャップを明確にしないまま取り組み内容だけが先行してしまった場合、何のために行動しているか見失ってモチベーション低下、という事態になりかねません。
未来像は常に明確にイメージできるようにしておく
思い描いた理想的な未来像は、常にイメージできるよう対策しておきましょう。
長期的かつ半永久的な課題であれば、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)に落とし込んで定期的に目を通しやすくするのも効果的です。または四半期に1回の会議で必ずバックキャスティングにおける理想像に触れたり、定期的に部署内で確認したりする方法もあります。
バックキャスティングの失敗例として、未来像を見失ってしまうことが挙げられます。どうしても目先の業務に追われて忙しい毎日が続くからこそ、最終的な目標を見失わないよう、対策していく必要があるのです。
バックキャスティングの事例
バックキャスティングの事例として、トヨタ自動車が掲げる「トヨタ環境チャレンジ2050」が挙げられます。
将来のトレンドや課題を把握し、2050年のあるべき未来像を策定し、具体的な目標や施策に落とし込みました。
車が地球環境に与えるマイナスなイメージを限りなくゼロに近づけることを目的に、「もっといいクルマ」「もっといいモノづくり」「いい町・いい社会」の3領域で6つのチャレンジを策定しました。「トヨタ環境チャレンジ2050」の実現に向けて、当面の実行計画である第6次「トヨタ環境取組プラン」を策定し、2016年度から2020年度までの5ヶ年計画として展開を図ります。
例えば「もっといいクルマ」の領域では、下記のようなチャレンジが始まっています。
- 燃料電池自動車(FCV)の販売を2020年以降はグローバルで年間3万台以上にする
- 燃料電池バス(FC)は2016年度中に導入を開始し、2020年度の東京オリンピック・パラリンピックに向けて100台以上を準備する
- ハイブリッド車(HV)は2020年までに年間で150万台を販売する
いずれもグローバル新車平均走行時のCO2排出量を90%削減する(2010年比)という目標に向けた取り組みです。
省エネ・燃料多様化・水素社会の実現など多角的な視点から複数の取り組み内容が採用されており、今後の活動にも注目が集まっています。
まとめ
バックキャスティングは将来の理想的な姿から今やるべきことを逆算する思考法であり、ビジネスでもさまざまな業種・職種で取り入れることが可能です。不確実性の高い未来にも対応しやすく、組織全体でのビジョン共有や行動指針の統一にも役立つため、ぜひ活用を検討してみてはいかがでしょうか。