Contents 目次
センシングとは
センシング技術は、IoT(モノのインターネット)の実現に欠かせない重要な要素です。
センシングにより、対象物の物理的、化学的、生物学的特性の量を検出し、情報を取得します。この情報を活用することで、製造業をはじめとするさまざまな産業において、生産性向上やコスト削減、安全性の確保などが可能になります。
ここでは、センシングの分類や具体例、センサーとの違いについて解説します。
センシングの分類
センシング技術は大きく次の2種類に分けられます。
- スマートセンシング
- リモートセンシング
スマートセンシングは、対象物の近くにセンサーを設置して計測や検知を行う技術です。例えば、製造ラインの設備にセンサーを取り付け、温度や振動、電流などを計測することで、設備の状態を常時監視し、故障の予兆を早期に発見することができます。スマートセンシングは、幅広い情報を高速に取得できるため、工場の自動化や効率化に活用されています。
一方、リモートセンシングは、対象物に触れることなく、遠隔で定量的な情報を取得する技術です。代表例が人工衛星によるリモートセンシングで、地球環境のモニタリングなどに利用されています。人工衛星に搭載したセンサーで、地表の温度や植生、海面の状態などを観測し、気象予測や災害対策、農業支援などに役立てられています。
センサーとの違い
センシングとセンサーは密接に関係していますが、同じものではありません。
センサーは、測定対象の特徴量を検出し、その特徴量を読み取り可能な信号に変換して機器に表示するデバイスのことを指します。温度センサー、圧力センサー、加速度センサーなど、用途に応じてさまざまな種類があります。
センシングは、これらのセンサーを含むセンシングシステム全体を指す言葉です。センサーで情報を収集して、付加価値の高い情報に変換する技術のことを指します。
つまり、センサーはセンシングを実現するための重要なコンポーネントの一つといえるでしょう。
センシングの種類とは
センシング技術で用いられるセンサーには、測定対象や用途に応じてさまざまな種類があります。ここでは、代表的なセンサーの種類と、それぞれの主な用途例を紹介します。
センサーの種類 | 用途例 |
画像(イメージ)センサー | 製品の外観検査、作業員や設備の状態把握 |
温度センサー | 設備の異常検知、製品や材料の温度管理 |
風量センサー | 空調機器や設備のメンテナンス |
水位センサー | タンクや容器内の液体残量の把握 |
電流センサー | 設備の稼働状況の検知、モーターの状態把握 |
レーザーセンサー | 対象物との距離計測、幅・厚み・高さなどの寸法計測 |
加速度センサー | 物体の移動量の計測、衝撃の検知 |
振動センサー | 設備の異常振動の検知、故障や損傷の早期発見 |
これらのセンサーは、製造業をはじめとする幅広い分野で活用されています。例えば、画像センサーを用いた外観検査により、製品の品質管理を自動化・高度化することができます。また、温度センサーや振動センサーを設備に取り付けることで、異常の早期検知や予知保全が可能になります。
センサーで取得したデータをIoTシステムに集約し、AIで分析することで、生産性の向上やコスト削減、安全性の確保など、さまざまな課題解決につなげることができるでしょう。
センシング技術の活用には、目的に応じた適切なセンサーの選定と、データの効果的な処理・分析が重要となります。
センシング技術の導入メリット
センシング技術を導入するメリットとして、以下があります。
- 高い精度の情報取得
- 設備管理の効率化
- 作業状況の見える化
以降では、それぞれについて詳しく解説します。
高い精度の情報取得
センシング技術を活用することで、人間の感覚では捉えきれない情報を高精度で取得することができます。例えば、製品の微細な傷や欠陥を発見したり、設備の振動や温度の微妙な変化を検知したりすることが可能です。これにより、品質管理の高度化や不良品の削減につながります。
また、製造条件や品質記録をデータとして自動的に蓄積できるため、トレーサビリティの確保にも役立ちます。紙ベースでの管理と比べ、必要な情報の検索や分析が容易になり、品質改善や問題発生時の原因究明がスムーズに行えるようになります。
設備管理の効率化
センシング技術を活用することで、設備の稼働状況を常時監視し、異常の兆候を早期に発見することができます。温度や電流、振動などのデータを遠隔で取得・分析し、故障の予兆を検知する仕組みを構築することで、設備管理の効率化が図れます。
従来は、保全担当者が定期的に現場を巡回し、目視や手作業で点検を行っていましたが、センシング技術を導入することで、リアルタイムでの異常検知が可能になります。トラブルの発生をいち早く把握し、迅速に対応することで、生産ラインのダウンタイムを最小限に抑え、被害を軽減できます。
作業状況の見える化
センシング技術を活用することで、作業の進捗状況や設備の稼働状況、製品や部品の所在地といったあらゆる情報をリアルタイムに把握できるようになります。これにより、生産現場の「見える化」が進み、問題点や改善すべき点が明確になります。
例えば、作業の遅れや在庫の滞留をいち早く発見し、適切な対策を講じることで、リードタイムの短縮やコスト削減につなげることができます。また、設備の稼働率や生産性のデータを分析することで、ボトルネックの特定や工程の最適化が可能になります。
センシング技術は、製造業の競争力強化に欠かせないツールといえます。自社の課題や目的に合わせて適切なセンサーを選定し、データの活用方法を検討することが重要です。
【関連記事】 CMOSとは?論理回路や動作原理・特徴・主な用途をわかりやすく解説
センシング技術の課題
センシング技術は、製造業の生産性向上やコスト削減に大きく貢献する一方で、導入や運用においていくつかの課題も存在します。
ここでは、古い設備からのデータ収集の困難さと、データ活用のための知識不足について解説します。
古いデータの収集が困難
製造業では、10~20年以上前の設備が現役で稼働しているケースが少なくありません。これらの設備は、当時の技術をもとに設計されているため、現在のIoTシステムとの互換性が低く、データ収集がうまくできないことがあります。
こうした課題を解決するためには「センサーの後付け」が有効です。ただし、センサーの購入や設備の更新など、追加の投資が必要になるでしょう。
データ活用の知識が不足
センシング技術を導入してデータを収集できるようになっても、そのデータをうまく活用できなければ意味がありません。しかし、製造業の現場では、どのようなデータを収集すべきか、どの程度の精度で取得すべきかといった知識が不足しているケースが少なくありません。
例えば、温度データを収集する際に、1℃単位で計測するのか、0.01℃単位で計測するのかによって、必要なセンサーの性能やデータ量が大きく異なります。目的に合わない過剰なデータを収集しても、コストがかかるだけで、活用できない可能性があります。
データ活用のためには、現場のニーズを的確に把握し、必要なデータを選定する力が求められます。また、収集したデータを分析し、意思決定に役立てるためのスキルも必要です。社内での人材育成や外部の専門家との連携など、データ活用のための体制づくりが重要といえます。
センシング技術の導入には、こうした課題への対応が欠かせません。自社の状況を踏まえ、段階的に課題を克服していくことが、成功への鍵となるでしょう。
【関連記事】 DX市場が急速に拡大|国内外の動向と日本の課題・企業ができることは?
センシング技術の活用ポイント
センシング技術を導入してデータを収集・分析することで、製造業の生産性向上や品質管理の高度化が期待できます。
しかし、その効果を最大限に引き出すためには、次の3つのポイントに注意が必要です。
- 目的に応じたセンサーの選択
- 多面的にデータを解析
- データ分析結果をもとに改善
以下では、それぞれについて解説します。
目的に応じたセンサーの選択
センシング技術を導入する際は、まず目的を明確にすることが重要です。何を測定したいのか、どの程度の精度が必要なのかを見極めたうえで、適切なセンサーを選択する必要があります。
例えば、製品の品質管理が目的の場合、対象とする不良の種類や発生頻度によって、必要なセンサーの種類や性能が異なります。また、設備の予知保全を目的とする場合、どの部分の異常を検知したいのかによって、温度センサーや振動センサーなど、適切なセンサーを選ぶ必要があります。
センサーの選択に際しては、イニシャルコストとメンテナンスコストも考慮しましょう。高性能なセンサーは、より精度の高いデータを取得できる一方で、コストも高くなる傾向があります。期待される効果とのバランスを考え、最適なセンサーを選定することが重要です。
多面的にデータを解析
センサーで取得したデータは、そのままでは活用しにくいことがあります。大量のデータから意味のある情報を抽出するには、多面的な解析が欠かせません。
例えば、時系列データを分析する際、単に時間の経過とともに変化する値を追うだけでなく、他の要因との関連性を探ることが重要です。生産量と不良率の関係や、温度と設備の異常の関係など、複数の項目を組み合わせて分析することで、新たな気づきが得られるかもしれません。
また、AI技術を活用することで、人間では見落としがちなパターンや傾向を発見できる可能性があります。機械学習などを用いて、多様なデータを多面的に解析することが、センシング技術の真価を引き出すカギとなります。
データ分析結果をもとに改善
センシング技術で収集・分析したデータは、改善活動に役立ててこそ意味があります。分析結果を現場の関係者で共有し、問題点の把握や改善策の立案に活かすことが重要です。
例えば、設備の異常を検知した場合、その情報を保全担当者に速やかに伝達し、適切なメンテナンスを実施することで、設備の停止時間を最小限に抑えることができます。また、品質データの分析結果をもとに、製造工程の見直しや作業手順の改善を行うことで、不良率の低減や生産性の向上が期待できます。
分析結果をもとにした改善活動を継続的に行うことで、センシング技術の導入効果を最大化できます。PDCAサイクルを回し、データに基づく意思決定を徹底することが、製造業の競争力強化につながるでしょう。
センシング技術活用の具体例
センシング技術は、さまざまな業界やサービスにおいて活用されています。ここでは、以下の9つの分野における具体的な活用例を紹介します。
- 製造業のセンシング活用
- 農業のセンシング活用
- 自動車産業のセンシング活用
- 海業のセンシング活用
- 医療業のセンシング活用
- メンタルヘルスのセンシング活用
- ロボットのセンシング活用
- エネルギーのセンシング活用
- 災害・防犯のセンシング活用
製造業のセンシング活用
製造業では、工場内の機器をネットワークに接続し、データを分析することで安全性の向上が期待できます。例えば、振動センサーを設備に取り付けることで、故障や不具合の兆候を早期に検出し、設備の寿命予測や予知保全に役立てることができます。
農業のセンシング活用
農業では、作物の生育状況や収穫までのスケジュール、作業工程をデータ化することで、作業効率を上げることが可能です。さらに、収集したデータをもとにしてロボットによる作業の代行も検討できます。
自動車産業のセンシング活用
自動車産業では、自動車周囲の3次元地図をリアルタイムに作成し、ドライバーに代わって適切な行動や走行ルートを判断する技術が開発されています。法的な課題から、完全自動運転はすぐの実現は難しいものの、一部の自動運転やエリア限定での実現に向けて、多くの企業が取り組んでいます。
ロボットのセンシング活用
ロボットには、障害物検知や人物・物体を認識するためのセンサーが搭載されています。山間部や離島などのドローンによる荷物配送、調査、危険区域の保守などにも、センシング技術の活用が期待されています。
エネルギーのセンシング活用
太陽光パネルの電力計測や、安全に使用するための制御システムにセンシング技術が活用されています。これにより、安全性を保ったままエネルギー自給率の向上をサポートすることが可能です。
災害・防犯のセンシング活用
自然災害監視用のセンサーを活用することで、災害の発生箇所や被害の予測精度が向上します。これにより、適切な避難誘導や救助活動が可能になります。
以上のように、センシング技術は幅広い分野で活用されており、今後もさらなる応用が期待されています。
センシングの今後
今後のセンシング技術は、AIやクラウド、IoTや5Gといった先進技術と協調・融合することで、新たなシステムの誕生が見込まれています。日進月歩で進化を遂げているセンシングシステムが、さまざまな業界・領域において活用され、課題解決と社会のイノベーション創出を後押ししていくでしょう。
センシング技術は日々進歩し続けており、今後もその発展が予測されます。企業がイノベーションを創出し、市場における競争優位性を確立するためには、最先端テクノロジーの活用が不可欠といえるでしょう。
特に日本では、少子高齢化による人材不足が今後加速していくことが予想されています。この課題を解決するためにも、センシング技術を導入し、業務の自動化や効率化を図ることが重要になってきます。
製造業では、スマートファクトリー化を進め、生産性の向上と品質管理の高度化を実現することが求められています。また、農業や医療、エネルギー管理など、さまざまな分野でセンシング技術の活用が期待されています。
企業は自社の課題や目的を明確にし、それに適したセンシング技術の導入について議論する必要があります。導入に際しては、専門知識を持つ企業やコンサルタントと連携し、データの収集・分析・活用方法を十分に検討することが重要です。
センシング技術は、日本が直面する社会課題の解決に大きく貢献する可能性を秘めています。企業がこの技術を戦略的に活用し、新たな価値創造に取り組むことで、持続的な成長と発展が期待できるでしょう。
まとめ
センシング技術は、製造業をはじめとするさまざまな分野で、生産性向上や品質管理、安全性確保に大きく貢献します。
IoTやAIといった先進技術と融合することで、センシングはさらなる進化を遂げ、社会課題の解決とイノベーション創出を加速させていくでしょう。
企業は自社の目的に合わせて適切なセンシング技術を選択し、データの活用方法を検討することで、競争優位性を確立し、持続的な成長を実現できます。センシング技術の戦略的な導入は、日本の未来を切り拓くカギとなるはずです。