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社会課題とは
社会課題は、社会において発生し、いまだ解決されていない問題を指します。社会に属する一人ひとりが課題を自分ごととして捉え、解決へ向けて取り組むことが重要です。
社会課題は、日本全国や全世界といった広範囲の社会だけでなく、一部の地域や組織においても存在します。対象となる社会の範囲によって直面する課題は異なり、また、いまだ知られていない潜在的な社会課題も存在します。
個人の力のみでは、社会課題の解決は困難です。しかし、政府や企業、NPOなどの組織が連携し、それぞれの立場から社会課題解決に向けて取り組むことで、解決へ導く大きな力を生み出せます。
なお、世界の社会問題を解決するために、2015年に国連サミットでSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が採択されました。SDGsは17のゴールと169のターゲットから構成された国際目標で、2030年までの達成を目指しています。そのためには、日本を含む全ての先進国と開発途上国が積極的に取り組むことが不可欠です。
世界で共通する社会課題
世界には、国や地域を超えて共通する社会課題が存在します。これらの課題は、一国や一地域だけでは解決が難しく、国際社会が協力して取り組まなければなりません。
主な世界共通の社会課題として、以下のものが挙げられます。
- 紛争・内戦
- 難民問題
- 貧困問題
- 教育格差
- 医療格差
- 児童労働
- 気候変動
- 食糧問題
- エネルギー問題
- ジェンダー平等
以降では、それぞれの課題について解説します。
紛争・内戦
紛争や内戦とは、宗教や民族、資源をめぐる対立などを原因とした、国家間や国内の武力衝突のことです。このような紛争や内戦が長期化すると、社会インフラの破壊や経済活動の停滞を招き、人々の生活が脅かされてしまいます。
現在も世界各地で紛争や内戦が続いており、2011年から続くシリア内戦では、これまでに60万人以上が死亡し、1,300万人以上が難民となっています。2022年に始まったウクライナ紛争でも、多くの犠牲者が出ており、深刻な人道的危機となっています。
紛争や内戦を防ぐためには、国際社会が協力して平和的な解決を図ることが重要です。国連を中心とした外交努力や、紛争当事国への働きかけ、平和維持活動などが求められています。
難民問題
難民とは、迫害や紛争、自然災害などから逃れるために、国境を越えた移動を余儀なくされた人々のことです。国際社会には、難民の基本的人権を守り、尊厳ある生活を確保することが求められています。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2024年5月時点における世界の難民の人数は、1億2,000万人に達してします。シリアやウクライナ、ベネズエラなどから多くの難民が発生しており、その多くは近隣国に逃れ受け入れられています。
しかし、受け入れ国の負担は大きくなっており、難民問題を解決するには難民の保護と支援、紛争の平和的解決に加えて、難民を受け入れる国々への支援なども必要となっています。
貧困問題
貧困とは、最低限の生活水準を満たすことができない状態のことです。飢餓や栄養不良、健康被害、教育機会の喪失など、さまざまな問題を引き起こします。
ユニセフ・世界銀行のプレスリリースによると、2023年時点における1日2.15米ドル未満で生活する子どもの人数は、推定3億3,300万人です。つまり、6人に1人の割合で子どもが極貧のなかで暮らしており、特にサハラ以南のアフリカではその割合が高くなっています。
貧困問題の解決には、経済成長と雇用創出、社会保障制度の整備、教育や医療へアクセスできる環境の整備などが必要です。SDGsでも「あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ」ことが掲げられています。
教育格差
教育格差とは、教育の機会や質に差があることです。貧困や地理的条件、ジェンダーなどの要因によって教育格差が生じ、人々の可能性を阻害しています。
ユネスコの調査によると、2021年時点における世界で学校に通えない6~17歳の子どもの数は、2億4,400万人です。特にインドやパキスタン、ナイジェリアなどの国々で多くなっています。さらに、教育の質にも格差が生じており、基礎的な読み書きや計算のできない子どもたちも多数存在しているのが現状です。
教育格差を是正するためには、教育への公的投資の拡大、学習環境の整備、教員の能力向上、女子教育の推進などが求められます。「すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する 」というSDGsの目標達成に向けた取り組みが必要です。
出典:ユネスコ
医療格差
医療格差とは、医療サービスを受ける機会や質に差が存在することを指します。所得や地域、社会的地位などによって医療格差が生じ、人々の健康や生命に重大な影響を及ぼしています。
世界銀行と世界保健機関(WHO)の報告書では、世界人口の半数近くが必要な医療サービスを受けられていないという深刻な状況が明らかとなりました。医療費の自己負担によって、毎年多くの世帯が貧困に陥っているのも現状です。
また、ユニセフの調査データを見ると、出生場所によって5歳未満児の死亡率に大きな差があることがわかります。日本では5歳未満児の死亡率は出生1,000人あたり2人程度と低いのに対し、ナイジェリアでは出生1,000人あたり111人もの子どもが5歳の誕生日を迎えられずに亡くなっているのです。
すべての人が適切な医療サービスを適切なタイミングで受けられるように、体制づくりが求められています。具体的には、医療制度の整備、医療従事者の育成、医薬品の供給、予防接種の普及などが必要です。
出典:世界銀行と世界保健機関(WHO)プレスリリース
出典:ユニセフ世界子供白書2023
児童労働
児童労働とは、心身の発達に有害である労働に子どもたちが従事することです。貧困などを背景として、子どもたちは教育の機会を奪われ、危険な労働環境に置かれています。児童労働は貧困の連鎖を生み出し、子どもの権利を侵害する深刻な問題です。
国際労働機関(ILO)の調査によると、2021年の時点では世界全体で1億6,000万人の子どもたちが児童労働に従事しています。特に、サハラ以南アフリカにおいて、その数は多くなっています。
児童労働を撲滅するためには、法制度の整備や啓発活動などが不可欠です。国際労働機関は2025年までに児童労働を撲滅することを目標に掲げており、国際社会が一丸となって取り組むことが求められています。
出典:ILOと国連児童基金(UNICEF)の共同報告書
気候変動
近年、地球温暖化が急速に進行しており、気候変動が深刻な問題となっています。地球の平均気温が上昇することにより、局地的に大雨が降ったり、逆に長期にわたって干ばつ状態が続いたりといった異常気象の発生や、食糧生産への影響や生態系の破壊など、さまざまな問題が引き起こされています。
気候変動と化石燃料の燃焼には、相関関係があることが明らかになっています。電力を作るために石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料を燃やすことで、二酸化炭素や亜酸化窒素といった温室効果ガスが大量に発生します。排出されたガスが地球全体を覆うことで太陽からの熱を閉じ込めてしまい、結果として気温の上昇を招きます。
気候変動への対応として、温室効果ガスの排出削減、再生可能エネルギーの導入などが求められています。2015年に採択されたパリ協定では、産業革命以降の世界の平均気温上昇を2℃より十分低く保ち、できれば1.5℃に抑えるよう努力することが目標として掲げられました。
食糧問題
食糧問題とは、食糧の生産、分配、消費におけるさまざまな問題のことです。人口増加や気候変動、紛争などを背景に、食糧不足が深刻な問題となっています。
ユニセフ(国連児童基金)と、国連食糧農業機関(FAO)、国際農業開発基金(IFAD)、国連世界食糧計画(国連WFP)、世界保健機関(WHO)が共同で発表した「The State of Food Security and Nutrition in the World」によると、2021年の時点で約8億2,800万人もの人々が飢餓に直面しています。一方、先進国では過剰に生産された食糧が大量に廃棄されるという状況も生じています。
食糧問題の解決には、持続可能な農業の実現や、食品廃棄の削減などが不可欠です。SDGsでは、飢餓をゼロにすることを目標のひとつに掲げており、食料安全保障の確保と栄養状態の改善に向けた取り組みが求められています。
出典:The State of Food Security and Nutrition in the World報告書
エネルギー問題
エネルギー問題とは、エネルギーの安定供給や持続可能性における課題のことです。化石燃料の依存度の高さや再生可能エネルギーの普及の遅れ、エネルギーアクセスの格差などが問題視されています。
国際エネルギー機関(IEA)が発表した「World Energy Outlook 2023」によると、世界では約7億7,500万人もの人々がいまだに電気を利用できない状況にあります。近年、近代的なエネルギーへのユニバーサル・アクセスを提供する動きは鈍化傾向にあるのです。さらに、22億もの人々が清潔な調理用燃料を利用できずにいます。
エネルギー問題への対応には、再生可能エネルギーの導入拡大、エネルギー効率の改善などが必要です。SDGsでは、「すべての人々に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する 」ことが目標とされています。
出典:IEA World Energy Outlook 2023
ジェンダー平等
ジェンダー平等とは、性別に基づく差別や不平等がない状態を指します。世界では今もなお、女性や女児に対する差別や暴力、機会の不平等が存在しているのが現状です。
世界経済フォーラムの「GGI ジェンダー・ギャップ指数 2024」によると、世界全体のジェンダー平等の達成度は68.5%にとどまっています。教育や健康の分野では格差が縮小している一方、政治や経済への参画においては依然として大きな差が残っているのです。
ジェンダー平等の実現には、女性のエンパワーメントの推進が欠かせません。SDGsでは、「ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る」ことが目標に掲げられています。
出典:男女共同参画局
日本における社会課題
日本においても、以下のような社会課題が存在します。
- 少子高齢化
- 介護問題・ヤングケアラー
- 東京一極集中・地方の過疎化
- 災害の激甚化・頻発化
- 長時間労働
- 女性の貧困
- ジェンダーギャップ
- フードロス(食品ロス)
- デジタルデバイド(情報格差)
- インフラの老朽化
以下、それぞれの課題について解説します。
少子高齢化
少子高齢化とは、出生率の低下により若年人口が減少する一方で、人口全体に占める高齢者の割合が増加していく現象のことです。
日本は世界でも有数の超高齢社会であり、2021年の時点で65歳以上の高齢者人口が全体の28.9%を占めています。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2065年にはその割合が38.4%にまで達すると予測されており、生産年齢人口の減少や社会保障費の増大などが解決すべき大きな課題です。
少子高齢化は、経済活動の縮小や社会保障制度の持続可能性への懸念、地域コミュニティの衰退など社会全体に広範な影響を及ぼします。こうした課題に対応するため、日本政府は少子化対策として、子育て支援の拡充や働き方改革、結婚・出産支援などに力を入れているのです。同時に、高齢者の就労促進やシルバー産業の育成、地域包括ケアシステムの構築なども進められています。
出典:内閣府 令和4年版高齢社会白書
介護問題・ヤングケアラー
介護問題とは、高齢化が進むなかで、介護を必要とする人々の増加に伴って生じるさまざまな課題のことです。介護のために仕事を離れざるを得ない「介護離職」や、家族の介護負担の増大、質の高い介護サービスの確保などが大きな問題となっています。さらに近年では、本来は大人が担うべき家族の介護を日常的に行っている子どもたち、いわゆる「ヤングケアラー」の存在にも注目が集まっています。
介護問題は、介護を担う家族の就労や生活、そして子どもたちの教育や健やかな成長に重大な影響を及ぼす問題です。このような問題に対応するため、日本政府は介護保険制度の継続的な改善や、介護人材の確保・育成、介護離職を防止するための支援などに取り組んでいます。特にヤングケアラーについては、その存在を早期に発見し、適切な支援につなげるための体制整備や、福祉、教育、医療等の関係機関の連携強化などが進められています。
東京一極集中・地方の過疎化
東京一極集中とは、人口や経済機能が東京圏に過度に集中している状態のことです。地方の若者が進学や就職を機に東京圏に移動するケースが多く、地方の人口減少に拍車をかけています。総務省の「住民基本台帳人口移動報告」によると、2023年時点の東京圏への転入超過数は11万4,802人で、28年連続の転入超過です。
東京一極集中は、東京圏の住宅問題や交通混雑、災害リスクの増大などを引き起こします。一方、地方では人口流出と高齢化が進み、過疎化が深刻化しています。地方の過疎化は、地域経済の衰退、社会インフラの維持困難、コミュニティの崩壊などにつながるため、放置することのできない問題です。
日本政府は地方創生を掲げ、地方への企業誘致、UIJターンの促進、東京圏への人口流入の抑制などに取り組んでいます。また、地方大学の振興や、テレワークの推進による地方への仕事の分散なども進めています。
出典:総務省 住民基本台帳人口移動報告 2023年(令和5年)結果
災害の激甚化・頻発化
日本は自然災害が多発する国であり、近年は気候変動の影響もあって、災害の激甚化・頻発化が進行しています。
2018年には西日本を襲った記録的な豪雨により深刻な被害が発生し、2019年には台風15号と19号が各地に甚大な被害をもたらしました。さらに2020年には、線状降水帯による集中豪雨で各地で浸水被害が相次ぎました。激甚化・頻発化する災害は、人的・物的被害をもたらすだけでなく、被災地の復旧・復興という面でも大きな負担となっています。
こうした状況を踏まえ、日本政府は防災・減災、国土強靱化を重要な課題として位置づけ、ハード・ソフトの両面から対策を推進しています。具体的には、インフラの整備や適切な維持管理、詳細なハザードマップの作成、避難体制の強化、防災教育の充実などに力を入れています。
長時間労働
厚生労働省が発表した「毎月勤労統計調査 令和5年分結果確報」によると、2023年の年間労働時間は1,636時間です。欧米諸国のデータを見てみると、アメリカは1,777時間、カナダは1,690時間、イギリスは1,537時間となっており、数字上では日本人の労働時間が長いようには見えません。
しかし、この調査には労働時間が短いパートタイム労働者のデータも含まれています。日本では1996年ごろからパートタイム労働者の比率が急速に増えており、それを踏まえると、日本人の労働時間は決して短いとは言えません。また、データからは見て取れないサービス残業の存在もあることから、実際の労働時間はさらに多くなっているものと推測されます。
長時間労働は、健康被害や過労死のリスクを高めるだけでなく、ワークライフバランスの崩壊や生産性の低下といった問題にもつながります。家族との時間や自己啓発の機会が奪われ、心身ともに疲弊している労働者が数多く存在しているのが現状です。
こうした状況を踏まえて、日本政府は働き方改革を重要施策に位置付け、時間外労働の上限規制、テレワークの推進などに取り組んでいます。また、長時間労働是正に向けた企業の取り組みを後押しするため、助成金の拡充や好事例の横展開なども行っています。
女性の貧困
日本では、非正規雇用や低賃金労働に就く女性が多く、女性の貧困は深刻な社会問題のひとつです。女性の貧困問題の背景には、雇用の不安定さや男女間の賃金格差、出産・育児による就業の中断などのさまざまな要因が絡んでいます。
内閣府が発表した「男女共同参画白書 令和4年版 」によると、2021年の女性労働者全体に占める非正規雇用者の割合は53.6%にも上ります。一方、男性労働者における非正規雇用者の割合は21.8%であり、女性の割合が男性を大きく上回っているのが現状です。
また、出産や育児を機に仕事を辞めざるを得ない女性も少なくありません。こうした状況が、女性の経済的自立を阻み、貧困リスクを高めているのです。
こうした現状を踏まえ、日本政府は女性の就業支援や仕事と育児の両立支援の充実、ひとり親世帯へのきめ細やかな支援の強化などに注力しています。さらに、男女間の賃金格差を是正するため、企業に対して情報開示を義務付けるなどの施策も進められています。
出典:内閣府「男女共同参画白書 令和4年版」
ジェンダーギャップ
日本は政治、経済、教育などの分野でのジェンダー格差が大きく、世界経済フォーラムの「GGI ジェンダー・ギャップ指数 2024」では146か国中118位(2024年)と低迷しています。国会議員や管理職などに占める女性の割合が低く、男女間の賃金格差も大きいのが原因です。
ジェンダーギャップは、女性の能力発揮を阻み、多様性に富んだ社会の実現を妨げます。日本政府は男女共同参画社会の実現を目標に、女性の政治参画の拡大、女性リーダーの育成、女性の就業支援などに取り組んでいます。また、行政や企業におけるポジティブ・アクションの推進、セクシュアル・ハラスメント対策の強化なども進めています。
出典:男女共同参画局
フードロス(食品ロス)
日本では大量の食品が廃棄されており、農林水産省が発表した「食品ロス量(令和4年度推計値)」によると、2022年の年間の食品ロス量は約472万トンにのぼります。このうち、規格外品や返品、売れ残り、食べ残しなどの事業系食品ロスは236万トン、食べ残しや手つかずの食品、皮の剥きすぎなどの家庭系食品ロスは236万トンです。
フードロスは、資源の無駄であるだけでなく、環境負荷の増大や食料安全保障の観点からも問題視されています。日本政府は、2019年に「食品ロスの削減の推進に関する法律」を施行し、国・地方自治体・事業者・消費者が連携して食品ロス削減に取り組む枠組みを整備しました。
具体的には、商慣習の見直し、食品ロス削減月間の設定、消費者への普及啓発などを推進しています。
デジタルデバイド(情報格差)
デジタルデバイドとは、情報通信技術(ICT)へのアクセスや利用における格差のこと。日本では高齢者や低所得層を中心に、インターネットの利用率や活用度合いに差が見られます。2021年の『通信利用動向調査』によると、65歳以上のインターネット利用率は53.4%で、全世代平均の82.9%を大幅に下回っています。
デジタルデバイドは情報や学習の機会の不平等を生み、社会参加や就業の面でも不利につながるため、解消が必要です。日本政府はデジタル活用支援を推進し、地域ICTクラブの普及、シルバー人材センターでのスマホ教室の開催、オンライン行政手続きの拡大などに取り組んでいます。また、学校教育でのICT環境整備や情報活用能力の育成にも力を入れています。
出典:政府統計の総合窓口(e-Stat)
インフラの老朽化
日本では高度経済成長期に整備された道路橋や、トンネル、下水道などのインフラの老朽化が進んでいます。国土交通省が発表した「建設後50年以上経過する社会資本の割合」によると、建設後50年以上経過する道路橋の割合は2040年には75%に達すると見込まれています。
老朽化の進んだインフラは、事故や災害を引き起こす危険性が高まるほか、維持管理にかかる費用を増加させる点も大きな課題です。日本政府はインフラ長寿命化計画を策定し、予防保全型のメンテナンスへの転換、新技術の導入、集約・再編などを進めています。
出典:国土交通省「建設後50年以上経過する社会資本の割合」
企業が社会課題への取り組みを行うべき理由
社会課題の解決には、政府や国際機関、NPOなどの取り組みだけでは限界があります。経済活動の主体である企業が、その持てる資源やノウハウを活かして社会課題に取り組むことが不可欠なのです。企業が社会課題の解決に貢献することは、社会的責任を果たすことであり、持続可能な社会の実現につながります。
同時に、企業にとっても社会課題への取り組みは、さまざまなメリットをもたらします。ESG投資の拡大による資金調達の円滑化、ブランドイメージの向上、従業員のモチベーション向上、新たなビジネスチャンスの創出など、企業の成長や競争力強化にもつながるのです。
以降では、これらのメリットについて解説していきます。
ESG投資の観点で資金調達がしやすくなる
近年、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)への配慮を重視するESG投資が世界的に拡大しています。投資家は、社会的責任を果たし、持続可能な成長を遂げる企業を評価し、投資先として選好するようになっています。
企業が社会課題の解決に積極的に取り組むことは、ESGの観点から見ても重要です。社会課題への対応は、企業の社会的責任の遂行であり、長期的なリスク管理にもつながります。
ESG評価の高い企業は、投資家から信頼され、安定的な資金調達が可能となります。さらに、ESG債などの発行を通じて、社会課題解決に直結する資金を調達することもできるのです。
企業のブランドイメージ向上につながる
消費者は社会的責任を果たす企業の製品やサービスを選ぶ傾向にあります。そのため、企業が社会課題の解決に積極的に取り組むことで、消費者からの支持を得ることができます。
また、社会活動への取り組みがメディアに取り上げられて、企業の存在意義や価値観が広く認知されれば、ブランドイメージの向上にもつながるでしょう。ブランドイメージが向上すると、新規顧客の獲得や売上の拡大、優秀な人材の確保なども期待できます。
従業員のモチベーション向上につながる
社会課題の解決に取り組む企業で働くことにより、従業員は自身の仕事が社会の役に立っていると実感しやすくなります。モチベーションが向上し、優秀な人材の確保や定着にも寄与するのです。
また、社会課題解決のための新たなプロジェクトは、従業員の能力開発や成長の機会にもなります。イノベーションを生み出すチャレンジが奨励され、挑戦的な風土が醸成されるのです。従業員エンゲージメントの高い企業では、生産性の向上や業績の改善が期待できます。
新しいビジネスチャンスの創出につながる
社会課題は、見方を変えれば新しいビジネスチャンスの宝庫とも言えます。課題解決のためのイノベーティブな製品・サービスの開発は、新市場の開拓や競争優位の獲得につながるからです。たとえば、再生可能エネルギーや環境配慮型製品の開発、社会的弱者の支援サービスなどは、社会的ニーズに応える新たなビジネスモデルと言えます。
また、社会課題の解決にはさまざまなステークホルダーとの連携が欠かせません。他企業、行政、NPOなどとの共創を通じて、新たなイノベーションが生まれる可能性があります。
オープンイノベーションや価値共創のプラットフォームが形成されれば、企業の事業機会は大きく広がります。社会課題の解決と企業の成長を両立させる「CSV(Creating Shared Value)」の発想が重要となるのです。
企業による社会課題への取り組み事例
実際に企業が社会課題にどのように取り組んでいるのか、具体的な事例を見ていきましょう。
ここでは、トヨタ自動車とユニクロの取り組みを紹介します。両社とも、社会課題の解決を経営戦略の中核に据え、事業を通じた社会への貢献を目指している会社です。
トヨタ自動車
トヨタ自動車は、「トヨタ環境チャレンジ2050」を掲げ、環境や社会の持続可能性に配慮した車づくりを進めています。また、「幸せに暮らせる社会」の実現に向けて、安全・安心、ダイバーシティ&インクルージョン、人材育成などにも力を入れています。トヨタの取り組みは、自動車産業のリーディングカンパニーとして、社会課題解決のロールモデルとなっています。
出典:トヨタ自動車株式会社|SDGsへの取り組み|サステナビリティ
地球環境への取り組み
トヨタは、「トヨタ環境チャレンジ2050」において、2050年までに走行時のCO2排出量を2010年比で90%削減することを目標に掲げ、電気自動車の開発・普及、燃料電池車の技術開発、工場のCO2ゼロチャレンジなどを推進しています。また、資源循環の取り組みとして、リサイクル設計や廃棄物の削減、水使用量の低減なども進めています。
トヨタの取り組みからは、長期的な目標設定と、その達成に向けた革新的な技術開発の重要性を学ぶことが可能です。また、サプライチェーン全体での環境負荷低減や、資源循環の推進など、包括的なアプローチも参考になります。
幸せに暮らせる社会への取り組み
トヨタは、「幸せに暮らせる社会」の実現に向けて、事故のない交通社会の追求、ダイバーシティ&インクルージョンの推進、地域社会への貢献などに取り組んでいます。具体的には、安全支援システムの開発、ユニバーサルデザインの追求、障がい者雇用の拡大など、多岐にわたる活動を展開しているのです。
これらのトヨタの取り組みからは、自社の事業特性を活かした社会課題解決の発想が重要であることがわかります。
働く人への取り組み
トヨタは、従業員が安全・健康で、いきいきと働ける職場環境づくりに力を入れています。具体的には、再雇用者や妊婦、障がい者などさまざまな人々が働きやすい環境を提供するために、スーパースキルラインという手作業エンジン組立ラインを設置しました。
また、企業内訓練校「トヨタ工業学園」を創設し、現場を支える頼もしいリーダーを数多く排出しています。モノづくりの中心にあるのは常に人であると考えており、変革を担う原動力となる人材育成に力を入れているのです。
ユニクロ
ユニクロは、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というコミットメントのもと、ビジネスを通じた社会課題の解決に取り組んでいます。
環境対応、人権尊重、ダイバーシティの推進など、サプライチェーン全体で持続可能性を追求する活動が特徴的です。ユニクロの取り組みは、アパレル業界におけるサステナビリティの新しいスタンダードを築きつつあります。
環境負荷に配慮した取り組み
ユニクロは、商品のライフサイクル全体を通して環境負荷の低減に努めています。素材の調達から生産、販売、使用、廃棄に至るまでのすべての段階において、環境に配慮した商品づくりを追求しているのです。
具体的には、リサイクル素材の活用、省エネルギー設備の導入、店舗の省エネ化、商品の長寿命化などに取り組んでいます。さらに、顧客が不要となったユニクロの衣料品を回収し、新しい服にリサイクルするという取り組みも実施しています。
ユニクロのこれらの取り組みから、サプライチェーン全体で環境負荷を低減するという発想の重要性がわかるでしょう。
気候変動対策の取り組み
ユニクロは、2030年までに自社の事業活動に伴うCO2排出量を、2019年度と比べて90%削減することを目指しています。この目標は、気候変動枠組条約に基づいて策定された「パリ協定」が定める、2050年までの温室効果ガス排出量削減目標を尊重し、具体的な数値目標を設定したものです。
目標達成に向けて、ユニクロは再生可能エネルギーの導入や省エネ設備の導入などに力を入れています。こうしたユニクロの取り組みからは、パリ協定の目標達成に向けて高い目標を掲げ、積極的に行動することの重要性が学べます。
人権・労働環境に関する取り組み
ユニクロは、サプライチェーン全体で人権尊重と適切な労働環境の確保に取り組んでいます。
国際労働機関(ILO)の中核的労働基準などの国際基準・規範に従って「生産パートナー コードオブコンダクト」を策定・改訂し、いかなる人権侵害も容認しないという方針を生産パートナーと共有しています。生産パートナー コードオブコンダクトは、生産者が最低限順守すべき基準などについてまとめたものです。
また、工場の従業員が匿名かつ現地語で相談できるホットラインを設置しています。それにより、ハラスメントの防止や児童労働の防止、賃金と福利厚生の遵守などの人権侵害を未然に防いでいるのです。
ダイバーシティに関する取り組み
ユニクロは、性別、年齢、国籍、障がいの有無などに関わらず、多様な人材が活躍できる組織づくりを目指しています。女性管理職比率の向上、LGBT支援、障がい者雇用の拡大などに力を入れています。また、LifeWearの考え方に基づき、年齢や体型に合わせた商品開発にも取り組んでいるのも特徴です。
ユニクロの取り組みからは、ダイバーシティを競争力の源泉ととらえる経営戦略の重要性が学べます。また、多様な顧客ニーズに応える商品開発と、そのための多様な人材の活躍が不可欠であることもわかるでしょう。
まとめ
社会課題を解決するためには、私たち一人ひとりが自分事として考え、行動することが重要です。企業も社会の一員として、事業を通じて社会課題の解決に貢献することが期待されています。
社会課題への取り組みは、企業の持続的な成長にもつながります。私たち一人ひとりが社会課題を意識し、できることから実践することが、より良い社会の実現につながるのです。