Contents 目次
ビジネスモデルキャンバス(BMC)とは
ビジネスモデルキャンバスは「ビジネスモデルを大きく3つに分類し、その詳細を9つの要素に分けて可視化できるフレームワーク」です。
開発者は、アレックス・オスターワルダーとイヴ・ピニュールで、共著『ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書』の中で、そのメリットや利用方法を説明しています。
そんなビジネスモデルキャンパスの、3つの大分類と9つの要素は以下の通りです。
【ビジネスモデルキャンバスの大まかな3つの分類】
- オペレーション
- マーケティング
- ファイナンス
【ビジネスモデルキャンバスの9つの要素】
- 顧客セグメント(Customer Segment)
- 価値提案(Value Propositions)
- チャネル・販路(Channels)
- 顧客との関係(Customer Relationships)
- 収益の流れ(Revenue Streams)
- 主要リソース(Key Resources)
- 主要活動(Key Activities)
- 主要パートナー(Key Partner)
- コスト構造(Cost Structure)
なお、ビジネスモデルキャンバスは、以下のようなシチュエーションで役立てることができます。
- 自社ビジネスを見直したいとき
- 新規ビジネスプランを考える/検証したいとき
- 新規ビジネスプランを共有したいとき
- 自社・競合のビジネスモデルの強み・弱みを明確化して、分析したいとき
- 事業拡大すべきかを判断するとき
- 起業したいとき
ビジネスモデルキャンバスは、ビジネスモデルが視覚的にわかりやすく示せる点が大きなメリットであるため、教育や、ステークホルダーへのプレゼンテーションなどにも活用できます。
BMCの書き方
ここからは、ビジネスモデルキャンパスの具体的な書き方を、事例も踏まえて解説していきます。
ビジネスモデルキャンパスの各要素を記載する順番に、特に決まりはありません。今回はビジネスモデルの流れの見えやすさを考慮して、以下の順番を設定しました。
- 顧客セグメント(Customer Segment)
- 価値提案(Value Propositions)
- チャネル・販路(Channels)
- 顧客との関係(Customer Relationships)
- 収益の流れ(Revenue Streams)
- 主要リソース(Key Resources)
- 主要アクティビティ(Key Activities)
- 主要パートナー(Key Partner)
- コスト構造(Cost Structure)
なお、2番目の価値提案(Value Propositions)は、ビジネスモデルの核となる部分なので、こちらを優先的に記載しても良いでしょう。
顧客セグメント(Customer Segment)
顧客セグメントでは、価値を提供する相手を絞って、記載します。つまり、最も重要な顧客を明確にすることで、ターゲットへのアプローチに注力することが可能となります。顧客セグメントの具体例は、以下の通りです。
- 細分化
ニーズや抱える課題の細かい違いごとに、セグメント分けしていきます。年齢・性別・職業・年収・居住エリアなどで細分化することで、より細やかな価値の提案が期待できます。
- マルチサイドプラットフォーム
顧客セグメントが複数に独立している場合に用います。具体例としては、カード利用者と小売店の顧客を持つ「クレジットカード会社」、読者と広告主の顧客を持つ「フリーペーパー事業」などが挙げられます。
顧客セグメントの記載に際しては、上記で示したように「顧客を1つに絞らなければいけない」わけではありません。また、マス市場にフォーカスする場合、細かい顧客セグメント分けは不要であるように「顧客セグメントは細分化するほど良い」というわけでもないため、ご注意ください。
あくまでも「最も重要な顧客を明確にする」という本質を見失わないように、記載しましょう。
【CS(顧客セグメント】既存企業の具体例
■Airbnbの場合
Airbnbはホストと旅行者をつなぐサービスで、CSはマルチサイドプラットフォームとなります。
- ツアーなどに参加しない旅行者
- 地元の人との深い交流を楽しみたい旅行者
- 余った部屋を収益化したいホスト など
■Googleの場合
Googleは精度の高い検索エンジンを提供するIT企業で、CSは非常に多岐に渡ります。
- 検索エンジンを利用するコンシューマー
- 広告主
- 広告代理店
- ウェブサイト運営者
- Gmailなど、 Googleが提供する各種サービスを利用する個人・企業
- コンテンツやアプリの製作者 など
価値提案(Value Propositions)
価値提案では、顧客セグメントに提案したい価値、満たしたいニーズを記載します。そのためには、顧客のニーズに敏感になることが求められます。価値提案の具体例は、以下の通りです。
- パフォーマンスアップ
すでに存在する商品やサービスを拡充することで、付加価値を高め、顧客満足やユーザーエクスペリエンスを高めます。例えば、SNSをはじめとする多くのWebサービスは、後から新しい機能やサービスを追加しています。
- 顧客の「ウォンツ」を具現化
顧客のニーズに沿って、まだ存在しない商品やサービスを提案します。
価値提案の記載に際しては「顧客(ユーザー)にとっての価値」を第一に考えることが重要です。どんなに自社でベスト・アイデアだと思っていても、顧客にとって有用性がなければ意味はありません。
顧客の心に響く価値を考えるという意味でも「長い文章」「専門用語が多い文章」「意味が曖昧な文章」は好ましくありません。可能な限り短く、的確に、価値を表現するようにしましょう。
【VP(価値提案)】既存企業の具体例
■セブンイレブンの場合
セブンイレブンは早期からセルフコーヒーの販売を開始し、現在はコンビニ各社が導入するヒット商品となっています。
- 挽き立てのコーヒーを安く飲める
- 多数展開されるコンビニ店舗で気軽に買える
- 提供までの待ち時間が少ない
■Skypeの場合
Skypeは無料インターネットテレビ電話サービスをいち早く提供し、複数の類似サービス企業が後続しました。
- 無料で時間を気にせず通話できる
- 海外へも料金を気にせず気軽に電話できる
- テレビ通話で顔を見ながら話せる
チャネル・販路(Channels)
チャネル・販路では「提案する価値や満たしたいニーズをどのような経路で届けるか」を記載します。適切なチャネル・販路を選択するには、顧客の属性なども考慮しなければなりません。なお、チャネル・販路の開発フェーズには、以下の5ステップがあります。
- 認知
商品・サービスを認知してもらい、顧客との接点をつくるフェーズです。SNSや広告など、どのような方法でアプローチするか考えます。
- 評価
認知した商品・サービスに対して、フィードバックを得るフェーズです。すでに購入した顧客の口コミレビューはもちろん、まだ購入していない潜在顧客に対するアンケートやサンプル提供、無料体験へのフィードバックも含まれます。
- 購入
顧客の購入手段・チャネルを明らかにするフェーズです。オフライン(実店舗)もしくはオンライン(Web)など、さまざまな切り口で分析してみましょう。
- ディストリビューション(提供)
購入後に、商品・サービスが顧客にどのような形で届いているか、を明確にするフェーズです。商品・サービスを購入した顧客が、どのような価値を感じているのかを明らかにします。
- 購入後
購入後のアフターサービスや再購買を考えるフェーズです。これによって、良い状態で顧客との関係を続けることが期待できます。
チャネル・販路の記載に際しては、以上5つのフェーズを意識しつつ、 より効率的・効果的に価値を届けることが期待できるチャネル・販路を考えましょう。
【チャネル・販路(Channels)】既存企業の具体例
■Uberの場合
Uberはライドシェア・配車サービスからスタートし、フードデリバリーや日用品配達などにも、チャネルを拡大しました。
- 配車サービス
- フードデリバリー(Uber Eats)
- 日用品配達
- 輸送事業(Uber freight)
■Amazonの場合
Amazonは世界最大級のECサイトで、近年では無人コンビニやドローン配達などを通じて、オフラインにもチャネルを増やしている印象です。
- Amazonのウェブサイト
- Amazon広告やアフィリエイト
- 無人コンビニ(Amazon Go)
- ドローン配送サービス(Amazon Prime Air)
顧客との関係(Customer Relationships)
顧客との関係では、顧客との良好な関係をキープあるいは発展させる施策を記載します。そのためには、新規顧客と既存顧客のどちらに重点を置くかをはじめ、ビジネスモデルも含め考慮しなければなりません。顧客との関係の具体例は、以下の通りです。
- カスタマーサポート
購入した商品・サービスのサポートや、アフターサービスを担います。高額あるいは手厚いサポートが期待される商品サービスの場合は、専任スタッフの設置なども検討されます。
- コミュニティ
Web上などにコミュニティを設置して、顧客との関係を構築します。また、コミュニティはユーザー同士にも接点が生まれることが大きな特徴です。上手に活用すれば、企業側の労力を軽減しつつ、商品・サービスのサポートや問題解決の場となることも期待できます。
顧客との関係の記載に際しては、顧客との良好な関係をキープ・発展させる「手段」に寄った内容を記載するとよいでしょう。単に「顧客との接点が生まれる場所」については、チャネル・販路に記載してください。
【CR(顧客との関係)】既存企業の具体例
■クックパッドの場合
クックパッドはユーザー投稿型のレシピサイトで、料理を作りたい人が楽しみながらノウハウをシェアできるコミュニティを生み出しています。
- 主婦や料理愛好家などのコミュニティ
- つくれぽ(ユーザーがレシピを見て料理を作った報告機能)により、 コミュニティが活性化
■ジレットの場合
ジレットは替刃式カミソリを提供する企業で、髭剃りが必要な成人男性との継続的な関係構築がミッションとなっています。
- 髭剃りが必要な成人男性
- 製品本体を低価格で提供し、消耗品(付属品)の替刃を継続的に購入してもらうビジネスモデルでユーザーを囲い込みを成功させました。
収益の流れ(Revenue Streams)
収益の流れでは、提案したい価値が届けられた結果、どのようにマネタイズされるのかを記載します。業態ごとに一般的なマネタイズ方法がありますが、あえて方法を見直すと、新しいマネタイズ方法が発見できるかもしれません。収益の流れの具体例は、以下の通りです。
- 使用料
宿泊費や通話料からマネタイズします。サービス業で一般的な収益の流れです。
- 特許料・著作権料
知的財産権などのライセンスからマネタイズします。テクノロジー業界においてはよく見られる収益の流れです。
- レンタル・リース・サブスクリプション
商品・サービスの継続的な提供による、ストックビジネスモデルでマネタイズします。新聞、CD 、DVD、ウォーターサーバーなど多くの業界で利用されており、近年増加するサブスクリプションサービスも該当します。
収益の流れの記載に際しては、顧客の支払い方法についても考えておくと良いでしょう。具体的には「オンライン決済に対応するのか」「代引きや口座引き落としは可能か」などです。
【RS(収益の流れ)】既存企業の具体例
■Spotifyの場合
Spotifyは音楽配信サービスを提供する企業で、無料で使える手軽さで全世界4億人超のユーザーを獲得。うち2億人に迫るユーザーが有料会員となっています。
- 無料で使ってもらい、ファンになってもらう
- ファンが有料サブスクリプションを利用
■TSUTAYAの場合
TSUTAYAは、全国展開していたCD・DVDのレンタル事業から2023年をもって撤退しますが、人々のライフスタイルの変化に合わせたサービスを常に展開し続けています。
- シェアラウンジの運営
- ブックストアの経営
- ビックデータを活用したマーケティングビジネス
主要リソース(Key Resources)
主要リソースでは、これまでに考えた価値を提供し、チャネル・販路を整備して、収益の流れを作り出すために「どのようなリソース(資源)が必要か」を記載します。主要リソースの具体例は、以下の通りです。
- 人材
ビジネスにおいて製作・製造・広告宣伝・運営などに関わる、スタッフやパートナーです。
- ファイナンス
現預金、銀行からの融資、助成金・補助金などです。
- 有形・無形資産
有形資産には施設・車両・不動産・システム・在庫など、無形資産には特許などの知的財産権・ブランド・ ノウハウなどが該当します。
主要リソースの記載に際しては「必要となるリソース量」も、考慮することが望ましいです。リソースが少ないのは問題ですが、多すぎる場合にはかえって、管理コストの増大を招く恐れもあります。
【KR(主要リソース)】既存企業の具体例
■TESLAの場合
TESLAはEVカーの開発で著名な企業で、技術力や経営戦略もさることながら、創業者のイーロン・マスク氏そのものが大きな影響力を持つ資源(リソース)となっています。
- 優れた技術とそれを支えるスタッフ
- 徹底した効率化などのユニークな経営戦略 ・ノウハウ
- イーロン・マスク氏の影響力
- 「TESLA」のブランド性
■YouTubeの場合
YouTubeは世界最大規模の動画アップロードサービスで、プラットフォームにコンテンツ資源が自動的に集まる仕組みを構築しています。
- YouTube上に集まる膨大なオリジナルコンテンツ
- コメントや評価を通じたユーザーネットワーク
- 親会社Googleの提供する広告機能
主要アクティビティ(Key Activities)
主要アクティビティでは、顧客に価値を届けるために「事業としてどのような活動が主に必要か」を記載します。主要アクティビティの具体例は、以下の通りです。
- 生産
顧客ニーズを満たす製品を生産します。具体的な生産方法・効率化の手段などについても、考えておくと良いでしょう。
- ソリューション(問題解決)
商品・サービスによってソリューション(問題解決)を提供される仕組みを、具体的な提供方法・販売活動も含めて考えます。
- プラットフォーム
顧客とのタッチポイントやサポートの場(プラットフォーム)の整備を考えます。
主要アクティビティの記載に際しては、上記の3つを軸に、ビジネス目標を達成するためのキーとなる活動を明確にします。どんなに必要でも、ビジネスモデルが円滑に機能をしなくなるような活動については、細心の注意を払って検証する必要があるでしょう。
【KA(主要アクティビティ)】既存企業の具体例
■Netfrixの場合
Netfrixは日本でも人気が高い動画ストリーミングサービスで、さらなる会員獲得のための「質の高いオリジナルコンテンツの製作」も重要なアクティビティとなっています。
- 質の高いオリジナル・映画ドラマなどのコンテンツ制作
- 既存の良作を揃える
■Appleの場合
Appleは自社プロダクトのみならず、プロダクトに合わせたコンテンツ提供も主要アクティビティの1つです。
- IPhone iPadなどのデジタル端末と周辺機器の生産
- パソコン製品(Mac)と周辺機器の生産
- Apple Music、iTunes、Apple TV App通じた音楽・映像などのコンテンツ提供
- App Storeを通じての各種アプリケーションの提供
主要パートナー(Key Partner)
主要パートナーでは、事業推進にどのようなパートナーが不可欠かを記載します。主要パートナーの具体例は、以下の通りです。
- 社外人材
自社リソースを補填するために、社外から調達した人材です。
- アウトソース
事業の一部、あるいは関連業務を外部パートナーに委託します。
主要パートナーの記載に際しては 、パートナーが不要に思えても、一度立ち止まって考えてみることが得策です。事業展開においてパートナーと協力することは、 質の向上やスピードアップのみならず、リスク回避につながるケースもあります。
【KP(主要パートナー)】既存企業の具体例
■ソニーの場合
ソニーはブルーレイディスク(Blu-ray Disc)開発のリーディング企業ですが、1社独占でなく、複数のパートナー企業と共同開発したことで、リスク回避と迅速な開発を実現しました。
- ブルーレイディスクの開発に関わったパートナー企業
- ブルーレイディスクの普及に関わる企業(Blu-ray Disc Association=BDA)
■WeChatの場合
WeChatは、中国発の決済サービスアプリです。近年IT分野に非常に注力する中国らしく、主要パートナーに政府や多国籍企業が含まれている点が大きな特徴となります。
- 中国政府
- テンセント(中国の多国籍IT企業)
コスト構造(Cost Structure)
コスト構造では、価値提供のための円滑なビジネスを実現する上で、どのようなコストがかかるのかを記載します。コスト構造の具体例は以下の通りです。
- イニシャルコスト・ランニングコスト
イニシャルコストは、事業のスタートに発生する機材導入などにかかるコスト、ランニングコストは地代家賃、人件費、アウトソース費用、さらに生産量などで変動する変動費などが該当します。
- 利益が拡大するコスト
生産拡大で仕入れ価格を下げることで利益が拡大したり、ビジネスの多角化で利益幅が増すケースもあります。
コスト構造の記載に際しては、かかるコストをできるだけ詳細にすることが重要です。その上でコスト削減の方法を考えたり、製品価格を決める判断材料となります。
【CS(コスト構造)】既存企業の具体例
■スターバックスの場合
スターバックスはグローバル展開する喫茶店チェーンで、人材育成に高いコストをかけ、自主性を重視した質の高い接客と低い離職率と実現しています。
- 人材育成にかかる費用・時間
- 店舗運営にかかる初期投資
- 店舗運営にかかる固定費・変動費
■タイムズカーシェアの場合
タイムズカーシェアは、24時間、予約後すぐに車が利用できるカーシェアリングサービスで、通常のレンタカーとは異なるコスト構造となっています。
- ガソリン代(利用者のガソリン代が無料のため)
- 人件費
- 車両管理維持費
- 駐車費用
- Webサービスの運営・保守費用
BMCを作成するときのポイント
ビジネスモデルキャンバスを記載する際は、留意しておきたいポイントがあります。 以下のポイントを踏まえて、より良いビジネスモデルキャンバスを作りましょう。
9つの項目はすべて埋める
ビジネスモデルキャンバスを作成する際は、9つの項目を全て埋めるようにしてください。
項目の中に抜けがあると、ビジネスモデルの全体像がつかみにくくなります。それによって、共有する情報が不完全なものとなったり、プレゼンテーションにおける説得力や信頼度が低下する可能性が考えられます。
特に初期段階ではあまり時間をかけずに、埋められる部分から記載し、少しずつ内容を充実させると良いでしょう。
ただし、複雑にしすぎると要点が分かりにくく、視覚的・直感的な理解も難しくなるため「全ての項目を詳細に書き込まなければならない」と考える必要はありません。
上記のように意識しても、どうしても埋められない項目がある場合は、リサーチ不足の可能性が考えられます。
手を動かす前のリサーチも大切
ビジネスモデルキャンバスに、どうしても埋められない項目が出る場合は、リサーチ不足の可能性が考えられます。
またビジネスモデルキャンパスの記載内容は、複雑すぎる必要はないものの、情報は正確であることが望ましいです。
ビジネスモデルキャンバスのスムーズな作成のため、そして、作成後の有用性を高めるためにも、事前にある程度リサーチしておくことも良い方法と言えます。具体的なリサーチ手段は、以下の通りです。
- 書籍やインターネットによる調査
- アンケート
- モニター調査
リサーチする内容としては、類似商品・サービス、競合他社、ビジネスプランや試作品に対する世間の声などが上げられます。ニーズの発掘・確認を常に意識してリサーチに臨めば、より有益なものとなるでしょう。
他のフレームワークと併用する
ビジネスモデルキャンバスは「事業の全体像を視覚的につかみやすい」という利点があります。一方、自社と競合の比較に特化しているわけではないため、別のフレームワークも併用することが望ましいでしょう。
この他にも「事前リサーチで既存のビジネスモデルを把握しておきたい」「1つの項目をより詳細に検討したい」といった場合にも、他のフレームワークが役立ちます。ビジネスモデルキャンバスと相性の良いフレームワークには、以下のようなものがあります。
- ピクト図解
3W1H(誰が、誰に、何を、いくらで)に着目し、シンボル記号で関係性を描くことで、ビジネスモデルをシンプルに「見える化」するフレームワークです。既存ビジネスモデルの事前リサーチにも適しています。
- SWOT分析
SWOT分析は「強み・弱み・機会・脅威」の4項目から企業分析ができるフレームワークです。自社と競合他社を、スピーディーに比較検討したい時に役立ちます。
- 3C分析
3C分析は「自社・市場や顧客・競合」の3項目から企業分析ができるフレームワークです。あらかじめこの3項目を明確にしておくことで、ビジネスモデルキャンバスのスムーズな作成が期待できます。
これらのフレームワークを使うことでさまざまな気づきが得られますが、あくまでも「ビジネスモデルキャンバスを完成させる」という、メインの目標を見失わないようにしましょう。基本的には、ビジネスモデルキャンバスの作成で課題が生じた際に、その解決が期待できるフレームワークを選んでください。
BMCの欠点や使えないといわれる理由
ビジネスモデルキャンバスに対しては、一部で「フレームワークに汎用性がない」「必ずしも革新的な内容になるわけではない 」との声もあり、使えないと評価する方もゼロではないようです。
ここでは、それぞれの声の詳細と、その対策方法をチェックしましょう。
フレームワークに汎用性がない
ビジネスモデルキャンバスは、記載項目が9つあります。そのためビジネスの全体像はつかみやすい反面、抽象的な「ビジネスモデルの構造」は少々見えづらい部分もあります。
加えて、ビジネスモデルキャンバスを使いこなすためには、ビジネスやマーケティングの基礎知識が必要です。業界の事情や専門用語がある程度理解できない初心者の方などは、スムーズな作成が難しく、これも「使えない」 と言われる要因の1つと考えられます。
以下のように記載項目が少なくよりシンプルなフレームワークの方が、ビジネスモデルの構造が見えやすく、初心者の方にも扱いやすいでしょう。
- ピクト図解
- SWOT分析
- 3C分析
- 4P分析
- PEST など
必ずしも革新的な内容になるわけではない
ビジネスモデルキャンバスは、新規ビジネスを考える際にも利用できる反面、その内容が必ずしも革新的な内容になるわけではありません。
革新的なビジネスモデルを考えてもコストの面で難しかったり、競合他社の市場シェアが多く新規参入が困難な場合も考えられます。
また作成者の知識やノウハウ、発想によっても内容は大きく変化します。
ビジネスモデルキャンバスで、革新的な内容を目指したい場合は、すでにご紹介した他のフレームワークを活用するとともに、スタートアップに適したフレームワーク「リーンキャンバス」や、トニー・ブザン氏考案のアイデア発想ツール「マインドマップ」などを利用すると良いでしょう。
リーンキャンバス(LC)との違い
リーンキャンバスは、ビジネスモデルキャンパスと同じく、ビジネスモデルが可視化できるフレームワークです。
提唱者はアッシュ・マウリャ氏で、スタートアップに焦点を絞った内容になっています。
記載項目はビジネスモデルキャンバスと共通する部分もありますが「顧客との関係」「主要アクティビティ」「主要リソース」の代わりに「(顧客の)課題」「ソリューション」「主要指標」「圧倒的優位性」の項目が設置されていることが特徴です。
なお、リーンキャンパスはビジネスモデルキャンバスとは異なり、はじめからすべての項目を埋めなくても問題ありません。
例えば「圧倒的優位性」では、製品以外の圧倒的な優位性を記載しますが、これは商品が顧客・市場にある程度受け入れられてから重要となるため、はじめから埋められなくても大丈夫です。
まとめ
ビジネスモデルキャンバスを作ると、9つの要素からビジネスモデルの全体像が可視化できるようになります。
ビジネスモデルキャンバスを作成することで、ビジネスのスタート前に課題や問題点が発見できたり、ブレークスルーの足がかりを発見することも期待できます。
情報共有や教育などのコミュニケーションツールとしても優れているため、実際のビジネスの場でも、ビジネスモデルキャンバスを積極的に活用してください。