TECHNOLOGY

熱可塑性樹脂とは?熱硬化性樹脂の違いやメリット・デメリットを解説

SHAREこの記事をシェアする

熱可塑性樹脂は、プラスチックの一種で現代の製品製造に不可欠な素材です。日用品から先端技術製品まで日々の暮らしを支えるさまざまな製品に利用されており、私たちの生活に密接に関わっています。プラスチックは熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の二種類に分類されますが、この記事では、熱可塑性樹脂の特徴やメリットとデメリットや熱硬化性樹脂との違いについて詳しく解説していきます。

熱可塑性樹脂とは

熱可塑性樹脂(ねつかそせいじゅし)とは、熱を加えると柔らかくなり、冷やすと固まる性質を持つプラスチックの一種です。可塑性とは、個体に力を加えて変形させたとき、その力を取り除いても元の形に戻らない性質のことを指します。

熱可塑性樹脂は加熱時には液体化し、冷却後は固体化します。温度変化によって液体と個体を行き来することが可能です。この性質により、熱可塑性樹脂は製品の成形や加工が容易でリサイクル性に優れています。そのため可塑性樹脂は日用品から産業用の部品まで幅広く利用されています。

熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の違い

熱可塑性樹脂とは異なり、再加熱しても液体化しないのが熱硬化性樹脂です。熱硬化性樹脂は、加熱すると硬化し、再加熱しても元の状態に戻りません。この性質を活用し、高温環境下で使用される部品や製品の素材として広く採用されています。

熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂を比較した場合の主な特徴を下表にまとめます。

熱可塑性樹脂 熱硬化性樹脂
耐熱性
加工性
リサイクル性 ×
耐薬品性

熱可塑性樹脂には柔軟性があり、加工しやすく大量生産に適しています。また、リサイクル可能という大きな利点があります。一方、熱硬化性樹脂は可塑性樹脂に比べて高温や化学物質に対して強い耐久性があり、構造的な強度も優れています。しかし、その堅牢さゆえに衝撃に弱い特性があります。また再利用が困難である点はデメリットといえます。

熱可塑性樹脂の特徴

ここでは、熱可塑性樹脂のメリット・デメリットについて解説します。

メリット

熱可塑性樹脂は、再加熱することで繰り返し加工できます。使用済み製品や製造過程で発生する端材を再び溶かし、新たな製品として再生すれば、資源の有効活用と廃棄物削減に大きく貢献し、環境負荷を軽減します。さらに熱可塑性樹脂は成形の自由度が高く、複雑な形状の製品でも効率的に生産することができるため、幅広い産業分野で活用されています。

デメリット

熱可塑性樹脂の主なデメリットは、耐熱性や、耐薬品性、機械的強度が低いことです。熱可塑性樹脂の分子構造が比較的弱い結合で形成されているため、高温環境下では軟化や変形が起こりやすく、特定の化学物質に接触すると劣化する可能性があります。また、金属材料と比較すると機械的強度が劣るため、高負荷がかかる用途には適していません。

熱可塑性樹脂の分類一覧表

熱可塑性樹脂は、その素材や構造によって汎用プラスチックとエンジニアプラスチックの2つのカテゴリーに分類されます。さらにエンジニアリングプラスチックは、汎用エンジニアリングプラスチックとスーパーエンジニアリングプラスチックに分けられます。

汎用プラスチック 汎用エンジニアリングプラスチック スーパーエンジニアリングプラスチック
結晶性 非晶性 結晶性 非晶性 結晶性 非晶性
     
  • PE
  • PBT
  • PP
  • PET
     
  • PVC
  • PS
  • ABS
  • AS
  • PMMA
     
  • PA
  • POM
  • PPE
  • PBT
  • PET
     
  • PC
     
  • PPS
  • PEEK
  • LCP
  • フッ素樹脂
     
  • PAR
  • PSU
  • PES
  • PAI
  • PEI

次に、熱可塑性樹脂の性能と用途に基づく分類方法について詳しく説明します。

【素材別】熱可塑性樹脂の種類

熱可塑性樹脂の3つの素材について、それぞれ代表的なプラスチック素材の特徴と用途を紹介します。

汎用プラスチック

汎用プラスチックは、熱可塑性樹脂の中で最も一般的な素材であり、プラスチック生産全体の大半を占めています。通常、100℃未満で変形するため、比較的安価で加工しやすく、大量生産に適しています。

【代表的な汎用プラスチック】

PE(ポリエチレン) 耐薬品性や防水性に優れており、日用品の保管に適している。食品包装フィルムや保管容器、洗剤ボトルなどに使用されている。高温に弱い接着性がない特徴がある。
PP(ポリプロピレン) 軽量で加工性に優れ、高熱や折り曲げに強い特性を持つ。さまざまな成形方法に適し、大量生産に向いている。3Dプリンターの材料としても活用されている。
PVC (ポリ塩化ビニル) 耐薬品性と電気絶縁性に優れた安価な素材。軟質PVCと硬質PVCの2種類があり、用途に応じて使い分けられている。加工性が高く、切削・接着・曲げ加工が可能。
PS (ポリスチレン) 着色しやすく、優れた電気絶縁性を持つ。透明で剛性が高い汎用タイプ(GPPS)と衝撃に強い高衝撃タイプ(HIPS)がある。
ABS (ABS樹脂) 強度に優れ表面の光沢性や着色性に優れているため、デザイン性が重要な工業製品に適している。耐候性が低く、太陽光に長時間さらされると劣化する。

汎用エンジニアリングプラスチック

汎用エンジニアリングプラスチック(エンプラ)は、汎用プラスチックより優れた機械的特性と耐熱性を持つ高性能樹脂です。強度が高く、工業部品に広く使用されています。主な用途は自動車部品、歯車、ペットボトル、CD/DVD、レンズなどです。

【代表的な汎用エンジニアリングプラスチック】

POM(ポリアセタール) 優れた耐摩耗性と機械的特性を持つことから金属の代替品として使われる。耐疲労性に優れ、繰り返し疲労に強いため材料の破損が発生しにくい。自動車の駆動部品やモーターギア、ドアシステムなどに広く使用されている。衣料品のファスナーやカバンの付属品など日用品にも採用されている。
PA6・PA66(ポリアミド6・ポリアミド66) 一般に「ナイロン」として知られる。高い靱性、耐摩耗性、染色性を持つ。加えて、自己潤滑性もあるため、潤滑油が使えない状況下でも優れた滑り性を発揮するのが特徴です。衣類などの日用品や、自動車や電子機器など幅広い製品に使用されている。
m-PPE(変性ポリフェニレンエーテル) 耐熱性や機械的特性、電気絶縁性が高いが、成形性が低く加工しづらい。自動車部品、電子機器のケースやコネクタなど、高温環境で電気絶縁性が求められる製品で活用されている。
PC(ポリカーボネート) 高い耐衝撃性と透明性を持つ。-40℃~120℃の幅広い温度範囲で使用可能で、紫外線にも強く屋外での使用に適している。寸法安定性にも優れているため、メガネレンズ、カメラレンズなど、透明性と強度が求められる製品に使われる。
PET(ポリエチレンテレフタレート) 軽量で透明性が高く、優れた耐熱・耐寒性を持つ。主にペットボトルや食品容器、医療機器に使用されている。また、ガラス繊維を混ぜて強化したポリエチレンテレフタレートは、軽くて丈夫な素材として自動車部品などに利用される。リサイクルが容易で環境にやさしく、焼却時も有害ガスが発生しない。

スーパーエンジニアリングプラスチック

スーパーエンジニアリングプラスチックは、汎用エンジニアリングプラスチックを超える高性能樹脂です。一般的に150℃以上の耐熱性があり、優れた機械的強度と耐薬品性を持ち、金属代替品として使用されます。自動車エンジン部品、電子レンジ、医療器具など、過酷な環境下で使用される製品に適しています。高性能ゆえにコストは高めですが、その特性から幅広い産業分野で重要な役割を果たしています。

【代表的なスーパーエンジニアリングプラスチック】

PEEK(ポリエーテルエーテルケトン) スーパーエンジニアリングプラスチックの中でもトップクラスの高性能樹脂。優れた耐熱性、機械的強度、耐薬品性、耐摩耗性を持ち、金属代替材として広く使用されている。自動車部品、ギア、ベアリングなど、高温・高負荷環境下での使用に適している。他のエンジニアリングプラスチックより成形しやすく、軽量化と性能向上を同時に実現できるが、高価な素材。
PPS(ポリフェニレンスルフィド) 優れた耐熱性、耐寒性、耐薬品性を持つ。金属より軽量で、高温環境に強いため、自動車のエンジンルーム部品や軽量化が求められる部品に広く使用されている。熱伝導率が低いことから、様々な家電製品の部品にも採用されている。
PSU(ポリサルホン) 透明性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性に優れた高機能樹脂。-100℃から170℃の広い温度範囲で特性を維持し、過熱水蒸気性や耐沸水性が高い。蒸気滅菌などの厳しい処理を行っても機械的強度や形状が安定するため、医療器具に幅広く使用されている。
PAI(ポリアミドイミド) 融点が約300℃の高性能プラスチック。260℃までの高耐熱性と優れた機械強度、耐摩耗性、摺動性を持ち、金属の代替材として用いられる。電気的特性の安定性と難燃性を備え、高温・腐食環境下での工業用コーティング材として活用されている。長期高温使用にも適しているが、高価な素材であるため特殊な性能が必要不可欠な用途で使用される。
PPA(芳香族ポリアミド) ポリアミドより高い耐熱性を持ち、高温環境下でも優れた強度と剛性を維持する。また、高い耐薬品性を有し、過酷な環境下でも安定して使用できるため、タイヤのコードや宇宙服にも用いられる。

【構造別】熱可塑性樹脂の種類と用途

熱可塑性樹脂の特性は結晶構造の有無によって異なります。結晶構造を持つ結晶性樹脂と結晶構造を持たない非結晶性樹脂の2種類に分類されます。

結晶性樹脂

結晶性樹脂は、溶融状態から冷却される過程で分子が規則正しく配列します。その配列を結晶構造と呼びます。結晶部分には薬品が入り込みにくく、耐薬品性が高い樹脂です。機械的強度が高く、比較的高い耐熱性がある一方で、分子構造が規則正しく密集しているため、冷却されて固化する際の収縮率が高い特徴があります。

     
  • PE(ポリエチレン)
  • PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)
  • PP(ポリプロピレン)
  • PET(ポリエチレンテレフタレート)

非晶性樹脂

非結晶性樹脂は、溶融状態から冷却される過程で分子が不規則に絡み合った状態で固化する樹脂です。透明性が高く、耐衝撃性に優れています。一方で、耐薬品性や機械的強度は結晶性樹脂ほど高くなく、耐熱性も比較的低めです。しかし、分子構造が不規則なため、冷却されて固化する際の収縮率は結晶性樹脂より低くなっています。

     
  • PVC(ポリ塩化ビニル)
  • PMMA(アクリル)
  • PC(ポリカーボネート)
  • ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)
  • m-PPE(変性ポリフェニレンエーテル)

熱可塑性樹脂を取り巻く課題と展望

熱可塑性樹脂は、その優れた柔軟性とリサイクル性により、現代の製造業に欠かせない素材となっています。熱を加えると柔らかくなる熱可塑性樹脂は非常に加工しやすく、成形時間も短いため低コストで製造が可能です。また再成形ができるため、リサイクルにも適しています。

技術革新と新たな応用分野の開拓により、熱可塑性樹脂の可能性はさらに広がると予想されます。ここでは、熱可塑性樹脂を取り巻く現在の課題と将来の展望について解説します。

熱可塑性樹脂とリサイクル

日本政府はプラスチック資源循環を国家戦略として推進し、2022年にプラスチック資源循環促進法を施行しました。この法律は製品の設計から廃棄物処理まで、プラスチックの全ライフサイクルにおける資源循環を促進します。廃棄物削減や再利用の取り組みが求められており、多くの企業が循環型社会実現に向け、環境に配慮した対策を進めています。

企業の環境に配慮した取り組みの一つとして、リサイクルしやすい熱可塑性樹脂が製品に採用されています。熱を加えると溶ける熱可塑性樹脂は、再加工できるため、廃棄物の削減に大きく貢献します。

新しい応用分野

熱可塑性樹脂は、さまざまな分野で応用されていいます。3Dプリンティング技術はその一例です。

3Dプリンティング技術と熱可塑性樹脂の融合は、自動車分野に革新をもたらしています。加熱すると柔らかくなり冷やすと固まるという特性がある熱可塑性樹脂は、3Dプリンティングのフィラメント材料として広く使用されており、複雑な形状の部品製造を可能にしています。

例えば、エンジン部品や内装パーツなどの個別化された部品のプロトタイプを迅速に製造できるため、設計プロセスの効率化に貢献しています。さらに高機能な熱可塑性樹脂を用いることで、より強固で複雑な形状の製品の製造も可能となっています。

まとめ

熱可塑性樹脂には、熱を加えると柔らかくなり、冷やすと固まる性質があるため、何度も再加工ができます。その性質を活かし、日用品から先端技術製品までさまざまな製品に使われています。廃棄物の削減やリサイクルが容易であるため、環境負荷の低減にも貢献します。熱可塑性樹脂とさまざまな技術分野との融合により、今後さらに幅広い領域での活用が見込まれています。

PEAKSMEDIA編集チーム

PEAKS MEDIAは製造業の変革やオープンイノベーションを後押しする取材記事やお役立ち情報を発信するウェブサイトです。

際立った技術、素材、人、企業など多様な「 PEAKS 」を各企画で紹介し、改革を進める企業内イノベーターを1歩後押しする情報をお届けします​。

SHAREこの記事をシェアする