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EUV露光技術とは?装置の取り扱いメーカーや開発状況について解説

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この記事では、最先端の半導体製造に不可欠なEUV露光技術の仕組みと重要性について詳しく解説します。技術の基本原理から、主要な装置メーカー、そして現在の開発状況まで幅広く取り上げ、さらに、EUV露光がもたらす半導体の微細化や性能向上についても触れ、この革新的技術が産業界にもたらす影響を探ります。
半導体業界に携わる方々はもちろん、テクノロジーの最前線に興味がある方にとっても、分かりやすく解説致します。

半導体の微細化に欠かせない「EUV露光技術」とは

EUV露光技術は、極端紫外線(EUV/Extreme Ultraviolet)と呼ばれる波長13.5nmの光を使用する最先端の半導体製造技術です。この技術は、従来のArFエキシマレーザーでは困難だった7nm以下の微細な回路パターンの形成を可能にし、最先端のロジック半導体やDRAMの量産に不可欠なツールとなっています。

EUV露光が注目される理由は、スマートフォンなどの電子機器の性能向上や省電力化に直結する半導体の微細化を可能にするからです。

現在、EUV露光装置の供給はオランダのASML社がほぼ独占しており、台湾のTSMC、韓国のSamsungなどの主要半導体メーカーが導入しています。EUV露光は、半導体産業の技術革新を牽引する最重要技術として、今後もその重要性が増していくでしょう。

EUV露光装置の仕組み

EUV露光装置は、半導体製造における最先端技術の集大成です。この装置は、極端紫外線(EUV)を用いて、ナノメートルレベルの微細な回路パターンをシリコンウェハ上に描画します。

従来の露光技術とは大きく異なる特殊な光源や照明光学系を採用し、高度な精密制御技術を駆使しています。ここでは、EUV露光装置の基本的な仕組みと主要な構成要素、そして露光プロセスの流れについて詳しく解説します。

そもそも露光とは

そもそも露光とは、半導体製造プロセスにおいて、回路パターンをシリコンウェハ上に転写する重要な工程です。従来の露光技術では、光源からの紫外線をフォトマスクに通し、レンズを介してウェハ上のフォトレジストに照射します。これにより、マスクのパターンがウェハ上に縮小投影されます。

光源の波長が短いほど、より微細なパターンを形成できるため、半導体の高集積化に伴い、g線(436nm)、i線(365nm)、KrF(248nm)、ArF(193nm)と、より短波長の光源が開発されてきました。

ArF液浸露光技術では、レンズとウェハの間に液体を介することで解像度を向上させ、7nmの半導体製造まで対応可能となりました。

極端紫外線(EUV)とは

極端紫外線(EUV)は、波長13.5nmの非常に短い波長の光です。この短波長により、7nm以下の微細な回路パターンを効率的に形成することが可能になります。EUV光は物質に吸収されやすく、空気中にも吸収されるため、EUV露光装置内部は高真空に保たれています。

EUV光を生成するには、まずスズ(Sn)を溶かした微小な液滴を出力し、その液滴に炭酸ガスレーザーを照射することでプラズマ発光を得ます。そして、その光を集光器で集めて送り出すことによってEUV光を生成します。ASMLのEUV露光装置では、出力25kWの炭酸ガスレーザーを使用し、毎秒約5万個のスズ液滴にレーザーを2回ずつ照射してEUV光を発生させます。

露光装置の構造

EUV露光装置は大きく分けて、「光源」「光学系」「ウェハステージ」から構成されます。

     
  • 光源
    回路を刻むためのレーザーを発生させます。波長が短いほど微細なパターンの形成が可能となります。これまではArF(193nm)が主流でしたが、EUV露光装置の登場により、今後はEUV(13.5nm)が主流になるでしょう。
  • 光学系
    回路が刻まれたマスクを通った光を、レンズによって4分の1から5分の1に縮小した上で、ウェハに照射します。マスクのパターンの寸法は、実際のパターンより大きくても問題ないというメリットがあります。
  • ウェハステージ
    ウェハを動かしてレーザーの照射位置を精密に調整します。露光は何度も繰り返すため、直前の露光で形成されたパターンとの位置合わせを行います。また、ウェハ全面に回路を刻むためにも、ウェハを動かす必要があります。

これらの要素が真空チャンバー内に配置され、高度に制御されています。従来の透過型レンズの代わりに、全反射型の光学系を採用していることが特徴です。

露光プロセス

EUV露光プロセスでは、生成されたEUV光を集光ミラーでウェハ上のフォトレジストに照射し、パターンを転写します。この際、フォトレジストがEUV光に反応して化学変化を起こし、必要なパターンが形成されます。これにより、従来の露光技術では達成できなかった微細なパターンがウェハ上に形成され、高性能な半導体デバイスの製造が可能となります。

従来の露光技術と比較すると、EUV露光は波長が短いため、より高精度なパターン形成が可能ですが、その反面、装置のコストや技術的な複雑さが増しています。しかし、その結果として得られる半導体の性能向上は、半導体業界において非常に大きな価値を持っています。

EUV露光のメリットと課題

EUV露光技術は、半導体製造における画期的な進歩をもたらしました。この技術は、従来の光リソグラフィの限界を超え、より微細な回路パターンの形成を可能にします。高解像度化、生産性向上、新材料への対応など、多くのメリットがある一方で、コストがかかることや、技術的な課題も存在します。

ここでは、EUV露光のメリットと課題について詳しく解説し、この革新的技術が半導体産業に与える影響を考察します。

メリット

EUV露光技術の主なメリットは以下の通りです。

     
  • 高解像度化
  • 生産性向上
  • 新材料への対応

各メリットについて、詳しく解説します。

高解像度化

EUV露光技術は、波長13.5nmの極端紫外線(EUV)を使用することで、従来のArF液浸露光(波長193nm)よりも高い解像度を実現します。この高解像度化により、7nm以下の微細な回路パターンを効率的に形成することが可能になりました。

高解像度化のメリットは、より小さなトランジスタを高密度に集積できることです。これにより、同じチップサイズでより多くの機能を実装したり、チップサイズを小さくしながら同等の性能を維持したりできます。結果として、半導体デバイスの性能向上、消費電力の削減、さらには製造コストの低減にもつながります。

生産性向上

EUV露光技術の導入により、半導体製造の生産性が大幅に向上します。従来のArF液浸露光では、微細なパターンを形成するために多重露光が必要でしたが、EUV露光ではシングル露光で済むケースが多くなります。これにより、製造プロセスが簡素化され、生産効率が向上します。

具体的には、EUV露光の導入によってスループットが上昇し、シリコンダイ1枚当たりの製造コストが下がります。また、最も微細な薄膜層の加工に必要な時間が大幅に短縮されます。これらにより、半導体メーカーは生産能力を拡大し、市場需要に迅速に対応することが可能になります。

新材料への対応

EUV露光技術の導入に伴い、新しい材料の開発が必要となります。特に、EUV光に対応した高感度のフォトレジストなどが重要になっています。これらの新材料は、EUV露光の性能を最大限に引き出すために不可欠なものです。

新材料の開発は、半導体関連産業全体の技術革新を促進し、市場成長に寄与します。例えば、EUV用フォトレジストの開発は、化学メーカーにとって新たなビジネスチャンスとなっています。また、EUVマスクブランクスや検査装置など、関連する装置や材料の市場も拡大しています。

このように、EUV露光技術は半導体製造における直接的な改善だけでなく、周辺産業の発展にも貢献しているのです。

デメリット

EUV露光の主なデメリットは以下の通りです。

     
  • 装置の複雑さ
  • 高コスト
  • 材料の制限

各デメリットについて、詳しく解説します。

装置の複雑さ

EUV露光装置は非常に複雑な構造を持ち、その開発と製造には高度な技術が必要です。装置内部は真空に保たれており、EUV光源、複数のミラーレンズ、フォトマスク、ウェハなどが精密に配置されています。特に、EUV光を効率的に生成し制御するのは簡単なことではありません。

先にも述べたとおり、EUV光を生成するには、出力25kWの炭酸ガスレーザーをスズの微小な液滴に照射してプラズマ光を発生させ、そこから生じる光を集光し、複数の反射ミラーを使って回路パターンを転写します。これらを高精度で制御し、安定した露光を実現する装置の構造が複雑であることは、容易に想像がつくでしょう。

高コスト

EUV露光装置は非常に高価で、その価格は200億〜300億円程度と言われています。この価格は、装置の複雑さと高度な技術を反映しています。EUV光源、高精度なミラーレンズ、真空システムなど、各コンポーネントが高額であることが要因と言えるでしょう。

さらに、装置の維持管理にも多大なコストがかかります。例えば、EUV光を反射するミラーは高価で、定期的な交換や清掃が必要です。また、真空システムの維持や高出力レーザーの運用にも継続的なコストがかかります。このような高額な初期投資と運用コストは、半導体製造における大きな経済的負担となっています。

材料の制限

EUV露光技術では、使用できる材料に制限があります。特に、レジスト材料の開発が大きな課題となっています。EUV光は13.5nmと非常に短波長であるため、従来の光リソグラフィで使用されていたレジストでは十分な感度と解像度が得られません。

EUV用のレジスト材料には、高感度、高解像度、低ラフネス(表面の粗さ)が同時に要求されます。これらの要求を満たすレジスト材料の開発は技術的に困難で、多くの研究開発が進められています。また、EUV光は物質との相互作用が強いため、レジストの化学増幅メカニズムも従来とは異なります。

このため、EUV露光に適した新しいレジスト材料の設計と開発が必要となり、これが技術的な制約と開発コストの増加につながっています。

日本におけるEUV露光装置の市場

日本の半導体業界は、かつて露光装置市場で圧倒的なシェアを誇っていましたが、EUV露光装置の分野では苦戦を強いられています。技術的難度の高さと莫大な開発コストが障壁となり、主要な日本企業では実用化に至らず、開発の凍結や事業からの撤退を余儀なくされました。

特に、ニコンやキヤノンといった従来の露光装置市場のリーダー企業も、EUV露光装置の開発から撤退しています。この状況により、現在のEUV露光装置市場は、オランダのASMLが独占する形となっています。

日本企業は、EUV露光に関連する部品や材料の供給では依然として重要な役割を果たしているものの、装置本体の開発・製造では遅れを取っている状況が続いています。

EUV露光装置を取り扱っている主要メーカー

EUV露光装置は、半導体製造における最先端技術として注目を集めていますが、現在、この高度な装置を開発・製造している企業は限られています。

ここでは、EUV露光装置を取り扱う代表的な企業について、その特徴や市場での位置づけを紹介します。

ASML

ASMLは、オランダに本社を置く世界最大の半導体製造装置メーカーです。1984年に設立され、半導体露光装置の分野で圧倒的な技術力を持っています。特にEUV露光装置の開発・製造では世界をリードしており、現在のシェアは90%以上で市場を独占しています。ASMLの主力事業は、半導体製造に不可欠なリソグラフィシステムの提供であり、世界16カ国に60以上の拠点を展開しています。同社の技術は半導体産業の微細化の進展に大きく貢献しています。

Samsung

韓国を代表する総合電機メーカーであるSamsungは、スマートフォンや半導体、家電製品など幅広い分野で事業を展開しています。特に半導体事業では世界トップクラスの技術力を誇り、最先端の製造プロセスを積極的に導入しています。

EUV露光装置の導入により、Samsungは7nm以下の微細化プロセスの量産体制を確立し、より高性能で省電力な半導体チップの製造を実現しました。これにより、スマートフォンやデータセンター向けの高性能プロセッサの競争力が大幅に向上し、半導体市場におけるSamsungの地位を強化することに成功しています。

TSMC

TSMC(台湾積体電路製造)は、台湾新竹市に本社を置く世界最大規模の半導体ファウンドリー企業です。主に他社設計の半導体チップの受託製造を行っており、Apple、NVIDIA、AMDなど大手テクノロジー企業を顧客に持つことで知られています。

TSMCはEUV露光装置の早期導入により、業界をリードする5nm、3nmプロセスの拡大に成功しました。この技術革新により、チップの高集積化と省電力化を実現し、モバイルデバイスやAI、5G通信などの先端分野向けの高性能半導体製造で圧倒的な優位性を確立しています。

キヤノン

キヤノンは東京に本社を置く日本の企業で、カメラや事務機器、医療機器など幅広い分野で事業を展開しています。半導体製造装置分野では、露光装置やインプリント装置などの開発・製造を手がけており、グローバル市場で重要な位置を占めています。

キヤノンでは、半導体露光装置の開発に取り組んでおり、独自の技術を活かした装置の実用化を目指しています。特に、ナノインプリントリソグラフィ技術を応用した装置の開発に注力しており、従来のEUV技術と比較してコスト効率の向上などが期待されています。

ニコン

ニコンは東京に本社を置く光学機器メーカーで、カメラや双眼鏡、顕微鏡、半導体製造装置など、幅広い光学製品を手がけています。半導体製造装置分野では、かつては露光装置の開発・製造で世界をリードしていました。

ニコンはEUV露光装置の開発において、独自の技術を活かしたアプローチを取っています。特に、EUV関連コンポーネントにおける生産能力の増強や高NAへの対応などに注力しています。半導体の高精度化、高密度化、微細化といったニーズが高まっている中、ニコンの光学部品やコンポーネントへの引き合いも高まっており、市場の拡大と共に事業も成長しつつあります。

現行の限界を突破する「次世代EUV」の開発について

現在、半導体産業では現行のEUV露光技術の限界を超える「次世代EUV」の開発が進んでいます。次世代EUVは、露光装置のレンズ性能を高め、より多くの光を集める技術です。

具体的には、レンズの開口数(NA)を現行の0.33から0.55に高めることで、2nm以下の微細化を可能にします。この技術は「High NA」と呼ばれ、レンズの解像度を1.7倍に向上させ、半導体回路の集積度を2.9倍に高めることができます。

ASMLは、2025~2026年頃にHigh NA EUV露光装置の量産機投入を予定しており、さらに2030年代には開口数を0.75まで高める計画を示唆しています。次世代EUVの開発により、半導体の微細化技術は今後も進化を続けるでしょう。

まとめ

EUV露光技術は、半導体の微細化に不可欠な最先端技術として急速に発展しています。現在、オランダのASMLが市場を独占していますが、日本企業もEUV露光に関連する重要な部品や材料を供給しています。

次世代EUVの開発により、半導体のさらなる微細化が可能となり、半導体産業のますますの発展が期待されます。今後も技術革新と国際競争が続く中、日本企業が果たす役割が注目されています。

PEAKSMEDIA編集チーム

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