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両利きの経営の要約まとめ|深化・探索とは?成功・失敗事例などわかりやすく解説!

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両利きの経営とは、チャールズ・A・オライリーが提唱した言葉で、同名の書籍の日本語訳も出版されています。すでに成功している事業を深堀りする「深化」とまったく新しいことへチャレンジする「探索」の2軸で構成されています。変化の激しい時代においては、特に経営のヒントとなる考え方です。

事業の安定を図りながらも新しい挑戦を行う概念に興味のある方は、ぜひ最後までお読みください。

両利きの経営の要約

両利きの経営とは、現在行っている事業を安定させながら、新しいイノベーションも同時にバランスよく行う組織学習の概念です。より簡潔に言うと、「守りと攻めをどちらも行うこと」です。チャールズ・A・オライリーとマイケル・L・タッシュマンによる著書『両利きの経営―「二兎を追う」戦略が未来を切り開く』は世界中でベストセラーとなりました。

両利きの経営を理解する上では、以下の2つのキーワードが重要となってきます。

【両利きの経営を知るためのキーワード】

  • 深化
  • 探索

それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

深化の意味

両利きの経営の要素の一つである「(知の)深化」とは、企業がすでに行っている業務を継続的に発展させ、深化させることです。経営を安定させるために、既存の事業を深堀りするのです。

革新的な新しいものを作るのではなく、既存の製品の品質や性能を向上させ、業務の効率化を図ります。たとえば、人気商品のちょっとした改良やモデルチェンジは「深化」にあたるでしょう。

深化は、既存事業の成功を根拠として取り組める確実な方法であり、多くの企業で積極的に取り入れられています。成功している企業ほど深化を重視する傾向がありますが、長い目で見れば深化だけに注力すればよいというわけではありません。

探索の意味

「(知の)探索」とは、イノベーションのため、まったく新しい商品の開発や新しい領域への展開をすることです。生き残りに重要な戦略ですが、時間やコストの問題、取り組んでも成果が出る保証がないことなどから、容易に手を出せるものではありません。

探索の例としては、富士フィルムの化粧品事業があります。それまでで培ってきた写真フィルムの技術を「深化」させ、新たな分野への応用を「探索」しました。同社はフィルム事業が衰退する中、新たな事業で生き残りを図ったのです。

探索においては、携わるメンバーがそれまでに築いてきた資産や組織としての能力を発揮できる状態にしておくことが大切です。

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両利きの経営のメリット

続いては、両利きの経営のメリットをご紹介します。

【両利き経営のメリット】

  • スタートアップを有利に進められる
  • ビジネスサイクルをスピードアップできる

スタートアップは組織がコンパクトで、意思決定プロセスもシンプルです。これを活かし、前述の富士フィルムが行ったように既存のビジネスを深化させて探索するサイクルを素早く繰り返せば、スピードを味方につけビジネスは有利に進んでいくでしょう。

環境の変化が激しい現代は、経営にもスピード感が求められます。小回りの利くスタートアップはこの点において有利と言えるのです。

両利きの経営の問題点や課題

次に、両利きの問題点や課題について解説します。

【両利き経営の問題点や課題】

  • バランスを取るのが難しい

「深化」と「探索」は本来、正反対の方向を向く対立した考え方です。一般的に、企業は短期間に成果が出やすい深化に偏りがちだと言われています。探索には知識と経験が必要な上に、時間もかかります。

しかし、企業が生き残るためにはどちらも疎かにしてはいけないと理解していても、いつ芽が出るかわからない事業に既存事業の利益を投資し続けるのは抵抗感のあるものです。

「探索」を成果が出るまで続ける前に、「深化」と「探索」を両立させること自体が課題なのです。

両利きの経営を実践するためのコツ

両利きの経営実践には、いくつかのコツがあります。

【両利き経営を実践するためのコツ】

  • 戦略的な意図を明確にすること
  • 経営陣の支援
  • 組織構造が適切であること
  • 考え方や目指すべき目標が共有されていること
  • 自由度の高いリーダーシップ

それぞれ詳しく見ていきましょう。

戦略的な意図を明確にすること

まず大切なのは、深化と探索の戦略的な意図を明確にすることです。

探索は、短期的に見ると既存の利益を食い尽くすだけに見えることも珍しくなく、経営層にその必要性を理解してもらうのは簡単なことではありません。探索に投資する資金や人材を深化に充てれば、短期的に見て利益を上げられる。その事実の上で、上層部を説得するには、根拠を挙げて説明する必要があります。

そもそも短期的に見ると非効率な両利きの経営を、いかに周囲に納得してもらって進められるかは、論理的な説明ができるかどうかにかかっています。

経営陣の支援

資金や支援などのリソースを確保するため、また探索を無駄なものと認定し排除しようとする反対勢力からチームを守るために、経営陣の支援が欠かせません。探索には多額の費用がかかることが多く、安定した資金提供を得られなければ計画が頓挫してしまいます。

すでに成功したサービスや商品にのみ注力して探索の機会を失わないようには、経営陣の理解と協力を得ることが大切です。当然、支援は資金の提供だけに留まらず、計画の理解や目的の共有がしっかりできていることが重要です。

組織構造が適切であること

両利きの経営においては、探索チームが独立して行動できる環境と同時に、組織本体の資金などのリソースにアクセスして活用できる環境を実現することが求められます。古い組織の考え方や仕組みを押し付けず、十分な資金は与えることは、既存の組織にとって容易なことではありません。しかし、新しい挑戦に向かうチームを抑圧したり妨害したりしていては、イノベーションを実現するのは難しいのが現実です。

探索チームが十分な成果を出し成熟を果たすまでは、決して既存のシステムに統合しようと考えてはいけません。

考えや目標が共有されていること

探索チーム内だけではなく、深化など社内の他チームとも価値観と目標を共有することも、両利きの経営実践において重要なポイントです。

ビジョンの共有ができていれば、探索の成功に欠かせない長期的なマインドセットを獲得しやすくなります。さらに、役割の違うチーム同士が対立するのではなく、力を合わせて同じ目標に向かって進んでいけます。特に深化と探索は正反対の性質を持つため対立しやすいですが、それをいかに運命共同体として同じ方向を向けるかがカギでしょう。

自由度の高いリーダーシップ 

社員のリーダーシップも両利きの経営成功に欠かせない重要なポイントです。ただし、そのリーダーが自由に動ける環境が必要です。過度に管理された状況では、社員が育たず力を発揮できません。

経営者は、社員を過度に管理しようとするのではなく、それぞれが自由に動ける環境を用意して、両利きの経営を成功に導きましょう。

両利き経営の事例

成功のポイントがわかったところで、次は実際に成功した事例と、残念ながら失敗してしまった事例を見ていきましょう。

実際に取り組む際の参考にしてください。

両利き経営の成功例

Amazonは1994年の創業当時はネット書店でした。今のように幅広い商品を扱うようになったのは、2000年台に入ってからです。

もともとの事業であるオンラインショップを「深化」して、書籍以外の商品や関連サービスを「探索」しました。簡単な流れは以下の通りです。

【両利き経営の変遷】

  • ネット書籍からオンラインスーパーへ
  • オンラインスーパーから小売業者の販売プラットフォームへ
  • Kindleや動画配信など新規事業を開拓

Amazonが優れていたのは、先が見えない中で深化と探求を行うことを許容する風土があったことです。前述の通り、特に探索には抵抗を示す人・企業が多い中で、Amazonはその積極性を失いませんでした。変化を恐れず、柔軟に時代に合わせた変化に対応していったのです。

両利き経営の失敗例 

次に、両利きの経営に失敗した例を見ていきましょう。

失敗した企業失敗内容
スミスコロナポラロイドタイプライターは今後も手堅いと信じていたため衰退
高いソフトウェア技術を持っていたにも関わらず、製造会社を貫き失敗
大手航空会社LCCの台頭に伴い参入したが、組織文化を理解できず衰退

スミナコロナポラロイドは、まさに深化に固執した結果、倒産してしまった典型的な事例です。一方、大手航空会社は、LCCに参入したものの、その組織文化の理解に失敗してしまいました。

これらの例は、両利きの経営失敗の典型的な例です。以下に失敗の原因も挙げますので、対策を立てることに役立ててください。

【両利きの経営が失敗する原因】

  • 深化ばかりに力を入れてしまった
  • 深化に慣れており探索を受け入れられなかった
  • 組織が深化と探索を深く理解していなかった
  • 深化と探索の適性をわかっていなかった

既存事業を追求する深化と新しい挑戦の探索、この両立は想像以上に難しく、失敗してしまう企業が少なくありません。

さらに詳しく知りたい方におすすめの本・書籍

【書籍名】

両利きの経営 『二兎を追う』戦略が未来を切り拓く

(チャールズ・A・オライリー/マイケル・L・タッシュマン著)

世界最先端のイノベーション理論である「両利きの経営」についての初の体系的解説書の日本語版。世界の経営学をリードするオライリー教授とタッシュマン教授による実践的な経営書であり、この日本語版には研究・実務の第一人者である入山章栄氏による理論の背景、冨山和彦氏による実務の最前線からの日本企業への示唆という「W解説」が収録されています。

この書籍を読むことで、以下の点に対する理解が深まります。

  • イノベーションという難題に対する探索と深化
  • イノベーションストリームと経営のバランスを実現するために必要なこと
  • イノベーションのジレンマを解決するための「両利きの経営」の実践
  • 両利きの経営を実践するために必要な要件
  • 両利きの経営の要となるリーダー・幹部チーム像
  • 変革と戦略的刷新をリードするために必要なこと
  • 両利きの経営についての豊富な事例研究と陥りがちな罠

イノベーションストリームの真っただ中、成熟企業にとっての永遠の課題は中核事業を維持しながら同時にイノベーションを起こし、新たな成長を追求していくことです。この書籍は、その課題についての解決策である「両利きの経営」について基礎的な考え方を解説し、実践するために必要な要件やリーダーの条件などに付いてわかりやすく示唆しています。

また、成功の罠にはまってしまった企業・リーダーと、変化に適応して成長できた企業・リーダーを対比させた豊富な事例研究も詳しく紹介。イノベーションで既存事業を強化しつつ従来とは異なるケイパビリティが求められる新規事業を開拓し、変化に適応する両利きの経営のコンセプトや実践のポイントを解説しています。多くの成熟企業にとって陥りがちな罠が理解でき、イノベーションの実現に何が必要なのかが理解できるでしょう。

理論の背景と実務の最前線から見た両利きの経営についてのW解説により、日本企業において両利きの経営をどう実践していくかというヒントも得られる書籍です。

まとめ

両利きの経営について、概要や成功のポイント、実際の事例などを紹介してきました。重要な点をおさらいすると、「深化と探索」の両立・バランスが肝です。“両利き”の名の通り、どちらか一方に偏ってはいけないのです。

これからの時代に生き残り・成長を続けるためには、既存の成長を維持しながらも、常に新しい商機を狙って進化していく必要があります。皆さまのご参考になれば幸いです。

PEAKSMEDIA編集チーム

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