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ビジョナリー・カンパニーとは|国内外の具体例と100年企業の秘密

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長期にわたって成長・繁栄を続け、存在感や社会的影響を持ち続ける企業。このような企業は「ビジョナリー・カンパニー」と呼ばれます。

ビジョナリー・カンパニーの特徴を知れば、経営者の方はもちろん、これから会社を立ち上げるか、転職・就職で良い企業を探すビジネスパーソンにも利益をもたらすことでしょう。

今回は、すべての社会人が知っておきたい「ビジョナリー・カンパニー」について、国内外の実際の企業や、書籍の紹介も交えて、詳しく解説します。

ビジョナリー・カンパニーとは

ビジョナリー・カンパニーとは、その名の通り「ビジョンを持つ/未来志向の/先見的な企業」を意味します。他にもビジョナリー・カンパニーは、以下のような特徴を有します。

  • 業界での卓越したポジション
  • 見識ある経営者や企業幹部からの尊敬 
  • 社会に残している大きな足跡 
  • CEO(最高経営責任者)の世代交代
  • 通常のライフサイクルを超えた、はじめのメイン商品・サービスの繁栄
  • 設立後、半世紀(50年)以上が経過

このような特徴はすべて、書籍「ビジョナリー・カンパニー」シリーズ(ジム・コリンズ著)における調査・分析で、明らかになったものです。

ビジョナリー・カンパニーの基本理念

ビジョナリー・カンパニーは通常の企業と比べて際立った特徴を持っています。中には、企業経営において一般的に正しい/常識と信じられている「神話」を覆すようなものもあります。以下、ビジョナリー・カンパニーの基本理念を通じて、その特徴をさらに詳しく見ていきましょう。 

時を告げるのではなく、時計をつくる

私たちは偉大な企業の多くに「カリスマ的経営者」が存在するとイメージしがちです。

しかし「ビジョナリー・カンパニーに、カリスマ的経営者は必要ない」という事実が、調査で明らかになっています。

カリスマ的経営者のアイデアに基づいた商品は素晴らしい一方、 必ず終わりが来ます。このように、カリスマ的経営者への依存は、ビジョナリー・カンパニーを目指す上でむしろマイナス要素にもなるのです。

ビジョナリー・カンパニーのCEOは「時を告げる者=ビジョンやアイデアを告げるカリスマ的経営者」ではなく「時計をつくる者=その経営者がいなくなった後に永続する組織を作り出す者」です。

利益の神話を吹き飛ばす

利益の追求は、営利組織である企業にとって最大の目標で、それが当たり前であると信じられています。

しかし、ビジョナリー・カンパニーにとって利益追求は多くの目標の1つにすぎず、それを最大の目標/最終目標としていないケースも少なくありません。

それにも関わらずビジョナリー・カンパニーは、ビジョナリー・カンパニーではない企業と比較しても利益を上げているのです。 

基本理念を維持し、進歩を促す

ビジョナリー・カンパニーにとって、基本理念は非常に大切なもので、信仰に近い情熱で維持されています。

その上で、ビジョナリー・カンパニーは、進歩に対して非常に強い意欲を持っています。

これは大切な基本理念を曲げないための変化・適応であり、両者は常に相互作用し合っていると言えるでしょう。

社運を賭けた大胆な目標(BHAG)

BHAGとは「Big Hairy Audacious Goals = 社運を賭けた大胆な目標」の頭文字を取った言葉です。

規模の大きな有名企業には、保守的なイメージもつきまといますが、ビジョナリー・カンパニーは基本理念に従って、大胆な目標を掲げ、リスクを取って成長を続けます。

カルトのような文化

ビジョナリー・カンパニーには、基本理念を体現するような独特な風土・文化が存在します。

つまり風土・文化に合う人にとってはベストな環境となる一方、合わない人にとっては、はっきりとそれが感じられることでしょう。基本理念に合ったメンバーで構成されるからこそ、企業が一丸となってリスクを取ることができ、大胆な目標にもチャレンジできるのです。 

大量のものを試して、うまくいったものを残す

成功を収めている大企業には、失敗のないように綿密な戦略を立ててから事業をスタートするイメージがあります。

しかし、ビジョナリー・カンパニーの事業には「大量のものを試して、うまくいったものを残す」といった、実験的で柔軟な要素が多いのです。

頭で考えすぎず、実地や経験から学ぶことも、ビジョナリー・カンパニーを目指す上で重要となります。

生え抜きの経営陣

一般的な企業では、変革を目指して、社外から経営人材を招き入れるケースも少なくありません。

しかし、ビジョナリー・カンパニーでは社外からCEOを招き入れることは稀で、経営に社外人材を招き入れるケースも少ないことが分かっています。

企業の内部事情を理解していない外部人材よりも、内部事情を理解し、基本理念を大切にする「生え抜きの経営陣」のほうが、良い結果をもたらすケースが多いのです。

決して満足しない

大企業に対して、熾烈な競争に勝ち抜いてきたというイメージをお持ちの方も多いことでしょう。

これは事実ですが、ビジョナリー・カンパニーの最大の競争相手は、他社ではなく「自社」です。 

つまり「昨日の自社よりもうまいやり方」を模索し続けるからこそ、現状に満足しない姿勢と、進歩が続くのです。

書籍『ビジョナリー・カンパニー』

『ビジョナリー・カンパニー』は世界で1,000万部を超えるビジネス書です。シリーズとして刊行されており、以下6冊が邦訳されています。

  • ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則
  • ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則
  • ビジョナリー・カンパニー3 衰退の5段階
  • ビジョナリー・カンパニー4 自分の意思で偉大になる
  • ビジョナリー・カンパニー 弾み車の法則
  • ビジョナリー・カンパニーZERO

いずれも企業の「成功(飛躍)・失敗」「繁栄・衰退」を主題に、データや実例に基づいてさまざまな角度から分析している点が大きな特徴です。

特に『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』の原題でもある「GOOD TO GREAT」は、シリーズにおける名言としても知られています。

「GOOD TO GREAT」は「良好(good)は偉大(great)の敵である」を意味しており、著者ジム・コリンズ氏は「ビジョナリー・カンパニーは最初から偉大だった」「多くの企業がそこそこ良好な企業になるため、偉大な企業がほとんどなく、そこが問題である」との旨を指摘しています。

また、2021年に発売され、大きな話題となった『ビジョナリー・カンパニーZERO』は、ジム・コリンズ氏の1992年の著作(Beyond Entrepreneurship)の改訂版です。

こちらには「偉大な企業を目指すスタートアップ・中小企業が必要な事柄」が記載され、NETFLIX共同創業者・CEOリード・ヘイスティングス氏なども絶賛の声を寄せています。

ビジョナリー・カンパニーシリーズは、要約を聞くだけでも多くの気づきが得られる一方、実際の書籍を読むことで大きなインパクトを受けた経営者・ビジネスマンが多いこともまた事実です。

ビジョナリー・カンパニーシリーズは、一度は実際の書籍を手にとって、深く読み込む価値のある本と言えるでしょう。

ビジョナリー・カンパニーの代表例

ここでは、書籍『ビジョナリー・カンパニー』の中で実際に紹介されているビジョナリー・カンパニーの例を、国内外に分けてご紹介します。

海外のビジョナリー・カンパニー

書籍『ビジョナリー・カンパニー』シリーズの中で紹介された、海外のビジョナリー・カンパニーには以下のようなものがあります。 

  • 3M
  • アメリカン・エキスプレス
  • ボーイング
  • シティコープ
  • フォード
  • GE
  • ヒューレット・パッカード
  • IBM
  • ジョンソン・エンド・ジョンソン
  • マリオット
  • メルク
  • モトローラ
  • ノードストローム
  • プロクター&ギャンブル(P&G)
  • フィリップ・モリス
  • ウォルマート
  • ウォルト・ディズニー

まだ設立から50年は経過していませんが、グローバルな影響力を持ったIT企業群のGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)なども今後、ビジョナリー・カンパニーの仲間入りをするかもしれません。

日本のビジョナリー・カンパニー

書籍『ビジョナリー・カンパニー』シリーズの中で紹介された、日本のビジョナリー・カンパニーには「ソニー」があります。 

ソニーは「技術者の喜びや働きやすさ」「日本の再建や文化向上」「国民生活へ技術を即時応用」といった基本理念を持ち、 日本初のテープレコーダー、ウォークマン、CD、プレイステーション、ブルーレイディスクなどの開発に携わるなど、数々のイノベーションを巻き起こした企業です。

設立当時より見られる「何でも作る(試す)姿勢」「高い理想や目標」はまさに、ビジョナリー・カンパニーにふさわしい特徴を備えます。

他にも日本には、ホンダやトヨタなどの自動車企業や、多くの老舗企業が存在するため、ビジョナリー・カンパニーの特徴を備える企業は少なくないと考えられます。

100年続くビジョナリー・カンパニーと衰退する企業の違い

ここまで、ビジョナリー・カンパニーに多くの際立った特徴があることを見てきました。

『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』では、それらに加えて、ビジョナリー・カンパニーの持つ「ずば抜けた回復力」を指摘しています。 

すでにご紹介した多くのビジョナリー・カンパニーも、決して順風満帆であったわけではなく、経営難や、倒産寸前にまで陥ったケースもあります。

実際に、同様の苦難を前に、倒産に至った企業もあることでしょう。

ビジョナリー・カンパニーと、衰退して終わりを迎えた他の企業との違いは「あきらめなかった」ということに尽きます。

もしも、予想外の出来事やエラー(失敗)を前に諦めてしまえば、企業としての成長、そして永続はあり得ません。

『ビジョナリー・カンパニーZERO』には「幸運は諦めない者に訪れる」という章があり、諦めないことの重要性が説かれています。

同章ではトライ&エラーを重ねて成長すること、巡ってきたチャンスを最大限に活かすことの重要性を説かれるほか「予想外の出来事への対処法は、偉大なリーダーであるかどうかを判断する重要な要素である」との旨が記載されています。

そして、ビジョナリー・カンパニーの魅力的な基本理念が、予想外の出来事やエラー(失敗)において社員たちの心の支えとなります。

同時に基本理念が、経営者や社員のモチベーションを高め「あきらめない気持ち=ずば抜けた回復力」を生む源泉となることで、半世紀(50年)以上に渡る企業の存続が実現したのです。

まとめ

『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』には「ビジョナリー・カンパニーの重要な点は”組織”であることだ」という旨が書かれています。 

ビジョナリー・カンパニーは、カリスマ的経営者といった個人ではなく、基本理念を大切に永続する”組織”を重視します。

経営者に求められるのは、派手な個性やカリスマ性ではなく「時計(経営者がいなくなった後に永続する組織)を作ること」です。

実際に『ビジョナリー・カンパニー2』では、良い企業を偉大な企業に変えるリーダーシップの型として「(職業人としての意思は強いものの)個人としては謙虚」であると紹介しています。

そんなビジョナリー・カンパニーは、目先の利益よりも重要な「基本理念」を持ち、守り続けていることが大きな特徴となります。

そして基本理念が生み出す独特な組織風土こそが、チャレンジを恐れず、絶え間ない進歩を続ける土壌となるのです。

1人でも多くのビジネスパーソンあるいは若者が、ビジョナリー・カンパニーへの理解を深めることは、私たちの豊かさに寄与する新たなビジョナリー・カンパニーを生み・育てる契機となることでしょう。

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PEAKSMEDIA編集チーム

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