MOBILITY

SDVとは?ソフトウェア定義型自動車が注目される背景や課題を解説

SHAREこの記事をシェアする

SDV(Software Defined Vehicle)とは、ソフトウェアを基盤に進化する自動車を指し、自動運転やコネクテッド技術と共に注目されています。従来のハードウェア中心の車両と異なり、SDVはOTAアップデートやパーソナライズ機能など、ソフトウェアによる柔軟な機能追加が可能です。

本記事では、SDVが注目される背景やメリット、開発に伴う技術的な課題やビジネス上の課題、さらに最新事例やモビリティ社会の未来像も紹介します。

SDV(Software Defined Vehicle)とは何か

経済産業省によると、SDV(Software Defined Vehicles/ソフトウェア定義型自動車)は「クラウドとの通信により、自動車の機能を継続的にアップデートすることで、運転機能の高度化など従来車にない新たな価値が実現可能な次世代の自動車」と定義されています。

この新しい自動車の概念は、ハードウェアの性能に依存してきた従来の自動車産業に革新的な変化をもたらそうとしています。

SDVの特徴は、クラウドを活用した双方向通信による継続的な機能更新が可能な点にあります。これにより、購入後も進化し続ける自動車という、これまでにない価値提供が実現されています。

SDVとはソフトウェアで進化する自動車のこと

SDVの核となる技術は、インターネットを介したソフトウェアの更新機能です。クラウドシステムと接続することで、自動車の主要な機能をリモートでアップデートすることが可能となります。この仕組みにより、従来は固定的だった自動車の性能や機能を、市場投入後も継続的に向上させることができます。

特筆すべきは、購入時点が最高価値ではなく、使用期間中も価値が向上し続ける可能性を秘めている点です。クラウドを活用した継続的な機能アップデートにより、最新の技術や機能を既存の車両にも導入できる新しい自動車の形と言えます。

SDVと従来の自動車の違い|ハードウェア中心からソフトウェア中心へ

従来の自動車では、エンジンや操作性など、搭載されているハードウェアの性能が自動車の価値を決定づけていました。一度製造された自動車の基本性能は固定的で、新しい機能を追加するには物理的な改造が必要でした。

一方、SDVではソフトウェアが自動車の中心的な性能となります。ソフトウェアのアップデートによって、走行性能や安全性能を向上させることが可能です。このアプローチの変化により、開発・製造プロセスも大きく変わり、ハードウェアとソフトウェアを分離した開発が進められています。

SDVの具体的な機能例|OTAアップデート、パーソナライズ機能など

OTA(Over The Air)アップデートは、SDVの代表的な機能です。テスラでは、このOTA技術を活用して運転支援機能を有料オプションとして提供し、プレミアムコネクティビティのサブスクリプションサービスも展開しています。

ユーザーは、自分の好みに合わせて車両をカスタマイズすることができます。例えば、スマートフォンのように必要なアプリケーションをインストールしたり、インフォテインメント機能を追加したりすることが可能です。このパーソナライズ機能により、一台の車両でも所有者ごとに異なる使用体験を提供することができます。

なぜSDVが注目されているのか

自動車産業は大きな転換期を迎えており、特にCASEと呼ばれる新しい技術潮流への対応が求められています。SDVはこれらの変革を実現する基盤技術として、自動車メーカーから大きな注目を集めています。

CASEトレンドとSDVの関係性

CASEは自動車産業における重要な技術革新の方向性を示す概念であり、SDVはこれらの実現を支える基盤となっています。

要素 意味
Connected(コネクテッド) 車両がネットワークで常時接続され、情報をやり取りする
Autonomous(自動化) 自動運転技術により、人の運転操作を支援・代替する
Smart / Shared & Services(スマート/シェアリング&サービス) カーシェアリングなど、所有から利用へのシフト
Electric(電動化) 電気自動車への転換

SDVは、特に車載システムのアーキテクチャを従来の自律分散型から中央集権型へと転換させることで、CASEの実現に貢献しています。高性能なビークルコンピューターを中心に据えることで、自動運転やコネクテッド機能の高度化を可能にし、さらにOTAによる継続的な機能更新により、サービスの拡張性も確保しています。

コネクテッドカー、自動運転への貢献

SDVの導入により、自動運転技術は飛躍的な進化を遂げています。例えば、カメラやセンサーによる「認知」、ソフトウェアによる「判断」、制御システムによる「操作」という自動運転の基本機能を、ソフトウェアアップデートによって継続的に改善することが可能になりました。

コネクテッドカーの領域では、SDVはさらなる機能拡張の基盤となっています。カーナビゲーションシステムやETC車載器、緊急通報システム、盗難追跡システムなどの機能を、ソフトウェアアップデートによって進化させることができます。

これにより、車両間通信(V2V)や車両とインフラストラクチャー間の通信(V2I)といった新しい技術の導入も容易になり、より安全で効率的な交通システムの構築に貢献しています。

SDVのメリット|ユーザー、メーカー、社会への影響

SDVの導入は、自動車に関わるさまざまなステークホルダーに新たな価値をもたらします。以下の表は、それぞれの視点から見たSDVの主要なメリットをまとめました。

対象 主なメリット
ユーザー
     
  • ソフトウェア更新による継続的な安全性・快適性向上
  • 好みに応じたカスタマイズ
  • 長期利用による経済的メリット
メーカー
     
  • 継続的な収益モデルの確立
  • 保守点検の効率化
  • 製品差別化の新機会創出
社会
     
  • 交通事故の削減
  • 渋滞解消と環境負荷低減
  • 新規雇用創出とイノベーション促進

ユーザーのメリット|安全性向上、新機能追加

購入時の自動車が最終形態ではなく、継続的なソフトウェア更新により安全性等が向上していくのがSDVの大きな特徴です。例えば、運転支援機能の精度向上や新しい安全機能の追加が、ソフトウェアアップデートを通じて実現します。

快適性の面では、スマートフォンのように自分好みのアプリケーションを入れることで、車両を「自分仕様」にカスタマイズできます。ビデオストリーミングやミュージックストリーミングといったエンターテインメント機能も、必要に応じて追加することが可能です。

メーカーのメリット|継続的な収益創出、開発コスト削減

自動車メーカーにとって、SDVは従来の「売り切り型ビジネス」からの転換点となります。ソフトウェアの更新や新機能の追加を有料で提供することで、継続的な収益を得ることが可能になります。すでにテスラは、運転支援機能のオプション販売やプレミアムコネクティビティのサブスクリプションモデルを展開しています。

将来的には、車両の保守点検においてリモート診断や修理が可能になり、メンテナンスの効率化や経費削減にもつながることが期待されています。さらに、ソフトウェアによる製品差別化という新たな競争軸が生まれることで、自動車産業全体の革新が促進されるでしょう。

社会的なメリット|交通事故削減、新規雇用の創出

SDVの普及により、高度な自動運転技術の実現が加速し、交通事故の大幅な削減が期待できます。また、車両間通信や道路インフラとの連携により、渋滞の解消や交通量の最適化が可能となり、環境負荷の低減にも貢献します。

新しい技術分野ということで、IT人材やソフトウェアエンジニアの採用が進み、雇用の促進にもつながります。さらに、SDVを基盤とした新たなモビリティサービスの創出により、社会全体のイノベーションも促進される可能性があります。

SDV開発における技術的な課題

SDV開発では、従来の自動車開発とは異なる技術的課題に直面しています。これらの課題に対応するため、開発プロセスの革新からセキュリティ対策、ハードウェアとソフトウェアの連携まで、包括的な取り組みが必要とされています。

課題領域 主な検討事項
開発プロセス
     
  • 開発工数の爆発的増加
  • 車種×バージョン管理の複雑性
  • 品質保証プロセスの確立
セキュリティ
     
  • サイバー攻撃対策
  • 安全性検証の方法論
  • OTAアップデートの信頼性確保
技術連携
     
  • ハードウェアとソフトウェアの分離
  • APIの標準化
  • ビークルOSの開発

ソフトウェア開発の複雑化と工数増大への対策

現状のSDV開発において、最も深刻な課題は開発工数の爆発的な増加です。1つの車種に対して1つのバージョンのソフトウェアを開発するだけでも多大な工数が必要とされる中、複数の車種に対して継続的なバージョンアップを行うことは、従来の開発手法では難しいのが現状です。

この課題に対応するため、仮想環境でのシミュレーションを活用した開発やCI(継続的インテグレーション)、CT(継続的テスティング)の導入が進められています。さらに、DevOpsの考え方を取り入れ、ソフトウェアのリリースと改善を迅速に行うサイクルの確立を目指しています。

OTAアップデートにおけるセキュリティリスクと対策

SDVは常時インターネットに接続されているため、サイバー攻撃を受けるリスクがあります。特に、走行や運転、安全性能に関わる中枢システムがハッキングされた場合、重大な事故につながる可能性があります。

安全性に関わる部分については、慎重な検証が不可欠です。そのため、安全性に影響しない領域から段階的に「Software Defined」化を進めるとともに、安全性に関わる部分を限定的に切り分けるアプローチが重要になります。

ハードウェアとソフトウェアの連携

従来の日本の自動車産業が得意としてきた「すり合わせ型」の開発から、ソフトウェアとハードウェアを分離した「組み合わせ型」への移行が求められています。この転換は、開発効率を高める一方で、品質管理の新たな課題をもたらしています。

この課題に対応するには、車両のハードウェア資源を抽象化し、一つのソフトウェアで複数の種類の車両を制御できるようにする「ビークルOS」の開発が鍵となります。さらに、APIの標準化を進めることで、開発の効率化とソフトウェアの互換性確保もポイントになります。

SDVが抱えるビジネス上の課題

SDVへの移行は、自動車産業のビジネスモデルを根本から変革する可能性を秘めています。従来の売り切り型から継続的な収益を生み出すモデルへの転換には、収益構造の再設計や顧客価値の再定義など、さまざまな課題が存在します。

収益モデルの確立|アプリ販売、サブスクリプションなど

テスラは、従来の自動車メーカーとは異なる革新的な収益モデルを確立しています。例えば、自動運転機能「FSD(Full Self driving)」を月額99ドル(提供当初は199ドル)のサブスクリプション方式で提供し、さらにスタンダードコネクティビティと有料のプレミアムコネクティビティを組み合わせた段階的なサービスを展開しています。

このビジネスモデルの成功により、2022年にはテスラの四半期純利益がトヨタを上回る事例も生まれました。しかし、テスラのEV販売の不振もあり、2024年4月時点の公表ではその差は縮小しています。この変動は、ソフトウェア主導の収益モデルの確立がまだ発展途上であることを示唆しています。

顧客ニーズへの対応|魅力的なアプリ開発と提供

SDVのビジネス展開において、自動運転機能は最も有望な分野の一つとして注目されています。加えて、HMI(インパネや操作性のカスタマイズ)系アプリや、IVI(ナビやビデオ&オーディオエンターテインメント)系アプリなど、ユーザー体験を向上させる機能の開発も進められています。

将来的な機能拡張に対応するには、ハードウェアに余裕を持たせた設計が必要となります。これは必然的に車両価格の上昇につながりますが、従来の「必要最小限の機能をぎりぎりのコストで実現する」というアプローチから、「将来の価値向上を見据えた投資」というアプローチへの転換となります。

車両のハードウェア性能に余裕を持たせることで価格は上昇しますが、継続的な機能追加や性能向上により、価値を長期的に提供できる可能性があります。この新しい価値提案をユーザーに理解してもらい、適切な対価を得られる仕組みづくりが、SDVビジネスの成否を分ける重要な要素となっています。

自動車メーカーによるSDVの事例

SDVの開発競争は世界的に加速しており、各自動車メーカーは独自の戦略を展開しています。国内メーカーは従来の高品質なものづくりの強みを活かしながらSDVへの移行を進め、海外メーカーは先進的なソフトウェア技術を基に新たな価値創造に挑戦しています。

国内自動車メーカーのSDV事例

日本の自動車メーカーは、高品質なすり合わせ型製造という強みを持ちながら、SDVへの転換を進めています。特に、トヨタ自動車や日産自動車、本田技研工業は独自の取り組みに加え、協業による開発も推進しています。

トヨタ自動車|車の知能化技術の開発

トヨタ自動車は、Arene OSと呼ばれる最先端のソフトウェアプラットフォームを開発し、車の知能化を加速させています。

このプラットフォームは、開発ツール群、ソフトウェア開発キット、ユーザーインタラクション機能の3つの柱で構成されています。次世代音声認識技術の導入や、BEVでのマニュアル変速機能の実現など、革新的な機能開発にも取り組んでいます。

日産自動車×本田技研工業×三菱自動車工業|戦略的パートナーシップの検討

2024年3月に日産自動車と本田技研工業が締結した「自動車の知能化・電動化に向けた戦略的パートナーシップの検討開始」において、同年8月から新たに三菱自動車工業が加わり、3社による協議がスタートしています。

当初は日産自動車と本田技研工業の両者で、カーボンニュートラルや交通事故ゼロ社会の実現を目的として、EVやSDVに関する協議を進めていましたが、三菱自動車工業が参画することで新たな知見が加わり、本取り組みが加速度的に進んでいくことが期待されます。

ソニーグループ×本田技研工業|EV販売の新会社設立

ソニーグループと本田技研工業は、2022年9月に、高付加価値EVの販売とモビリティ向けサービスの提供を行う新会社「ソニー・ホンダモビリティ株式会社」を設立しました。
2025年には、SDVとして異業種の知見を積極的に取り入れて開発されたEV「AFEELA(アフィーラ)」を販売予定。自動運転や先進運転支援システムなどを実装し、従来の自動車の概念を超える新しい価値提供を目指しています。

海外自動車メーカーのSDV事例

海外メーカーは、ソフトウェア技術を中心に据えた革新的なアプローチでSDV開発を推進しています。特に、テスラやフォルクスワーゲングループは、独自の戦略で市場をリードしています。

テスラ|Full Self-Drivingによる完全自動運転の実現

テスラのFull Self-Driving(FSD)システムは、カメラとソフトウェアを組み合わせた高度な自動運転技術です。

このシステムは、車両の周囲360度を監視し、交通状況を認識して適切な運転判断を行います。特徴的なのは、ニューラルネットワークを活用した迅速な処理能力と、OTAによる継続的な機能アップデートです。

VWグループ|子会社「CARIAD」によるSDV開発の推進

フォルクスワーゲングループは、SDV開発を専門とする子会社CARIADを設立し、グループ全体のソフトウェア戦略を推進しています。

CARIADは、車両OS、クラウドプラットフォーム、統合アーキテクチャの開発に注力し、グループ全ブランドに共通のソフトウェアプラットフォームを提供しています。

BYD|ファーウェイとの提携によるSDV技術革新の加速

BYDは、高級ブランド「方程豹(ファンチェンバオ)」において、通信機器大手のファーウェイと提携してSDV開発を強化しています。2024年11月に発売したSUV「豹8」では、ファーウェイが開発した最先端の高度運転支援システムが搭載されました。

この2社の提携により、自動運転技術のイノベーションと発展の加速が期待されています。

SDVの今後の展望|モビリティ社会の未来像

自動車産業は、これまでのハードウェア中心の製造業から、ソフトウェアが中核となる新たな段階へと進化しています。従来の自動車性能を決定づけていたエンジンやシャーシといったハードウェアに代わり、ソフトウェアの性能が自動車の価値を左右する時代が到来しつつあります。

この変革に対応するため、自動車メーカーとIT企業の連携は今後さらに加速すると予想されます。自動車メーカーが従来から持つハードウェア製造の知見と、IT企業が持つソフトウェア開発の技術を組み合わせることで、より革新的な製品とサービスが生まれる可能性があります。

SDVの普及により実現する未来のモビリティ社会では、より安全で効率的な移動が可能になると期待されています。高度な自動運転技術により交通事故が大幅に減少し、車両間通信や道路インフラとの連携により渋滞が緩和されるでしょう。また、個々のユーザーの好みや使用目的に合わせてカスタマイズ可能な車両は、移動体験をより快適で豊かなものにしてくれるはずです。

さらに、SDVはモビリティサービスの革新も促進します。カーシェアリングやライドシェアなどのサービスがより使いやすくなり、移動手段としての自動車の位置づけも、「所有」から「利用」へとシフトしていく可能性があります。このような変化は、持続可能なモビリティ社会の実現にも貢献すると考えられています。

まとめ

SDVは、自動車産業の未来を切り拓く革新的な技術です。自動車のハードウェアとソフトウェアを分離し、OTAによる継続的な機能更新を可能にすることで、購入後も価値が向上し続ける新しいモビリティを実現します。技術的な課題やビジネスモデルの確立には依然として課題が残されていますが、CASEの進展やモビリティ社会の実現に向けて、SDVの役割は今後さらに重要性を増すでしょう。自動車メーカーとIT企業の連携を強化し、技術革新を進めることで、より安全で快適なモビリティ社会の実現が期待できます。

PEAKSMEDIA編集チーム

PEAKS MEDIAは製造業の変革やオープンイノベーションを後押しする取材記事やお役立ち情報を発信するウェブサイトです。

際立った技術、素材、人、企業など多様な「 PEAKS 」を各企画で紹介し、改革を進める企業内イノベーターを1歩後押しする情報をお届けします​。

SHAREこの記事をシェアする