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核融合発電とは?仕組みやメリット・デメリット・原子力発電との違いを解説

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核融合発電は、次世代のクリーンエネルギーとして注目される発電方式です。水素を原料とし、二酸化炭素を排出しないうえ、放射性廃棄物も少ないため、地球環境に優しいエネルギー源として期待されています。

本記事では、核融合発電の基本的な仕組みや原子力発電との違い、さらに実用化に向けたメリット・デメリットについて詳しく解説します。また、核融合研究の現状や将来展望とともに、実現に向けた課題と未来への期待もお伝えします。

核融合発電の基礎知識

近年、持続可能なエネルギー源として注目を集めている核融合発電。この技術は、太陽のエネルギー生成過程を地上で再現することで、クリーンで安全な電力を生み出すことを目指しています。

核融合発電の実現に向けた研究開発は世界中で進められており、エネルギー問題の解決策として期待が高まっています。

核融合とは何か

核融合は、軽い原子核同士がぶつかり合い、より重い原子核に変化する現象です。この反応は太陽の中心部で絶え間なく起きており、太陽が40億年以上も燃え続けているエネルギー源となっています。

核融合反応では、重水素と三重水素などの軽い原子核が融合してヘリウムが生成されます。このとき、アインシュタインの相対性理論で示される質量とエネルギーの等価性(E=mc²)により、反応前後の質量差がエネルギーとして放出されます。実際に太陽では、この核融合反応により毎秒400万トンものエネルギーが作られています。

核融合発電の仕組み

核融合発電は、重水素と三重水素を加熱して1億度以上という超高温にし、核融合反応を起こしてエネルギーを取り出します。燃料となる重水素は海水から採取でき、三重水素はリチウムから作り出すことが可能です。

慣性閉じ込め方式と磁場閉じ込め方式

現在、核融合反応を制御する方式として主に2つの方式が研究されています。

方式 特徴 主な研究機関
慣性閉じ込め方式 レーザーによる加熱方式 アメリカLLNL
磁場閉じ込め方式(トカマク型) 磁場によるプラズマ制御方式 ITER計画

慣性閉じ込め方式は、アメリカのローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)が中心となって研究を進めている技術です。この方式では、燃料にレーザー光を照射して加熱し、慣性の力で粒子を閉じ込めることで核融合反応を引き起こします。2022年には、照射したレーザー光の約1.5倍のエネルギー抽出に成功しています。

一方、磁場閉じ込め方式は、国際熱核融合実験炉(ITER)計画で採用されている方式です。強力な磁場を使用してプラズマを制御し、核融合反応を維持します。実験炉はフランスで建設が進められており、当初は2025年の運転開始を目指していましたが、コロナ禍の影響もあり2034年運転開始に変更になりました。なお、磁場閉じ込め型にはトカマク型をはじめ、複数の方式があります。

プラズマの生成と制御

核融合発電では、燃料を加熱してプラズマ状態を作り出します。このプラズマ状態では、水素原子核の陽子と電子が自由に飛び回っており、この段階ではプラスの原子核同士は反発して合体しません。ここからさらに加熱して温度が1億度以上になると核融合が起こります。

超高温のプラズマは容器に直接触れると溶かしてしまうため、磁場やレーザーを使って浮かせた状態を維持する必要があります。現在の研究開発では、このプラズマの安定的な制御と、長時間の維持を実現するための技術開発が進められています。

核融合発電のメリット・デメリット

核融合発電は、地球環境への負荷が少なく安全性が高い一方で、実用化に向けては技術的・経済的な課題も存在します。

以下では、この新しいエネルギー技術の持つ可能性と課題について解説します。

メリット|クリーンで安全なエネルギー源

次世代のエネルギー源として期待される核融合発電は、環境負荷の低さと安全性の高さが最大の特徴です。化石燃料や原子力発電が抱えるさまざまな課題を解決できる可能性を秘めています。

燃料となる水素はほぼ無尽蔵

核融合発電の燃料となる重水素は海水から採取可能で、事実上、無尽蔵に存在します。海水1立方メートルには33グラムの重水素が含まれており、三重水素の原料となるリチウムも約0.2グラム存在します。燃料効率も極めて高く、わずか1グラムの燃料から石油8トン分に相当するエネルギーを取り出すことができます。

二酸化炭素排出ゼロで地球環境に優しい

核融合発電では、発電過程で二酸化炭素を排出しません。核融合反応自体がクリーンなエネルギーを生み出す仕組みのため、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた貢献が期待されています。

放射性廃棄物の発生量が少ない

原子力発電で課題となっている高レベル放射性廃棄物の問題も、核融合発電では大幅に改善されます。発生する放射能は速やかに減衰するため、管理期間は原子力発電の10万年に対して約100年程度で済むとされています。

原子力発電のようなメルトダウンリスクがない

核融合反応は、原子力発電で懸念される連鎖反応による暴走のリスクがありません。加熱し過ぎたり燃料を入れ過ぎたりすると、自然と反応が停止するため、本質的な安全性を備えています。

デメリット|技術的課題とコスト

実用化に向けては、いくつかの重要な課題を克服する必要があります。特に技術面でのハードルの高さと、巨額の開発コストが大きな課題となっています。

実用化に向けた技術的ハードルが高い

1億度という超高温のプラズマを安定的に制御することは極めて困難です。また、核融合反応で発生する大量の高速中性子による材料の劣化も深刻な課題で、長時間の運転に耐えられる新材料の開発が必要とされています。

長期的な研究開発が必要

核融合発電の実用化には、プラズマ制御技術や材料開発など、多岐にわたる技術革新が必要です。ITER計画では、核融合実験炉の2034年の運転開始を経て、2039年頃の本格運転を目指して、継続的な研究開発が進められています。

燃料のトリチウムの供給に懸念

核融合発電の燃料として必要不可欠なトリチウムは、自然界にほとんど存在せず、重水炉の副産物として少量しか生産できません。供給源が一部地域に限定され、今後は重水炉の稼働数減少により供給量の低下が予想されるため、安定供給に課題があります。

核融合発電と原子力発電の違い

「核」という言葉から、核融合発電と原子力発電は似たような発電方法と勘違いされることもありますが、その原理や特徴は大きく異なります。両者の主な違いを、原理、燃料、安全性の観点から説明します。

まず、基本的な原理が正反対です。核融合発電は水素などの軽い原子核同士を融合させてエネルギーを取り出すのに対し、原子力発電はウランなどの重い原子核を分裂させることでエネルギーを得ます。一方は原子を「くっつける」技術で、もう一方は「分ける」技術と言ってもよいかもしれません。

また、燃料の面でも大きな違いがあります。核融合発電は海水から取り出せる水素を燃料とするため、資源の枯渇を心配する必要がありません。一方、原子力発電で使用されるウランは有限な資源であり、このまま消費し続ければ数十年で枯渇すると言われています。また、エネルギー効率を比較すると、核融合発電の燃料1グラムで得られるエネルギーは石油8トン分に相当し、ウラン1グラムで石油1.8トン分である原子力発電を大きく上回ります。

そして安全性の面ですが、原子力発電よりも核融合発電に優位性があります。原子力発電では核分裂反応が連鎖的に起こるため、制御に失敗すると反応を停止できない可能性がありますが、核融合発電は燃料供給を止めれば即座に反応が停止します。また、核融合発電から生じる放射性廃棄物は、原子力発電と比べて格段に少なく、放射能も速やかに減衰するため、環境負荷も小さくなっています。

核融合発電の現状と将来展望

核融合発電の実用化に向けた研究開発は、世界規模で着実に進展しています。国際協力による大型プロジェクトや各国独自の取り組み、さらには民間企業の参入により、2050年頃の実用化を目指して開発が加速しています。

世界の核融合研究の動向

核融合発電の研究開発は、国際協調から国際競争の時代へと移行しています。核融合発電における世界各国の動向を解説します。

ITER計画

ITER計画では、日本、EU、アメリカ、ロシア、中国、韓国、インドが参加する、トカマク型装置を用いて核融合エネルギーの実現を目指す国際協力プロジェクトです。フランスに建設中の核融合実験炉では、超高温プラズマを長時間安定して閉じ込める技術の確立を目指し、核融合出力500MWのパワーを生成することを目標としています。先にも触れたとおり、実験炉は2025年に運転開始予定でしたが、コロナ禍の影響などにより2034年に変更になっています。

アメリカ

アメリカでは、これまでさまざまな方式での核融合研究が進められてきました。1980年代には、プリンストン大学プラズマ物理研究所がトカマク型装置の研究を行い、プラズマ挙動の基礎研究が大きく進展しました。また先述のとおり、ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)では、慣性閉じ込め方式を用いて2022年に「投入エネルギーを超える出力」に成功し、大きな話題を呼びました。

中国

中国では、トカマク型実験装置を中心に核融合研究が進められてきました。世界で初めて超伝導技術を用いたトカマク装置「EAST」は、2021年に7,000万度の高温プラズマを1,056秒間維持することに成功しています。この成果は、核融合発電の実現可能性を示す大きな一歩でもあります。中国はまた、ITER計画にも積極的に参加し、部品製造や技術供与で貢献しています。

日本における核融合研究の取り組み

日本は国際的な核融合研究において重要な役割を担っており、量子科学技術研究開発機構(QST)を中心に、ITER計画への参画や国内研究施設での技術開発が進められています。

例えばQSTでは、茨城県那珂市において、世界最大級の超伝導トカマク型実験装置「JT-60SA」の建設を進め、2020年3月に組み立てが完了しました。この装置の建設は、EUの核融合研究機関とともに取り組む「幅広いアプローチ(Broader Approach=BA)活動」の一環としてITER計画を補完するものです。この「JT-60SA」によって、核融合発電の実現を目指す次世代技術の研究が加速しています。

また、岐阜県にある大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所では、世界最大級の超伝導プラズマ閉じ込め実験装置「大型ヘリカル装置(LHD)」を用いて、高温プラズマの閉じ込めや制御に関する研究を行い、核融合発電の実現を目指しています。

核融合スタートアップへの期待

近年、核融合発電の実現を目指すスタートアップ企業が注目を集めています。基礎研究の進展により商用化が視野に入ってきたことで、さまざまな企業が核融合発電分野に参入し、開発が活発化しています。

世界では、核融合発電関連のスタートアップが大規模な資金調達を実現し、その規模の大きさから注目が集まっています。アメリカでは、コモンウェルス・フュージョン・システムズが累計3,100億円以上の資金を集めたほか、多くのスタートアップが国際的な支援を受けており、核融合技術の競争が加速しています。

日本国内でも、EX-Fusion、Helical Fusion、京都フュージョニアリングなどのスタートアップ企業が誕生し、それぞれ独自の技術開発を進めています。これらの企業には、ESG投資の観点からも注目が集まっています。

核融合発電の実現可能性と未来への期待

核融合発電が実現すれば、クリーンで安全な新エネルギー源として、深刻化するエネルギー問題の解決に貢献するでしょう。また、発電過程で二酸化炭素を排出しない特性は、2050年カーボンニュートラル達成への重要な一手となる可能性を秘めています。

まとめ

核融合発電は、地球環境問題とエネルギー安全保障の両面で大きな可能性を秘めています。太陽のエネルギー生成メカニズムを応用したこの技術は、燃料が豊富で環境負荷が少なく、安全性も高いという特徴を持ちます。

現在は技術的課題やコストの問題が残されているものの、世界規模での研究開発により、2050年頃の実用化が視野に入っています。核融合発電の実現は、カーボンニュートラル達成への重要な一手にもなり、持続可能な社会の構築への貢献が期待されます。

PEAKSMEDIA編集チーム

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